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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
長い幕間
85/112

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「サヨナキさんの呪いが邪魔している形になってるです」


 屋敷の居間で心底呆れたように頬杖をつく狐凛はぶっきらぼうに今の状態の説明をしてくれた。


「でもその力はサヨナキさんのものではありません、あくまで手で湧き出る水に栓をしているようなもので少しづつ姉様の元に還って行ってるのです」


 その説明を聞き、人の姿である狐露はほっと胸を撫でおろし、僕は頭の耳を軽く触った。

 

「へぇ、耳ってこうなってるんだ……」


「面白いであろう? ほれほれ、ぴょこぴょこと動かして見せよ」


「こう?」


 杉糸は狐露に指示されるがまま耳を動かして見せた。

 頭に神経を集中させると動いた、胸筋を鳴らすのに近いかもしれない。


 狐露は僕のその様を見てニヤニヤと笑っていた。


「ほう、こういう楽しみ方もあるとはなぁ……今まで気づかなかったが、狐耳とは……こう……萌え? という言葉がわらわわかった気がする」


「何が萌えですかっ、姉様も軽はずみに力を与えないでくださいっ」


 珍しく狐凛が姉に軽く怒り、意外な状況に僕達はびくっとなる。


「今回は元に戻るからよかったものの、サヨナキさんの物になっちゃったらどうするのですかっ」


「ま、まあわらわは其方と杉糸さえいればまあ……」


「開き直るなです」


 狐凛に睨まれ、狐露はしゅんと肩を落とす。

 まあ今回は狐露が悪いと思う。


「サヨナキさんもですっ」


 え、僕も?


「あの程度の連中、生身で倒せなくてよく姉様の恋人でいられたですね!」


 ちょっと理不尽。


 杉糸もとりあえずしゅんとする。

 

 しかし狐凛がここまで怒るとは、僕だけならまだしも狐露にまで怒るのは新鮮だ。

 彼女のやった力の譲歩はそれほどまで重大な行為なのだろうか。


 そう思って機嫌を宥める事を考えていると、


「これでは明日の初詣がいけないじゃないですか!!」


 やっぱり姉妹だった。

 彼女は初詣の事に対して怒っていたようだった。


 確かにこの姿じゃ難しいよなぁ。

 仕方なく、二人で行ってきなよと言いかけたその時だった。


「なんじゃ、その程度の事なら明日行けばよいであろう?」


 狐露がケロッと言ったのだ。

 他人事じゃないのに他人事過ぎる。


「で、ですが姉様にもしもの事があったら……」


「なあに、その時は杉糸が何とかしてくれるであろう」


 大丈夫かな僕。


「心配です……」


 狐凛は恨めしそうに僕を睨むのだが、正直同意だった。

 だが行く意思は持っていたようで行かない選択は狐凛の頭にはなかったようだった。


      φ


「さて其方、耳をひっこめてみせよ」


「こうかな」


「政人のような面をしおって……」


 狐露に手鏡を渡されたが、眉に皺を寄せて不機嫌極まりない顔をしていた。


「まあよい、次は尻尾だ」


「こうかな」


「おお、こっちは上手くできているではないか」


「いや、正直辛いね」


「そうなのかや?」


「うん、ずっとお尻の穴をきゅっと閉じてるみたい。君達ずっとこんな感じだったんだね」


 外に出る時兎に角耳と尻尾をしまってほしいと命令気味に言った事を反省した。


「たわけっ、それは其方が下手だからだっ。もう少しまともな譬えはないのか……」


 違ったようだった。

 確かに自分でも酷い譬えだったと思う。


「行くですよーっ!」


 これで大丈夫だろうかと思っていると、玄関で振袖に着替え、草履を履こうとしていた狐凛が急かし始めた。

 ちなみに今回の着物は形状はちゃんとしたものだった、帯の模様がヨグソトースらしいけど。


「まあわらわ達がついておる、心配せずとも黒船に乗った気でいろ」

 

 狐露が胸をポンと叩き、今度は僕が彼女に手を引かれる形で外出する事になった。


 本当に大丈夫だろうか、嫌な未来しか見えないけどまあ何とかなるといいな。

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