その弾丸は何を撃ち抜く?
僕は彼女に手を引かれて歩いている。
屋敷から出て、鳥居が並ぶ幻想的な夜を映し出す狭間を歩き歩き歩き続けた。
僕は何が何だかわからない、ただ流されるがままに連れていかれ続けた。
天城は一つの札を燃やす。
そして世界が変わった。
それは道路、見覚えのある住宅街の道路であった。
「あら、あれが小さい時の貴方?」
その言葉を聞いた途端、僕は全てを察し、母が引き殺される様を棒立ちになって見ていた。
これはなんだ?
僕の記憶なのか?
「そう、これは貴方の記憶。貴方のせいで死んだ人達のアルバム」
呆然としたまま、瞬きをする。
すると世界はまた変わっていた。
それは昔の家だった。
母の部屋で父は意識を失い倒れている。
子供の僕はそれに縋りつき必死に泣いていた。
「少し身長が伸びたかしら? でも貴方のお父さんは貴方の成長を見る事なく亡くなった。誰かさんのせいで」
そうだ、僕のせいだ。
次は病院、祖母だった。
僕なんか生まれてきたせいで祖母は苦労し、一人苦しみを吐き出す事もなく死んだ。
「本当にお婆さんの事が好きだったのね、凄い泣いているわ」
吐き気がした。
発狂してしまいそうだった。
これ以上、見たく、いや見なきゃいけないのか?
僕が殺してしまった人達の最期を見なきゃいけないのか。
そうだ、罰だ、罰なんだ。
もっと苦しまなきゃ。もっと、もっと__
「こんな死に方だったの、貴方のお友達、実際はただのマッチポンプだったのに庇って死ぬなんてかわいそう」
佐久弥。
叔母さん達。
次から次に死を見せ続けられて吐いた。
でも狂ったように目を開き、笑い、それを見た。
「そして最後は私も死んだ、首をもがれて」
天城は自分の首が取れるジェスチャーをして笑う。
「君は……なんなんだ?」
最後に残った理性を振り絞り、ただ虚ろな目で彼女を見据える。
「さあ? 貴方の幻覚じゃないかしら。貴方が最期に求めた肯定してくれて殺してくれる都合の良い存在」
そうか、彼女は死んだんだ。
彼女は僕が求めた都合の良い存在でしかないのだ、それでもいい、自分を肯定してくれるのなら何でもよかった。
「貴方は何処で死にたいかしら?」
僕は答えない。
「そう、じゃあ__」
天城は手を引き、目の前に現れた鳥居を一つ潜る。
「こんな所はどうかしら?」
突然の生暖かい風と夕日に僕は顔を顰めた。
そして現れたのは夕焼けのライ麦畑がいっぱいの美しい世界だった。
どこの国だろうか、過去に見た事があるが思い出せない。
風に麦が揺られ、へたりとその場に膝を付いてしまい僕の身は畑に隠れた。
無機質に夕焼けを見た。
「重いわ、なんでこんなもの渡されたのかしら」
すると天城はひょいっと僕に何かを手渡した。
それは回転式の拳銃だった。
これは僕に与えてくれた救済そのものだった。
φ
私は空を見る。
すると空にはもう追って来た狐の姿があった。でも狐は仲間はずれかのようにこの畑に降り立つ事は許されない。
ずっと必死に結界を叩き、怒りに任せ何か叫んでいた。
硬い結界の理由は簡単だった。力を持たない者が外から介入したら速攻壊れる。しかしそれ以外は何も入れない仕組み。
ファンタジーな力がないなら虫でもゴキブリでもいい、でもそんな事が仕組みを見抜けないほど狐は焦り必死になっていた。
「ごめんなさい、貴方の事は嫌いじゃないわ」
だから全てが終わったら殺していいわよ。
天城は悲しそうに狐露を見た。
φ
世界はもうまともさを全て失った。
ハッキリと見えるのは掌の拳銃だけ、目を擦ると血に染まった無数の手が足元から体に向けて絡みついていた。
血塗れでまるで軟体生物かのように絡んでいたそれは母の姿をしていた。
父は言う。お前のせいだ。
祖母は言う。アンタさえいなければ。
肉が溶けて行く叔母たちは言う。お前が死んでいれば。
腹を刺された佐久弥は言う。なんで俺が死ななければならなかった。
そして愛芽が背後に僕を睨んでいた。
求めていた罵声、耐え切れない罪、嬉しいのか苦しいのか笑い続けた。
「ははははははあははあっははあはははははははあはははははあははああああはははは!!!!!!!!!!!!!!!!!」
笑いながら拳銃をこめかみに当てた。
大丈夫、使い方なら知っている。
φ
「やめろ!! やめろ!! やめろやめろ杉糸!!」
狐露は叫び、ずっと結界を殴り続けた。
「ああああああ!!」
手の肉が裂け、骨が見え、原形を留めず、それでも叩き結界を壊そうとした。
「殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!」
天城に向けた殺意、もう人の形すらも留めなくなった狐は喉が裂け、口から血を吐き自らが火傷を受ける火力で結界を砕く。
だが結界は壊れない。
体が再生していく、焼けた服が整っていく。
心の何処か一瞬でも結界が破れない、間に合わないと思った瞬間、狐露の殺意は崩壊した。
そして涙しながらまるで土下座するかのように頭を垂れて頼み続けた。
「頼む……頼む……なんでもする……主の為なら殺しでも悪事でもなんでもする……」
もう狐露に化物のような力を出す気持ちは残っていなかった。
「だからわらわから盗らないでくれ……頼むからわらわから奪わないでくれ……」
杉糸は拳銃をこめかみに向けた。
そして軽い血しぶきが舞い、身が後ろに倒れていく。
「あっ…あっあっ……」
瞬間狐露は狂ったように泣き叫んだ。喉が張り切れるような悲鳴を上げて、頬を掻きむしり、喉の骨を自分で何度も絞めて砕き続けた。
でも死ぬ事が出来ず、狂ったように泣き続けた。




