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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
長い幕間
78/112

一月一日

 ぱちりと誰かに起こされたわけでもなく自ら瞼を開いた。

 そしてむくりと上半身を起こし、んーと優雅に体を伸ばす。


「うむ、いい朝だ」


 狐は尻尾の毛並みもよく、清々しい朝が来ると身を持って体現したのだった。

 既に自分以外の二つの布団は折りたたまれ、時計を見ると昼時を少し上回った時間帯、だが誰もそれをとがめることはない。


 そして狐露は寝間着を自らの炎で燃やし、いつもの振袖の着物に着替えていく。

 だがこれだけではつまらん、黒以外の色も取り入れてみよう。すると黒を主体とした虹のような色模様を持つ着物に変わっていった。


 それも普段なら絶対にしないであろう浮かれた格好、しかし今日なら許される、何故なら


「ふっふ、あけましておめでとうだっ」


 狐露は気持ちよく寝室の襖を開けて居間の家族に向けて新年の挨拶をした。


「夜中も言ったよね」


 すると空気を読まない恋人である杉糸はジャージという正月気分があまり出ない普段着で気抜けするようなことを言ってくる。


「ええい、其方は雰囲気というものがわからぬかっ、昨日のは別腹だ。わらわにとっては日が変わろうとも眠るまで日付が変わったとは言わん」


「そう? あ、着物の柄変えたんだ、似合ってるよ」


「そ、そうであろう。わらわが頭の中で描いた柄だからな」


 それも当然、という態度をとったが、内心ほめて貰えて嬉しいのが本音である。


「本当に似合ってるですよ姉様」

 妹の狐凛からも褒められ、妹の方は風流をキチンと理解しているのか振袖の銀色の着物を着ていた。何故かスカートが付いており和洋折衷というものか、と自分で疑問を自己解決する。


「あ、そうそう、はいお年玉」


 尻尾がビンと張りつめた。


「こ、これが俗にいうお年玉という奴か……」


 狐露は嬉しそうにおとしだまと書かれた袋を貰い、わなわなと震えながら中身を取り出す。

 すると福沢諭吉が一枚入っており、頭の中で嬉しさによる花火が飛ぶ。

 生まれて初めてもらった。その喜びは計り知れないものと変わる。


「わーい! 其方愛しておるぞっ」


 子供のように杉糸に抱き着き、頬に情熱の接吻でもくれてやろうかと思ったのだが、避けられて、もう一度しようとするが唇は杉糸の手で押し止められた。


「私がいない所でやってほしいです……」


「僕もそう思う」


 何故か二体一という状況になり、むっとしかけたが、まあ今は狐凛がいるのだ。確かに健全で優雅な日常を楽しむのも悪くない。

 暫くちちくりあうのはやめにするか。


 昨日買っておいたおせち料理を食べ、テレビを見、三人で笑いあった。しかし途中チャンネルを変えると心霊番組とかち合い、わらわがふん、こんなもの何が怖いのか。と強がってしまった結果杉糸が「じゃあ見てもいいかな、意外とこういうの好きなんだよ」と見たくもないものを見る羽目になってしまった。


 こ、怖くなどないぞ、怖くなど……

 だが尻尾と耳は正直なようで何度も反応しかけ、自分の手で押さえている。

 

 狐としての威厳が何とか怯えの一線を超えぬよう耐えていたが、徐々に薄れていく。

  

 だめだ、これ以上隠し通せる気がせぬ。

 そうだ。

 狐露は狐凛の方を見て利用させてもらおうとした。


「狐凛が怖がっているではないかっ」


「え、別に大丈夫です」


 狐凛の方はもぐもぐとかまぼこを食べながら平然とテレビを見ていた。

 なぬっ、其方これがいけるのか!?

 幼いころなど一人で眠るのも怖いと言っていた其方が!!


「もしかして怖いの狐露?」


 杉糸の方はもうすでにわかってて言ってるであろう、と文句を言いたいくらいには目がにやけ、だが狐凛の前でそんな無様な真似などできるわけがなく。


「ふ、ふん、この程度造作もない」


「じゃあ見続けようか」


 食欲が失せ、だんだん肩が震えてきた気がする。

 そしていつになったら終わるのかと、いち早く番組が終わるのを祈ったが後小一時間ほどあると聞き頭を抱えそうになる。


『これは、ある洋服店での出来事……』


「ひぃ」


 荒い映像で心霊動画を映していくテレビから目をそむけたくなる。


『一人の女性が試着室に入っていく、だがこの後恐るべき事態へと変貌する……』


 そう、その映像は黒い着物を着た美女が試着室に入っていき……む?


『すぐその女性の連れ添いである男性が他の服を持っていき、男性も同じ個室に入っていく……』


 狐露はもしやもしやと眉を顰め杉糸を見た。

 杉糸はこめかみに手を当てて困った顔をしていた。


『だがその部屋から出てきたのは男性一人……さっきの女性の姿などどこにもない……そして他の客が何事もなかったかのように利用していく……さっきの女性は何処へ行ったのだろう……そしてこの男性は一体、何者なのだろうか……』


「サヨナキさん、姉様、この映像」


「何も言わないで、うん、他の番組にしよう」


 杉糸は苦笑いしながらテレビを変えていく。


 そう、さっきの映像は恐らく、過去にわらわが買い物に行った時色々と面倒になったので狐の姿で杉糸の胸で眠る事を決めた日の出来事だった。


「使用料とやらを取れるのではないか?」


 わらわの言葉に杉糸は答えなかった。


「初詣どうする?」


「行きたい気持ちで満々だが、このままぐったりとしていたい気持ちもある」


「姉様に同感でーす。初日に行く必要はないと思うのです」


 三人でこたつに横たわり、それぞれ本を見たり和菓子を食べたりスマホを弄ったり正月気分を味わっていた。


「あ、サヨナキさん足邪魔です」


「え、それ僕の足じゃないよ」


「わらわのでもないな」


 ぎゃー!!!!!!

 なんてふざけたことをしながらも狐露は幸せをかみしめていた。

 正月など往年一人で過ごす、何もない出来事でしかなかった。


 だが今は一緒に分かち合える者がいる、それだけでどれだけ楽しいか。

 こんな日々が一生続けばいい、強くそう願っ__


「へくしゅっ!!」

 

 狐露は強くくしゃみをし、口から青い炎が思いっきり出た。

 だが障子の縁側を顔を向けてたおかげか、障子が燃えただけで被害は最小限で済んだが、がくんと何か世界の歯車がズレたかのような違和感を覚えた。


「大丈夫?」


 ずず、と鼻をすすりながら心配してくれる杉糸に返事をする。


「うむ、わらわ風邪など普通は引かぬのだがなぁ……何か鼻にほこりでも入ったか、それとも誰かわらわを噂しているのか」


「良い噂だったらいいね」


「前のような出来事はたくさんであるからな」


「うわー!! 早く鎮火するですー!!」


 そのあと、花札やら麻雀を一通り楽しむと腹が減った。実際は腹が減った気分になっただけなのだが。


「晩飯はどうする?」


「狐露が取ってきた魚なら冷凍してるけど」


「お米もあるです」


 狐露はそれを聞きニヤリと笑みを浮かべた。


 寿司!!


 狐露と狐凛は一瞬で寿司職人の衣装にはや着替えし、目にも留まらぬ早業でマグロの握り寿司を作る。


「へいいっちょうだ!」


 そして杉糸はぱくりと食べ、笑顔を見せ、おおっと次の感想を待った。


「ただごはんの上にネタ乗せただけ、分けて食べた方が美味しいかも」


「その顔で酷評するなっ!! ええい、酢の素が足りんと称すか!!」


 次はハマチだ!


 もぐもぐ、明るい笑顔を見せた。


「ごはんがすごいパラパラしてる、手に持っただけで崩れかけた」


 うえーん!


「姉様、やっぱり素人の私達では無理があると思うのです」


 さっきまで乗り気だった妹にまでそっと同情されるような顔をされ、頭に巻いてた手ぬぐいを投げた。


「なら其方が握れ!」


 という事で初心者が作っても安定している巻きずしを杉糸はごちそうしてくれた。

 普通に美味しかった。

 わらわも最初からそれにすればよかったと後悔した。


「ねえ、僕の分は?」


 ずっと板前をしていた男の台詞である。


 そのあと、狐凛が風呂に行き、妹が長風呂である事を知っていた狐露は杉糸の元へ近づいた。


「なあ其方や」


 少しだけ甘い声を混じらせつつも上目使いをし、それだけで自分が何を求めているのか杉糸は理解するだろう。

 だがそれだけでは難攻不落の杉糸城は崩れず、仕方なくもう少し迫る事にした。


「む、其方は姫はじめという言葉を知っておるか?」


 少し着物を崩して肩を露出させながら杉糸の胸元に胸を押し当てるが、酷い、杉糸は何も反応してくれない。


「狐凛いるからやめようね」


 そう言われ、肩の着崩れを戻されようとした。


「奴は小一時間ほど風呂に入っている」


「一時間で終わったらいいんだけど……ってちょっとだけ酔ってる?」


「うむ、少しだけ飲ませてもらった」


 しかし杉糸は最近性欲があるのは確定したのだが、それでも極端な人間であった。

 時によっては獣のようにわらわを求め、時によってはわらわの誘惑にあっさり堕ち、時によってはこのように完全な無反応である。

 

 今日は無反応な日らしい。


 しかし一度ついた火を消すのはわらわの流儀に反する。

 酒に溺れた勢いで、今日はわらわが杉糸を扱ってやる。


「わーっはっはっは、ふふふ、其方はか弱くて可愛いのう……」


 所詮人間の力、化け物が力を使えば押し倒すことなど造作もない。

 それに前まではこちらが受けだったが、今からは攻めに変わってやる。何度も抱かれれば羞恥心への耐性も流石につく。


「今日はわらわが……なぬっ?」


 杉糸は眠っていた。

 すやすやと安らかな息を立てて。

 まさか逃げるのか、狸寝入りでもして逃げるのか?

 

 軽く歯ぎしりをして苛立ちかけたが、瞬間、わらわの視界もふらついた。


「え?」


 急激な眠気がこちらを襲ったのだった。

 日付が変わる寸前、わらわは意識を保つこともできずそのまま瞼を閉じて眠りの世界に入っていった。 

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