口が滑る
確か昔、学校のクラスメイトで一人はこんな子いたよなぁ。
杉糸は目の前の恋人の姿を見て思い出した。
狐露は子供向けの屋台を沢山回り、全身を景品で身を固めていた。
頭は子供向けアニメのお面をつけ、左手には金魚と撥ねる紐付きゴムボールと手首に蛍光替わりになる使い捨てバンド、右手にはフランクフルトにりんご飴にチョコバナナという半ウルヴァリン状態。
狐凛の方も姉ほどではないがかなり祭りを楽しんで、終始スマホでお祭りの食べ物や僕達を撮りまくる撮りまくる。
「たまには力が一切ないというのも悪くはないなっ」
そう言うのは狐露、確かに彼女は力を持たない分、屋台のゲームを純粋な気持ちで楽しんではいた。
「でも賭け事は程々にね」
さっきからムキになって射的やピンボールを何度もやっていたので前の金銭問題反省してるのかなと少し不安になった。
「おっ、次はわらわあれやってみたい」
子供のように無邪気に指さす先はくじ引き。
そう来たかー。
一番出会ってほしくない屋台とエンカウントしてしまった。
「なあ次は其方が一度引いてみよ」
すると意外な事に狐露は僕にやってみろと言うのだった。
「僕?」
「ああ、さっきから其方は全然楽しんでないように見える」
「単に耳と尻尾が出ないよう集中させてるだけだよ」
「わらわが楽しんでないように見えるのだっ」
少し横暴な物言いだったが、彼女なりに気を遣ってくれてるのだろうか。
そう思って、列に並び始めた。
しかし祭りのくじ引きか、何年振りだろうか。
だがあまりいい思い出はない、知り合いのクラスメイトが死ぬほど引いて泣いてたのを覚えている。
そんな彼も今ではパチンコ、競馬、ギャンブルにどっぷり浸かっているのをインスタグラムで発見した時はそっと目を逸らした。
目の前に並んでいた子は「また外れだーっ!」とヤケクソ気味に叫んでいた。
「はは、残念賞。そこらへんから取ってね」
残念賞コーナーのくじ代五百円とは釣り合わない百円ショップで売ってそうなおもちゃを子供は持って行った。
「はいお兄さん、何回引くんだい?」
「え、あ、一回で」
五百円玉を渡し、くじの入った箱に手を入れる前、後ろで狐露が良いのを当てろと応援する最中、ふと考える。
本当に当たり入ってるのかな。
見抜けたりしたら、なんてな。
なんて思ったのが失敗だった。
そう思ってしまった瞬間、くじの中身が透けてギョッとしかけた。
そして頭を触り、耳が生えてないのを確認して安堵する。
しかし今は何というかまずい状況に陥ってしまった。
くじの中身が全部透けている。それもどれが当たりか外れかまで……って当たり少なくないかな。
いや当たり見当たらないぞ。
もしかしてと思った瞬間、杉糸は苦笑いした。
ああ、そういう奴か。
呆れ気味にくじを一つ引き、手渡そうとする。
「!?」
見てはいけないものを見てしまった。耳と尻尾が後少しで飛び出してしまうレベルのだ。
というか一瞬くじ屋の屋台のおじさんが変態行動に出てしまったのかと認識してしまうほど。
少し肥満体な胸、あまり手入れされていない胸毛にビールっ腹。
そんなおじさんの裸体が僕の目の前に広がっている。
嫌な予感がするので敢えておじさん以外を目視していないが誰も悲鳴を上げる人など一切いない。
「大丈夫か兄ちゃん、体調でも崩したか?」
それどころか逆に心配されてしまった。
その心配で予感が確信に変わってしまった。
「どうしたのですかサヨナキさん」
すると狐凛がこちらの視界に入りかけ、敢えて視線を逸らした。
そして逸らした瞬間、残像気味にだが視界が肌色祭りになりかけていたので目を瞑る。
「あーその、ちょっと眩暈が……」
自分が見抜けないかなんて思ってしまったせいだ、くじ所かそこら中の人たち全ての服が今僕の目には透けて見えるらしい。
解けろ、解けろ、解けろ。
「大丈夫かや杉糸」
「あ、うん、ちょっとしたら治ると思うんだけど……」
解けろ、解けろ、よし、今だ。
目を開き狐露の方だけを見ようとするが、
狐露の豊満な裸体が目の前に広がっていた。
「………………どうしよ」
また目を瞑り、頭が痛くなる。
このままじゃまともに動けない。
「サヨナキさん、後ろがつっかえてるです。ちょっとだけ移動するです」
急かすような口調だが心配しているのがわかる声色の狐凛。
「うん……あとちょっとだけ待って……」
どうしよう、本当にどうしよう。
さっきから解除を念じても一切変わらない、これでは目を潰すしか解決策がない気がしてきた。
なんで中途半端に服だけ透けるのだろう、無意識に自分がそういうのを望んでいたのだろうか。
せめて全裸ではなく下着までに抑えてほしい。
杉糸が本当に頭を悩めていると、一つ、とある賭けが思いつく。
押して駄目なら引いてみろ作戦だ。
解除が駄目なら、もっと、もっと透けさせればいいのではないか。
そう、センシティブを通り越した領域になるくらい。
透けろ、透けろ、透けろ。
三度目の正直で杉糸は目を開く。
肌色地獄の次は骸骨地獄になった。
まるで地獄か魔界かのワンシーンだ、骨達が歩き、骨達が祭りを楽しんでいる。
杉糸は狐露の方を見ると他と変わらず骸骨だった、うーん、回りと区別する自身がない。
せめて彼女達耳生やして耳の骨が見えたりしないだろうか。
「あ、もう大丈夫だよ、心配かけてごめんね」
はぐれない為に狐露と狐凛の手を繋ぐ。
「なっ、なんですか急に」
「迷子にならない為かな?(僕が)」
「こ、子供扱いしないでほしいですっ」
骸骨が照れ隠しのように歯の骨をコツコツ動かす。
うん怖い。
それでも狐凛の声をした骸骨は手を繋ぐ事を了承してくれたようで、このまま三人仲良く歩き出した。
何か地獄の閻魔様の元に連行されてる気分だった。
「あと、一ついいかな」
歩きながら狐凛に問う。
「なんです?」
「あそこのくじ屋、当たりが全然ないアコギな商売らしくて当たりくじを増やす事とかできないかな?」
「その程度ならちょちょいのちょいです」
そして強化された聴力で遠くから「当たった」という子供の声を聞き、軽く苦笑した。
流石に一時間ほど経てば視界は元に戻った、そして今はさっきも結構食べたはずなのだが夕食のための店を探している。
「せっかく外に出たのだからチェーン店以外で食べたいですね」
「僕は割とチェーン店好きなんだけどね、お手頃で安定してるし」
「だからなのです、こういう時こそ挑戦です」
狐凛の言いたい事はわかる。しかし杉糸は最終的には美味しければどっちでもいいという人間だ。
「うむ、こんな時はぱーっと豪勢な所で食べたい」
それはいつもじゃ、と言いかけたが飲み込んだ。
そして狐露に、少しづつ力が戻っていってるのが素人の自分でも感じ取れた、自分の方はだんだん耳と尻尾をふんばらなくても出なくなったので楽で良い。
「そういえば杉糸や、其方さっきのくじ屋がいんちきだと何故わかった?」
「ん、まあインチキしやすい環境だからね祭りは、何となくだけど」
「うーむ、何となくで当たりを増やしたのは少々気が引けるではないか、あの店主、其方を心配した善良な人間にわらわ見えた」
実際は当たりくじを隠すちょっと一線超えてしまった人である。
しかし正直に力を使って見た、なんて直後の挙動不審のせいで言い出せないので有耶無耶に持っていこう。
「僕の目にはそう見えたんだ」
実際あのくじ屋のおじさんの目を直視してないので不明だが、狐露は僕の目を信じている。それを利用させてもらおう。
「そう言って其方や、ただ妖力を使って見ぬいたわけではなかろうな、なんて」
狐露は冗談気味に言ってくるが正解、動揺を悟られぬよう隠さねば。
「確かサヨナキさん、くじ箱を見た後急に眩暈がしたとか言い出したです」
「透視でもしようとして力加減を失敗したかや?」
「え、あ、うん」
ここはどう返したらいいのかわからなくて曖昧な返事をすると、
「……」
「……」
それが失敗だったようで、二人ともまさかという表情をした。
「サヨナキさん、あの時私が近づいたらチラチラ目を逸らしたです」
「ほう」
これは嫌な予感がする。
杉糸は敢えて二人の方は見なかった。
だがこの後の展開は選択を失敗すると自分に災難が降りかかる。
「本当に眩暈がしただけだよ」
これで押し通そう、このまま有耶無耶にしよう。
そう思って覚悟を決めたのだが、
「うう、私の汚らわしい痣を見られたです……」
「え、そんな痣なんか」
突如泣き出した狐凛に、そんな痕なんてなかったと咄嗟に言葉が出たのだが、
これは狐の罠であった事に気づいた瞬間に僕は問答無用で頭を下げていた気がする。
高級中華料理をおごらされ、財布がかなり軽くなった。




