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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
命さえあればどうなってもいい
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もぐもぐ


「まさか覗きか……覗きなのかや!」


 目の前の狐は牙をふしゃーと猫のように威嚇し、恥じらうように顔を赤らめて胸元を腕で隠した。


 落ち着け、彼女はいわゆる自分の生命線だ。

 どうにかして協力してもらわなければ。


「あ、ごめん……そういうつもりじゃなかったんだ……イノシシから追いかけられてあそこから飛び降りたんだ」


「ふむ、そうじゃったか……それは運が悪かったのう」


 幼い、いやそこまでは幼くないかも、僕が手を出したらギリ犯罪くらいの狐はあっさりと警戒を解き笑顔を見せ__


「って貴様は人間じゃなっ!! 何故人間がここにおる!」


「それが……自分もよくわからなくて、迷い込んだみたいで……」


 杉糸は彼女が警戒を緩めてくれそうな言葉を敢えて選び話した。

 

「やれやれ……その言葉が本当じゃと良いが__」


 どごぉん!!!


 瞬間、狐と僕の目は大きくなった。


 何か軽い地震が起きたのかと思ったのだが違う、非現実が傍まで近づいて来た。


 山道を抉り水辺まで現れたのは巨大な大蛇、それもアナコンダなんて非じゃない、あれは怪獣だ。

 そしてあの蛇はこちらを狙ってきてるようにも見える。

 

「逃げよう」


 狐の手を取り、兎に角今は逃げるしかないと行動に移そうとした時に狐は別の手で顎に手をやる。


「ふむ……顔は良いから助けてやらん事もなくもないが」


 狐がそう余裕ぶった言葉を綴った瞬間、杉糸の視界は蛇の口内で締めくくられた。

 蛇の口内が徐々に拡大されていき、飲まれる、そう思うと同時に世界が回った。


 ざぶん!!


 大きな物体が水に落ちる音を聞きながら杉糸はぬめっとした上に立っていたのだ。


「あはははは、こういうのもたまにはいいなぁ!!!」


 狐はハイテンションで笑いながら僕の手を引っ張り走っていた。

 何処を? 水の上?

 

 違う、蛇の鱗の上だ。


 そして僕もスケート選手に引っ張られる初心者のように蛇の体の上を無理矢理走らされていたが、徐々に蛇の体と平行になるように浮き、まるで風に吹かれた鯉登に似た状態になる。


 長い蛇の道を走り抜けるよりも先に蛇の体がぐにゃりと動き狐は足を滑らせた。蛇の道から逸れ、僕の手も放し、水の方に落ちていこうとしたが__


「狐露!!」


 杉糸は自然と名を叫び、再度狐の腕を掴んでいた。


「そのまま掴んでおくのだぞ!」


 狐はにかっと笑い、ぎゅいんと逆上がりする要領でその場から蛇の体に舞い戻った。


 その後の事は酷かった。


 まるでこの時手を伸ばしたのを後悔するかのように。


「わはははは! 暇つぶしには良いなぁ!!」


 狐は何度も顔を伸ばして食らおうとする蛇の攻撃を避け、こちらから攻撃をせず蛇の腹を滑って何度も同じことを繰り返した。

 まるで蛇の体で遊ぶかのように、実際遊んでいるのだが。


 だがこれがジェットコースターのように酷く乱高下して、徐々に僕がグロッキーになっていく。


 もう目を瞑ろう。それなら吐き気は消える。


 そう思って目を閉じていたのだが、


「そろそろ終わらせるか!」


 狐のその言葉が聞こえ目を開いた。

 今や空中、疲れた顔をした蛇がこれでもかと口を大きく開き丸呑みしようとしてくる。


「食らえっ、わらわの必殺!! 回転地獄踵落としじゃあ!!!」


 狐の右素足に青い炎が宿った瞬間、世界が何度も何度も何度も何度も回った。

 吐き気が何週も裏周り、吐きたいのか気分が良いのかさえ感覚麻痺。


 ただわかる事は宇宙空間の訓練を僕はさせられている。


 強烈な打撃音と共に僕の胃液は逆流した。

 ギリ吐かなかった。


     φ


 蛇の再生が可能な一部の肉片だけ狐はもぎり取り、力で去れと従わせた後はその肉を焼いていた。

 狐露はまだ滝行に着るような行衣のままで健康的な足や濡れて透ける肌の色に少々無防備だなと思った。


 バチバチとブロック状に切られ木に刺した肉を炙りながら狐はそろそろかと食べ始める。


「あち、あちちっ、ふーふーっ……なんじゃ? 貴様は食わぬのか? 貴様の分も用意してやったのじゃがな」


 蛇は食べた事はある、だが肉として蛇を食べるのは始めてだ。大抵スープや血を飲んだり、主に薬寄りで食した事しかない。


 それにあの蛇、妖の類だよね。そう思いながら口にする。


「おいしい……? おいしいのかなこれ……」


 ねちょっとした食感、血が混じる味、何というか近い味で言ったら焼いた鮪の赤身かもしれない。


 僕が一口食べると狐は目を輝かせた。


「食った、貴様食ったな? 食ったからにはわらわの質問に幾つか答えてもらわねければなぁ……?」


 え、君が食べろと言ったのに。

 しかし特に反論する気はなく、彼女の言葉が来るのを待った。


「さてじゃ、貴様、何故わらわの名を知っておる?」


 それを聞いた途端、肉を噛んだまま杉糸は固まる。

 その反応がまずかったのか、狐は、いや狐露は少し警戒度を上げてしまったようだ。


「ほう? もしや忘れたとは言わせぬぞ? 貴様は先ほど確かに言った。わらわに手を伸ばし、狐露、とわらわの名を呼んだじゃろう?」


 もぐもぐもぐもぐもぐ。


「貴様が怪しい、その奇抜な恰好も含めて、我が母が言っていたばさらという衣装とはまた違っている」


 もぐもぐもぐもぐもぐ。


「先ほどは助けたが、次は……ええい! わらわの分も食うな! 少し止まれ!」


 ごくん。


「いや、意外と癖になる味だねこれ」


「そんな事は聞いておらぬのじゃが……」


 杉糸はごめんと頭を掻き、今度はこちらから話を切り出した。


「君は……狐露、なんだよね」


「貴様が言ったのであろう?」


「本当に、本当に狐露なんだよね……?」


 目の前にいる狐の少女は自分の知っている狐露とは少し違う、だが肉体年齢を五歳ほど若くイメージしてみると何となく当てはまるのだ。

 

「だから何故貴様がわらわの名を知っておる!! それにこの名は信頼を置ける者しか知らぬ真名だ! ええい話が通じないのか貴様は」


 痺れを切らされ、食べようと手に持っていた肉を狐露に無理矢理取られ「あっ」と声を漏らした。


 言おうとしないんじゃない、どう言っていいのかわからないのだ。

 余裕そうに見えて実際はかなり混乱している、頭がこんがらがっている。情報が足りない、いや半ば予想がついてしまっているからこそ何処かで認めたくないブレーキのようなものがあるのだろう。


 この世界はなんだ、彼女が狐露と言うのなら何故自分を覚えていない。


 沈黙は怪しさを増幅させる、少なくとも知らない狐露だが優しく大雑把でパワフルな少女は知っている狐露と重なる。


 まさか……な。


「ハハハハハハハハ」


「うわっ、何急に笑っているのじゃ気持ち悪い、気でも触れたかや」


「もっと昔から触れてるよ、実は僕はちょっと混乱しててね。整理したいから質問してもいいかな?」


「勝手にしろ」


 不本意そうだが了承してくれた。


「そうだね……例えば……今の帝は何代目かな」


「帝? 帝なら人間である貴様の方が詳しいであろう」


「いいからいいから」


「確か八十前か八十ちょっと過ぎでなかったか?」


 八十代目くらいって……平安時代__


「マジか」


 これに関しては杉糸は本格的にいつも浮かべているうっすらな笑みが消え失せ真顔になる。


 そして唖然とし、目の前の狐露がびくっと尻尾や狐耳の毛を際立たせた。


「うわっ、その顔やめぬか。何か知らぬがぞわっとする」


 杉糸は瞳を閉じて顔を上げる。


 狐露(仮)の言っている事に嘘はなかった。勘違いしている可能性もあるがそれでも何が起きても不思議じゃない狭間を通った。


 だからと言ってこれは流石に、これは流石に……


「仕事……か……一体何をさせたいんだ……」


 杉糸は項垂れて軽く溜息を吐く。


「ああ、ええと……上手く説明できないし、信じられない話なんだけど僕は__」


 時を超えてやってきた未来の君の……友達って言ったら君は信じてくれるのかな?


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