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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
ショタと雪女と生真面目君
57/112

幕間 1日500円生活

 それはいつもの狭間屋敷の日常、狐は無邪気に青年にちょっかいをかけ、青年はそれに構ってあげる。そんな変わらない日々。


 狐はいつものように青年に小遣いを強請っていたのだが、


「すぎとー、わらわ外出るから小遣いをくれや」


 基本というか全体的にお金の管理は杉糸がやっていた。

 枯れぬ井戸のように溢れ続ける金は自分が殺した家族の保険金や遺産が殆どを締め括るが、なりふり構ってられなかった頃とは違い解呪の諦めた今は自分の為には使わない事にしている。


 自分の分は一応、海外でとあるバイトで稼いだ金があるのだ。

 そのバイトは多分法に触れてはなかったと思う。多分。


「いいよ、はい」


 杉糸は財布からお金を出し、狐の掌にポンと置いた。


「おー感謝するすぎ、ん……ん!?」


 狐露は掌に置かれたお金を見て目を大きくした。


「其方、これは何かの冗談かや?」


 狐露は半笑い顔で硬貨を持ち上げた。

 その硬貨は五百円と書かれている。


 しかし杉糸は首を横に振って否定した。


「ううん、今日のお小遣い」


「こっ、これでは安いランチ一食で終わってしまう! 横暴だ!」


「横暴?」


 杉糸は横暴と吠える狐露に反応し、シャキンと何処から取り出したかわからないメガネをつける。

 そして電卓も取り出し、高速で入力していった。


「君が先月ねだったゲーム代、競馬代、パチンコ、それどころか宝くじにまで手を染めて」


「ぎくっぎくっぎくっ!」


「それらを全て計算すると」


 杉糸は電卓で導き出された結果をドンと叩きつけるように狐露に見せつけた。


「はい、先月の君の使った金額」


「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……」


 狐露は位を数えていき、顔が青白くなっていく。


「わ、わらわ先月こんなに使ったのか!?」


 こくり。


「という事ではい、今日のお駄賃」


「も、もう一声!」


 狐露は涙目で僕に縋りつき始めるが、無視。


「5000……千円で良い!」


 完全無視。


「杉糸ぉっ頼むっ!」


 杉糸は狐露に冷ややかな目だけ向け、ただずっと笑い続けただけであった。


     φ


「はぁ……残り四百円」


 狐は黒の丈の長いパーカーと黒革のハーフパンツを履き、足は黒のロングブーツという数ヶ月前まで和の服しか知らなかった者とは思えない洋に慣れた格好をしていた。


 そして安い100円のアイスを舐めながら歩き、彼女とすれ違う者は「何故こんな季節に足を出してアイス食べてるんだろう」「寒くないんだろうか」とした疑問を向けていた。


 寒さに関しては人外なので人と生態が違う。以上。

 それに今時の若い女子も何人か同じように足を出しているから気にしても仕様がないだろう。


「むぐむぐ、残ったはした金でどうするべきか……」


 アイスのコーンまで食べ終え、じゃりと手元に掴んだ四つの銀貨を見つめ歩きながら考える。


 今狐露の歩いている周辺は駅前の商業施設がざらっと並んだ歩道、そして偶然真横に喧騒のようなじゃらじゃらした音が流れ、びくっと頭の耳を生やしてしまう。


「こ、この音はっ!」


 パチンコ店の入り口が偶然開いたようだ。

 頭の耳を押さえながらも店の奥の喧騒をじーっと眺めていた。


「何玉打てるかの……まあ力を使えば容易く利益を得られるが……」


 それは競馬に関しても同じだった。ただ遊びというのは結果がわからないからこそ楽しいのであって、最初から結果を知って遊ぶのはつまらぬとしか言いようがない。


 今までの損失をひっくり返し、杉糸に渡す事はやろうと思えば可能、しかし、しかしだ。

 遊戯で金を返しても杉糸は喜ばないだろう、それどころかいらないとまで言う未来が見える。


「流石のわらわも反省すべきか……」


 パチンコ店を無視した後、近くのショッピングセンターで狐露の観たい映画をやってる事に気づく。

 だが四百円、これで映画など夢のまた夢。

 まあ映画は杉糸と共に見て、共に感想を語り合いたいので一人では見ぬが、本当に出来ることが少ない。


 安く遊べる場所、場所……


「ゲームせんたぁでメダルを漁る……」


 しかしその発想がどれだけ愚かか理解して首をブンブンと横に振る。


「わらわ何処まで堕ちればいい……」


 今日何度目かわからぬため息、駄目だ、頭を働かせるにはもう少し糖分が欲しい。

 しかしこれ以上お金を使うというのも……四百円では満足の行く甘味を味わえるかも怪しい。

 この辺りに安くて質量に優れた店などあるわけ……


「む?」


 狐露は一つある発想が生まれた。


 それは駄菓子屋、客として出向いた事は無いが杉糸の話によると安いお菓子が沢山あり、はした金の童子達の頼れる味方と聞く。


 これを機に行ってみるのはどうだろうか。


 だが発想してすぐに壁にぶち当たる。


 駄菓子屋は何処にあるのだろうか。杉糸がいればスマホで位置を把握し向かう事が可能なのだが狐露は持ち合わせてなどいない。


「いや……一つだけ知っておる……しかし……あの店は嫌じゃ……絶対に行きとうない」


 それは那古というからくり人形の経営する駄菓子屋だが、狐露は死ぬほど苦手意識を持っている。

 それも当然、杉糸の心を惑わせこちらを毛嫌いしているのだ。


 あくまで苦手で嫌いまでとはいかぬが、いけすかないのは確かだ。


「それにこの姿で行けば呪符でも撒かれそうだ」


 妖の気配を隠せば何とかなるが、向こうがこちらの顔を認知しているかまでは知らない。

 いや待て、なら全体的に変えてしまえば良いのではないか?

 自分の身で試すのは初めてだが、やってみるのもありかもしれぬ。

 

 狐露の口元が裂けるようににやけ、ふっふっふっと笑った。


      φ


「たのもー!」


 ぴしゃりと横開きの戸を勢いよく開いたのは全身黒づくしの衣服を着た小さな少女。

 その少女はその駄菓子屋を埃臭いな、とあからさまに批判しながらずかずか図々しく入り込んだ。


「いらっしゃい」


 駄菓子屋の奥の居間から無愛想な老婆の格好をした若々しい女がこちらを人睨みした。

 那古だ。

 わらわよりは劣るが常人より遥か長く生きた人形。親を妖に殺された故か妖を毛嫌いしている。

 そしてその要因のせいでこの世の全てを憎んでそうなほど性格が捻くれているのだ。

 

「な、なんだ」


 那古はこちらをじっと見続けた。


 もしや正体に気づかれたのか、少女の姿をした狐はぎくりと身をこわばらせた。


「別に、アンタ見かけない顔だねと思っただけだよ」


 そう言い那古は視線を逸らして新聞を見始めた。

 どうやら違ったようだった。この人形は誰に対してもこんな顔をする性格なのだと思い出した。


「は、初めて来るから当然だろうっ」


 小さい故か少し気負けしながらも強く言い返し、狐露はふんっと身を翻した。

 今の狐の姿は年はとおあまりひとつ程、もし杉糸がこの姿に劣情を抱いたら少し業が深いと思うくらいには幼いと思ってる。


 とはいえ流石わらわ、幼くても胸は大きく尻も発達している。

 自分の胸を触りながら誇らしげに鼻を鳴らした。


 そんな事考えながら、狐露は改めて駄菓子屋の中を見た。

 薄汚れた内装、外から見ても中から見ても軽い地震が起きてしまえばお終いという感想が湧いてしまうほど脆そうだ。


 しかし思った以上に品揃えが良い、ただ子供が菓子を食うだけでなく最近流行りの玩具がちらほら揃えられてたりする。

 

 じろじろ品定めするかのように眺めていると狐露の小姑触覚が反応した。


「おい、この商品、賞味期限が切れておるではないか?」


 小さいポテチを手に取り、まるで水を得た魚のように嬉々して嫌味を並べ始めた。


「この店は腐った品物を客にお出しするのか? まあ掃除の手入れさえされてぬこの店らしい__」


「ああ、じゃあおチビちゃんにあげるよ」



 那古は面倒臭そうに言ったが狐にとってはかなりの嬉しい誤算であった。


「まことかっ!」


 嫌味状態から一転変わって狐露は輝かしい笑顔を向けて、得した気持ちで半年前のポテチを胸に抱えた。 

 るんるんした気持ちで商品を見ようとした瞬間ハッとなる。


「わらわがおちびだと……? 間違ってはおらぬが……腹の立つ物言いだなっ」


 懐柔されては駄目だ、わらわ嫌がらせとしてこの店に来たというのに……

 思い出したかのように狐露は嫌味を再開する。


「商品名にカツと名づけながらも材料は魚ではないかっ!」


「だったら一度食べてみな」


「美味い! これが魚肉なのか!?」


 そして何度も嫌味を続けていくのだが……


「ふん、当たり付きの駄菓子か、こんなもの当たりが入っているわけが無かろう」


 金を払いべりっとめくる。


「当たった! 当たったぞ!!」


「50円分勝手に取りな」


「まことかっ!?」


 いつのまにか嫌味など忘れ、子供のように狐は楽しみ始めていた。


 店の奥の居間で買ったお菓子をざらりと並べ、むぐむぐと初めて食べるお菓子を片っ端から食べ続ける。

 まだ150円も余っているのに既に満足のいく数の菓子の量、良い店を見つけたな。


 狐露は粉を水に溶かすジュースを飲み、ふがしやらあんず棒やら甘いものしょっぱいもの塩辛いものを楽しみ続けた。


 次に貰ったポテチを開けた同時期にぴしゃりと勢いよく戸が開く。


「那古婆お邪魔しますー!」


「お邪魔しまーす!」とどかどか沢山の足音が聞こえ、今のわらわと容姿が然程変わらない童子達は居間に入り込んで行った。


「入るんだったらなんか買いな坊や共」


「後で買うから後で」


「はいはい」


 那古は諦めたように意味のない近眼眼鏡をかけて新聞を読み始めた。

 だが狐露は突如やってきた子供達に不快感を多少なりは持っていた。


「む」


 先程まで自分の世界に入り込み、駄菓子を楽しんでたというのに急に内輪専用の雰囲気となり少し居づらくなった。


 子供は騒がしい、さて、残りのお菓子を食べたらさっさと退散するか。


 狐露は笑顔から一転し苦い顔のままポテチを食べ始めて数分、何やら居間のテレビを繋げてゲームをやっていた。

 ほう、わらわも杉糸と共にやった事のある対戦ゲームだ。


 狐露はそれをお菓子の肴として鑑賞し始めたのだが、何やら四人の子供のうち三人が一人を執拗に攻撃してるようであった。

 そして案の定、複数に攻撃された一人は一番最初に負けた。


 負けた子供はそれに対し不満を持った顔をしていたが、何やら気弱なようでそれを言い出せず、笑みを作って「次は負けない」と言った。


 そして二戦目、さっきと殆ど同じだった。


 どうやらあの子供が強く言い返す性格じゃない故に、狙われやすいようだった。


「うむ……少々気に入らないな」


 狐露はぱりっとポテチを食べ、手の油をお手拭きでぬぐう。


「おい、そこの小僧共」


 二戦目が終わった瞬間、狐露は子供達に近づき最初に負けた子供のコントローラーを奪う。


「次はわらわが相手だ、なぁに、最初から三体一の設定で良いぞ? わらわが少し叩きのめしてやる」


 子供達は強引な狐露の登場に軽く驚いていた。しかし挑発的な口調に挑戦状を渡されたのだと察し「良いよ」とだけ言い残して対戦を始めた。


 それはもう一方的だった。

 狐露は力など一切使ってない、使ってるのは今の純粋な技術。


 狐は最弱候補キャラで挑み、子供達は強キャラで挑む、どう見ても不利なのは狐露だ。

 だが狐露が蹂躙にも等しい対戦を行っていた。


「あーはっはっはっ! わらわが不眠不休で鍛え上げたぷれいすきるをとくぞみよ!」


 眠る必要のない妖なおかげか、一時期ずっとゲームをやっていた。

 杉糸の人肌が恋しくなった頃にはやめていたが簡単に積み重なった経験は消えない、特に自分のような人の理から外れた存在は特に。


「くそ!」


「連携で攻めるぞ!」


「田中の方行ったぞ!」


「甘い甘い! そんな連携ではわらわに勝てぬ勝てぬ!」


 大人気ない話にも見えるが、姿が子供故に幾分かましだった。


 そして狐露の大勝利。


「もう一回だ!」と子供は叫び、狐露は余裕そうな笑みを浮かべて「いいぞいいぞ?」と答えた。


 だがもう一戦始める前に狐露はさっきの複数に狙われていた子供に声をかける。

 

「次は其方も来い」


 子供はこくりと頷き、別のコントローラーを持とうとするがその前に耳元で軽く狐は囁いた。


「後でわらわが複数から狙われても負けない方法を教えてやる」と他には聴こえないように言った。


「よっしゃ、四体一なら負けねえぞ」


「ふん、幾ら集まろうが結果は変わらぬがな! 来い!」


 そしてまた狐露の圧勝。


「わーはっはっはっ!!」


「五月蝿いねアンタ達……」


 すると那古がこちらり軽く睨んで、みんなが軽くギョッとする。

 

「これでも食べて黙ってな」と那古は机にたこ焼きを用意して、子供達は笑みを浮かべて那古に感謝を告げていた。


 だが那古はむすっと一睨みするだけで別に表情の変化は無かった。

 狐露はその様子をどこか引っかかった。


 そのあと、二時間ほど楽しみ仲良くなった子供達と別れた。


「じゃあね那古婆! また来るね! ころんもまた!」


 狐露は適当にころんと名乗り子供達はそう呼んでいた。きらきらねえむの浸透した故か、誰も気にする様子が無かった。

 ちなみに子供達の名は銀ノ一、主水、紅の始、田中(下の名前)という。


 あだ名と疑ったが本名らしい。


 狐露は静かになった居間に一人ぽつんと残ったお菓子を食べた。

 さっきまでは鬱陶しいと思っていたがいざ居なくなると、


「これはこれで寂しいな」


「アンタは帰らなくていいのかい?」


 すると近くでテレビを見ていた那古が声をかけた。


「彼奴等と違い門限は遅いのでな」


「そうかい」


 狐露はふと居間に飾られていた仏壇の遺影を見た。

 古い写真で、初老の男性が写っていた。


 あれがからくりの親か。


 狐露が一人納得していると、


「そろそろ狸寝入りはやめたらどうだい? 化かし狐」と唐突に正体を告げられたのだった。


「ごほっごほっ!」


 狐露は急に正体をばらされ、お菓子が喉に詰まった。

 慌ててジュースで流し込み、何事もなかった平然とした顔で、


「ばれておったか」


 狐露は隠しても仕方ないと狐耳と尻尾を生やした。姿は子供のままだが。


「何がバレておったか、だい。幾ら匂いを隠してもアタシにゃわかんだよ。それで」


 那古は心底うんざりしたように言葉を続けた。


「何の用だい? 年寄りを殺しに来たのかい? そうじゃなければ失せな、アタシは妖が大の嫌いなんだよ」


 また少し引っかかった。


「その物言いでは殺してほしいようであるな、だが死にたがる知人は一人で十分だ」


 狐露は揶揄うように言葉を返すが、杉糸の事を思うと内心複雑な気持ちであった。


「しかしまあ其方を手にかけても、祓いの連中にわらわは殺生の対象になるのか、そうじゃないのか少々気になりはするがな」


「さあね、アタシの薬のお得意様達はキレるんじゃない?」


「かもしれぬな、まあ安心しろ、わらわはただ遊びに来ただけだ。其方には杉糸を可愛がってもらった怨みがあるが、それはそれ、これはこれという奴だ」


「そうかいじゃあ二度とウチの敷居を跨ぐんじゃないよクソ野郎、今でも目をくり抜いて殺してやりたいくらいだクソ野郎」


「2回も言う必要はないだろう」


 さっさと帰れと目で伝えられ、言われなくともすぐ帰る。が、一つだけ気残りがあるのだ。那古には怨みがあるが妹の薬を貰った恩もある、それくらいは解消したい。


「何故其方はそこまで妖を恨む」


 その瞬間、那古の地雷を踏んでしまったと言ってから気づき、相手の言葉が投げかかる前にこちらが口を動かし続けた。


「いやその理由は聞いておる、だからこの言い方は正しくないな」


 狐露は顎に手を添えて、言葉を上手く組み合わせようと思索する。


「わらわも恋人を殺されてたら其方のようになる、いや殺した一族諸共惨殺してるだろうな、其方のようにくり抜いた目を焼いて食ってるかもしれん」


 那古は睨みからだんだんと呆れたような目つきになった。


「自分で喋って自分で納得して、アンタ一体何が言いたいんだい」


「恨むのをやめろとは言わぬ、中には良い奴もいる言い訳もせん、そうだな……わらわの言いたい事は……今纏まった」


 狐露は口に出し、言葉を並べていく事で那古に対して感じていた感情が鮮明になっていく。


「あの童子達は其方を慕っておる、その者達の愛を受け入れてみるのも悪くはないぞ」


 狐はケラケラと笑い出した。


「ああ? 愛?」


「ああ、あくまで家族愛のようなものだがな、あの者達の其方に向ける感情は信頼できる大人といった所か、それとも姉か親か」


 狐露は悪魔のように口元を緩め続け、ぐちぐちと楽しみながら言い続けた。


「其方もあの者達が好きなのは始めて出会ったわらわでも分かる。だからせめてその者達の前だけでも正直になってみるのも悪くはないぞ、こんな風に」


 狐露は両手で自分の口を吊り上げて笑みを作り出した。


 とまあ、伝えたい事は全部伝えれた。

 これ以上は下手をすれば塩を撒かれかねん、すぐさま退散するのが正解だろう。


「さて、わらわはそろそろ帰ろうか」


 那古はさっきのようにむすっとはしていたが、何か言いたげで言葉が上手く見つからない様子であった。

 だが去り際に一言残された。


「アタシはお節介なやつは嫌いだよ」


「お節介ではない、ただ其方に似た身内がいただけだ。だがその身内は前に進めるようになった」


 そう言って狐露は出入り口の戸を閉めた。


     φ


「~♪ ~♪」


 狐露は鼻歌を歌いながら狭間空間の鳥居を潜り、拠点である屋敷に帰る。

 そして門扉を開けるのは面倒なので飛んで乗り越え庭に着地する。


「おっと、そろそろ元の姿に戻らねばな」


 狐露の周りに青い炎が姿を覆い隠し、火が消える頃には既にいつもの着物姿となった大人の狐の亜人がそこにはいた。


「ただいま帰ったぞっ」


 勢いよく屋敷に続く扉を開け、すると玄関には絵を描く途中で眠っていた杉糸がいた。

 玄関前に座って、項垂れるようにぐーぐーだ。 

 どの絵を描いてるのだろうか、上から覗き込もうとすると奴は目を覚まし反射的に絵を隠してしまっていた。


「あれ? 狐露……帰ってたの?」


「ああ今帰った、しかし其方、そこで眠るとはもしやわらわの事心配していたのかや?」


「うん、もしかして迷子になったんじゃないかなって」


 その心配は保護者の心配ではないかと少し腹だった。

 まあよい、今日はそれより伝えたい事があるのだ。


「なぁ其方」


「うん」


「わらわ五百円でも一日中遊べる事に気がついたぞ、其方には教えぬがな」


「よくわかんないけど君が嬉しそうだから良かった」




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