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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
終わりと始まり
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不穏


 杉糸のスマホが鳴った。


「すーぎーとー」


 狐露は軽く杉糸の声をかけるのだが一向に返事が来る予感はしない。

 それもそうだ、杉糸は現在別の部屋で死人のように眠っている。


 遊園地から帰った後、速攻杉糸は意識を失うように床につき、流石に悪い事をしたかと思いつつも冗談とはいえ洒落にならない冗談を言った向こうが悪いのだと罪悪感は無に帰った。


 とはいえ疲れ果て眠っている者を起こさない良心はある。

 あれこれ考えていると着信が消えた。


「まあよいか」


 また着信音が鳴り、尻尾がびくりと毛際だった。


「なんだなんだ? あ奴に電話をかけてくる相手など」


 一人しかいない。


 すると玲の名前があり、奴から来た着信だったようだ。

 このまま無視するのが一番なのだが、奴が向こうから要件を伝えに来るときはいつも何か重要な話だったりする。


 仕方なしに電話に出た。


「もしもし、現在杉糸は眠っておる」


「あーそうなの」


「奴への用ならわらわが代わりに伝えるが?」


「いやキミでええ、うん、丁度君に変わってもらう予定やった」


 玲の物言いが何処か違和感がある。元からわらわに伝えようとした要件だろうか。


「せやね、でもこの話はキミにとってあんまええ話ちゃうからまず自分の面白百物語でも聞いてもらって__」


「さっさと話せ、切るぞ」


「キミを殺そうとする連中がおるんや、終わり」


「待て、それでは話の筋が見えない」


 狐凛は眉間に血管を浮かせながらも杉糸のスマホを握り潰しかける衝動を抑えた。


「ここからはちゃんと順を追って説明するわ」


 すると玲の声色も少し短絡的に聞こえつつも真面目さを帯び始めた。


「また自分らの身内の中から失踪者が出た」


「それが何故わらわの命と関わる?」


「多分その人らキミを殺す為にわざわざ今の地位を失って裏切り者の刻印押されてでもやる気っぽいん」


「根拠は?」


「消息不明の連中みんな頭でっかちなわからずやばっか、つい最近までキミを討伐、もしくは封印しろと口うるさく叫んでた一派、そんな奴らが一声に失踪」


 確かに理屈としてそういう発想になるのも納得ものだ、だが信用するには全てが足りない。


「何者かに始末された節とかは無いのか、貴様ら連中ならわらわに始末されたと考えるのではないか?」


「正直身内の考えはどうでもええよ、大事なのはその消えた不届きものが何を企んでるかや。キミら、悪い事しよ思ってもできひんやろサヨナキ君おる限り」


 それはこちらを信頼してくれているという事か、何だかんだ味方でいてくれる人間がいて少しだけ口元を緩めかけた。

 そして同時に舐められているのでは? と冷静になって眉を顰めた。


「そうサヨナキ君がおる限り」


 だが玲の物言いに気が付き、目も細める。


「それはまた杉糸が狙われる可能性があるという事か? ふざけるな」


「ごめんなぁ、自分らも今出来る限りの事はやってるから堪忍して」


「言い訳か」


「うん言い訳、でも」


 玲の口調がまたおふざけな声に戻る。


「そいつらはもう自分らの管轄から離れたただの罪人や、もしキミらを襲うんやったらキミが煮ろうが焼こうが誰も咎めないやろなぁ」


 一瞬真か、と喜びかけたがすぐに矛盾に気づく。


「それは違うな、そ奴らを殺してしまえばそれこそわらわの罪が虚言から真に変わる。それこそ最悪な結果にならないかや」


「そうやね、でもそれは絶対にありえへんよ。だって最近、前言った将棋の盤面ひっくり返してプレイヤー殴るようなルール無用のバケモンがまた君らを弁護してん。キミらを傷つけたらみんな殺すって」


 呆れた風に狐露は言う。


「またそのあやふやな存在の話か」


 前に一度かき氷を食べながら話した都合のいい神、だが一体何者だ? わらわ達に関係する人物なのか? あまりにもこちらにとって都合が良すぎる。


「その者と一度会ってみたいな……」


 あくまで警戒、そして玲の言葉を鵜呑みにしない疑心を抱きながらも一先ず状況は理解した。

 少なくとも行方不明者の件は本当だろう、その後の話は信憑性に欠けるが。


「っとまあ、自分らでカタつけれんやったらつけれるよう手は回しておくわ」


「そうか、一応感謝する、とだけ言っておく」


「狐はんがお礼言ってくれるとか嬉しいわぁ、お礼のお礼に一つ助言しておくわ」


 揶揄うような口調だったため、お礼なんて言うんじゃなかったと軽く後悔した。


「ホントに今の日常守りたかったら殺すの躊躇ったらあかんよ?」


「物騒な助言であるな、だがそれは最初から理解しておるよ」


「でも日常壊れてから殺すのは勘弁してや、それやとキミはカタギまで殺しかねんから」


「……切るぞ」


 玲の言う日常の崩壊は杉糸が殺されてしまった事を指すのだろう。

 だから殺すのなら理性が残っている内に、理性まで壊れてしまえば自分はただの化物でしかないのは安易に想像つく。

 

 会話は終わり、何事もなかったかのようにスマホを卓に置いた。


「ふーむ……」


 腕を組んで瞳を閉じて尻尾を揺らす。


 あくまで玲の推測でしかない先ほどの会話、だが万が一の事を考えて備えておくのはありだ。

 備えあれば嬉しいねと言う……こんな意味だったか?


 まあどちらでもよい、そろそろ杉糸を本格的に鍛え上げる時期が来てしまったようだ。


 さっきまでの気難しい顔とは打って変わり狐露はきらりんと目を光らせた。

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