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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
終わりと始まり
64/112

ふーだにっと、はうだにっと、ほわいだにっと


 車が……ない?


「車来ましたよね?」


「ええ、来たわね」


 それを聞いた途端、杉糸は瞬時に逃げる結論を出した。

 これは非現実が絡んでいる。少なくとも僕だけではどうしようもない、出来る事なら彼女を抱えて逃げる事だ。


「出来るだけ負担にならないように走ります」


 そう一方的に言い残し、杉糸は走り出す。

 そして公園の出口に出ようとしたのだが、


 ガン!!


 顔に衝撃が走る。


     φ


「あ、また怪我をしたな」


 めきめきと顔部分が痛む藁人形を見て、狐露は冷静に言った。


     φ


「いたたた……あれ? 痛くない」


 あ、そうか、狐露の藁人形の効果がまだ続いているのか。

 いやそんな事よりも目の前だ。

 

 杉糸はゴンゴンと頭で軽く叩いてみた。すると外のはずなのに目の前には見えない壁が存在していたのだ。


「閉じ込められたのか……?」


「他の出口はどうなのかしら」


 それもそうだと杉糸は身を翻して前を見た。


 コートを着た刑事のようなスーツの男がいた。


 だがその男は自分達のように閉じ込められた被害者ではなく、こちらを閉じ込めた側な人間なのは一目でわかった。


 異様に落ち着いて、こちらを品定めするかのような目で見ているからだ。


     φ


 狐露は傷ついた藁人形を見て少し心配が芽生え始めた。

 そして嫌な考えが頭に浮かぶ。

 

 何かに巻き込まれた。それもわらわ関係の悪事にだ。


 心配しすぎなのも過保護かも知れぬが、念には念をだ。


「狐凛や、すまぬが杉糸を探してきてくれぬかや? わらわが行きたい所だが杉糸が余計なものを連れてきた時の対処を考えたい」


「ラジャーです姉様」


 前なら杉糸を探せなど二つ返事で嫌がるはずの狐凛だが、今や特に気にせず動いてくれる辺り少し落ち着く。


 さてと、わらわもある程度は準備をしておくべきか。

 あの転移は杉糸の触れていたものまで対象として移動する。変なものを連れてこなければよいが……


     φ


 圏外、これでは連絡手段も無理らしいと天城のスマホを見た。

 これは完全に術の範疇に入り込んでしまっている。


 狐露関連か、それとも僕か、それとも。

 しかし天城の場合だと情報が足りなさすぎる。


 杉糸は目の前の中年男性を見た。

 皺の多い砕けた格好にぽりぽり頭を掻きながら笑う。中年と言ってもあくまで中年の入り口に立った程度でまだまだ若々しさは感じさせられた。


「あーすまんがその背負ってる子を差し出してくれないか?」


 こちらから話しかけようとしたら先手を取られた。

 そして狐の話ではなく背中の彼女関連の問題なようだ。


「何故ですか?」


「ん、そうなるよな。でも君には用はない、だから何も聞かず渡してくれたら命だけは助けるから」


「モテ期かしら」


 自分の身の危険に晒されてるというのに天城は冷静だった。


死期の間違いでは?


「あら酷い、私が病気だからって死期だなんて」


「口に出てました?」


「顔に」


「貴方僕の後頭部しか見えませんよね」


 しかし本当にどうするべきか。

 恐らく自分の命は保証されている。だが背後の女性は一切わからない。

 狐凛の場合は姿形も消えていた。それはわかるのだが、背負っている天城まで消失の対象になってくれるのか。


 そんな事を考えていると相手はなんと拳銃を取り出していたのだ。


「銃刀法違反……!」


「あら本物」


「妙に緊張感の抜ける反応だねえ、今の若者は肝が据わってんのか命に無頓着なのか」


 中年男も真剣味を帯びない顔でやれやれと言った形でこちらに向けた。

 遠くから見て取れてわかる重み、恐らく本物だろう、自分も何度も持った事があるので玩具とリアルの違いはわかる。


「いまだに私を降ろそうとしない辺り守ってくれるのかしら? でも貴方じゃ死ぬから別にいいわ。見捨てて頂戴」


 今の光景、自分の感性、加えて彼女の呑気さがより現実味を抜けさせていく。

 なんというかずっと口元が苦笑いしてしまう。


「ここで見捨てたら目覚めが悪いんですよ」


「確かに」


 彼女は僕の答えに対し共感したような素振りを見せるが、


「私が貴方なら相手の骨くらいは拾ってるかしら」


 あんまりわかってなさそうな返しだった。

 その言い方では結局死んでいる。


「あーわかったわかった。君達じゃ埒が明かない」


 中年男性は両手を上げてフランクな素振りを見せるが、ガチャリと撃鉄を降ろす音が聞こえ、


「五秒やるからその間に降ろしてくれ、なっ、これ以上はやれない」


 ニヒルに笑った彼は銃を改めて向け、口を閉じて開いた。


 始まったカウントダウン、既にまともな思考を与える時間などくれない。


 三、


 一か八かの賭けをするしかない。

 杉糸はその場から動かず、天城の全身が隠れるように身を張った。


 これ以上時間をやっても無駄と相手が判断したのか二で放たれた。


 そして放たれた弾丸の音、反射的に避けないよう敢えて目を瞑り予想通り物事がうまく行ってくれる事を祈り__


「ぎゃいん!!!」


 思考が完結する前に聞き慣れた声を聞いて目を開く。


 周囲は狭間の屋敷内、僕の身は助かった。だが彼女の方は、

 杉糸は背後を振り向き、この状況にも驚かず平然としていた天城の姿を見て安堵する。


「ここはあの世かしら」


「よかった」


「何がいいのかしらね」


「後で説明しますよ」


 緊張が抜けたかのように体がぐったりし、うーんと体を伸ばす。


 柔らかい座布団に座りながら、柔らかい座布団に、柔らかい毛皮の座布__


 杉糸は下を見て口を半開きにしてしまった。


 これは座布団ではない、狐露の尻尾。


 うつぶせになりながらも上半身をねじってこちらを向いてた狐露はぷるぷる目元に涙を浮かべながら強く睨んでいた。


「お」


「お?」


「重いわー!!!!」


 ぐわっと狐露は爆発するかのように身を起こして僕達は軽く吹き飛ばされた。

 おっとっとと天城の体を庇いながらも、体勢を整えて、その姿を狐露に見られた。


「其方が心配で待っていたというのになんじゃそ奴は」


 完全に誤解される雰囲気だ。一から説明すれば彼女も納得してくれるのだが聞く耳を持っていてくれるか。

 そこまでいくのが凄い面倒だな、なんて言葉を探っていると天城が先に口を開いてしまった。


「私はただの彼と赤い指で繋がってる一般人よ」


「ひょえ?」


 杉糸は絶対この人、この状況を楽しんでないか? と言いたいくらい勘違いを生む言葉を放ち狐露は一瞬だけ意識を失った。


 だが畳に転げる前に意識を取り戻して体を起こす。

 

「ほ、ほー、そ、そうか」


 狐露は平然を装っているが背後の尻尾が喜怒哀楽して暴れているので彼女の心情は凄いものになってるのだろう。


 しかしこの本物のように動く、実際本物なのだがこの光景を見ても天城は平然としている。もしや狙われるだけあって妖の類も知っているのか。


 狐露は徐々に感情が零れていってしまったのか、泣きそうな眼でこちらを睨んだ。


「う、浮気か貴様っ」


「今はその事はどうでもいいんだけど」


「ど、どうでも……?」


 とうとう滝のように泣きだしてしまった。


「うわーん!! わらわの事などもうどうでもよいのだ!! わらわなどただの都合のいい肉壺でしか見られてないのじゃああああ!!」


 ここが外じゃなくてよかった。


「今のは私でも酷いと思うわ」


 事の発端である天城に駄目だしされてしまった。しかし今はほんとにそれどころじゃないのでアレコレやって説得させてもらう。


 接近して話を聞いてもらおうとする。


 吹き飛ばされた。


 土下座しながら近付いた。


 浮気を認めたと吹き飛ばされた。


 好き好き愛してると口出し続けた。


 普段言い過ぎて重みがなかった。


 なんというか酷すぎたので「話を聞いてくれなかったここで自分の首を掻っ切る」と脅す形でやっと何とか話を聞いてもらう事になった。

 しかしやはりこの言い方は不味かったのか、これはこれで一悶着あった。


「ふむ、そこの女子が狙われたとな……」


 狐露は頬杖をつき、老獪な雰囲気を漂わせて天城を品定めするかのように見回したが、色々と手遅れだと思う。


「だがもう一度問わせてもらう、杉糸」


「うん」


 狐露はさっきから何度も強調するかのように同じ事を聞いてくるのだ。


「本当に狙われたのは其方ではないのか?」


「うん、天城さんを渡せば僕の命は保証してくれるって言ってた」


 狐露から分かり易い警戒の意思が天城に向けられた。


「不思議ではあるな、そこの何も感じぬ女子を陰陽師が狙うとはなぁ」


 そして狐露は何を怪しんでるのか、言葉を補強した。


「いや不自然なほど何も感じぬからこそ……か? そこの者は綺麗好きなようだ。人が本来持つ色まで隠そうとしている」


「君の言う事は象徴的__」


 いや待て、何故彼女を狙っているのが陰陽師、要は祓い士だと知っている?

 何か狐露も僕の知らない何かを知っていたりするのだろうか。


 それを問おうとするのだが、当の本人である天城は狐露の尻尾を触っていた。

 あまりにも自然に触っていたので狐露も撫でられた回数が二桁超えた辺りでやっと気づいた。


「さ、触るなっ」


「本物、彼女は所謂化け狐なのかしら」


 やっと狐露の姿を聞き出した天城に、単にこの人はこういう人なのだと改めて納得させられた。


「おおむねそんな所です」


「おいっ」


 自分の説明を簡素どころか適当にも捉えられる言い方したせいか彼女は突っかかりそうな雰囲気を出した。


「狐の嫁入りね」


「よ、嫁っ!?」


 嫁と言われた瞬間、顔を赤らめて天城に向かって照れながらも、


「そ、其方は中々見る目があるではないかっ、幾らでもわらわの尾を触ってもよいぞ?」


 こんな風に簡単に懐柔されてしまった。

 

「おー、そこじゃそこの三番目の尾が最近こっててなー」


 猫の腹を撫でるかのように後ろを向いた狐露の尾を撫で続ける姿を見て順応力の高い人だなと思った。


「この状況で気になったり驚いたりしないんですね」


「これでも大分驚いてるわ」


 そうは見えない。


「目を見てもそんなに動揺してないように見えますよ」


「人は適応力に優れた生物って言うじゃない。無人島に遭難しても一年生きてられる人はそこの生活が平常になるわ」


「確かに」


「おい」


 天城の物言いに相槌を打つ杉糸だったが、狐露にそんな人間が沢山いてたまるかと突っ込まれた。


 そういう意味でも僕と彼女は大分似た者同士なのかもしれない。僕自身彼女の事を無茶苦茶だと思う事はあるが、


「私も貴方の事たまに気狂いみたいな人って思ってるわ」


 また読まれたかのように言い返された。

 もしや心を読める能力者だったりするのだろうか。


「僕の心読んでません?」


「私はそこのお狐さんでもお稲荷様でもないから人の心は読めないわよ、ただ貴方ならそう考えてるんじゃないかって思っただけ」


「似た者同士だから通じ敢えてりするんですかねぇ、僕は貴方の考えはわかりませんが」


「似てないわ」


 キッパリと否定されたが、まあ似ている云々は言葉のあやに近い。実際何となく似てるかも程度で出た言葉だ。


 しかしこの最近出会ったはずなのに往来の友人かのように言い合うやり取りを見て、狐露が不満に思ったのか、


「こんこん!」


 自分の狐要素を強調するかのようにわざとらしくせき込んだ。


「やれやれ、まだ其方らは謎の男に襲われた旨しか聞いておらぬ、どんな奴がどんな風に其方らを襲ったのか、理由も含めて全部纏めて教えよ」


「テスト問題みたいな聞き方だね」


「違うふーだにっと、はうだにっと、ほわいだにっとという奴だ!」

 

 狐露は単に趣味のサスペンスかぶれを披露したかっただけだと自信満々に語った。


 ただ実際狐露の言う事は正論だ。敢えて天城がこの狭間の説明を後回しにしてもいい人な分自分の知ってる限りの事を教えよう。

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