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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
長い幕間
77/112

最強さん

 既視感のある人がいた。


 見た事ないはずの顔、なのに見覚えのある奇妙な人だった。

 知り合いではない、今の僕が一般人の知り合いなんて作る気など一切ない。


 しかし喉に魚の骨が刺さったような気持ちの悪い引っかかったものがあり、ずっと顔を見続けてしまっていた。

 

 まあ単なる気のせいだろう、失礼だ。


 杉糸は去り行く後頭部から目を離し、屋敷に帰ろうとした。


「やあ」


 過ぎ去った人は正面にいて、僕は手に持っていたどら焼きの袋を落としかけた。


     φ


 ここで遭ったのも何かの縁。


 僕は彼にそう言われ、何故か近くの茶店でお茶を飲む事になった。

 普段なら断り、屋敷に戻っていたはずなのだが、彼に肩をガシッと掴まれ逃げる事を拒否された。


 杉糸はコーヒーに角砂糖を落としながら目の前の男性を見る。

 見るからに初老の紳士、恐らくイギリス辺りだろうか。西洋とのハーフなのが感じ取れる顔立ちをしていた。


 うーむ、顔見知り程度の外国人の知り合いは結構いるが、あくまで国外での知り合いだ。日本での東洋以外の知り合いはほぼいない。


 なのに僕はこの人を知っている。

 

 杉糸は失礼にならぬよう、コーヒーを飲みながらさり気なく目を見た。

 読めない、それが当然なのだがカフェオレのように感情の混ざり合ったような眼をしている。

 

「君は、私の事が誰だか気になっている顔だね」


 読まれるくらい顔に出ていただろうか。


 杉糸は顔を触りながら頷いた。


「私は君の事を知っている、そして君も私の事を知っている」


 とは言われても、記憶の倉庫を漁っても彼の事にまつわる情報は何一つない。

 なのに既視感があるという変な感じ。


 いや待てよ、僕はこの人を知っているんじゃない。

 この目を知ってるんだ。


『君は凄い呪いにかかってるね』


 あの時僕にそう告げた人と同じ目をしていたのだ。

 いやそんなわけは、顔があまりにも違い過ぎる。あの時会った人は若かった。初老の紳士ではなかった。


 しかしあてずっぽうで杉糸は口を開いた。


「もしかしてあの時、僕に呪いを教えてくれた霊媒師さん……の知り合い?」


 すると紳士は笑った。


「半分ご名答、いやあ、本当に君は面白いね」


 紳士は自分の顔を掌で隠した、そして手を退けるころにはマジシャンもビックリな若い男性に変わっていたのだ。


「ハハハ、驚いた?」


「多分、はい」


「全然驚いてないな」


 霊媒師はため息を吐きながらコーヒーを飲む。

 そして次はエキゾチックな褐色肌をした少女に変わる。


 服もそれっぽい茶色の貫頭衣に変わったのだ。


「苦い……変える肉体、間違えた……」


 口調も無口な少女そのものになり、店員が通る頃には最初の初老の紳士に戻っていた。


「凄いですね、何か術でも使ってるんですか?」


「いや、これは私の特性のようなものでね」


 霊媒師はコーヒーの香りを楽しむかのようにティーカップを口に運んだ。


「まあ私は所謂、都合の良い神様として作られた存在だ?」


 杉糸はその言葉に、何処か覚えのあるような気がした。


「って疑問形ですか」


「うん疑問形」


 霊媒師はコーヒーを飲み終え、カップを置く。

 そして姿はまたもや変わり、歯抜けの近所の子供と遊んでそうな昭和のおじちゃんみたいな風貌になった。


「残念御免ね、今日は紙芝居中に食べるお菓子は用意してないんだ、でもこのお話はみんな釘付けになって、お菓子の事も忘れちゃうくらいにドッキドキのわっくわくな物語なんだよ、イヨっ」


 ついでに手元に紙芝居まで用意されていて、絵をスライドさせながら何故か話を始めたのだった。


「むかーしむかし、人類はお化けや悪魔等々、僕達の見知らぬ所でその脅威に脅かされて続けてました」


 取りあえずその話を聞く事にした。


「その存在達は人間が存在する限り永遠に生まれ続けます。終わりのない戦い、みんなみんな疲れ果てていました。でもそんな時、不思議な力を持った頭のいい人達は悪い奴等を倒す為にある事を考えつきました」


 そして霊媒師は流暢な口調で紙を切り替えていく。


「それは都合のいい神様を作ろうとしたのです。何者にも負けない、スーパーマンのような存在を」


「スーパーマンも結構負けますよ」


 何処から取り出したかわからないカチンコで頭を叩けれ、黙る事にした。


「神が人を作ると言います、でも実際は人が神を求めて造ってしまうものなのです、それを文字通り実現しようとしたのです」


 その言葉を聞き、杉糸は狐露と過去に話した事を思い出す。

 彼女も似たような事を言っていた。

 神は人が作るものだと。


「世界中の神秘を集め、パンのようねこねて完成させた存在が__」


 紙芝居のおじちゃんは紙を真っ二つにビリっと破り、そこからはシルクハットを被った女マジシャンが現れた。


「それがワタシナノデース!」


 破った紙は鳩や紙吹雪へと変わり、杉糸は思わず拍手をしてしまう。


「それで何処から何処までが本当なんです?」


「酷いデース、全然信じてないのデース」


 本音を言うとあんまり信じていない。

 というか目が読めないのである。


 基本人の目を見て本質を見抜く事は出来なくても話している最中嘘かホントかくらいは見抜く事は出来る。


 この人はそれが一切ない、最初から最後までずっと渦巻いている。

 それともその瞳の奥に有象無象の感情が存在しているのか、そういう意味では少し話の信憑性が増した。


「玲君に聞かなかったのデスか? 貴方達二人に手を出すなって言ってるのがワタシデスと」


 聞き慣れた名を聞き、あー、と驚きながら杉糸は霊媒師を指さした。

 そういえば、過去に玲がデウスエクスマキナのような存在がこっちにいると、そんな存在が僕達を守っていると、あやふやな話だったが実在していたとは。


「貴方がエクレアさんでしたか」


「エクレア?」


「いえ、こっちの話です」


 狐露の言い間違いを思い出しながら苦笑いする。


「まあこの話を信じるか疑うかは君次第、僕にとってはどちらでもいいよ」


 始めて会った時の青年の姿になり、霊媒師は何処か不機嫌気味にそっぽ向く。

 返しきれない恩があるので一応信じる事にしよう。


「信じますよ、でもどうして僕達を守ってくれたんです?」


「達は少々違うね、僕は狐には興味はない。彼女が死のうが生きようがどっちでもいい。ただ狐に死なれたら君が困るだろ?」


 なら質問を変えよう。


「じゃあどうして僕を?」


「単純な興味だよ、それ以上でもそれ以下でもない」


 キッパリと笑顔で言われ、本当にそれ以上の理由は無さそうに思えた。

 その時だった、スマホの着信音が鳴った。


 狐凛からだが多分狐露だろう。


「ちょっと、すみません。はいもしもし」


 軽く頭を下げながらも電話に出ると、


『おい杉糸』


 やっぱり狐露だった。


『其方何処で道草を食っておる? わらわに心配させるな』


「ああごめんごめん、昔の知り合い? と出会って」


 すると少し狐露の声が低くなる。


『む……女か?』


 杉糸は軽く霊媒師を見た。

 彼はこちらに気づき、笑顔で手を振った。


 どっちだろう。


「どっちだろう……?」


 すると霊媒師はボンキュッボンな女の姿に変わった。


「今は女、砂時計みたいな体型の」


 面倒なので事実だけ伝えると、低い声からキャンキャンした声に変わった。


『浮気かっ!? 浮気なのか!?』


 恐らく霊媒師の方にまで声が聞こえているであろう騒がしさにスマホから顔を離しながらも音量を下げ続ける。


「浮気じゃないよ、浮気なら女性と会ってるって言わないよ」


『まあ其方ならよくある事だが……誑かされるなよ、本当に本当だぞ? 本当に誘惑に負けて__』


 ピッと通話を切った。


「ハハハ、狐は昔より騒がしくなったね、昔はもっと大人びていたはずだった」


 その物言いでは情報で知っているだけでなく、知り合いのような印象を抱かせた。


「会った事あるんです?」


「何度かね、千年前ほど昔に。ただ狐は僕を嫌っているよ、それも死ぬほど。君と僕が出会ってるなんて知ったら即興して君を奪いに来るんじゃないかな。それどこから逃避行でも始めちゃうかも」


 千年前、あまり実感が湧かず、嘘なのではと思ってしまうほど現実離れした数字だ。

 だが一度信じると思った以上、意外にもその話を真実と受け入れかけている自分がいる。

 

「その言い方だと彼女より強い風に聞こえますね」


「そうだよ」

 

 興味本位で聞いた一言にアッサリと返された。

 

「誰にも負けない、そういう風に作られた存在、それが僕だからね。それに加えて千年前だとオカルト絶対殺すマンだったから余計に驚かせるかも」


「今のお茶目な貴方を知ってると全然そんな気がしませんね」


「……まあ昔にある人に出会って変わったのさ、そのせいでのらりくらり誰の命令も聞かない都合の良い神様から神様のなりそこないになってしまったけど。だから世界中のみんな僕の事を腫物扱いしている、最近神を具現化しようとしてる宗教間に茶々入れまくったから余計にね。ただ触らぬ神には何とやらだ、誰も僕を始末出来ない」


 自信満々に言うからには本当に強いんだろうなとは思った。

 ただ今の彼? がお調子者のような口調な分、そんな気は全然しない。寧ろ強敵と対峙したら次のコマには瞬殺されてるかませ強キャラと似たようなのを感じる。


「しかし君のその呪いは、妖だったら更に強くなる。そう思うと人間であるのが勿体無い気もするね」


「人間で良かったです」


 杉糸は苦笑いして返す。これ以上強くなってたまるか。


「さて私はそろそろ去ろう」


 彼は紳士の姿に戻り席を立つ。

 そしてキザっぽく帽子を被り、口元を緩めながら、


「前に会った時よりはいい表情になった、そんな君にいい事を教えてあげよう」


 一度本当に追い詰められ、全ての手を尽くしてもなお手がないと思ったその時は、私の名を呟くと言い。

 

「ナナシ、それが私の名前、世界で二人目に教えた真名だ。誰にも教えるんじゃないぞ」


 何故名前を僕に?

 そんな疑問を問いかける前に彼は去っていた。

 未払いの伝票を残して。


     φ


 屋敷に戻った後、すぐに狐露は迎えてくれた。

 まあ速攻どら焼きを取りお茶の準備をウキウキで始めたので目当てはそっちなだけかもしれないが。


「おーい狐凛? おやつの時間であるぞっ」


「もう少ししたらいくですー! 先に食べててくださいですー!」


 遠くの部屋から何やら用事を済ましているらしく、狐露は困った風に肩で息をする。


「まあ仕方ない、わらわ達だけで先に頂くとするか」


 お茶と共にどら焼きをあーんと大きな口で頬張ろうとした瞬間、杉糸は今日あった事を

伝える事にした。


「そうだ狐露、今日ある人? と出会ったんだけど」


「むぐむぐ、さっきの電話の事か」


「うん、その人は、千年前に狐露と敵対してた人で」


「奴は本当に人間か?」


「さあ、本人曰く色んな神秘を混ぜて作られたとかなんとかって__」


 と最後まで聞こうとすると狐露はぽろっとどら焼きを畳に落としてしまった。

 そして即座に青白い顔と共に怯えるように身震いし始め、歯をガタガタと打ち鳴らし始めた。


「う、嘘だ……奴が生きているわけがなかろう……」


「狐露?」


 予想外の反応に杉糸は狐露の肩に触れた。

 するとびくりと驚いた反応を見せ、今にも倒れてしまいそうなほど過呼吸気味になっていた。


「何故だ……何故あ奴が今更……わらわの事を干渉せぬと言っていたはずだ……生きているわけがないはずだ……」


 この反応を見るに、予想以上にトラウマを植え付けられているようだった。

 もしや狐露を封印した張本人とかだったりしないだろうか。

 

 後、多分敵意とかは無かったから大丈夫と思うけど、狐露の反応が新鮮だったから少し呆気に取られて話すのを忘れていた。


 そして夜、三人で夜逃げしようと企画されたので一晩かけて事情を解いた。

 何故かその時、僕が守るから、なんて戦力的に圧倒的逆な言葉を何度も投げかけて納得して貰えた。


 それでも数日体調不良で寝込んでた分、あの名無さんへの影響力は凄まじいものだった。


 もしかするとそれ以上言う事聞かないとナナシさん呼んでくるよ! 的に使えるんじゃないかと思ってしまうほどだった。

 


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