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リーフレックス  作者: かざぐるま
5/8

昨晩は激しかったですね

 


 早朝、白髪の少女は城内の喧騒で目を覚ました。

 抱き付く様に隣で寝ている少年を引き剥がし、目を擦る。

 騒がしいのは廊下の方だ。聞こえた単語は…クーデター?

 何が何かよく分からぬまま、緑髪の少年の顔面を踏みながらベッドを降りた。


「へぎゅむっ、…な、何するんだい! レナ!」

「なんで一緒のベッドで寝てるの。昨日は違ったでしょ。」

「いやぁ、寝相が悪いとはよく言われるんだけどねぇ。」

「夢遊病のレベルだよ。」


 そもそもレナは最初から一人部屋を望んでいたのだ。

 二人一室を強く推したミドの一存で同部屋になったが…。

 その時に反対を示さなかったことを彼女は後悔している。


「…とりあえずおはよう。」

「うん、おはよ! これは何の騒ぎだい?」

「さぁね。先に身支度だけ済まさせて。」


 洗顔、歯磨き、着替え、髪セット、他諸々…。

 同年代の男子に視られることも厭わず彼女は準備を行う。

 ミドはと言えば全く興味が無い様子で二度寝を始めたが…

 或る意味そういう質の少年だからこそレナも大層な信頼を置いているのだろう。


「おっけ、行こっか。」

「あぁ待って、ぼくも支度をするからさ。」

「…人イラつかせるのがうまいね。」

「あ、すみませんすぐ終わらせるので少々お時間をば…。」


 『布団に潜る時間あったらさっさと準備しとけよ。』

 遠回りにそう伝えた少女を視て少年は顔色を変えた。

 迅速な動作で起き抜けの仕事を終わらせドアの前に立つ。


「……これは想像以上の騒ぎだねぇ。」


 扉を押して廊下に出た瞬間、目の前を兵隊が横切った。

 明らかに臨戦態勢を取っていて平常時とは雰囲気が違う。

 二人は顔を見合わせながらも、ひとまず隊列の最後尾を追い掛けることにした。



 ◇◇◇



 暫くの間城内を歩いていると一際騒がしい場所へ着いた。

 ガラス張りの趣深い廊下で、ベランダにも出れる様だ。

 十数人の町娘達が柵に身を預けて城外を見下ろしている。


「おはようございます皆さん、何かあったんですか?」

「あらレナちゃん。」「ミドくんもおはようね。」


 二人が挨拶ながらに歩み寄ると町娘達は優しく出迎える。


「所謂デモってやつね。…ほらあそこ見て。」

「うひゃ~、大所帯だねぇ。二百は居そうだなぁ。」


 身を乗り出して城下の様子を観察したミドが感嘆した。


 彼が目にしたのは、プラカードやポスターなどを天に掲げながら歩みを続ける数百人規模の集団だった。装いは決して華やかと呼べぬ地味な物が大半で、彼らが日々を慎ましく生きる平民であるという事実を示している。板に書かれたり口で唱えられている事の内容は基本的にトンタ王へ対する不満の数々であった。『娘を返せー!』『王を辞めろー!』など、普段は抑え付けられている切実な願いの塊が束と成って王城へと迫って来る。まぁまだそれだけで済むのならば良かったが…。各々が握り締めている武具の類を見る限り、武力による解決もやぶさかでは無い様だ。


(穏やかじゃないねぇ…。)


 戦いは好むが争いは嫌うミドは、眼を細め心中で呟く。

 兵士達は鎮圧を試みているが焼け石に水に過ぎない。

 此処まで膨れ上がった不平を収める為の方法は一つ。

 だが万が一それが叶わなければ、…血が流れるぞ。


「――怒れる群衆よ! こんな朝っぱらからどうした!」


 とうとう渦中の人物がその姿を現した。

 時刻は朝六時、通常の人間ならば睡眠中或いは寝起きだ。

 だというのにトンタ王の服装に乱れは無く髪型も綺麗。

 王たる者、人前に出る時は身形をきちんと整えるべきという王城教育の賜物だ。


「どうしたじゃねェぞトンタ王! 娘は無事なのか!!」

「む…その顔は、我が愛しのニコちゃん、その父殿か。」

「あぁそうさ! お前が二ヶ月前に俺の娘を攫ったんだ!」


 デモ隊の中央最前列に立つリーダー格の男が叫ぶ。

 彼とトンタ王との応酬を聞いていたミドは首を傾げた。


「二コって…あのおじさんがキミの親父さんかい?」

「実はね。…お父さん、あんなことして大丈夫かな…。」

「デモの結果次第だけど、立場は相当に危ういかなぁ…。」


 少年の隣に立っていた女性が両手を合わせ震え声を出す。

 歳は丁度トンタ王と同じくらい、スタイルは非常に良い。

 端正な顔立ちで…何と云うか、とても王好みの人だった。


「どうせ今も狭い部屋の中にでも監禁しているのだろう!」


(親父さん、上視て、上。愛娘が太陽の光浴びてるよ。)


 流石に場を弁えているのか、ミドは心の声を仕舞った。

 きっとあの父親は城に於ける自由度を知らないのだろう。

 此処では脱走以外ならば何をしようがOKなのだから…。


「くっくっ、昨晩のニコちゃんは激しかったなぁ!」

「こ、このクソ国王がぁぁぁ!!!」


 トンタ王は最大限のゲス顔を作り彼を煽り散らかした。


(…気まず。)


 だが真にその被害を受けているのはベランダ上の彼らだ。

 自身の情事を大声で暴露されたニコは赤面を手で覆い、

 周囲に立つトンタ王の側妻達は静かに目を逸らしていた。

 一番落ち着いているのはミドとレナの最年少組だが彼らも意味は理解している。


 怒り昂る民衆とは相反してベランダの温度は冷えていた。


「………ふぁぁぅ…、…ん。」

「…俺達の怒りはあくびが出る程つまんねェってか…!?」

「あぁこれは失敬。近頃はあまり寝れて無くてな。」


 欠伸を嚙み殺したトンタ王は苦笑しながら弁解を始める。


「先王が亡くなってからは俺も雑務三昧だ。

 睡眠など、一日に三時間も確保出来れば良い方なんだ。」


「んむ…、だ、だが、女遊びをする暇は有るんだろ…!」


「あぁ、俺にすればそれが唯一の息抜きだからなぁ。

 彼女らだけが俺を癒してくれる存在であり、俺の宝だ。」


「…ぐっ…、お、俺達から奪った税金を私利の為に使ってるっつぅ噂は…、」


「少なくとも先王時代から城の改築はやっとらんぞ。

 俺が受け取るのは適正な額で他は全て国家運営当て。

 我が妻達の要求品は全て俺の貯金から賄われている。

 第一、こんな多忙な王が私腹を肥やした所で使う暇が有る訳も無いしな。」


「二、ニコは…お前を受け入れているのか…?」


「当然だ。拒絶を示す者に手は出さん。」


 親父殿の頭に昇っていた血が徐々に退いて行く。

 同時に後方で控えていた国民達も武器を下ろし始めた。


「……娘を、ニコを。幸せにしてやってくれ。」

「無論だ。あらゆる手を尽くして守り、愛し抜こう。」


 その一言が切っ掛けか、彼らはぞろぞろと退却して行く。

 ミドの中でもトンタ王に対する評価は少し変わっていた。


「あ、終わったんだ。呆気なかったね。」

「…レナ、こういう時はもっと神妙な雰囲気でさ?」


 けろりとしたレナは一人で城内へ帰って行った。

 そんな少女の背中を追う様にしてミドは小走りになる。


「にしても、思ったより悪い王じゃないのかなぁ?」

「町娘を攫ってるのは紛うこと無き事実だけどね…。

 けど、統治者としての器と能力はちゃんと有るのかも。」

「だねぇ。あとぼくが気になるのは能力ぐらいかなぁ。」

「まぁそんな危険な能力では無いでしょ。」

「えっ? だって彼は"王"だよ?」

「うん、けど王サマより兵士の方が強そうじゃない?」

「いやそんなこ、と……、……うぅん…。」


 目を伏せたミドはそれ以降黙りこくってしまった。

 何処と無い違和感の正体を頭の中で探っている様子だ。


「決行は今日の夜、それは変わりないよね。」

「………うん、今の内に下調べもしておこうか!」


 だがそんな思考を中断し、彼は元気良くレナへ頷いた。

 幼い少年少女二人が企てる反逆…果たしてどう転ぶのか。



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