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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
ショタと雪女と生真面目君
56/112

幕間 根性(特訓) 根性(訓練) ど根性(魔改造)


 杉糸が狐露を怒らせて数時間後、杉糸の懸命な土下座と賄賂(芋羊羹)により彼女は気を良くした。

 そして彼女はその贖罪として一つ付き合えと言い出したのだ。


 それは何だろうか、杉糸は兎に角狐露の後ろを着いていくと到着した先は屋敷裏の枝分かれした道先の一つ。


 唐突に生えてきた道場であった。


 そこで杉糸はグロッキー状態二歩手前の状態でぐったりしていた。


 時は遡る事三十分前。 


「どうしたの狐露、こんな所に連れてきて」


「こんな所とはなんだっ、わらわの思い入れある訓練場でもあるぞっ!」


「いやごめん、そういう意味で言ったんじゃないんだ、でも」


 確かに古びたいた針の床の木造建築だが、隅々まで綺麗に手入れされ、時折壁の傷や落書き等で思い出が残されているのは見てわかる。


「綺麗だねここ」


「うむ、わらわの炎が定期的に巡回するように掃除しておる」


 君がやってるんじゃないんだ、と言いかけたがやめた。


「さてとまずは其方の準備運動でも始めるか」

 

「…………一応聞いておくけど僕に何をさせる気なのかな?」


 殆ど答えは出来上がってるが一応聞いておく。

 すると狐露は高級羊羹食べてた頃よりも上な今日最高の笑顔を見せた。


「ん、其方を鍛え上げたい」


「断るって言ったら怒る?」


「怒る、ほれ、木刀を持て」


 狐露が手を翻すように動かすと壁に飾られていた一つの木刀が、磁力に引っ張られるように僕の方に来た。

 そしてそれを掴み、杉糸はえー、と嫌がる顔をした。


「どうして急に?」


 木刀をぶんぶんと軽く振り、重さや手触りを確かめる。贖罪という事もあるのでなんだかんだやる気を見せていた。


「前にあの堅物と手合わせした時に昔を思い出してなぁ、体を動かす楽しみを思い出した。痛め……鍛え上げる喜びもな」


「ふーん、それでか」


 敢えて痛めつけると言いかけた事はスルーした。


 器用に木刀を掌で立たせ、バランス感覚の遊びをしていると彼女はボワッと炎を出し、青い炎の刀を作り出したのだ。

 厳密には炎で刀の形を模っただけなのだが、杉糸は軽く驚いて木刀を落としかけた。


「本当になんでもありだね」


「ふふん、そうであろうそうであろう」


「でもそれで僕斬られたら死なない?」


 炎の刀はどう見てもバトル漫画とかで出て来る技の一つにしか見えなかった。


「安心しろ、この刀は妖しか斬れぬよう上から術を付与してある。要は人間相手では斬られた感覚はあるかも知れぬが傷や痛みは一切ない」


「呪い持ちの僕でも大丈夫かな?」


「む、それを問われると少し断言に困るが大丈夫だ。元から其方の太刀筋を捌くことしか考えて__」


 杉糸は炎の刀の刃先に掌を勢いよく突き刺す形で手を振り下ろした。


「ぎゃーっ! 其方何をやっておる!!」


「あ、すり抜けた。へー、なんか手の中に異物が入った感じで気持ちは悪いね」


 すかすかと何度か出し入れして、大丈夫である事を確認する。

 その後、手をぐっぱぐっぱして後遺症も何もない。


 しかしそこまで驚かれると彼女自身確信は持ってなかったようで大丈夫かなとなった。


「まあよい、気にせず始めようとしよう」


 そう言って狐露は刀を肩の上に置き、構えもへったくれもない姿になった。


「ほれほれ、何処からでもよいから切っても良いぞ?」


 こんなに余裕を浮かべた彼女は見た事ない、多分僕との純粋な戦いじゃ絶対に負けない事を自負してるのだろう。僕自身これに関しては勝てるかと言われると無理だろう。

 そもそもこの手の武器使った事ないし。


「来ないのか? そうだな……ならこうしよう、其方が一太刀でもわらわに当てればこれから一週間家事当番は全てわらわがやろうぞ」


「でも君のご飯あんま美味しくないし、あっ」


 しまった、心に思ってた事が口に出てた。


「なーっ!? 其方最近、わらわの作ったカレーを美味と申したではないか!」


 うん、こっそり僕が裏で味の調整した奴だね。


「ごめん、今のは失言」


 なんか今日の僕誤ってばっかだな。

 兎に角、これ以上口を開けば失言が増える。

 

 当たって砕けろのノリでやってみるか。


 杉糸は木刀に力を込めて彼女に飛びかかった。


   φ


 一太刀も当てれないだろうな、と何となく察していたが、ここまで圧倒的とは思わなかった。

 

「腰がひけておる! もっと足に力を込めい!」


 そして狐露は思った以上にスパルタだった。 

 彼女は遊び感覚で僕に勝負を仕掛けたと思ったのだが、これは完全に指導だ。


「一撃で終わらすのではないっ、初動が避けられたのなら二度目の攻撃を繰り出せ!」


 杉糸はぜぇぜぇと息を切らしながらもひたすら必死に木刀を振り続けた。


「弱い! 遅い! 反射神経だけは認めてはやらぬ事はないがそれを踏まえても駄目だ!! 剣筋からして素人以下だ!」


 狐露のスパルタ指導が始まって数十分、腕が麻痺を感じ始めた頃にやっと休憩を貰えた。


「あー……もうダメ……」


 杉糸は床で体を大の字にして倒れ、荒い息で心臓の鼓動を落ち着かせようとする。

 ダメだ、凄い心臓がバクバクしてる。


 運動神経には自信はあるが、流石に人外相手からすればそんなの周りより動きがちょっとだけ速い虫程度にしかならないだろう。


「ふふ、お疲れ様だ」


 狐露はスポーツドリンクのペットボトルを僕に寄越してくれて、僕はそれをガブガブと飲んだ。


「しかし其方、別の国を見て回ったと言うのに太刀筋はまるで素人ではないか」


 いつの時代の人間だ僕は。


「外国でチャカを使った事はあるけど長ドスを使った事は一度もないよ」


「ふーむ、やはり人はより殺傷力が高く楽に殺せる銃を選んでしまうかー、まあわらわも銃を一度使ってみたいのだがな、ばんっ」


「今度モデルガン買ってあげるからそれで満足してね」


「猟銃でもよいぞ!」


「そっちも資格がいるよ、外国のようにホイホイ手に入る物じゃないんだ銃は」


「うーむそうか……」


 そう言って狐露は指で銃の形を作り、人差し指の先から炎の弾丸を作り出していた。

 そして目にも止まらぬ速さで炎は走り、壁に激突する寸前に停止し霧散した。


 多分そっちの方が殺傷力高いと思うよ。


「よしっ、再会するとするか」


「え」


 あぐらを描いていた狐露は背中からバネのように跳ねて着地し、また同じ炎の刀を作り出した。


「もう僕疲れたんだけど」


「駄目だ、其方がわらわに一本当てれるまで辞める気はない」


 ニシシと笑いながらも今までの狐露の笑みで一番邪悪なものに見えた。


「それに其方はいつかわらわに感謝する、鍛えておいて良かったとな」


「……そんな時が来るかなぁ」


「この世に無駄な事は無いぞ? 無駄と思えるものも意外な形で役に立つ」


「そう言われると反論できないな」


 杉糸は苦笑いしながら、もう一度木刀を持った。

 スポーツドリンクを頭からばしゃばしゃ被り、気合を入れて武器を構えた。


「ふふふ、其方はわらわから一本取れるかの」


「ああ、その事なんだけど今のうちに謝っとくね」


 杉糸は何か思い付いたかのような顔をしてある物を懐から取り出した。


「一体何を……なぁっ!?」


 杉糸は木刀を置き、懐から取り出した紙をビリビリと破る。それも細切れに細切れに。

 そして狐露は何を破られたのか理解し、ポカンと口を開けていた。


 紙吹雪として散らした瞬間、やっとこっちの世界に戻ってきた狐露は血相を変えた顔色でその紙に飛びついた。


「あー!! 折角わらわが買った5200円分の当たりくじがぁぁぁぁあ!!!!」


 狐露は刀を投げ捨て、必死に紙吹雪と化した宝くじの残骸を拾い集めていく。

 杉糸は木刀を持った。

 そして尻尾をもふっと優しく叩いた。


「一本、後、それは全部はずれくじだから安心して」


 杉糸はちゃんと当たりくじを狐露に渡し、自分が騙されたのだと気づいた狐露は恨めしそうにこちらを睨む。


「す、ぎ、と、ぉ、っ!」


 そして勢いよく飛びかかられた。

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