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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
長い幕間
89/112

成仏


 熱帯雨林の中で不自然にアンティーク調のテーブルと椅子が置かれ、お茶をする二人の姿があった。


「話だけなら聞いてやらんでもない」

 

『あ、ありがとうございますアネさん』


「やれやれ、わらわは其方の姉になったつもりはないがな。そのあれだ、きゃらという物が変わっておらぬか?」


 すると赤人は苦笑いするように(口以外の顔がないのでそう見えるだけだが)して言う。


『なんというかあーゆう喋り方の方がそれっぽいかなって、ってかアネさんは一体何者なんです? 人間……じゃないですよね? コスプレかと思った』


「こすぷれではない」


 わらわは耳をぴょこぴょこ動かし、本物である事を示した。


「わらわは狐だ、それも妖のな」


『やっぱ妖怪とかいたんですね……俺みたいな存在がいるんだし不思議ではないか』


「妖についての話は長くなるから省く、逆にわらわはお前の事が気になっている」


 頬杖をつき、出された紅茶を飲みながら無くなった容器で赤人を指した。


『俺は……そのゲームの呪いです』


「それは知っておる、だが呪いになった理由があるはずだ」


『ゲームはゲームでも、クソゲーの呪いです』


「そうであろうな」


 狐露は別に驚く様子もなく、茶菓子を食べた。


『うう……アネさんも俺のゲーム、つまらないって言うんですね』


 つまらない所か糞だと思っている。


 赤人は涙を流し(本当に泣いてるのかわからない)自分の生まれた話をした。


『俺は今じゃアップデートによる修正も不可能な時代に生まれた忌子です、発売された当初、百万の売り上げを挙げるほどの快挙を成し遂げたんですが、実際は百万の子供やゲーマー達が悲鳴を上げただけでした』


 狐露は紅茶をお替りを注ぎながらも聞く。


『みんな俺の事をクソ、つまらない、カセットを投げたり、初日で売り飛ばしたり、それはもう酷い仕打ちを繰り返しました、ですが、それでも俺はまだ自我が芽生えるほど恨みを持っていたわけじゃありません、ですが近年のインターネット社会、あるゲーム実況者の動画で俺の隠れていた伝説は更に表に出てしまったのです!! 一度もプレイをした事ないのにクソだと、俺を見つけると嘲笑い、せめて一度はプレイしろってんだよクソ!! クソゲーなのはわかってる!! だけどせめてクリアくらいはしてくれよぉ……!! だからジャンクコーナーで指をさされ、嘲笑われながらも誓った、次プレイしに来た人間に酷い目に合わせてやると……!!』


「それでわらわがプレイしてしまったと」


『はい……』


 赤人は肩を落とし、悲し気に言う。


『所詮、クソは何してもクソなんですよ。俺なんて存在しなければ……もう恨む気持ちも薄れてきました……このままクソはクソとしてクソになって消えます……』


 赤人の姿は徐々に薄れていく、わらわはお菓子を食べながらも仕方なしげに口を開く。


「確かに其方のゲームはふぁっきんどぶかすげえむかも知れぬが、無価値ではない」


『へ?』


「わらわがそれを証明してやる、浄化にはまだ早いぞ」


 狐露は立ち上がり、衣装をさっきの探検家衣装に姿を戻す。


『ア、アネさん……』


「菓子の代金代わりだ、次のステージを出せっ」


 そして狐露は気合と意地と根性でこのゲームを突き進んだ。

 赤人の助けを受けながら、一人では投げ出していた攻略も素早く進み、というより攻略がなければ絶対に辿り着けなかった隠し部屋があったりもした。


「うぉぉぉぉぉぉ!!!」


『うぉぉぉぉぉぉ!!!』


 そして二人は最後の敵である、古代文明兵器の巨人と敵対したのだ。


『アネさん!! その敵は一撃当てて下がっての繰り返しが有効です!!』


「了解だっ!! ひっとあんどあうぇいだなっ!!」


『アネさん!! 後一撃でトドメです!!』


「食らえっ、わらわと呪いの決死の一撃ぃ!!」


 最後の鞭が巨人の胴体に当たった瞬間、巨人は崩れ落ち、ゲームクリアという文字が天に現れる。

 

 そしてスタッフロールが流れていく中、赤人の姿は徐々に薄れていった。


『ア、アネさん……ありがとうございます……こんな俺なんかのために』


 わらわは酷い汗と息切れを起こしながらも清々しい気持ちがあったことに気づく。


「確かに其方のゲームは酷いものだ、攻略の無い時代に達成した者など極少数であろうな」


『はい……』


「だが一つ其方の価値を見つけた」


『え?』


「それは達成感だ、わらわも結構ゲームは好きな方であるが、其方のようなふぁっきんどぶかすくれいじーげえむは味わった事はない」


『褒めてるんすか……?』


「最後まで聞けい」


 狐露はこほんと喉を鳴らして再度言う。


「酷いからこそ、終えた達成感は並半端なものでは味わえない、其方は覚えておらぬか? このゲームを終えた者の顔を、恐らくやり終えた、達成感に満ち溢れた喜びがあったはずだ」


 赤人はそれを聞き、何か思いふけるかのように言葉が止まった。

 そして思い出したかのように、笑みをこぼしていったのだ。


『ハハハ……そうだ、そうだよ、なんで忘れてたんだろうな……アネさんのようにみんな終わった後は笑ってたはずなのに……』


「そうであろうそうであろう」


『アネさんのおかげで俺、気持ちよく成仏できそうっす』


「成仏という言葉もおかしい気がするなっ、ふふ、さらばだ」


 狐露は笑みを浮かべ、赤人も同じく口元を緩めて消えていく。


「さあ、わらわも帰るとするか」


     φ


 体を揺さぶられている、それも強く。

 むむ、今良い気持ちで眠っているというのに、邪魔をする不届きものは誰だ?


 狐露は思い瞼を開き、かすむ視界を開くと杉糸であった。


 まあ杉糸なので少しは苛立ちは消えた。


「なんだ? わらわが気持ちよく眠っておるというのに」


 だが音色に苛立ちは隠しきれてはいない。


「あはは、ごめんごめん、ゲーム付けたまま寝てたからさ。このまま消そうかなって思ったけど古いゲームってセーブデータとかややこしいし」


「む、ああ、そうか、帰ってきたのかわらわ」


 そういえばあの後、無理矢理世界をこじ開けて屋敷に戻ってきたら蓄積された疲労のせいか急激な眠気が来たのだ。

 

「はぁ~あ、そうだ」


 あくびをして背を伸ばしながらも点いたままのテレビを見て八重歯を光らせる。


「其方、このゲームをやってみぬか?」


「? まあいいけど」


「後、其方がこれをクリア出来なければわらわの言う事を一つ聞いてもらおうか」


「なんだか嫌な予感するけど……まあいいよ」


「言ったな? 其方、二言は無いぞ?」


      φ


 ねえ狐露。


 なんだ其方。


 これって……恐ろしく理不尽な気がするんだ。


 だが悪いゲームではないぞ?


 君ってこういうの好きなのかな。


 いや、其方も全てを終わらせればわらわの言った言葉の気持ちがわかるかもしれぬぞ?


 はは、まあ頑張るとするよ。

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