終わりが見えねえ一月一日
「案外あっさり見つかったね急所」
「そうですね」
狐凛と杉糸は拍子抜けしたような反応をしながらも、わらわからすれば五分で見つかったのは時間を浪費せず有難い話ではあった。
ちなみに急所というのはこの繰り返す空間を作り出している壁の中心点、用は弱点であり目だ。
そこを刺激すると壁が壊れる可能性がある。
しかしその居場所を見つけた途端狐露は「うっ」となった。
それは居間、それは障子、それはわらわが燃やした所。
とは言っても初回に燃やしたので今は焦げ跡など当然存在していないが、本当にわらわのくしゃみが原因でこの問題が起きてしまったのだと突き付けられた気分になった。
「とりあえず姉様、軽く殴ってください」
「承った」
わらわは命令された通り、拳に青い炎を灯して障子を殴った。
すると障子は拳による風圧で吹き飛び、縁側の池にぼちゃぼちゃ破片が落ちていくが、同時にびきっと空間がひびが入った。
「おおっ」
それを見た途端、思わずわらわは声を上げ、杉糸は軽く目を開き、狐凛はえっへんと胸を張った。
だがそのひびは再生するかのように塞がっていき、何事もなかったかのように消え去った。
「うーん、予想以上に壁が分厚いです……姉様の妖力を吸って大きくなったかもしれなです」
狐凛は別に意図をして言ったわけじゃないが、何十、何百も繰り返したせいでこうなってしまったので胸がずきずき痛んだ。
「あ、メールが大量に来た。はは、玲君からも来てるよ、『今年もよろしく、今年も厄年やったわぁ』って秘書の幽霊さんからポルターガイストで全治二週間、政人君の嫉妬で全治一週間、六花さんの病み具合で全治一週間、合わせて一か月の大怪我だって、モテモテだね」
「何故奴は笑ってられるのだ……?」
体に包帯を巻いて、探偵事務所の椅子で優雅にコーヒーを飲んで座る様を写真で送ってきてるのを見て、困惑した。
「だが今は探偵の事などどうでもよ__」
どうでもよい、と酷く切り捨てるように言いかけたのだがふと言いとどまる。
待て、連絡が可能になっている?
わらわの知る限り、連絡はほぼ不可能であったはずだ。
そうか、先ほどわらわの拳で刺激したから、多少の効果はあったという事だ。
「杉糸、中が駄目なら外だっ」
その言葉だけで杉糸は理解したのか、電話をした。
「頼む、繋がってくれ……」
狐露は祈るように両手を合わせた、スマホの音声が酷く長く感じさせられた。
そして、
『はい、あけましておめでとー、みんな大好き凄腕有能探偵月光玲やで』
「はっ!! 今からわらわの言う事をよく聞け!!」
繋がった途端、杉糸のスマホを取り、狐露は急いで言う。
『なんや、ちょっとヤバい案件っぽいね、聞くよ』
こういう時話が早いから心底助かる、そういう面では割と好きではあったりはする。あくまで友好的意味でだが。
「ああ、わけあってわらわ達は今屋敷に閉じ込められている! 少し外側から助けてくれぬかっ!」
事情を説明している暇はない、だがこれでおおむね非常事態である事は伝わったはずだ。
少なくとも玲は人の中ではかなりの実力者だ、単体では無理でも奴の人脈を持ちこの状況を打開して__
『え? なんやって? 電話悪くてとぎれとぎれにしか聞こえへん』
狐凛と狐露の顔が唖然とした。
そして希望であった玲の方も声が途切れ途切れになっていき……
『サ……ヨ……ナ……キ……うわ……き……した?』
「え、また僕?」
わらわと狐凛にキっとにらまれ、苦い顔になる杉糸であったが、そんな場合ではないと口を動かす。
「や、し、き、に、と、じ、こ、め、ら、れ、た! た、す、け、て、く、れ!」
『やしきたかじ……ん?』
「屋敷に閉じ込められたって言ってるですこのボケ!!」
『や……せ……たか……し?』
「違うです!! 屋敷です!!」
ぶつん、その言葉を最後に通話が途切れてしまい、わらわは「あ、あ」と悲鳴を上げる。
がくりと肩を落とし、杉糸はぽんと他人事のように肩に手を置き、
「どうする? 政人くんあたりに連絡する?」
「いやあやつは少々ぽんこつな所があるからなぁ……」
政人はわらわの印象では真面目過ぎる故に馬鹿な奴だ、兄の方はわざと道化を演じるが、弟が自らが奇行を行っている事を気づいていない天然な輩だ。
だがしないよりは違うかもしれぬ。
わらわはもう一度、急所を殴り、空間にひびを作らせた。
次はほんの少しだけ力を強めたため、さっきより亀裂が激しい。
『サヨナキさん? あけましておめでとうございます』
電話に出たのは玲の弟である政人、新年なだけあってか真面目な奴でも少し音色も柔らかい。
浮ついてる印象があった。
「いやわらわだ、杉糸は隣にいるがな」
『先生? あけましておめでとうございます。先月の件ではあまり力になれず申し訳ありません』
だがわらわがいると知ると、本能に刻まれてしまった妖への敵意がスマホ越しでもにじみ出て、音色が強張ったものになる。
「やれやれ、主のその妖への反応も変わらぬものか……」
『申し訳ありません、感情自体は貴方達に好意的ではあるのですが、体がつい』
今度は強く殴ったおかげか通話も綺麗に聞き取れる。
だがこれ以上無駄話をしている暇はない。
「ああ、だが其方に電話をしたのは理由があってだな、少々わらわ達は屋敷に閉じ込められてしまってな、こちらまで来て助けてもらいたい」
『事情はわかりませんが、先生が破れぬ結界は俺が破れるとは思いません……まさか……』
「おっ、わかってくれたか! 流石わらわの弟子だ!」
いぇいとわらわと狐凛が手を叩き合わせるが、次に耳に入る発言で我を疑った。
『まさか俺を……俺を馬鹿にしているのか!!』
「何故そうなる!?」
突然の弟子の豹変ぶりに狐露の尻尾をびんと張りつめた。
『アンタのような存在を閉じ込める結界術なんて条件に条件を重ねたようなイレギュラーだ!! 俺は最近読んだぞ!! アンタ達が閉じ込められている部屋は『ピーしないと出れない部屋』だ!! そうだろう!!?? そうなんだろう!? ああ!?』
そのピーを聞いた途端、わらわと狐凛の頬は急激に紅潮し、呂律が回らない口で激怒する。
「き、貴様は何を言っている!! そんなわけないであろう!!」
『いいや違う!! 俺が六花さんに四十五回振られたから馬鹿にしてるんだろ!! ううっ……うっ』
途中から涙ぐみながら政人は口から卑猥な言葉を投げ続けた。
『アンタ達はさっさとピーしてピーしてピーでもピーでもして部屋から出ればいいんだ!』
その間杉糸は狐凛の狐耳をぺたりと閉じさせ、声を塞ぎながらも苦い顔をしていた。
そして通話はぶつんと一方的に切られ、
「貴様は死ね!!」と狐露の激怒した声が部屋に響いた。




