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クラス丸ごと転移したら僕だけ病気になって死にました

異世界転移失敗。本来付けられている病毒に対する耐性がなく苦しんで死んだ。陽キャモドキのにぎやかし。ホラー映画でいう所の「一番初めに死ぬ人」の役回りになった彼はゴーストとして蘇るのだった。成長し進化し魔王軍に入隊し、こんな自分でも涙してくれた彼女のために陰ながら世話を焼くそんな話。

 喉が渇く。皮膚は裂け血がこぼれる。腫れた瞼から覗く視界が歪む。

 閉じる力すら失った口からはこひゅぅこひゅぅと呼吸音が漏れる。

 どうしてこうなったのだろう? 僕がいったい何をしたというんだ?


 まぁね? 小説でよくあるクラス転移まではいいんだ。

 クラスの中で目立つ人が勇者とか聖女とかになっているのもテンプレ。

 いじめられっ子がなんか変な職業なのもお約束。たしかゴミ拾いだっけ。

 きっと余剰経験値とか捨てられているとされるモノを全部拾うんじゃない? うん、テンプレテンプレ。


 でもさ、僕はなんだ? ただの目立たないモブだろ?

 全部平均的な能力しかない、どこにでもいる圧倒的なモブなはずだ。

 多少頑張って少しいい点をとって喜ぶ程度のモブだ。


 だがモブをなめるなよ? 重要な立ち位置にはいないが、平均的に見れば幸せな立ち位置にいるんだぞ? 過剰な不幸にも陥らないしな。

 上位勢のおこぼれをちょっともらいつつ、でも悪ノリはあまりせず、ヘイトを集めず、派手な生活はしないが十分にいい生活をするんだ。

 それがモブであり、僕の望んでいた生活なんだ! それがなんでこうなるんだ!


「……大丈夫なのかな」


 体を拭われる感触がする。傷に触れて痛いが、それ以上の痛みを抱えている身としてはそれどころじゃなかった。

 聞こえたのは知り合いの女の子の声。同じ図書委員のまいなさんの声。

 クラスの連中が僕の事を少しでも関わりがあった彼女に押し付けたんだろう。


 体の痛みが過ぎるせいか、段々と肉の身から意識が離れている気がした。

 痛みを肉に置いているせいか、今は無駄に思考がしやすかった。

 死にかけているんだろうけど。でもなんでこうなったのだろう? 分からない。


 来て数日は特にみんなと変わらない生活が出来ていたんだ。

 よくある異世界小説みたいにステータスに一喜一憂して剣を振るったりした。

 事が起きたのはこの世界でヘトヘトになるまで動いて床に就いた次の日だ。


 いつも通りに起きようとして腕に力を込めたら皮膚が裂けた。

 ステータスを見ると最大HPが削れていた。

 お城の人に話を聞くとしばらくして病気にかかったと言われた。


 お城の外れにある小屋に入れられ、たまにこうやって体を拭かれる。

 たまに来る人に魔法みたいなのをかけられるが、むしろひどくなる。

 回復魔法じゃなくて実際呪いでもかけられているんだろうか? 地獄だな。


 一瞬皮膚がきれいになるけれど、次の瞬間弾けるんだ。手の施し様がない。

 回復魔法をかけられた後は体力が消耗する。元気の前借方式らしい。

 回復魔法で治らないという事は自然に治る事はないという事だとか。なんだそれ。


 風の噂によればこの王国は僕を捨てたいらしい。

 だが助ける努力をしないなら働かないと言い張る人達がクラス内にいるらしい。

 その一団の仲間内の言い分は「ここで簡単に見捨てる様なら自分達がケガした時あっさり見捨てるだろう。そんな組織を信じられるか?」だとか。

 関係が薄いなぁ。まぁ、賑やかししか基本していなかったし、カラオケでムダにタンバリン叩いている、何故かそこにいる、会話しているフリばかりのモブだもんな。


 モブは楽しいんだぞ? ドロドロの愁嘆場も近くにいながら対岸の火事だ。

 エンターテイメントに事欠かないし、楽しい空気もたくさん楽しめる。

 ヤバい事には触らない様に、コウモリよろしく目立たない様にして、たくさんのグループで遊べる。親しい人とか出来ないのが難点だけどな。


 そうだよなぁ。ジョブも道化師だったし、物語的に悪役ポジが似合うよなぁ。

 最初のスキルが偽装で、ジョブを戦士に見せかけたりしたのも僕らしい。

 表面陽キャの実質陰キャ。だから親友がいないし、尻尾切りに遭うんだよ。


「なんで……! どうして……!」





 はーい、終わったと思った? 残念ながらここからが始まりだったのである。

 こんな小悪党、死んだところで誰も悲しまないのに、運命のイタズラは僕をこの世に留まらせたのであった。ゴーストとしてね。

 自分で運命のイタズラとか宣うとすごく痛いな。


 走馬灯かな~と思って独白していたんだけど、体が死んだと思ったら意識がより明瞭になったんだよね。

 目の前でまいなさんが泣き崩れたり、クラスメイトの大半が集まって僕の死体を前に顔を青褪めたり、首を横に振るお城のお偉いさんの姿を見てびっくりしたわ。

 幽体離脱~とかふざけてみても誰も見えないでやんの。


 ちなみにそこら辺の奴らの傍に立ってみたんだけど誰も気づかないし「これはゲームじゃないんだ……」とか言ってて笑った。

 ここまで人望ないと涙が出るどころか笑えてしまう。実際腹抱えて空中でのたうち回ってトリプルアクセル決めてしまった。イエス、ナイスアクロバット。

 とりあえずそこら辺を歩き回ってみたんだが、反応がないとつまらないもんだなとか思うヤツがここに1名。

 特に役なんてないモブとして振舞うとしても、これがある程度は働く必要があるんだけど、それすらなくなるとすごく退屈なんだよね。

 暇すぎてなんか街とか調べちゃったわ。


 お城の人員は200人少々。

 城下街の方が1万人に満たないと思う。下手したら5千とかそのくらい。

 冒険者姿というか武装して歩いている人が超多い。

 国民性がそもそも狩猟民族の様で、職人か狩人がほとんどを占めている。


 一線を退いた様な人が職人としての腕を振るっている事が多く、職人の大半は老人。その間で子供が小間使いをし、時にその技能を覚え自作する。

 狩人もその経験があるからか、ある程度そういった技能があり、自分でメンテナンスをしたり、時には自作したりしているのが不思議だった。


 国民性は勤勉で脳筋。何故この国民性で召喚をした?

 服飾も獣な素材を多く使っていて、食材もそちらに偏りがある。

 生きてた時も肉多いなとか思ってたけど、むしろ穀物の文化がない様子。

 穀物文化がないのに、何故か貨幣経済だけど、そこら辺は召喚した人から学んだモノの可能性が高いな。


 ダンジョンとかあるみたいだし、魔物ならいくらでも採れる。

 火を通す料理が少なく、生肉からビタミンを摂取する様な肉食動物の様な食性。

 毒抜きのために塩漬けなどの調理法が進んでいるみたいだ。


 農耕は家庭菜園程度がせいぜいで、貴族がちょこちょこ庭で育てている程度。

 手足が欠けている人とか、年老いた人が筋骨隆々な人の家で働いている様子。

 そんなこんなで人の手で育てたりした作物は高級品みたいな扱いだ。


 この世界で価値があるのは力。貴族はいい物を食べて鍛錬する。

 力を補強できるアイテムは宝。ダンジョンなどで入手したりする。

 そして召喚により呼び寄せた者は兵器だ。意思持つ爆弾扱い。


 市勢でも城中でも力を持つモノが尊ばれていたが、召喚者は人間じゃない扱い。

 爆弾がいくら強くても人間じゃないんだから比べる対象じゃないという感じだ。

 自分の力だけでは壊せないモノを壊すために召喚する。それに近いのだろう。


 城で管理し武力としての利用をメインにする。自由はとても少なそうだ。

 ゲームみたいに自由に冒険とかはさせてもらえないだろう。

 小金を渡して後は自分で動けっていうゲームの展開って地味に優しかったのでは? 


 ステータスを出す能力。言語を理解できる能力。

 そういった物は召喚の際に付与されているらしい。

 この世界の生き物は基本的にステータスを出せないとの事。


 成長補正とか病毒耐性とかも召喚時に本来付与されているらしい。

 なんで僕が病気で死んだかを城の奥の方でおっさんが唾飛ばし合って話してた。

 結論に関しては呪いがその時は優勢だった。この人達が原因ではないらしい。


 ちなみにこんな身になったが、僕はなんとステータスを読める。

 これは何なのだろうね? 僕は死んだわけじゃない?

 もしかしたらこれが僕の本来の姿だったりする? かもしんない。


 ダンジョンとかそこら辺探したら何か面白い事が見つかるかもとかは思う。

 暇つぶしに前世に戻る手段でも探してみる? 死んでるし意味ないか。


 とりあえず脇役として面白おかしく生きる事を頑張ってみますか。

 まずはモノに触れる様になったり、消されたりしない様に強くなるべきか。

 消されるとか、死ぬとか、この状態だとどうなるかはわからないけどさ。


 この体で世界に干渉が出来るのはゴーストになってから追加になった憑依だけか。

 今動かせるのはネズミの死体くらいだけど、これ強くなれば変わるんじゃないか?

 ゆくゆくはドラゴンの死体でも動かして遊びたいもんだ。


 このままお城にいても意味はないし、なんも出来ないのはつまらない。

 ゲーム的な仕組みが適用されているならレベル上げが出来るし、ネズミの死体を操る程度の能力でも何か出来るかもしれない。

 毒を仕込んだネズミを食わせれば大概の魔物は死ぬんじゃないかな?


 ま、というわけでまずは毒を探そうかな。何も出来ないのはつまらないしね。

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[良い点] おおう、前半と後半のテンションにすごく変化があって、読んでいるこちらもジェットコースター! ふむふむ、ゴーストになったら身体から解放されてすこし楽になったかしら。そのままみんなの周りに漂…
[一言] タイトルが悲惨だけれどあらすじがコミカルだなーと思って読み始めたら、思いのほか死に方が可哀想だった。 それでも復讐だー! と思わないところが、カラオケのタンバリン要員らしい。納得。 一人称で…
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