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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
終わりと始まり
65/112

やめろー!ぶっ飛ばずぞ!


 何度か天城の横槍で脱線しかけたが十分もあれば状況の九割ほどは正確に伝えられたと思う。


 しかし伝え終えた途端、狐露は襲い掛かった男の事と閉じ込められた事を何度も問い詰めてきた。


「はぁ……奴の言った心配が的中してしまったか……少々予想は外れたが」


 一人事を答え合わせのように語り、それは何なのだと聞いた。


「そうだな、其方にも言うしかない……其方が知らぬ間に終わらせたかったが」


 渋々と重い腰を降ろすかのように話始めた。


 それは少し前に玲によってある事を伝えられたようだった。それは彼らの仲間で行方不明者が集団で生まれた事、それは皆狐露をよく思っていなかった一派、玲は狐露の身に危険が陥るのではないかとそれを話したようだった。


 そう思えば狐露が唐突に僕を鍛えたいと言い始めた事も納得がいく、いくのだが。


「話してくれてもよかったのに」


「う」


 狐露は都合が悪そうに眼を細めながら、


「其方に聞かれなかったからだ……」と言った。


「まあそれもそうか」


 杉糸自身聞かれなかったから話さない事も多い、それに狐露は僕に心配をかけたくないから個人で終わらせようとしたのだろう。


「……其方もそこは少々不満を見せてくれても良いのだぞ?」


「そういうもんかな?」


「私に聞かれても困るわ」


「そうそう、其方らにもこれは伝えておいた方がよいな」


 狐露が何かを思い出したかのように言う。


「あの探偵曰く、注意すべき人間は三人。一人は其方を閉じ込めた結界使い、二人目はあらゆる事象を再現する男、其方らに車を投げかけた者だろう。そして三人目」


     φ


 狐凛は杉糸の気配を探り、先ほどまでいたとされる公園に一人立っていた。

 不自然にベンチと一本の木が折れかけている跡があり、ここで何かがあったのは一目瞭然なようだ。


「うーん、既に姉様の元に戻ったのですか?」


 一度スマホを取り出し、杉糸のスマホに連絡をかけてみようとするのだが、人ごみの中に見慣れた人影があり暗かった表情が明るくなる。


 杉糸だ。


     φ


「三人目は偽りの皮を被り、姿形を化けるそうだ。まあわらわは過去に化けた輩に痛い目を遭わされたので大丈夫だろうが区別するすべのない其方らは致命的だろう」


      φ


 お互いの情報は開示したが、まだ天城自身の言葉は聞いていない。

 狐露もそれを知っていてか彼女に問い始めた。


「それで、何故其方は狙われている?」


「私が知りたいわ」


 いや、実際は思い当たる節があるはずだ。

 前に彼女は僕にこう告げたのだ。


 過去に人を殺した事があると。


 とはいえそれが本当に関連性あるのか、自分もそれに対して指摘できるような立場じゃない為、もどかしい気持ちのまま時間が流れる。


 すると天城は思い出したかのように口を開く。


「あら、でも貴方に隠しても仕方ないわね。前に言ったんだもの」


 そしてそれは僕に対するわざとらしさでもあった。問おうとしないから敢えて自分から言おうとしたのだろう。


「それはなんだ?」


 何も知らない狐露が不審な目で睨む。


「人殺し」


 狐露の顔が一瞬固まる。

 そして狐露の反応を楽しむかのように無情に口元を緩めて言葉を続ける。


「私が殺した人殺し」


 だが狐露は僕という存在がいるからその言葉に詰まっただけだろう。即座に敵意を示した表情のまま静かに言う。


「どうやって殺した?」


「どう?」


「ただ殺しただけでは人間の管轄、だが奴らが来るとなるとただの人殺しではないだろう」


 僕はただ黙って聞き続けていたが、次の言葉に保っていた表情が崩れそうになる。


「ただ死ねと願ったら相手は死ぬ、なーんて都合のいいものがあったら貴方はどうするかしら?」


 天城の口調は何処か抑揚がつき始め、初めて彼女の表情を見た気がする。


「わらわなら使いまくるな」


 おい。


「だがそんな都合のいい力など存在しない、物事には何か代償が__」


 狐露が説教垂れるようにぐちぐちと言い始めるかと思いきや、彼女はカッと大きく目を開き、突如として天城に襲いかかったのだ。

 それもぐわんと押し倒し、杉糸は唐突過ぎて反応が一手遅れた。


「狐露」


 流石の杉糸も黙って見てるわけもいかなく、天城の両手を畳に屈させ馬乗りになる行為をやめさせようとした。


「彼女は病人だ」


 だがこちらの言葉など一切聞き入れる様子など無く、いや聞こえていないのか?

 ただ天城の顔を睨み殺すかのように見続けていた。

 そして何か、答えが出たのか強張った顔をやめ、厄介気味に、


「貴様の方がとんだ狐だ。貴様__」


 呪われているな?


 狐露がそう告げた途端、僕の世界が歪みかけ胃液が逆流した。

 だが世界が完全に崩壊する前に、ほっぺたに強烈な痛みが走った。


「ほれ、ほれほれほれほれほれほれほれほれ!!」


 三回目の痛みで僕は狐露に往復ビンタされている事に気づき、やめてくれと言う前に二桁ほど叩かれた。


「いたい」


「生きてる証拠だ。さて手荒な真似をして悪かった、言いたい所だが貴様」


 手荒な真似は僕に対する言葉じゃなく押し倒した天城に対する言葉だった。

 狐露は横たわる天城の身を起こさせるが、尻尾がピンと張り詰めているので警戒しているようだった。


「何故その呪いを隠した? 何も答えぬのなら何か企んでいると勝手に結論させてもらう」


 天城は普段通り無表情で僕を指さした。


「さっき、彼がトリップしようとしてたら貴方が正気に戻したわね、いい彼女さん見つけたわね星月夜さん」


「そ、それほどでもあるけどなっ」


「狐露、話逸らされてる」


 それを指摘されハッとした顔をした。


「そ、そうだっ、お主は何故隠そうとした?」


 すると天城は面倒臭そうにした。


「別に隠してないわ。そもそも貴方のようにマンガみたいに気やオーラを認知できる人じゃないもの。ただ彼が無口で私がイラっとしたから見えるようになったんじゃないかしら」


 僕のせい? と杉糸は自分に指をさした。


「それはそれで其方がその力をどう使ってるのか一目瞭然な物言いだがな」


 狐露はため息を吐き、何となく天城という人間がどんな人なのかわかって来たようだった。


「そうでどうする?」


「どうって」


「杉糸、其方には言っておらん、そこの女に言った」


「そうね、どうして私が狙われるのか気になる所だけど好き勝手生きてきた私は殺されても仕方ないって思ってるわ」


 そして僕の呪いの事を知らないはずなのに、見越したかのように彼女は言い続ける。


「だって人殺しだもの」


 狐露は一瞬だけ僕の方を見た。だが僕は大丈夫と頷いて示した。


「でも友達と約束したの、友達の願いが叶う瞬間まで死ねないって」


 そう言った時だけ天城の顔は物悲しく、皮肉気に笑っていたような気がした。

 だが強い生きる意志がある事は言葉から感じ取れた。それも僕なんかよりずっと強い意思だった。


 少し羨ましかった。


「其方を狙う連中はわらわの敵になりうるが、いや敵だな。しかし其方を守る必要はわらわにはない」


 狐露は根が悪だと前に言っていた。

 だがそれは偽悪である事を杉糸は知っている。

 少なくとも今の彼女には他者に手を差し伸べる余裕はあった。


「が、其方が死んでしまえば杉糸にまで矛を向けられる可能性がある」


 それは狐露なりの天城を助けるという表しであった。


「しかしわらわは其方を信用しておらぬ」


「どうしてかしら」


 天城は僕に聞き、僕もさあと首を傾げた。


「貴方を盗られると思ってるのかしら」


「嫉妬ですね」


「違うわっ!! わらわが言いたい事は人を殺__」


 その時、卓に置かれていた杉糸のスマホが鳴った。

 狐凛からだった。


『やめろーです変態!! ぶっ飛ばすぞー!!』


 通話の先で突然狐凛の悲痛な叫びが聞こえ目を丸くする。

 そしてビデオ通話に変わり、台の上に大文字状態で縛られていう狐凛の姿が映った。


 それを見た途端、杉糸は即座にスピーカーに変えた。


「誰だ貴様は」


 先に声を出したのは狐露だった。一見冷静だが、殺意が滲み出かている。


『要件だけを告げる』

 

 男の声だった。ボイスチェンジャーも使ってないが聞き覚えの無い声だ。


『はーなーすーでーす!!』


『それは__『はーなせー!! 私をだーすのでーす!!』


 後ろの狐凛が五月蠅く何一つ聞こえてこない。


『少し黙ってろ、俺達の要件は__『あーねさーまー!!!』


 声の主も邪魔だと感じたのか、姿を現して狐凛の口を術か何かで閉じさせていた。


『―!! ―!! ―!!』


 このやり取りで流石の狐露の緊張感が抜けてしまったのか殺意も感じられなくなった。


『お前の妹は人質だ。返してほしければその場にいるいわくつきの女と交換だ』


 やはり声の主は天城を狙っているようだった。余計にわからない、彼女がターゲットなら必然的に僕も狙われるはずだが。

 玲が過去に言った強い人が絡んでるのだろうか、いまいちわからない。

 それとも彼女の力を利用したいとでも思っているのだろうか。


「貴様らの狙いはわらわではないのか? そこの女子一人に複数で攫おうとするとは、情けな。いやわらわには勝てないと知って敢えて避けるか」


 狐露は少しでも相手が情報を溢さないか試しているようだった。声色が挑発気味で、少し余裕が感じ取れた。


『貴様の妹の命は俺達が預かっていると知っての台詞か?』


 すると狐露はカチンと来たようで焦りよりも殺意と怒りが滲んだ声で、


「さすれば貴様らがどうなるかわかっておるだろう? そんな事をしてみろ、わらわが貴様ら全員殺してやる、頭蓋をもぎって、四肢を千切って、泣こうが喚こうが誰一人生かす気はない、絶対に絶対に、逃げたとしても必ず見つけ己の行為を後悔させてやる」


 この時の狐露の顔は化物染みていて、隣にいるのが天城で良かったと思う。

 この殺意は少し息をする事さえ苦しい。


「狐露」


 僕が声をかけ、こちらを見た狐露はそれだけで意図を理解したのか、軽く謝って強張った雰囲気を解いた。


「逆にすれば、わらわの妹が無事なら貴様らを痛めつけるだけで許してやるがな」


 その痛めつけるが何処までなのか、正直不安だった。


『……居場所を告げる、明日、早朝に__』


 それは翌日、ある廃工場に来いというものだった。その場で人質と天城の取引を行うとだけ告げ、連絡は消えた。

 GPSを使い、探そうかと思ったが相手もそれは理解しているらしく、調べようとしたらこっちのスマホがバグった。


「それでどうする?」


「ふーむ、奴等の言う通りに従うのは気に食わぬ」


「私は別に利用されても気にしないわ」


「はなからそのつもりだ」


「あらそう」


「その言い方だと交換するフリをして奪う感じかな?」


 すると狐露は頷くが、何処か納得のいかない様子だった。

 それを見た杉糸はどうしたのか問う。

 狐露は駒が足りないと言うのだ。

 

「なら頼ればいいんじゃないかな」


 杉糸は笑みを浮かべて彼女にそう告げた。

 狐露は一瞬、ムッとした顔をした。彼女自身その選択は最初から存在したのだろう。

 だがプライドがあるのだろうか、それとも頼める相手が本人の苦手とする人物なせいだろうか。


「そうだな、其方の言う通りだ」


 狐露はフッと笑い、杉糸のスマホを借りたいと言い僕は差し出した。。

 そして自分から連絡を取り始めた。


「あー……そのあれだ、貴様に依頼を頼みたいのだが……貸し? まあそれでよいが、何がおかしいっ!」


 彼女の怒り具合から恐らく玲に電話しているのだろう。

 杉糸は自分から他人に連絡を取ろうとして助けを求める狐露の姿を見て、少しだけ嬉しくなった。 

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