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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
命さえあればどうなってもいい
98/112

第一地点


 この世界では昼夜感覚が狂う、幾ら時計代わりの火があったとしても外が暗けりゃ意味がない。


 もう寝る時間なんだろうか、痛む頭を押さえながら部屋に運ばれた食事を食べていた。


 するとまた頭痛がした。 

 軽く目を閉じて頭痛が止むのを待ち、再度目を開く。


 なんかいた。

 

 ごくんと魚の身を丸のみしちゃったが、よく見ると狐凛だった。


 この時代の彼女は人見知りな以前にお人形さんみたいに無口だ、何があるとあんなに喋るような子になったのだろう。ちょっと不思議。


「どうかしたの?」


 するとびくんと尻尾を震わせ、どうやら怯えさせちゃったのかなと心配したのだが、ぱくぱくと口を閉口させたのだ。


 そして声がした。


「ありがとう……」


 その言葉と同時に狐凛の姿は消え、こちらが何か言う隙もなかった。


 だが聞こえていると信じて言う。


「どういたしまして」


 そして焼き鳥屋の事も思い出す。


「そしてありがとう、手伝ってくれて」


 杉糸は少し頭痛がマシになった気がして食事を続けた。


 マシになった錯覚なだけだった。


     φ


 瞳を開けるとそこはうす暗い闇の中だった。

 だが何故かその闇に視界が馴染んでいる。意外にもこの空間の全てが見渡せていたのだ。


 遠くに何かがある、この何もない空間にうっすらとオーロラのようなカーテンがかかっている。

 

 僕は立ち上がり歩き出す、ただ上手く歩けない。足元がぬかるみに浸かったかのうように酷く鈍る。

 

 暗闇だったから色を失っていたが、足元を見るとそれは血だ。血で固まった道が歩みを邪魔していた。

 しかし進まねば、誰かがあの向こうで呼んでいる気がしたのだ。


 進め、進め、進め。

 

 思考が前進で染まり、ただ歩くだけの機械か何かのように足を動かし続ける。


 だがその歩みも目の前の少年の存在に止まった。

 子供の姿をした僕だった。


「僕、君は一体誰なんだ」


 僕はその言葉に何も答えない、それはいつもの反応であった。


 僕は僕が何者なのか知らない、家族の幻覚が見なくなった今も見る、幻覚のように違う何か。話しても何も答えてくれない。

 まるで戒めか何かのように僕の心に憑いているようにも思える。


 無表情の僕はまるで人形のようにじっと見た。


 不気味だ、自分というのに少し違和感を覚える。


 話しても意味はない、僕は僕を素通りしようと思ったその時だった。


 子供の僕は後ろを向いて指さした。


「え?」


 薄い膜のような血のカーテン、その先には__


 狐露がいた。


 それを見た途端僕は全力で走り出した。

 すぐさまカーテンの傍に辿り着き外にいる狐露に声をかけようとする。


『杉糸!! 杉糸!!』


 向こうの彼女は必死で血の道を掻き分け、僕の名を呼んだ。


「僕はここだ!! 僕はここにいる!!」


 だが彼女に声は届いていない。狐露は背を向け、違う方を悲壮な顔で探し始めたのだ。


「ここだ!! ここなんだ!!」


 僕はカーテンを叩き、破ろうとする。だが揺らめく壁は強固で幾ら叩いても壊れる気がしない。


「ここだ!!! 狐露!!!」


 せめて声だけでも届けたい、そう思い何度も叫び続け__


「君はもう、僕の事気づいてるんじゃないかな」


「__」


 その声の主は僕だった。


 僕は絶句した顔で後ろを振り向い__


     φ


「ぐふっ!!」


 何か腹に急激な重みを感じ、杉糸は目を開ける。

 腹が重い、まるで漬物石が乗ったようだ、乗っけた事ないけど。


 寝ぼけ眼で腹を摩ると何かがある。


「ん?」


 むくりと首だけ動かし腹を見ると、銀の湯たんぽがいた。

 

「おはよう」


 狐凛にそう声をかけると彼女はびくっと反応し、すさささと腹の上から離れていく。


「夜中……いや朝か」


 外の色はあてにならないんだった。火の玉の色は白、朝だ。


「ごはん……食べる」


 すると狐凛は小さな声でそう言ってきて杉糸はありがとうと言う。


「一緒に食べる?」


 狐凛はこくりと頷いた。

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