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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
命さえあればどうなってもいい
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入水


 朝起きて全部夢でしたなんてオチはなかった。

 見慣れない部屋だらけという嫌な現実を押し付けてくる。


 ドタバタドタバタ。

 

 それはそうとして良く寝た、昨日の疲れが全て一気に取れたかも。


 さて体力が回復した分考えるか。


 ドタバタドタバタ。


 どうにかして未来に帰る方法を独自で探しておくべきだと思う、例の彼はやるべき事があると言っていたが一応非常用の為だ。


 狐露に頼んでその手の術に詳しい人、じゃなかた妖とか紹介して貰おうか……


 ドタバタドタバタ。


 さっきからずっとドタバタ五月蠅い足音が聞こえる。何があったのかとそーっと部屋の外に出ると紫髪の女性とぶつかりかけた。


「おっと」


 相手が倒れそうだったので腕を掴んで支えると、どうやら相手は確か……逆猫さんという妖だった。

 狐露が頭上がらないらしいある種姉みたいな方なんだろう。


 しかし昨日会った時はもっと冷静でクールな印象を抱いた。

 今もクールだがクール過ぎて青白い気もする。要は疲労が顔に露骨に出ている。


「助かりました。では」


 ぺこりと会釈をして、速足で歩こうとした逆猫だったが、


 ふらっ、ばたん。


「!」


 急に倒れてしまった。


      φ


 布団に寝かせ、取り合えず狐露辺りを呼んでこようと彼女の姿を探したがいない。

 命に別状はなさそうなのでこのまま寝かせておこうかと思ったのだが、三十分ほどでむくりと起き上がった。


「どれほど眠っておりましたか?」


「四半刻ほど」


「そうですか迷惑をおかけしました」


「ちょっと待って、そのまま連れていけませんよ。何かあったんです?」


 彼女は最初言って良いのだろうかちょっと悩んだように見えた。表情の変化に乏しいので見えただけだが。


「……いえ、ただ運悪く私以外の臣下が大量に休暇を取ってしまい、そんな時に限って仕事や国の問題が山積みに現れてしまったのです」


「問題?」


「ええ、この国で暮らす妖達の無視できない問題等も我々が解決したりもしています」


 ある意味便利屋も兼ねてるのか。


「こうしてはいられません、狐露様に手伝ってもらおうと思いましたがこういう時に限って外に出ています。助かりました、すぐに仕事へ__」


 立ちあがろうとしたが彼女は顔から畳にダイブ。

 どう見てもオーバーワークで見てられない。


「何か手伝える事はあります?」


「いえ、お客様にご迷惑は……」


 尻尾が立った。


「狐露様が適当に扱ってもよいとおっしゃってたのでやはりお願い致します」


 わあ、凄い切り替わり。


 そして始まるお仕事。

 最初は書類整理を手伝おうとしたのだが、この時代の文字が読めなかった。

 言葉は通じるのに、文字は読めないとは。


「すみません、肉体労働でお願いします」


 杉糸がそう言い、先日食べた焼き鳥店の屋台で働く事になった。

 しかし困ったのがまさかのワンオペ、何も知らない無知な状況で急にワンオペを強いられた。


 だがインドで一時期謎の肉を焼いて売った事はあるのでその時の経験を活かし、まあ何とかクレームもなく美味しく売れてこれたのだと思ったのだが、


「人間焼き一つ」


 人間焼き?


 目の前に現れたカエル頭の妖に突然の爆弾発言に思考が固まる。

 

「人間焼きですね、ちょっとお待ちを」


 取り合えず、笑顔で接し中腰で背を向けて用意してるフリをする。

 ちょっと頭痛がした。


 いや別に悪いとは言わないけど困るな、反応に。

 しかし肉は全部統一してると店主に言われたはずなのだが……まさかの裏メニュー? 仕方ない、ここは品切れと適当に誤魔化すか。


 そう決めて腰を上げたのだが、その時銀髪の幼い狐が屋台の中にいた。

 そしてその狐の少女、いやこう言おう。人間換算八歳くらいの狐凛はタレの入ったツボを持っていたのだ。


 ちょんちょんとタレを指さし、もしかして人間焼きはタレの事なのだろうかと気づく。


「はいただいま」


 タレを付けてもう一度焼き始め「ありがとうね」とお礼を言おうとしたのだが、その頃には狐凛の姿は消えていた。


 その後店主が帰ってきた時に聞くと人間焼きは人の味を再現しただけのただの焼き鳥らしい。

 いやそれで良いのかな、


 苦笑いしながら報酬としてもらった人間焼きを頬張っていると、町の路地奥に銀の尻尾が去っていくのを見た。


「狐凛……?」


 しかし暗いし一瞬なので気のせいかと思っていたのだが、やせ細った男が追いかけるように走っていたのだ。


 次は夜とはいえ火の玉に照らされ注視していたのでよくわかる、人間の姿をした男の顔は必死だった。


 嫌な予感がし、杉糸は路地に入っていった。


 腹に溜まった肉に軽く後悔しながらも全速で足を動かし、更に闇のように暗い路地を全力で走っていく。

 すぐに動いたのが好転したのか、先ほどの男の背中だけ見失わずに済んだ。


 脇腹に気持ち悪さを感じ始めた頃運良く行き止まりが見えて来た。


 前の男は止まり、こちらに気づいていない様子だったので一旦こちらも足を止める。


 肩で息をしながら何があったんだと警戒すると、男の声が聞こえる。


「お狐様……アンタには悪い事はしねえ、だからこっちに来てくれ」


 男の声は何か焦りが見え、危険性を孕んでいたように聞こえた。


「良いから来てくれっ!」


 男が動いた時、影に隠れていた狐凛の姿がそこにはあった。

 無表情だったが、少し身を震わせて怯えがあるのは見て分かった。


 瞬間杉糸は走って男の手を掴み体ごと押し寄せて「逃げて」と声を出した。


 だが狐凛は怯えていたせいか足が動かず、ただその場に立ち尽くしていた。

 仕方ない、杉糸はそのまま男をタックルするように吹き飛ばし、狐凛の手を掴んで逃げようとした。


 しかしその前に男は既に立ち上がりこちらの退路を防いでいた。

 軽く舌打ちが漏れた。


 話の途中で隙でも生まれないだろうか。杉糸は口を開く。


「貴方何やろうとしてるんですか?」


 男は思いつめた表情だった。


「お前には……関係ない」


「関係あるから言ってるんだ」


「良いから寄越せよ!!」


 男は荒々しくこちらに飛び掛かろうとするが、一度猛牛のような突進を避け、相手が体勢を整えるより先に背中を思いっきり押してやったのだ。そして男はバランスを崩して擦りむく。

 瞬間狐凛を抱き抱えて、全速力で走り出す。


 焼き鳥の串はその場に浮いていた火の玉に食べてもらい、表に出れば勝ちという策を思いつく。


 ただふと背後を確認したのだが、男の姿が変わっていた。

 あれは妖なのだろうか、妖というよりはもう怪人と言った方が正しいだろう。


 男は蝙蝠男の変わっていたのだ。そして両翼を大きく広げながら既に低空を飛んでいた。

 あっという間にこちらの真上に飛び、蝙蝠は口を開く。


 頭が割れるような気がした。


 強烈な頭痛に視界が揺れ、吐き気がし、方向感覚まで見失う。

 そして足の筋力まで衰えていった。


「がっ」


 その場を転がり、いつの間にか狐凛を手放してしまった事実に無理矢理頭をよみがえらせる。


「つっ……」


 頭を押さえ、何がどうなったんだと周囲を見渡すと、まずい、一気に脳が覚醒した。

 狐凛は既に着物の襟元を蝙蝠に噛まれるように連れ去られ、空を飛ぼうとしていたのだ。


 杉糸は走り低空から上昇していく蝙蝠の足に飛んだ。そして手を伸ばす。


 まず片手を掴み、蝙蝠は表情の読めない顔でこちらを睨んだ。恐らくしつこいとでも思っているのだろう。


 両手で蝙蝠の片足を必死で掴み続けるのだが、口が開けず恐らく超音波的なものだろう、さっきこちらの頭を割った力が使えないと知ると一気に上昇し始めたのだ。


 まさかこっちと持久戦でも始める気なのか。

 

「彼女を放せ……っ」


 そして蝙蝠のもう一つの足で顔を蹴られ始め、腕の力が急に緩む。

 棍棒で押しつけらえているような衝撃が続き、片手が取れる。


 急激に腕の筋肉が悲鳴を上げ、だらんと磁力が錯乱し壊れたコンパスの針のように体が宙でブレ始める。

 

 その時下を見た。

 ここまで上昇したのか、一番高い城と同じくらい飛ぶが、元から暗いせいか誰もこちらには気づいていない。


 なら僕が止めないと……


 もう一度だらんとなった手を足に伸ばそうとすうのだが、それに気づいた蝙蝠は再度足で頭を蹴り始めたのだ。


 これは……まずい、手が外れるどころか意識が……


 せめて狐凛だけは何とかしないと……

 そう思い必死に意識を残そうとする、だが後数回食らったら終わりだというのが何となく理解できていた。


 その時だった。

 狐凛が意識を取り戻したのだ。


 そしてこの状況を見た途端、何が起こったのか理解して。


「だ……めっ」とだけ声を上げた。


 声を上げ、狐凛の全身から銀の炎が爆発するように巻き起こったのだ。


「ぐあっ!?」


 蝙蝠は突然の出来事に悲鳴を上げ顎を緩めた。

 何とか爆発の熱だけを間近で感じるだけで済んだ、いや火傷してるかもしれない。


 そして蝙蝠の口から離れた狐凛に飛びついた。


 その瞬間杉糸も蝙蝠から離れ、下に落下する事になるのだが運よく下は橋近く。

 ここに来てから何度目の入水だろうと苦笑いしながら必死に狐凛を抱き寄せ、自分がクッションになれば何とかなるかとこんな時でも楽観的に考える。


 水に背から落ちれるように体をねじろうとしたが、その時に見慣れた青い炎が下から見えた。


 それが見え、なら大丈夫かと意識を闇の中に委ねた__


     φ


「痛い」


 目が覚めると最悪と言っていいほど酷い目覚めだった。

 顔は蹴られたせいでかなり腫れたらしく、あの超音波で鼓膜も地味に破れてたらしい。酷い二日酔いみたいな吐き気は残り、妖力による治療のおかげで鼓膜と顔は治ったけど吐き気は健在だ。


「大丈夫かや?」


 狐露は顔色を伺うように怪我をした僕を心配してくれた。


「多分大丈夫」


「すまぬな、わらわも少し面倒事を済ましていたのだ。わらわの国に勝手に忍び込んだならず者をな……」


「彼はなんだったの?」


「あやつは……この国が生み出した摩擦とでも言うべきか……責任はわらわにもある」


 狐露は大きく溜息を吐いた。


「奴の友は国の外に出て陰陽師に狩られた、奴はそれで復讐を求めた、わらわはこの国での問題なら全力を費やすであろう、この国に牙を向けたのならわらわはそやつの喉元に牙をたてるだろう……」


「干渉しないってことか」


「そう国の外の問題は基本無干渉なのだ」


 言いたい事は理解できた。


「外に出たという事は自らの身は自分で守らねばならぬ、この国に住む者は誰もが理解している、あの蝙蝠も……だが理解しても納得は出来なかった」


「それで彼は」


「追放だ」


「そう」


 杉糸は興味なさげに返し、むくりと体を起こした。


「お、おい、安静にせぬか」


「殆ど傷は治ってるよ」


「なら良いのだが……」


 狐露は苦笑いするように笑っていた。そしてそこから三十秒ほど経った後だろうか。

 急に狐露の雰囲気が変わったのだ。固くなったとでも言うのだろうか。


 固い雰囲気のまま畳の上であぐらを搔いていた狐露は急に正座となり、思いっきり頭を下げ始めたのだ。


「誠に礼を申す。妹を助けてくれて本当に助かった」


 そういう事か。

 別に礼を言われる事はしていない、寧ろ礼を言いたいのこっちだ。


「君も僕の命を救ってくれた、君がいなきゃ僕は今頃これで済まなかった」


「い、いやしかしそれはじゃな……それはそれ、これはこれという話にならぬか?」


 狐露は虚をつかれたような顔になり、慌てて身振り手振りで感情を表した。


「そ、そのだな。其方に何か礼をしたいのだが……」


 狐露は困ったように頬を掻いた。


「何でもよいぞ、狐に二言はないからなっ。どんな望みも聞き入れよう」


「別に良いよ、君が助けてくれただけで十分だよ」


「いやだが……それでは狐の沽券にかかわる」


 このままだとこちらが頼み事を言わない限り絶対に引かなそうだ。

 それは面倒なので、何かないかと考えると、一つ思いついた。


「じゃあ……僕が元の世界に戻れるように……たまにでいいから手伝ってくれないかな」


「わ、わかった。任せよ、どーんと泥船に乗った気でいよ!」


 狐露は嬉しそうに胸を張り、どんと叩いたのだ。

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