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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
終わりと始まり
68/112

幕間

夜、不安定な屋敷の空でも月は欠けたり満ちたりするらしい、何カ月も住んでいたはずなのに今更気づいてしまった。

 温泉場での月は何一つ変わらないから麻痺していたようだ。


 こんな隠れ一つもない月を見れば今夜は月が綺麗だと恋人に言ってみたいものだがその相手は明日に備えて凄い有様で眠っている。


 とはいえそんな事言っても彼女に抱けやら何やら言われてしまいそうなのでもうしばらく言う機会はなさそうだ。


 僕もそろそろ寝るか、そう思って縁側から去ろうとすると気配がした。


「あら」


 狐露と思ったら天城の方だった。


「流石に緊張しますか」


 何せ天城は明日、狐凛の人質交換の材料として利用されるのだ、流石の彼女でも緊張しているようだ。


「いいえ、単に夜行性なだけよ私。いつも朝五時に寝てるの」


「明日の取引時間何時でしたっけ……」


 杉糸が呆れたように呟いた。


「あら、そんな貴方は屋敷で待機だから夜更かしし放題で良い身分ね」


「確かに、これは失敬ですね」


 杉糸は口出しの法則として自分も床につこうと思ったが、それより先に天城がこちらの隣に座った。


「でも丁度いいわ、一つ聞きたい事が貴方にあったの」


「一つだけなら」


「保険として三つほどにしといて構わないかしら」


「どうぞ」


「ねえ、貴方は自分の力についてどう思ってるのかしら?」


「力?」


 杉糸は彼女のいう力が呪いについてだと理解するまで少しかかった。

 どう思っているかだって? そんなものは当たり前だ。


「この呪いのせいでたくさん死んだ、大事な人もいい人もみんな不幸になった」


 死ぬほど嫌ってます。


 そう杉糸は言い、話を切り上げようとした。だが言い終えた瞬間に狐露の事が頭に浮かんだ。

 そして思いもよらない言葉が外に漏れていた。


「でも、これのおかげで狐露と出会えた」


 これ以上言葉は続けようとしなかった。この呪いに対し良かった事など彼女を助けれた事しかない。それにこれ以上肯定は絶対にしたくなかった。


「そう、貴方はそれを呪いと言うのね」


 その物言いはまるで呪いを否定しているようないい草だった。


「貴方はそれをなんだと思ってるんです?」


「どういう答えがお望み? 貴方と同じく疎ましく思うべきか、その逆を選ぶべきか」


「……貴方の答えが聞きたいですね」


 すると天城はたまに見せる心底嬉しそうな笑みをほころばせ言った。


「強いて言うなら、もう一人の自分かしら」


 あまりにも予想しなかった答えに言葉を失いかけた。


「自分?」


「だって生まれた時からずっと隣り合わせで生きてきたもの、これを自分と言わずどういうのかしら?」


 そんな考えはした事なかった。

 でもそんな考えは僕には出来ないだろう。

 

「けほっ」


 天城が血を吐き、彼女の寝間着が赤く汚れてしまった。


「大丈夫ですか?」


「……多分」


 そう返事する天城の姿は余裕ありげには見えた。


「お身体に障ります、もう寝ましょう」


 彼女に手を差し出し、彼女はそれを掴む。


「服の着替えを持ってきますから、部屋で待っててください」


 そう言って杉糸は天城を連れて行った。


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