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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
ショタと雪女と生真面目君
46/112

プロローグ

「寒い」


 それは狐露の一言から始まった。


「まあもう11月だからね、でも君の方が暖かそうだと思うよ」


 杉糸は後ろで生え茂ってる尻尾達を見て言った。

 うん、凄いモフモフ。僕にケアを毎日させる甲斐もあってか毛並みが日に日に良くなっていく。


「そうではあるが……」


 すると狐露は歯切れが悪くなり下唇を前に出した。

 杉糸は何となく彼女の意図を察していた。

 そもそも彼女は腐っても大妖怪、一般人よりも肉体強度は上だろう。少なくとも僕よりは圧倒的に寒さや暑さに強い。


 確か前に「一兆度の火球に耐えれるぞっ!」と豪語していた。流石に嘘だろうけど一度彼女の料理で屋敷の一部が火事になった時躊躇いなく炎の中に特攻していったのを覚えてる。


 杉糸は机に置かれた、冬物のカタログ本をちらりと見た。

 本には主に冬の日用品だらけでコタツやストーブなど、ああ、何となくコタツが欲しいんだ、と寒いと言う前から理解していた。


「コタツほしい?」


 頭の耳がビンと張り詰めた。


「わ、わらわは別に、その……コタツで氷菓子やみかんを食べたいだとか、年末をコタツで越したいだとかそんな意図は持ち合わせては……」


「すっごい欲がダダ漏れしてる」


 しかしそれを無駄遣いだとか非難する気はなかった。競馬や賭けよりは友好的なお金の使い方と言えよう。

 まあ、自分も肌寒いとは思っていた季節だ。この際冬に備えるのも悪くないかもしれない。


「じゃあコタツ買含め冬物の買い物でもしに行こうか、君も冬服持ってた方がいいだろう?」


「わあい杉糸愛してるぞっ!」


 狐露はぱーっと子供のように表情が明るくなった。


     φ


 僕達の住む狭間の世界は現世とあの世の中間世界のようなモノらしい。だからこそ宅急便なんて使えるはずもなく、コタツをセルフでお持ち帰りする事を半ば覚悟していたが狐露が無限に収納可能な巾着を作り始めた。


 一通り買い物は終え、手軽な状態のまま杉糸達は晩飯の食材をついでにスーパーで買おうとしていた時。


「やはり冬と言えば鍋、鍋~」


 新しく買った黒いコートを着こなしながらウキウキと鍋の食材をカゴに入れていった。

 牛、豆腐、白滝、白菜とすき焼きの食材を集めていく。どうやら今日買ったすき焼き用の鍋を早速試したいらしい。


 しかしだんだんと古い屋敷の内部が現代的になっていくな、と電気の届かない屋敷では大気や彼女の持つ妖力を電力代わりに使っているのだがそんなに増やして大丈夫だろうか。


「ねえ、そんなに電化製品増やして妖力持つの?」


「む、んー、基本わらわ妖力尽きた事ないからなー」


 狐露はすき焼きのタレをどれにするか目がいってるようでこちらの話は半分くらいしか聞いてなさそうだった。


「もし尽きたとしても、其方の血肉を分けてもらえばよい話だ」


「吸血鬼みたいだね」


 タレが決まったようでボトルを手に持ちながら狐露はニヤリと笑みを浮かべ一瞬歯が八重歯に変わり目も猫目のように大きくなる。


「まあ其方の精でも構わぬがな、其方知ってはいるか? 血と精は似たような物だと」


「じゃあ牛乳買っておくね、牛乳も血液から出来てるんだよ?」


 杉糸は彼女のセクハラを華麗にかわして、飲み物コーナーまで歩いて行く。


「やれやれ、其方は相変わらずだな」


「公共の場でそんな事言う君も大概だよ、ただでさえ君は容姿が目立つんだ」


 勿論、それは褒め称える意味での目立つでもあるが、たまに驚くと尻尾や狐耳が生えたりするので正直目立って欲しくない。


「むー、今思ったのだがチーズは血液に入ったりすると思うか?」


 牛乳や紙パックのジュースを取りながら、狐露は隣の乳製品コーナーを見てついでのように問う。


「さあ、流石に無理なんじゃないかな、チーズの成分は血液を健康にしてくれるらしいけ__」


 肩に痛みが走る。

 ついでに衝撃も感じ、余所見してしまったせいか人とぶつかったのだと理解するまで少し時間がかかった。


「危ないっ」


 ぶつかってしまった相手が体をよろめき、倒れようとしてしまったのでカゴを手放しその人を両手で支えた。


 その人の体は酷く冷たく、触っただけであまりにも脆さを感じてしまうほど軽かった。

 そして良い匂いがした。

 多分女性だ、まだ顔を見てないが何となくわかった。


「すみません、大丈夫ですか?」

 

 杉糸は倒れかけた水色の長い髪をした女性を見る。その女性は青白い顔をしていて自分がぶつかる前から何処かで倒れてしまいそうな不安定さを感じた。


「はい、大丈夫です」


 その氷の華のような綺麗だが簡単に壊れてしまいそうな女性は虚な目で、大丈夫だと言うが正直心配という感想しか湧かない。


「誰か付き添い人とかいます?」


「はい、ただの持病の貧血です……ので」


 彼女はこちらから離れ、ぺこりと頭を下げて何もなかったかのように歩き出した。

 嘘はついてない、自分がこれ以上関わるのもアレだ。

 狐露の方を向き、彼女はカゴが落ちる前に持っていてくれたらしく、それに対して感謝を告げようとしたのだが、


「狐露?」


 彼女は酷く目を大きく開き固まっていた。それも只事ではない、前の殺人現場を見つけた時のように驚いていた。

 目の前で手を振っても無反応。


「おーい」


 だがこちらの声を聞き、ハッと正気に戻ったのか、狐露は僕を見てつんつんと突っつき始めた。


「其方まさかあの女子に惹かれたりしないだろうな?」


 は? と言葉が出そうになった。


「僕がカタギに惚れちゃダメなの君が一番知ってるだろう?」


 そう、僕には呪いがある。好きになった人を殺してしまう最低最悪な代物。

 多少、世の理から離れた存在ならそれを無効に出来るらしいが耐性のない一般人はモロに対象になる。そのせいで何人も家族や大切な人が死んだ。


「恋ほど面妖な物はない、惚れてないと言いつつも心の奥底では意識してしまう可能性だってある」


「なら僕は彼女に危害が降りかかる前に自害するよ」


「それは困る」


 狐露はいつものような冗談を言い合うやり取りをして、さっきの目は自分の気にしすぎか勘違いなのだろう。そう思いかけた時に床に目が行った。


「あれ、スマホ落としたっけ」


 そう思い拾うが自分のではない。カバーが雪の結晶体の物である。僕のスマホカバーは最近ゴッホの星月夜になったばっかりだ。


「もしやさっきの女子のではないのか」


「かも、間に合うかな」


 キョロキョロと見回すが既に影も気配もない。このまま落とし物届けに出すべきかと考えてた矢先に狐露はヒョイと僕の手元から奪い取った。


「わらわが届けに行ってやる、なあに、臭いを辿れば容易いよ」


 そして付け加えるように嫌味ったらしく言い続ける。


「それに其方に任せればこの陵辱道具で何が起きるかわかりゃあせん」


 まだ言ってる、もうスマホがそんな道具じゃないことは知ってるはずなのに。

 とはいえ使おうと思えば使えるのは否定できないが。


「わかったよ、君に任せる」


 そう言って彼女に任せたのだが、あれから10分、彼女は戻って来ない。

 たかが10分、まあ気にするほどでもないだろう思っていたら30分近く経った。

 流石にそろそろ心配した方がいいか、多分さっきの女性と話して気が合ったとかそんなオチだろうけど。

 

 しかし彼女に連絡手段が取れないのは少し不便だ、彼女にもスマホを持たせた方がいいだろうか、なんて考えてるとあっさり彼女は見つかった。


 お菓子コーナーで菓子を品定めするかのように眺めていたようだった。

 やれやれと思いつつも、落とし物は渡せたのかと聞こうとした。


「狐露、狐ー露っ」


 数回名を呼んだが、彼女は少し夢遊病のように意識が別の世界に行ってるようで、頭を軽く斜め45度から叩いてみた。


「ん、其方か、何か用か」


「なんか用かじゃないよ、さっきの人にスマホ渡せた?」


「……ああ」


 しかし一瞬、間があったせいで何か隠し事があるように見えた。


「本当に?」


「ああ、確かに渡した。持ち主の元へ届けはした」


 別に嘘を見抜くのが得意ってわけではないが、嘘をついてる感じではなかった。ただ全部話す気がない、という奴だろう。

 届けはした、が何かあったのだろう


 まあ渡せたのならそれ以上問い詰める気はない。この話はこれで終わりだ。


「お菓子は二つまでだよ」


「なあ其方よ」


 狐露が僕の服を摘んで引き、彼女を見る。

 今の狐露は気落ちしているのか、消極的で覇気がない。

 

「人の寿命とはどれくらいかや?」


「?」


「寿命だ、じゅ、みょ、う!」


「まあ、80年生きれたら御の字じゃないかな」


「そうか、そうであろうなぁ」


「何故急にそんな話を?」


「特に理由などない、ただ其方の一生は、わらわからすればほんの少しの蜜月しか無かったと思っているだけだ」


 何となく彼女が今暗いのはわかった。しかし自分はそこまで長く生きる気があるのか、その事を考えるとまたまた面倒なので頭の端に追いやったが。


「後、さりげなくお菓子を入れるのやめてね」


 杉糸は真面目な話をしながらカゴにお菓子を入れようとする狐露の手を掴んだ。


「なっ、ばれてしまったか!」


「真面目な顔してでも動きが不自然だからね」


 杉糸は狐露の手を掴み、今も入れようとしていた飴のお菓子を棚に戻した。


「何故お菓子が二つまでなのだっ! 三百円までにしろっ!」

 

 彼女はきーっと吠え、そんな子供のような仕草に呆れを感じてしまう反面、少し安心していた。

 よかった、いつもの彼女に戻ってきたようだ。


 と思ってたが、違和感を追求するべきだったと思っている。


 この後でああなったりこうなったりぎゃーなったりするとは思わなかった。

 今ここで彼女の異変に気づいておくべきだったと多分後悔してる。

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