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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
長い幕間
84/112

○○しないと出れない部屋


「すぎとーっ!! いけーっ!! 其方が頑張らねば、わらわ達は外に出れぬのだぞぉぉぉぉぉ!!!!!」


 狐露は必至に頭に応援タオルとメガホンを持ち、僕を応援するのだが……

 僕は汗を垂らし、顎にまで流れた汗を手で拭う。

 そして手に持つ木刀をもう一度構えるのだ、そのまま目の前の青い火によって模られた人間もどきに立ち向かっていく。


 今現在十四人目、この道場から解放されるまで後八十六人倒す必要があるのだ。

 まさに百人切り、一人一人出現する分、まだ気は楽なのだが……


 杉糸は木刀を突くように青い人影に繰り出す、だが届かない。

 まるで見えないバリアで塞がれているかのようにピンとも動かないのだ。


 そして人影が手を前に出すと、


「うわーっ」


 僕はくの字になって酷い吹き飛び方をした。

 そして吹き飛びながら狐露の隣の壁にまで激突する未来が見えた。


 ドゴン!!


 痛い、痛い所か割と死ぬ……

 僕は激突した事で出現した木片が逆再生するかのように修復されるのを目で追いながら瞳を閉じる。


「す、すぎとー!!!」


 狐露の心配する声が遠くになりながらもどうしてこうなったのだろうかと思う。

 これは彼女の設定ミスが起こしてしまった悲劇、後政人君のせい。

 

     φ


 〇〇しないと出れない部屋。

 この言葉を聞くと何というか卑猥な意味として捉えてしまう事が多いが狐露はまたもや変な感じに受け取ってしまったのだ。


「杉糸杉糸、新年といえどずっと寝ていては体に悪いぞっ。わらわと共に運動せぬか?」


 一月二日、ずっと寝ていると言っても昨日しか寝ていないのだが狐露曰く例のループ騒ぎとこんがらがってしまっているのだろう。

 でも彼女の言う事は基本断れない僕だ。二つ返事で了承してしまったのだ。


 そして道場に足を運ぶと、道場の看板にこう書かれていたのだ。


『百人倒すまで出れない部屋』


「何これ」


「ふふ、よくぞ聞いてくれた。これは百人切りするまで出れないよう作り上げた部屋だ。其方には今からそれをやってもらうぞっ」


 狐露が嬉しそうに木刀を僕に投げて来て僕は苦笑いしながらそれを受け取る。


「其方も強くなって貰わなければな、わらわを守れるくらいには」


 無茶な事を言う。


「僕に出来るかな」


「安心しろ、この百人切りはあくまで人の範疇で調整させてもらった。わらわの特訓を定期的に受けている其方なら苦戦はするだろうが大丈夫であろう」


 狐露は僕に期待の目を寄せて笑顔で何かごそごそし始めている。

 するとアイドルオタクがするような恰好した狐露、応援グッズに僕の名前が書かれていて一瞬真顔になりかけた。


「さあ、まずは記念すべき一人目だ。だが油断はするではないぞっ、致命傷には至らないからと小馬鹿にしていると怪我をする」


 狐露が指を鳴らし、目の前に青い人影が現れる。


「彼……? を倒せばいいの?」


「ああ」


 よしっと僕は気合を入れて木刀を二つ手で構える。


「記念すべき一人目だっ! ふれーっふれーっすーぎー__」


 ピューン、ドーン!!!!


 木刀と青い炎の剣がぶつかった瞬間、僕はゴミのように吹っ飛んだ。


「す、杉糸ぉっ」


 上半身が道場を壁を突き破りだらんとしている僕を彼女は大きなかぶのように引っ張りだしてくれた。


「わ、わ、わ、其方の綺麗な顔に傷がっ……今すぐ治してやるぞっ」


 切った口を狐露が手を触って治療してくれる中、僕はむくりと体を起こして問う。


「ねえ、あれ本当に一般人用?」


「そ、そうであるが……」


 狐露の目に嘘はない。だがさっきの光景を見て自分の言葉に自信がなくなってるのがわかった。


「うーむ……」


 狐露は瞳に炎を灯し人影を見る。

 そして口をぽかんと開けてしまう。


「なっ! 妖力量が其方用と違っているではないかっ!!」


「要は調整ミスか」


「そ、そういう事になるな……」


 狐露は狐耳と尻尾を力なくだらんとし、つんつんと人差し指同士突き合わせている。


「とりあえず今日は出よう……」


 狐露にこれはちょっと無理だね、という目で見つめるのだが狐露は目を逸らした。


「狐露?」


「そ、その、少々だな……」


 嫌な予感がする。


「狐露?」


「そのだな、其方様や……」


 いつの間にか様付けになっている。

 もっと嫌な予感が胸の中で膨れ上がっている。


「狐露?」


 僕が死んだ目で狐露を見るが、彼女は話を逸らし続ける。


「そ、そうだ。其方様や、わらわがこれから言う事を許してくれるのならわらわなんでもいう事を聞くぞっ……その、あれだ、激しいぷれいとやらもわらわは許容__」


「こ……ろ?」


「ひぃっ!! す、すまぬ!!」


 狐露は綺麗な土下座を見せて、耳も尻尾も同じようにぺこりと床についていた。


 つまりはこうだ。

 狐露は僕が百人倒さないと絶対に出れない部屋を作った。だが最後の調整ミスをしてしまったらしく人外じゃなければ倒せないベリーハードモードで設定してしまったのだ。


 そして彼女が条件を付けて作り出した強固な結界でもあるため、狐露の力をもってしても出るのは厳しいという。


 スマホは持ってきてない、狐凛への連絡手段はない。

 僕は何故か正月に死にそうなほど体を酷使している。


 気合で十三人ほど倒した、だがもう全身が限界を超えていた。

 それどころか一人一人倒していく度に敵のレベルがアップしていく。考えるだけで頭が痛くなる。


「……」

 

 僕は狐露の胸を枕に人影を見つめながらため息を吐く。


「お。怒っているのかや?」


 狐露は今にも泣きそうな顔でびくびくとしているのだが、可哀想なので笑顔を見せる。


「別に怒ってはないよ、狐露が僕のためにやってくれてるんだろう? だから別に腹は立たないかな」


 実際しんどいだけで怒りは殆どない。

 だが頭は痛い、このままではまともに攻略しては数年ほどはかかる。

 やはり狐凛が異変に気付き対処してくれるのをこのまま待つか……


「わらわが倒しても良いのならよかったのじゃが……」


 狐露が後ろからぎゅっと抱きしめようとするので余計頭が胸に押し付けられる。


「はは、確かに君がやったらすぐに終わるね……あと、汗臭いよ僕」


「なあに、其方と汗を掻くのは慣れている」


「……」


 どういう意図で言ったのかわからない言葉に苦笑しながら、穿ち過ぎか、と結論を出しかけたその時だった。


 ぎゅっ。

 

 更に狐露の抱擁が強くなる、強くなるどころか窒息するレベルで。


「ん? んーんー!」


「ん……待て、もしやこれをこうしてああすれば……そうだ、過去に一度成功したのだ……出来ぬはずが……」


 狐露はぶつぶつとつぶやき何か自分の世界に入り込んでいるようだが、彼女の腕は僕の口にへびのように巻かれ、徐々に体へ行きわたる酸素が減っていく。


「ーっ!! ーっ!!」


「やってみる価値は……す、杉糸っ!? 其方どうして泡を吹いているのだ!?」


 彼女が腕を放してくれた時は、僕が三途の川を渡りかけた寸前であった。

 

 狐露の思いついた策はこうだ。

 僕に狐露の持つ妖の力、つまる所妖力を僕に軽く一時的に譲歩する。

 そして強化された力でこの場を脱するという、一応理に叶った考えではあった。


 しかし前にナナシの言った、妖だと呪いが更に強まるかもしれないという言葉で頭にノイズがかかる。


「どうした杉糸、力を分け与えると言ってもほんの一時的だ、其方が妖になるわけじゃない」


「うんわかってる」


「やはり其方も妖になるのは少々嫌かや……?」


 すると狐露は一瞬悲しそうな眼をした。そりゃそうだ、気にし過ぎとはいえ好きな相手に間接的に自分の存在を拒絶されているようなものだろう。

 違う、そうじゃないんだよ。


「大丈夫、それでいこう」


「よしっ、なら力の渡し方はどうするっ? やはり接吻か、やはり接吻かっ!?」


「普通に渡せないの?」


「前にわらわの見たあにめではこうやるのが普通だったからなっ」


 また変な影響を受けちゃってる……

 

「君がやりたいようにすればいいよ」


「そうかっ、ならいくぞ、やるぞ、覚悟はよいか?」


 すると狐露はほんの少しだけ顔を赤らめて、表面上妖艶な笑みを浮かべているが緊張しているのが見てとれた。

 仕方ないので目を瞑り、狐露に合わせてあげると、襟首をがくんと掴まれ軽く唇に柔らかいものが当たる。


「まあこんな所だ」


「何か変わった気がしないね」


 目を開け、自分の体を適当に触ってみると何も変わったような感じはなかった。


「要は試しだ、奴を倒してみせよ」


 そう言われて木刀を持ち、僕は内心大丈夫かなと思いつつ身構える。

 そして武器を構えた事による敵意に反応した人影は動き出し、床を蹴ってこちらに突進する。

 

 杉糸はそれをバットでボールを打つかのように相手をフルスイングした。

 

 今度は逆だった。

 人影が豪快に飛んでいき柔道の壁に貫かれる。


「おおっ!! 成功だ!!」


 後ろで狐露が嬉しそうな声を上げ、僕は表面上驚いてないように見えるが内心かなり動揺していた。


「よしっ、この勢いで出るぞ杉糸っ!」


 そのまま徐々に斬って斬って、斬りまくり、狐露がしまいには一人一人斬っては時間の無駄だと一気にわらわらと召喚し始めたのだ。

 だがそれでも苦も無く百人切りを達成した。


「杉糸っ! これで外に出られるなっ!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、頭に狐耳と尻尾を失った和服女性の狐露は喜ぶ。


「やはりわらわの認めた男だっ、また惚れ直してしまったぞっ」


「いやでもこれ殆ど君のちか__」


「ええい、細かい事は気にするな、其方が勝ったのだから其方の功績だっ」


 彼女はそう言って褒めてくれた。

 そういえばこうして誰かに褒められたのは久しぶりかもしれない。

 嬉しくて笑顔でほころんだ。


「あ、そういえばどうやってこの力を返せばいいの?」


「……さっきのようにすれば後はわらわがする」


 なので速攻口づけをした。そして離す。


「こうも早いと其方はまるでこの力を嫌がってるように思えるな……」


「躊躇いがないだけだよ」


「む?」


 狐露が眉を顰めていると更に眉に皺が寄る。


「其方、すまぬがさっきのもう一度してくれぬかや? 次はもう少し長く」


 そう指示されたのでもう一度口づけをする。

 さっきより長く、これくらいでいいだろうか。二十秒ほど経ったら離した。

 正直こっちの方が恥ずかしくなりそうだ。


 だが狐露は神妙な顔つきで額に一滴の汗を流す。


「わらわに力が戻ってこない……」


「え?」


 狐露がそう言った瞬間、ボッと僕の体が青い炎で包まれた。

 

「そ、其方鎮火だ、わらわがこの時の為に設置した消火器を……」


「この道場にあったん__」


 燃えながらも平然とした杉糸の顔に消火器の煙がぶっかけられ、杉糸はゲホゲホとせきこんだ。

 そしてせきこんだ後、頭と尻に何か違和感を感じた。少しだけ重い?

 

 そう思って触ってみるとお尻と頭に毛深い何かがあった。

 

 全てを察した。


「ねえ狐露……今の僕どうなってる?」


「わ、わらわと同じであるな……」


「どうしよう」


 軽く笑いながらあまり気にしてないように聞く。


「ど、どうしようではないっ、どうしよう!!」


「落ち着いて落ち着いて」


「こ、これが落ち着いてられるかっ!! 舌だっ! 次は舌を絡ませて接吻をするのだっ、繋がりが深ければわらわが其方を妖力に辿り着けるはず……」


     φ


「姉様ー姉様ー、姉様の見たがってたテレビが始まるので__」


 狐凛は持っていたスマホを愕然として落とす。


 道場で尊敬していた姉だからこそ見たくなかったあまりにも卑猥で淫蕩な光景が繰り広げられていて視界が真っ白になる。


「も、もう顎が、疲れ……」


「まだだっ!! 後少しで本質が掴める気がするっ!」


 そして狐凛の顔に徐々に熱が灯っていき、邪魔しちゃ悪いと何事もなかったかのようにすたすたと逃げるのであった。

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