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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
終わりと始まり
67/112

分岐点


 杉糸はただひたすらじっと屋敷で待っていた。

 早い話やる事がない、という事だろう。ちょっと悲しい。


 取りあえず天城がこちらに転移するのを政人と共に待ち続けると、彼と少し会話をした。


「そろそろかな」


「そろそろでしょうね」


 噂をすれば何とやらか、政人の頭上に天城の体が落ちてきた。


 彼は床と鼻が強くぶつかり、鼻血を出してしまった。


「ごめんなさい、でもその場所にいた貴方も悪いと思うわ」


 天城の謝罪しているようで相手を咎める無茶な物言い。


「飛び降り自殺に巻き込まれた人を責めるのは酷な話だと思いますよ」


 杉糸が彼女にやんわり言うと「それもそうね」と納得してくれた。


「お茶でも飲みます?」


「頂くわ」


「早く俺の上から離れてくれませんかねぇ!!」


 政人は軽くキレたその時、居間の襖がバッと開きそこには狐露の姿があった。


「杉糸っ! 皆の者も大丈夫か!?」


 息を切らし、こちらを心配して無事を確認した瞬間ホッと胸を撫でおろす。


「政人くん、彼女は偽物だから斬ってほしいかな」


「えっ?」


 狐露? が首を傾げ、次に言葉を開く隙も与えず、体勢を整えた政人が刀を抜刀し、狐露を斬ろうとした。


     φ


 狐露は息を切らして屋敷まで帰って来た。

 早く杉糸達の無事を確認するまで安心できない、入り口を無視して裏口の縁側から姿を現して居間の襖に近付こうとした瞬間だった。


 わらわのそっくりさんが障子を破って後ろに後退しようとしていたのだ。


「ぎゃー!! 偽物―!!」


 狐露は咄嗟的に腕を伸ばし、偽物に対して腕を伸ばし後頭部へ打撃を加え、奴はぎゅるんぎゅるんと宙で回転した。


「今度は本物ですか……? 血塗れですけど……」


 刀を持った政人は切っ先を向け、杉糸に助けを求めるかのように構え始めるのだが、


「多分本物なんじゃないかな?」


「多分!? 其方毎日わらわの全身を飽くほど眺めている癖に区別がつかぬのかっ!!」


「誤解される言い方はやめてくれないかな、うん、本物だ、血塗れだけど」


 そう言って杉糸は倒れているわらわの偽物の頬をつまんでいた。すると服のように皮が剥がれていき小柄な男が姿を現していた。


「さっきのはどうやって見抜いたんですか?」


 事情がよくわからぬが、杉糸は偽物のわらわは見抜けたようだった。


「うん、取りあえず攻撃して政人くんを弾く事が出来たら本物かなって」


「ナイスアイディアね」


 政人とわらわはお互い顔を向け、口をあんぐりと開けて唖然としていた。


 もし偽物が強かったらどうしていたつもりなのだ。


 色んな意味で恐ろしい男だと狐露は思った。


     φ


 全員この事件を引き起こした大男の部下は死んでいた。舌を噛んだり、仕込んでいた毒を飲んだり、元から術で長く生きれないようにしていたものや、自らに呪いをかけたものまで。


 わらわが折角助けた者まで。


 ただ一つ共通していたのは自刃した事だろう。


 みんな自らの意思で死んでいた、気味の悪い話だ。


 だが強いて言うなら死んだ者が全員なわけではない、数名ほど死体が見つからず消息不明として片付けられているらしい。


 奴らは何故天城を狙ったのか、わらわ達が絡んだの偶然なのか、喉に魚の骨が刺さったかのような不快感だけが残ってしまった。


 だからこそこっそりと玲と何度か会い、情報を聞いている。殆どの者は既に違反者の暴走程度にしか捉えておらず、探偵稼業の裏で独自に調べているらしい。


 ちなみに杉糸には部下の殆どが死んだ事は教えておらぬ。

 玲もそれが良いと判断してか、わらわの意思を汲んでくれた。


     φ


「もう帰るのか」


 狐露は事件の数日後、そろそろ帰ると言い出した天城に向けて少し心配そうに声をかけた。


「事件が解決した、とは言い難い状況なのが現状だ。また命の危機に陥っても知らぬぞ?」


「ここにいても誰かさんの嫉妬か、……呪いで殺されそうだわ」


「それはそうであるな」


 狐露は冗談に苦笑しながら返した。

 実際杉糸は天城が長く滞在する事を良しとしていなかった。奴の言う好きとは友好関係にも含まれている。呪い付きである事以外ただの人間である天城がその呪いに対処できるかと聞かれると疑問に思う。


 これ以上奴が人を殺してしまったらそれこそ壊れてしまう。

 

 今の停滞している平穏が何よりも好いてしまっている。


「其方の事情は知らぬがもう人は殺めるのではないぞ、それこそ其方が殺されても文句が言えない立場となってしまう」


「もうなってるわ」


 天城は皮肉気に笑って、鞄を持ち去ろうとする。

 その笑いが杉糸と重なり、何処か心が握られたような不安を覚える。


「また会えるか?」


「あら、貴方の方からそんな事言われるなんて」


 天城は屈託のない笑顔を見せていった。


「すぐ会えるわ、心配しなくても。貴方の方から遭いに来たりして」


 それから数日後の出来事だった。


 ただいつも通りに杉糸の布団から目を覚まし、いつも通りに食事を摂って、いつも通りに狐凛や杉糸と何処か出かけないかと雑談に興じた、何一つ変わらない箱庭の幸せな日常。


 狐露は杉糸と狐凛が別室でいる間、一人テレビを見ながらぐーたら過していた。


 すると適当に流し見していたニュース番組の事だった。


『……で女性二人の遺体が発見されました。被害者の二人は刃物で惨殺されており__』


「物騒だな……」


 狐露が眉を顰めて別のチャンネルにテレビを変えようとした瞬間、


『被害者は天城猫さん十九歳と北村愛芽さん十九歳と__』


「この者は一体何を言っておる……?」


 狐露は呆然とテレビのリモコンを持ったまま硬直し、目を大きく開いた。


 何一つ、理解が及ばない。だが一つだけ本能が告げたのはこれを杉糸に見せてはならぬという事だった。


 誤魔化せるわけもない、隠蔽する等考えてるわけでもない。ただ自分本位に動いてしまうほど思考が働かなかった。


 テレビを消し、急いで杉糸達の元に行く。


「すぎぃと!!」


 間に合え、せめてその場しのぎでいいから誤魔化せ、その間に何でもいいから考えろ。何かこの状況を変える事を考えろ。


 狐露は杉糸の寝室まで向かった。さっきまでその部屋で狐凛と共に将棋でもして楽しんでいたんだろう。

 

 よかった。一先ず間に合った、そんな事を考えていたのだが、違う。


 狐凛は青白い顔をしていた。

 その将棋盤の上で無造作に置かれたスマホを見て、何も言葉が出ず泣き出しそうな顔をしていた。


「何だ、一体何を見たん__」


 狐露が荒い口調で近づき、スマホを見ようとした。


 だがその画面上には信じられないものが映ってあった。


 死体、それも知り合いの死体がメールで送信されていた。

 

 片方は首から下を裂かれ顔だけが原型を留めているほどの惨殺された愛芽、もう片方は頭部を砕かれ、見覚えのある服を着ていた天城の死体。


 そして『お前のせいで死んだ』と言葉が残されていた。

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