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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
長い幕間
81/112

終わりが見えた一月一日


 何度目だろうか、繰り返している事に気づいたのは。


 しかし困った事に狭間の壁が前より強固なものへと変わっており、壊せなくはないが無理矢理こじ開けようとすると何が起こるかわからないものになった。

 開いた先が異世界だったりするのもありえなくもないのだ。もしくは似て非なる厄介な鏡写しのような世界。


 狐露はうーむ、と腕を組んで考える。


 狐凛の前で見せつけるように杉糸と卑猥な事でもしてやろうか。

 思った以上に余裕があるなわらわ。


 だが流石にその事への羞恥心まで捨てておらず、それを想像してしまった結果顔を赤らめて顔を思いっきり叩いた。

 しかしどうせ繰り返すのだ、と自暴自棄な面もあるのも否定はしない。


 ただ本気でこの状況から脱しようとしないのは不変。

 このまま全てを忘れてこの平穏に身を委ねるのも悪くないと思っているのだ、少なくとも寿命が尽きる事はない、杉糸がわらわの前から消える事はないのだ。


 これは一種のわらわが求めた理想郷の形の一つでもある。


「狐露、どうしたのそんな難しそうな顔をして」


「ん、ああ、杉糸か」


 わらわは縁側に座っていて、後ろから声をかけてくれた杉糸に笑みを向ける。


「……何か辛い事でもあった?」


「そう見えるかや?」


「何となく」


「世の中に完全な利など存在せぬ、何処か必ず不利が隠れ混じっているものだ、わらわは今それに悩まされている」


「要は良いとこと悪いとこがある話で悩んでるんだね」


「うむ、話が早くて助かる」


「相談でも聞こうか?」


 狐露は一瞬、悩んだ。本当に言ってしまおうか、しかし、しかしだなぁ。


「男と女の良好な仲を続けさせる秘訣を教えてやろう、それは全てを話さぬ事、ある程度隠し事があった方が愛は長続きするものだ」


「そういうものかな、まあ君が本当に嫌って目はしてないからそれ以上は問い詰めないよ」


 そして杉糸は腰を上げその場から立ち去ろうとした。


 だが無意識にいかないでほしいと手を伸ばしている自分がいた。


 そう、嫌ではない、嫌ではないがわらわは卑怯な狐だ。

 開いた拳を握りしめる。


 全ての判断を杉糸に委ねてしまおう。


「なぁ愛し人、其方は幸せが確定した同じ事が続く一日か見知らぬ不明慮な明日、どちらを選ぶ」


 すると悩む様子もなく、平然と杉糸は言ってのけたのだ。


「じゃあ明日かな」


「じゃあとはなんだじゃあとは」


 わらわからすれば重要な質問をしてるのに、


「だって狐露、来週公開される映画見たがってじゃない」


 にこりと笑う杉糸の表情を見て、つられて笑みが零れ落ちた。


「そうかそうか、其方はわらわと映画が見たいのだなっ」


 ならもう少し寿命に対しては考えるのは後回しにしてもよいだろう。


     φ


「ということだ」


 わらわは今までの出来事を全て、は無理だが説明した。

 聞け! わらわ達は一月一日を繰り返してる!!

 な、なんだってー!!


 のような大げさな反応が来るかと思ったが、思った以上に二人は理知的だった。

 聞き分けが良すぎてもしや、信じていないのではないかと不安視したが、


「姉様がそういうのなら信じるです」


「うん、嘘はついてる目じゃないからね」


 あっさり信じてくれる二人に感極まりそうだった。

 一応信じてくれなかった時のために生放送番組を全て暗記していたのだがその必要がなく、少々味気ない気もしたが。


「では妖力を使うテリトリーだけなら姉様以上の私の出番ですね!」


 ふんすーと鼻息をして、恐らくあまり活躍の出来る舞台がなかった分もあってか狐凛が頼もし気に胸を張った。

 わらわのように胸はないが。


 そして銀色の毛並みをした、小さな九尾の狐に変身した狐凛は杉糸の膝の上に座った。

 ちなみに服は術で作ったものではないのか、さっきまで来ていた和洋折衷の振袖はぱさりと畳の上に落ちている。


「さあサヨナキさん、マッサージするです。ちょっと調べるのに集中力使いますから私の英気を養うのです」


「必要あるかな」


 杉糸は苦笑いしながらも狐の背中を摩って、軽く揉み始めた。


「あ、そこです、もっと下の方……そこ、そこですっ……」


 狐凛の顔はだらけ始め、ただ杉糸を足蹴にする理由が欲しかっただけではないかと思ったが、自分もひさしく杉糸にマッサージして貰ってなかったので狐に化けた。


 そして自分も揉め、と言わんばかりに間に入り、同じようにだらけ始める。


「何この状況」


 上から杉糸の困った声が聞こえるが、わらわは既に按摩の気持ちよさに脳が蕩けていき、いざ眠りの世界へと……


「わかったです!!」


「ぎゃあっ!」


 突然狐凛は立ち上がり、それで驚いた杉糸がわらわの尻尾を握りしめた。


「意識を無と有の中間、すなわち集中力を極限までに不安定にした時だからこそ私のセンサーはびびっと反応して__」


「それの説明はよいからさっさと結論を言え」


 尻尾にヒリヒリとした痛みがあるので不機嫌ににらみながらも、さっきの意味のないはずだった按摩が役に立っていたのかと疑心暗鬼な気持ちになる。

 まあそれについては今はどうでもよい、この状況を打開する策があるのならそれにしがみ付こう。


「姉様、目をちょっと潰しててくださいです」


 狐凛の意図を理解し、杉糸の目の前の卓に座って尻尾を扇子の羽のように広げたのだ。

 そして杉糸は見えずともわらわには人の姿に戻った狐凛が裸で服を着始めたのだ。ふむ和洋折衷の服は帯が飾りのようなものか、一人で着るには便利なものではあるな。


「調べたのですがもともと不安定だった世界が強い力に共鳴して不安定になってしまったっぽいです」


「ふむふむそれで」


「言い難いのですが多分姉様が原因かと」


「なぬっ!?」


「姉様尻尾尻尾!!」


「わ、わ、わ、み、見るなっ!!」


 わらわが自分でこの状況を生み出したという言葉に尻尾が反応して杉糸の視界が開かれる。

 咄嗟的に杉糸の両目を肉球で殴ってそれを阻止したのだった。


「痛い」


 しかし声はあまり痛くなさそうだったので、瞼の上を殴ったのだと二重の意味で安心した。


 わらわも人の姿に戻り、改めてわらわが原因である事をこたつの上で蜜柑を向きながら聞き始めた。


「この屋敷一帯にはびこる狭間のバリアは姉様の妖力が混じってるの可能性が高いです、何か自らが原因になるような覚えはないですか?」


 狐凛は蜜柑のすじを綺麗に取り、それをもぐもぐと食べる。


「うーむ、そんなことを問われてもな……」


 今でもわらわが原因と言われてもあまり納得がいかない。

 自分で自分の首を絞めていたなど、情けない__


「あ」


 思い当たる節があり、蜜柑を噛まずに飲み込んだ。

 恐らく初日、わらわはずっとこの時が続けばいいと願った。そしてくしゃみをして妖力を軽く放出してしまった結果、この空間に何か違和感を覚えたのだ。


 がくんと世界の関節が外れるような、言葉では表しがたい奇妙な感覚を思い出した。

 

 しかし自分のくしゃみでこれを巻き起こしてしまったとなると何とも酷すぎる話だ、少し悟られぬよう……


「狐露? 身に覚えがあるんだね」


「はっはっは、そんなわけないじゃろう我が愛し人」


 冷や汗を流しながら目線を逸らし、蜜柑を食べ続けようとしたが、その先には狐凛の細めた目。


「うっ」


「姉様、白状するです、私達も巻き込まれていると分かった以上繰り返すのはこりごりです」


「いやっ、だがそのっ、あれだ……ああ、わらわが少し宴会芸として力を使い……これはこれで酷いなっ、いや今のは冗談だ、実際はわらわ達をまた殺めようとする不届き者の……」


「さっさと白状しなよ」


 杉糸の呆れた冷ややかな声に、しゅんとなり狐は「はい」と項垂れて説明を始めた。

 正直に言うと二つの意味で屈辱だった、くしゃみという情けない理由が引き金となってしまったこと、自分が幸せが永遠に続けばいいと女々しい考えを晒すこと。


「む……だってだって、わらわ一人ぼっち寂しい……」


「泣かないです泣かないです、サヨナキさんとは違って私はずっと姉様の元にいるですから」


 もうどっちが姉かわからない状態で妹に慰められる。


「え、僕?」


「だってサヨナキさん人間じゃないですか、つまり最終的な勝利者は私になるのです! イエィ! ビクトリー!! とまあ、そんな事言ってる場合じゃないです、サヨナキさんの寿命は後で考えるとして」


「え、僕の寿命伸ばされる?」


 狐凛は杉糸の反応をほぼ無視しながら、髪を翻しドヤっと指をさす。


「この状況を打開する急所を見つけるのです!」

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