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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
終わりと始まり
66/112

助っ人


 小鳥の泣き声を聞きながら狐露はコンビニで買ったおにぎりを食べていた。

 隣にはコートを羽織り顔を隠した女性か男かもわからない風貌をした連れと共に眠たげに狐露は歩く。


 指名した廃工場は山の麓に存在しているが、場所が場所だけに誰も買い手がおらず数十年前からずっと放置され、荒廃が進んでいるようだった。


 土地勘に慣れた者を連れて来ればもう少し違ったのだろうが、相手は一人で人質を持ちながら来いと矛盾した指名をしたので一応従いはした。


「ここか」


 廃工場の入り口らしき前に立ち、ひょっとコートの主を抱きかかえながら軽々と策を飛び越えた。


「さてさて」


 錆が進んだ工場内には幾つか建物が存在し、何処にいるか気配を探った。


「既に見られているな、見張ってる数は四、総員二十五人と言った所か」


 足りぬな、この程度の戦力しかないとは。

 狐露は敢えて自分はここにいる、と強調するように耳と尻尾を生やし殺気を立てた。


「さあ、行くぞ」


 狐露は連れ添いにそう言い歩いていった。


 二階建ての建物入り口に数人の男達がいて、こちらの顔を見た途端強い敵意を見せた。


「なあに、そう気張るな。今の所貴様らに危害を加える気はない」

 

 一人の男が言った。


「奥に、ちゃんと連れて来たんだろうな」


「ああ、ここに。匂いや気配があるであろう?」


 狐露は隣の人物に顎で指し、男はコートに手をかけようとしたが狐露は止める。


「おおっと、女子の体に触ろうとするのか? それは許せぬ事態であるな?」


「顔を確かめるだけだ」


「わらわが交渉を受け入れたのは貴様らの親玉に対してだ、なぁ? わらわのお願いだ、この手を下げてはくれぬかや?」


 狐露は静かに殺気をその男に当て、その者の心に軽く亀裂を入れてやろうかと思った。

 だがわらわの殺気を押し当てられても男は臆する事はなく、いやそもそも怯える心がないのか? それほどにまで何も感じぬ目でこちらを見下ろしていた。


「まあいい」


 何だか相手が仕方なしに願いを受け入れたかのように見えて少し負けた気がして気分が悪かった。

 出鼻をくじかれた気がしながらも狐露は歩いていく。


 二階、仕掛けられている罠はない。


 狐露は今にも朽ち果てそうな階段を歩き、上がっていく。

 二階の表面が錆びたコンテナやら既に油の通しても手遅れな機材達が並べられた空間の奥に敵はいた。


「さあさあ連れて来たぞ」


 奥には六人の人間、一見全員人形かと勘違いするほど目が乾いていたが、一名だけ大柄な筋肉質な男が他の烏合とは違う雰囲気を醸し出していた。

 奴だけ目は死んでなかった。


 恐らく大男が頭か、それに匹敵する立場なのだと一目で感じ取れた。


 近くに狐凛の気配は感じ取れるが、この建物内にはいない。


「わらわの妹は何処だ?」


 だが相手連中は何も言わない。ので試しに強く殺気を暴風のように押し当てた。


 しかし一名だけわらわの挑発に臆する事なく平然と口を開く者がいた。

 大男だ。


「私の仲間を怯えさせるのはやめてもらおうか」


 大柄な体とは裏腹に知的さを感じさせる落ち着いた物言いだった。


「怯えているのか? そこにいる、いやこの周辺の皆心が死んでいるように見えるがな?」


 狐露は皮肉気に言い相手の反応を確かめるが、何を言っても感情を表に出さなさそうだ。


「で、もう一度問う」


 わらわの妹は何処だ?


「その女をこちらに渡してから、もしくは中身を見せてからだ」


 やはり男は隣の人間の真意性に疑問を感じているらしい。

 それも当然だ。

 わらわだってそう思う。顔を隠し一言も発しない交換相手など怪しいとしか言いようがない。


「わらわの妹が先だ。何処にいる? それに疾く返せ」


「断る、そちらが先だ」


 相手も断固意思を揺らがせる気は無いようで狐露はむっと顔をゆがめた。


「人質はこちらが預かっている、どちらが有利か貴様程度の頭でも少し考えればわかる事だと思うが」


「少しでもこちらに利が生まれれば貴様らは終わりだがな。この意味がわかるか? 貴様らは一つでも選択を失敗してしまえば全て土の底に埋まる未来が無数に存在しているという事だ」


 それに既に奴等はわらわ達を敵に回した時点で失敗している。


「それに貴様らを煮いても焼いても良いと、ある知り合いから許可を貰っている」


 男は無言になった、狐露は仕方ないと言った風に頭巾を脱がせた。

 するとそこから天城が出て来て、


「これでよいか?」と渋々答えた。


「やっと喋ってもいいかしら?」


 おしゃべりなこの女はずっとむずむずしていたようで不満げにこちらを見た。


「ああ、同じように黙ってくれるとわらわ助かる」


「さぁさぁ、わらわの妹は何処だ!! ここまでして何もせぬと言うのなら今すぐこの場にいる全員を殺してみせよう!!」


 狐露は怒気強く声を荒げ、男も仕方ないと言った風にスマホを取り出した。


「狐を放つ準備をしろ、だが私が良いと言うまでは出すな」


 男は理知的だが、物言い一つ一つが気に食わない。

 恐らくわらわ達をただの害獣か何かと思っているのだろう。


「お前がその女をこちらに寄越せば完全に開放する、これでいいか?」


 よくはない、狐凛はこの場にいないのだから。相手の言葉一つで納得するなどただの正直者ではなく愚か者だ。


 その時、狐露の服の袖に隠してあったスマホから電話が来た事を知らせる振動が伝わった。


 敢えて狐は愚者を演じた。


「良いだろう、この者をそちらに歩かせる。その同時に解放しろ」


 狐露は五つ数えると言った。

 数え終わった瞬間に天城に歩けと命令する。


「あら、酷い人。私をあんなガチムチな連中に引き渡そうとするなんて」


「ええい、無駄口叩いておらんでさっさと心の準備しろ。五」


 四、三、二、一.


 数え終えた瞬間、天城の背中を押して歩かせた。

 天城は自分の命を脅かすかもしれない連中の元へ行くというのに堂々と平然としていた。


 そして大男も、天城が向こうとこちらの中間辺りまで歩いていった瞬間スマホをもう一度耳に当てかけた。


 その瞬間、大男は少し目を大きく開いた。


 それを見た狐露は安心して指を鳴らし、天城の身を炎で焼いた。


 逆藁人形。


 そしてこれが戦いの合図となり、その場にいた六人だけでなく周囲に貼っていた二十名以上が即座に襲い掛かった。


     φ


 一方数分前、狐凛は狐露との取引が行われてる廃工場からほんの少しだけ離れた山小屋に捉えられていた。

 椅子の上に縄で縛られ、口もガムテープで閉ざされている。


 この程度なら破る事など容易いのだが、全身に呪符を張られ、ただの少女に等しい力しか出せない状況なのが悔しい。


 この連中は恐らく姉と杉糸を狙っている例の集まりなのだろう、力になる為に躍起だった途端に杉糸の偽物に不意打ちされ足を引っ張ってる事に涙が出そうだ。


 だがこれ以上足を引っ張るわけにもいかない、手の関節を外すコツがやっと掴めてきた。


 すると目の前の監視役としてこちらを見張っていた男に通話がかかる。


「了解した、対象を退治する」


「!?」


 退治と言われ、外れかけた手首の関節が元に戻る。

 

「―!!」


 折角後少しだったのに、と内心叫んだ。


 そして男一人がこちらに歩き、何故か原始的に革袋を持っているのだ、頭一つ分すっぽり入りそうなくらいの。


 どうしてそんなヤクザみたいな殺し方を!?

 せめて術を使うとかあるのです!!


 狐凛はん-んーともがきながら、じたばた椅子を揺らして逃れようとするのだが、恐怖心がすっ飛んだ。

 何か入って来た、小動物ではなく二足歩行の大きな動物、熊よりは小さい。

 それは熊などではなく人間だった。


 しー。


 この山小屋に乱入してきた男は静かに人差し指を口元に置いてニヤニヤしていた。


 そも乱入者は玲、狐凛は初めて会った時からハッキリ言って嫌いだった玲が神様のように輝いて見えたのだ。


 だが玲はスマホを取り出して、こちらに向けた。


 はい、チーズ。と口パクで言っていた。


『何やってるのです!! はやく助けろです!!』と口ではなく、目力で唸り、玲はちょっと待って欲しいと掌をこちらに見せた。


『何が待てですか!! こっちは今にも死にそうなのです!!』


 わかった。わかった。と玲は口パクで言っていた。


「はい、送信っと」


 玲が声を上げた瞬間、監視役の男は玲に気づいたらしく即座に攻撃を繰り出そうとしたのだが、一瞬で決着は着いた。

 

 玲の圧勝だった。


     φ


 狐露は杉糸から借りたスマホを見て、玲と狐凛が並んで写っている写真を見て笑う。

 狐凛の方は強く睨み、玲との写真を嫌がっていて無事を伝える為だけに撮ったのが丸わかりだった。


「ふむふむこれを見よ、既にわらわの愛しい妹はわらわの友達の活躍で救助されておる」


 狐露は一度やってみたかった屍の上に座る行為を実現しながらスマホを大男に見せた。

 十人ほど重ねた人間山の素材は一応生存している。


 だが大男は悔しがってる様子も諦めてる様子もなくただ無感情にこちらを見ていた。


「貴様らの目的を言え、あの女が目的かと思えば狐凛を殺そうとしたらしいようだな?」


 それでも男は何も語らない。


「偶然二兎を狙う状況に陥っただけと言うのか貴様」


「さあな」


 男は事務的に答え、敵対する意思をこちらに見せてきた。


「……わらわは少々気が立っておる、全て語れば半殺しで許してやろう」


 狐露は屍の山を歩き、ぐえっぐえっと悲鳴が連鎖する。

 だが大男は一枚の札を取り出した瞬間、天に投げた。


 それに気を取られた瞬間、男は拳銃を片手に持っていた。

 だがそんなもので怪物が殺せるわけもない、半ば妖状態の自分にとっては傷一つ付けるのも不可能な愚かな武器でしかなかった。


「後は任せたぞ」


「待__」


 大男はなんと銃口を自分の口に咥え、引き金を引こうとしていたのだ。

 男の声と同時にもう一度銃声が鳴り響いた。


 わけがわからなかった。


 大男は頭から脳漿をまき散らして絶命している、どう見ても即死で今から助けようとしても手遅れだ。


 全てを諦めて自決を選んだのか、それなら何を任せたというのだ?


 狐露が疑問に陥っていると杉糸を連れて来なくてよかったと思える光景が目の前に広がっていったのだ。


 男が死んだ途端、それが引き金となり、その場にいた奴の部下が一人一人風船のように膨らんで血の水風船となって破裂していった。


「っ」


 これ以上遅れる気はなかった。狐露は瞬時に部下達の異変を見抜き、大男が死ぬと連鎖的に死ぬ術をかけられていた事を理解した。

 複雑で確実に死ねるよう、隙なく術は組まれていた。だがわらわは狐だ、大妖だ、この程度、この程度……!!


 狐露は血に染まりながらも破裂する前に助けられそうな人間の術を取り除いて来た。

 全員纏めてなど器用な真似は出来ない、一人一人、兎に角近くにいた奴を高速で助けていこうとするが間に合わない。


「ざけるな……っ!!」


 狐露は自分の口からなのか他人から貰ったのかわからないほど唇を噛み千切り血が流れる。

 八人、それしか救えなかった。

 

 肩で息をしながらも大量死に目が行きがちだったせいか異変した周囲を見て多少はこの状況に納得した。


「そういう事か」


 二階一帯に結界が貼られていた。それも血の膜で覆われた強烈な奴だった。

 狐露はやられた、と思いつつも冷静さを取り戻して判断した。


 狐露は軽く床を陥没する勢いで踏んでみたが、床は血の膜によって守れていた。

 血で髪を掻き分けてため息を吐く。


 玲の言っていた注意人物の中に結界を得意とする者がいた。奴は自分の命と二人の部下の命を利用してわらわを閉じ込めようとしたようだった。


 確かに硬い、硬いが所詮少ない命、本当に閉じ込めたければ百でも千でも無ければ数分しか持たないだろう。

 だがそこまでしてわらわを閉じ込めたいのか?

 一つしかない命を使用してまでわらわが憎いのか? 


 その時だった、狐露が防壁として張っていた狭間屋敷の術が破られたのを感じた。


「やれやれだ、そこまでわらわ達の嫌がらせがしたいのか」


 奴等は幾つもの保険をかけていたらしい。

 当然だ、策としてそれが正しいのだが、奴等はこのまま屋敷に潜入し天城を捕えにいっているようだった。


 だが保険をかけているのはこちらも同じ、政人を屋敷に置き守護人として働いてもらっているのだ。


 何度も手合わせしたわらわだからわかる、奴は人間の中では十分に強い。

 だから大丈夫だ……大丈夫……


 さっきまで冷静だった狐露の顔が暗くなっていく。


 大丈夫だと言い聞かせても杉糸がいる限りもしもの事が頭に過ってしまい、それが悪化していく。


 まさか死ぬ事なんて……


 それを一瞬でも想像してしまった結果、狐露は結界の壁に向かって全力で殴った。


 殴って殴って殴って、結界が得意なのは間違いなかったようだ。

 硬い壁を殴っているようだった。百ほど高速で殴り続けた結果ヒビが入る。

 後二千ほど殴れば……


 血の結界は簡単に割れた。


「へ?」


 わらわが殴ったわけじゃない、殴ろうとしたら壊れた。


「あーっはっは!! 思い知るのですこのドクサレ共め!!」


 それは聞き慣れた声の主がこの二階にやって来たのだ。


 狐凛は玲に背負われながら、まるで玲を馬のように扱いながらゲラゲラ笑っていた。


「もう足手纏いなんて言わせないです!!! って何この殺人現場―!? おえーっ!!」


「あー……サヨナキ君とこにクリーニング代請求してもええかな?」


 血塗れの凄惨な光景に狐凛は吐いた、玲の上で。

 

「ぜえぜえ……姉様何があったのです?」


 奴等がみんな自害した、と言っても信じてくれるだろうか。説明を躊躇っていると、


「集団自殺やね、みんな術か何かで一斉に死ぬように仕込まれた。そこで狐はんはみんなを助けようとした、ってとこやね」


「さ、流石なのですねえさ、おえっ!」


「あかん、涙出そう」


 玲は冷静にこの状況を判断し、ここは奴に任せても大丈夫だと狐露は一言だけ残して去ろうとする。


「助かった!! ここは任せるっ!」


「え、姉様どうしたのですかっ?」


 狐凛の質問に答える暇もなく、どろんと狐露の姿は青い炎と共に消えた。

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