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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
長い幕間
76/112

オシロ様


「やれやれ年末というのに、何故わらわたちは廃墟探索をせねばならぬのだ?」


 缶コーヒー片手に白い息を吐き、黒いファーのコートを着る完全冬服仕様の狐露と共に杉糸はある所に来ていた。


 それは田舎道のロードサイドに建てられた例のお城、しかし立派なお城だったのも昔の話で今となっては夜目でもわかるほど廃れ朽ちていた。


 天下城と和風っぽい名前だが外壁はどう見ても洋風である、遊園地内に立っても違和感がないほどお城していた。

 このまま放っておけば地震などで勝手に崩れ落ちてしまいそうだったが、これでも何度も解体の企画があったのだが全て事故やら異変とやらで中止となっている。


 僕達がここにいるのもそれが理由だ。


 少し前だった。

 狐露は玲に何か困った事は無いかと早い話要求にも近い頼み事をしたのだ。

 

 すると沢山困り果てて猫も狐の手も借りたいほどだと言われて狐露は喜んだ、この時僕は単に探偵がしたいんじゃないかと邪推しかけたが気にしない事にした。


 そして玲の頼み事はある廃墟の調査であった。

 ほぼクロらしいが危険性が少なく、後回しにされ続けたが心霊スポットとして若者がよく出向く事例が増えたらしく早めに対処をお願いしたいらしい。


 しかしそこでお城の調査をくれるのは彼らしい。


「なあ杉糸っ、ここはらぶほてるという場所なのだな」


 文句を言いながらも狐露の目は少し輝いていた。

 それは初めての依頼だからなのか、このお城そのものに興味を持っているのか。


「うん」


「もしやわらわ達が行った時のように大量のゲームが置かれてたりせんかっ!? ふふん、大分昔の建物となると所謂れとろゲーやあなろぐゲーのお宝が沢山かもしれぬなっ」


 狐露は完全にラブホテルというものを誤解している。


 過去に一度行った事がある、その時は純粋に酔っぱらった狐露があそこに行きたいと駄々をこねたので行っただけである。


 だが偶然にもそのホテルにゲームセンターであるような音楽ゲームが丸まるベッドの隣に設置されていたのだ。

 そこからずっと酔っぱらったまま朝までゲームをやってた。

 僕は寝た。

 フルコンボだらけだった、恐るべし。


「あっても持っていっちゃ駄目だよ」


「それくらいはわかっておる、しかし其方よ。写真の準備をしておれよ」


 いざ行かんとばりに指を差しながらわっはっはと尻尾と耳を生やして歩いていく狐露の背を追いかける。


 説明するのも面倒なので暫く狐露には城の事は誤解されたままにしておこう。


「ふむ、開ける事は出来るがどうする?」


 狐露は刃物のように尖った爪を見せニヤリと笑う。


 まあ何十年も前から廃墟だったせいか入り口は鎖で縛られ固く閉ざされているのが当然だ。

 しかしここで物理的に破ろうとするのが彼女らしい。


「よくここで心霊動画上げる人いるから抜け道はあるはずだよ」


「まあ其方に従おう」


 爪を引っ込め、裏口に回り従業員用の入り口らしきドアを見つけた。

 それでもドアノブは大分ガタがきており、強く回さなければならないのだが壊れてしまいそうな不安定さを感じる。


「おじゃましまーす」


 静かに開け、二人一緒に入っていこうとするのだが同時に顔を顰めた。

 

 やはり埃が酷い、暗くてよく見えないが軽くむせそうになった。


 狐露はライト代わりに炎を出し、軽く建物内を照らす。

 壁や床のコンクリートは剥き出しに、そこら中に破片が飛び散っており、落書きや破損やらで酷かった。

 

 明らかに経年劣化ではなく人為的な破壊が多く、定期的に人が来るのだろうと察せられた。


「どう? いる?」


「いるな、だが気配は一つ……その者が悪霊か善霊かは知らぬが、長生きな霊ほど後悔や怨念が強い、警戒は怠るな」


「じゃあ僕は外で待機してた方がいいかな? 足手纏いだよ」


 そう一言告げると狐露はビクンと狐露は尻尾と耳を総毛立ちにさせた。


「い、いや其方はいた方がいい」


「そうかな?」


 そう思いながら歩いていくのだが、


 狐露は僕を盾にしていた。いや後ろでびくびくしていたと言う方が正しいのか?

 ある事を思い出す、そうお化け屋敷の時だ。

 彼女は怯えまくって挙句には狐そのものになり杉糸の服の中に隠れてしまったのだ。


「もしかして怖い……?」


「そ、そんなわけないじゃろ!」


 杉糸は何となく狐露の口調を理解していた。素が出るとたまに「じゃ」が混じるのだ。


「わかった、どうする? 探検しながら探すか、一気に幽霊さんのとこまで行くか」


「む……む……」


 今彼女の中では恐怖と興味の二つがおり混ざっているだろう、しかしお城だからってゲームがあるわけじゃ……朽ちたビリヤード台はあった。


「おおっ! あるではないかっ!」


 するとさっきまでの恐怖は何処にいったのやら、狐露はビリヤード台が置かれた部屋に入っていき、フッと吹きかけて埃を取り、台上の破片を床にバラまけた。

 

「ここでする気なの? でも球や道具は__」


「ふふん」


 狐露は鼻を鳴らしながら、自らの炎で球とキュー(棒)を作り出したのだ。

 

「ストライク!」


 多分ショットの事だろう、狐露は球を打ち、台の上で踊る球達は全て台のポケットの中に落ちていく。


「ほーるいんわん!」


 色々ごっちゃまぜになってるようだが楽しそうなので拍手しておこう。


「なあ、其方もやって__」


 うきうきしていた狐露は固まり、じっと僕を見つめてきた。

 いや目線は僕の後ろか?


 まさか。


「ぎゃー!! 出たー!!」


「きゃー!! 出たー!!」


「えっ?」


 僕以外の二つの悲鳴が聞こえ、咄嗟的に耳を塞いだ。

 

     φ


 杉糸達が遊んでいるとターゲットの方から出向くようになったようだった。

 しかしターゲットを見るに杉糸は苦笑する。

 

 悪霊からは程遠い、セーラー服を着た女子高生っぽい少女が幽霊だったのだ。

 とはいえこちらに敵意のようなものを見せてはいた。


「何よ……また変な奴が来たじゃない……しかもカップル……不愉快」


「ほほう、其方はわらわ達の関係を一目で見抜くか、目がいいのう」


 狐露に関してはそういうつもりはないだろうだが、彼女からすれば煽ってるようにしか思えないだろう。


「こんな場所に男女二人で来るとかそれしかないでしょ!」


 そして幽霊の方は狂犬のように吠え、がるるるるとこちらを睨んでいた。

 しかし突然と思い出したかのように彼女の態度は豹変した。


「って私の事を見ても怖くないの!? 私の言葉通じているの!?」


「うん、普通のセーラー服の女の子に見える」


「杉糸に同じく」


 すると幽霊はうっうっと泣き出し、どうしたのか聞こうとする前に泣きながら語ってくれた。


「やっと……やっと私を見ても怖がらない人と出会えた……! 普通の人から見たら私の声なんておどろおどろしいものになって写真写りは死ぬほど悪いし……」


「ほれ杉糸貸せ」


 幽霊が写真写り悪いと聞くので狐露が興味本位で僕のスマホで幽霊のいる場所を撮った。


「ぎゃー!!!」


 そこには少女の影も形もない異形が写っていた。


「これは確かに酷い」


 杉糸が眉を顰めながらもスマホを返してもらい、取りあえず悪霊じゃない事を知れば話を聞かせてもらおう。


「あ、ちょっといいかな?」


「何よ……」


「僕は杉糸、彼女は狐露、彼女は見ての通り化け狐でまあ早い話ここに幽霊が出るからその問題を解決してほしいって頼まれたんだ」


「コスプレかと思ったわ……って解決って私を殺すの!?」


「もう其方は死んでるじゃろ」


「あ、そうだった……」


 また幽霊は肩を落とし、しくしくと泣き始めた。

 

「ええと、少し話を聞かせてもらってもいいかな? 君はどうしてここで死んだのかな?」


「……どうして初めて会った貴方なんかに言わないといけないのよ」


「まあその通りなんだけど基本霊になるのは強い後悔が主なパワーになってたりするんだよ、もし君が成仏したいのなら事情を聞かなきゃ力になれないんだ」


「……」


 すると嫌そうにながら幽霊は何故死んだか話してくれた。

 少なくとも成仏はしたいようだ。


「彼氏と初めて来たのよ……でもシャワー浴びようとしたら足を滑らせて頭打ったのよ……」


「ほほう、それで主はずっとここにいると」


「そうよ、ここから何十年も離れられないし、助けを求めようとしても悪霊悪霊って逃げられるしわざわざ足を運んでくるカップルは腹立つし……」


「まあそういう場所であるからな」


「狐露、ここがどういう場所なのかわかってたの」


「ふん、おんぼろとはいえ設備を見れば普通に気づくわ」


 その物言いだと前回と今回入るまで誤解したままだったんだね。


「廃墟になった後もよ! 廃墟になってもこんな場所で卑猥な事し始めるカップルには本当に腹が立つのよ!!」


 軽く顔を赤らめながら幽霊な愚痴という愚痴を吐き続けた。まあ彼女の反応を見るに久しぶりにまともな会話が出来る相手と出会えたのだ。それも無理もない。


 そして話を聞き続ける狐露は八重歯を輝かせ笑みを浮かべていた。


「わらわわかっちゃいました」


 手を挙手し、狐露の言い出した言葉に軽く


「其方生娘だろう」


「はぁっ!?」


 なんてことを言い出すのか、杉糸が目を細めているとそれがクリティカルだったのか、幽霊は顔を赤らめていたのだ。


「ほほん、ただのかまかけだったのだが、その反応では当たりか、つまるところ快楽の味を覚えずに死んだ事でずっとこの場に留まり続けているのかや?」


「同性でもセクハラになるよ」


 そんな理由で何十年も霊として徘徊するわけないだろう、そう思いながら幽霊を見ると、


「そ、そんなわけないでしょ! 確かに彼とは紳士的な付き合いを中学の頃からしてて学校卒業したら一緒にエッチな事しようって何か月も前から色々準備して彼にガッカリされないようにダイエットとか彼の好きな色の下着とか趣味を合わせていざその日って時に__」


 どっちだ?

 

 杉糸は幽霊の反応を見ると狐露の予測が真実ではないのかと反応に困った。


「どきどきしながらまずはシャワーよね! ってキャッお風呂大きいじゃない見て見て!! で足すべらせて頭打って死んだけど! 全然後悔なんてしてないんだから!」


 なんかすっごい後悔してそう……そもそも学生同士でよく入れたね……セーラー服着てるし。


 その話をふむふむと腕を組みながら聞き続ける狐露は、幽霊を心底可哀想にポンと肩に手を置いた。


「其方はなんて可哀想なのだ……快楽の味も知らずに逝ってしまうとは……」


 同情してるようでマウント取ってない?

 色々と見てられなかったので杉糸は口を出す。


「そういう君だってつい最近まで生むs__」


「おっと尾が滑った」


「え、尾が滑っ__」


 バキィ!!


 生えた尻尾によるこん棒のようなスウィングが顎に当たり、文字通り言葉を失う。

 顎を強く当たったせいか、頭がちょっとフラフラする。喉から声が出ない。


 しかしあまり痛くなく、僕を黙らせる為だけの一撃だった。


「だから生娘じゃないわよ!! 私は既にピーでピーでピーよ!!」


「ほう、わらわもピーでピーでピーだがな!! 先日もピーでピーだった!!」


「へ、変態変態変態!! 何ピーピーなんて……でも私もピーくらいはしてたわよ!」


「まことか? 其方はピーすらもしてなさそうだがなっ」


 もうやだ。

 見た目が若い女性達が卑猥な言葉ばかりを繰り広げるこの状況に、口を出せない杉糸はひたすら両耳を塞いだ。


 そっから一分ほどだろうか、塞いだ耳の僅かな隙間に入り込む声達が止まった。


「…………」


「…………」


 両者黙ってたので一先ず決着は着いたのだろう、

 しかしこの静けさは先に銃を撃つ西部劇の戦いにも思える。


 またさっきのような口論が繰り広げられるのか、少しうんざりしたように苦笑いしながら杉糸は空気を読み、その辺にあった破片を宙に投げた。


 そして地に落ちて、それが引き金としてまた始まるのだと杉糸は耳を塞ぐ準備をしたが、


「そうよ……私は生娘よ!! アンタの言う通り彼氏と何もしなかったからずっと彷徨ってる哀れな幽霊よ!! これでいい!?」


 幽霊の方が無い足でへたりと膝を付き認めてしまったのだ。


「さてさて、認めてしまったわけだが、どうする? 強制成仏させるか?」


「先にその発想が出てくる君が怖いよ」


 こそこそと耳打ちしてくる狐露に杉糸は頬を掻く。


「だがしかしこれでは少々面倒ではあるぞ、彼氏との情欲、もしくは肉欲が世に縛り付ける鎖となるのなら……強制成仏が一番楽と思わぬか?」


「ただ面倒臭がってるだけじゃん」


 杉糸としては本人が満足して成仏してくれるのが一番良い、何となくだがそう思っている。

 狐露もこちらの返事に意図を理解したのか解決策を出した。


「ならその彼氏とやらを調べるか? だがあまりいい結果は期待せぬ方がよいな、何せ数十年前の彼氏だ、新しい恋に堕ちている可能性の方が高い」


 それはそうだ。

 幽霊自身それは理解しているだろうが、理解と事実として突き付けられるのは位が違う。

 もしやそのショックで悪霊にでもなったりしないだろうか。


「それか其方があの女子と交わるか? わらわは嫌だぞ」


 それは肉欲の面での解決策だろう、個人的にはノーコメントで幽霊の方はノーだと否定するだろう。


 杉糸は軽く頭を掻いた。


 取りあえず、本当に彼女に成仏の意思があるのか聞いてみよう。


「ねえ、君は本当に成仏したいのかな」


「…………出来るならしたい」


 幽霊は視線を逸らしていった。

 僕は再度彼女と目線を合わせるように言う。


「本当に?」


 目を見て言うと彼女は押し黙った。

 多分嘘に近い気がする。


「……わからない、さっきまで成仏したい思ってたのにアンタ達に吐き出すもん吐いたらわからなくなったのよ……」


「じゃあそれでいいんじゃないかな、無理に成仏する必要はないよ。それがわかるまで適当にのらりくらりすればいいと思う」


「でも成仏しなかったらまた一人ぼっちになるじゃない……寂しいのは嫌よ」


 杉糸は狐露の方を見た。

 彼女は仕方ない、と言いたそうに軽く笑った。


「僕達の所に来る? 大丈夫、ここの縛りとかも狐露が何とかしてくれるだろうし」


「それは嫌、だって夜五月蠅そう、特にそこの狐とかキャンキャン吠えてそうじゃない」


 泣きかけてた幽霊が真顔で拒否したため、僕も同意するように頷いた。


「うん」


「なっ、わらわの嬌声はおしとやかで優雅なものだっ!!」


 初めて幽霊が狐露に対し、言葉のクリーンヒットを与える最中、杉糸はスマホを取り出して通話する。


『やっ、サヨナキ君、依頼の件はちゃんと終わった?』


「うん、例の件だけど」


『アハハ、玲や霊だけに例のけ__』


 プッ。


「あ、間違えて切っちゃった」


 プルルルル。


『もー冗談キツイなぁサヨナキ君』


「ごめんごめん、何故か手が当たって、後、ある事でお願いがあって」


 後日、彼の探偵事務所に助手が一人増えた。

 でも中途半端に霊感が強い人には恐ろしいモノに見え客引きが少し遠のいたそうな。 

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