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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
命さえあればどうなってもいい
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プロローグ

久しぶりの更新です、このままペースは徐々に戻していきたいと思います。


 幸せというものは長く続かないものらしい。

 どうやら所詮人殺しが前向きに生きようとしても神様はそれを許してくれなかった。


 ただもしかするとまた幻覚を見ているのではないかと楽観できなくもない。

 どちらにせよ異常、自分の世界はまた異常に戻ってしまったらしい。

 定期的に自分の存在が揺らぐ、目に見える景色はそうとしか言えなかった。


「どうしたものかなぁ」


 杉糸は自分の手を見た。

 それは変哲もない女のような白い手、だが一瞬ブレた。腕が透け、ゲームキャラのバグか何かかのように右手が揺れた。


 これは何なのか、また何者かに攻撃を受けているのか。

 それとも狐露がループを繰り返した時のように気づけるのが自分だけで狭間に異変が起きてしまったのか。


 ただ何となく、これの行きつく先は存在消失、不思議とそう思えてしまった。


「怖いな」


 声が震えていた。


 そう無意識にぼやくと即座に首を傾げる。


 怖い? 何故僕が怖いと感じなければいけないんだ。あれだけ人を殺した自分が今更怖いと感じるなど酷い話だ。


 ただ消える気はない、自分は生きる。そう決めた、そう決めたのだが一つだけどうしようもない厄介な事がある。


 それは……


 杉糸がその事を考えるよりも先に、たたたっと速足の音が聞こえ襖が開く。


「すーぎっと、其方ここにいたのか」


「狐露……狐露……あれ? どうしたの?」


 襖を大の字で開け、胸元を大きく前にする狐露は顔を歪める。


「どうしたとはなんだどうしたとは、今日は昼から共にゲームをする約束であったであろう?」


 そういえばそうだった。そういう約束をした。


「ごめん忘れて__」


 た、と最後まで言う前に何か違和感を覚える。

 何か他にも忘れているような気がする、それも大事な忘れちゃいけない事を。


「ねえ、他にも何か約束してなかったかな……」


 杉糸は顎に手を置き首を傾げるのだが、狐露も同じように首を傾けた。


「わらわ知らぬぞ? さあさあ、やーるやーるっ」


 子供のように服を引かれ、はいはいと杉糸は記憶の欠片を捨て去る事にした。


     φ


 このように僕が一人の時にだけ存在がブレるとこの事を思い出し、

 すぐに忘れる。


 まるで狐露や他者の干渉を防ぐかのような徹底ぶりだ。

 何か書き残しで伝えようとしても暗号で伝えようとしても体で異常を伝えようとしてもあの手この手で伝えようとしても。


 頭痛と共に即座に忘れてしまう。


 ブレが増えて来た。

 本当にいつ消えてもおかしくないほどブレは病のように全身にまで行きわたる。


 誰かにやられたのか、それなら本当に上手い相手だ。狐露や狐凛の目を欺いているからだ。


 だけどこれが、何でもないバグのようなものだとしたら?


 それこそどうしようもない、ただ自然と消えるのを待つだけになる。


 因果応報か、ずいぶんと待たされた応報だ。

 この世の中は上手くできている。自分が生きたいと思った矢先にこれだから、本当に理不尽で負のご都合主義さえ連想させる。


 どちらにせよ狐露は僕がいなくなったら悲しむだろう。

 でも狐凛がいる、みんながいる。少なくとも狐凛がいる限り後追いなど絶対にしない。最悪なケースだけは絶対に回避出来る。


 まあ何とかなるだろう。

 少しくらいは悲しんでくれると嬉しいかもしれない、だけどある程度経ったら前向きに笑顔になってくれるのが一番だ。

 笑っている彼女の顔が好きだった。僕がいなくても笑顔で__


 割り切れない。


 納得しても心が何処か、引っかかる。

 

「前の自分とは考えられないな……」


 最後に一つ別れの言葉だけでも残せたら変わったのだろう。何か一つだけでいい、なのに運命はそれを許してくれない。


 揺らぎが更に悪化する。

 ああ……今回は止まる気がしない。このまま最後まで行くつもりか……


 本当にこの世の中は嫌な時だけ上手く出来ている。


「杉糸ー、何処におるのだ?」


 狐露の声がした瞬間、心の一部が溶けていく。

 嫌だ、まだ終われない。これで終わりたくない……!


 杉糸は咄嗟に揺らぐ体のまま、満足もいかない動きで声のする方に向かおうとする。

 だが足が上手く動かずその場に倒れる。


「何かすごい音がしたぞっ、そこにいるのかや?」


 部屋の外で狐露の声がして、僕は手を伸ばそうとする。


「開けるぞ?」


 早く、早く開けてくれ。

 僕はここにいる。僕はここに……


「狐……__」


 自分は何を言おうとしたのだろう、名前だけか。遺言か。

 ただそれを言うよりも先に深い闇の底に自分は落ちて行った。


     φ


「杉糸?」


 狐露は首を傾げながら杉糸の部屋を襖を開けた。


「さっきまでここに気配がしたのだがな……」


 杉糸の部屋にはまるで最初から誰もいなかったかのようにしんとしていた。

長編はこれで最後にしようとは思ってます。

でも答え合わせのような章なので今までの中で一番長いかもしれません。

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