幕間 姉がパパ活する時!妹は絶望する!
誰もが寝静まった深夜、ある一匹の狐がひょいと暗闇の中を蠢いていた。
その名は狐露、完全に獣の姿に変わって息を潜めて狐足狐足とある者の道具をこっそりと取る。
それはスマホ、過去に狐露はこれを呪いの辱める拷問器具と思っていたが狐燐によってその偏見は消え失せ、今となってはこっそりと杉糸の借りて検索したりしているのだ。
「む、この姿では押しづらいか」
人の姿に戻り、ろっくを解除して人差し指で一つ一つ機械に慣れない老人のようにゆっくり操作していく。
そしてお目当ての内容に目を通し、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
「おじさんに高校生……どちらも捨てがたい……」
八重歯をキラリと輝かせ舌舐めずりをする様は正に悪女、男を喰い散らかす淫魔と誤解されても違和感がない。
そしてその様を目撃してしまっていた者がいた。
「あわわわわわ……そんな……そんな姉様が……」
φ
「そろそろ彼女にスケッチモデル頼んでみようかな、狐露じゃ頼めない服とか着て貰えるといいなー」
杉糸は暇潰しに屋敷内の物や狐露を描いたりする事が多々あるのだが、狐燐の方も描いてみたいと思っていたのだ。
打ち解けて? から一週間、実際前のように憎しみを向けられる事は無くなりぎくしゃくする所はあっても前回よりはかなりマシになってきてるのだ。
「あ、いた」
探そうと思えば速攻居間の卓で項垂れてるのを見つけた。
寝ているのかな、と思えば長いため息を吐き何やら悩み事がありそうな感じである。
「どうかした?」
杉糸は彼女に声をかけてみるのだが、すごい顔をしていた。人間的に言うなら徹夜明け、寝不足。
「うわ、すごい隈、って寝る必要ないのに隈出来るんだ」
「狐だって隈は出来るです……」
一瞬強気に反論するかと思ったが徐々に力が抜けて行き、また項垂れた。
「ほんとにどうしたの? どうでもいい小さな悩みだったらスケッチモデルを頼みたいんだけど」
「貴方たまに鬼畜ですね、その……悩みというのはね、姉様が」
「狐露がどうしたの?」
狐燐は一瞬、言いそうになったが喉まで出かかったそれを飲み込んだ。
「き、聞きたいですか?」
こちらの覚悟を問うように聞き、取り敢えずうなづいて見せた。
「本当に聞きたいですか?」
「? うん」
分からないけど頷いた。
「その……その姉様が……レンタル彼女やパパ活をして稼いでるかも知れないのです!」
「君何処でその言葉覚えたの」
狐露がそんな事してる疑惑よりも彼女がそんな言葉を知ってる事に驚く杉糸だった。
「サヨナキさんが悪いのですっ! 見ず知らず下衆メタボで中高年なハゲやNTR系によく出てきそうなチャラ男に姉様が犯されるくらいならサヨナキさんに犯された方が百倍マシだったです!」
狐燐はうえんうえん泣きながらトンデモない事ばかり口走る。
この子もしかすると狐露より幼いのに過激かもしれない。
「ええと……ちょっと落ち着いて、はい、息を吸って吐いてもう一度吸って吐いて」
狐燐に深呼吸を何度かさせ、落ち着いた途端話をもう一度聞いてみた。
「なんで狐露がそんな事をしてるって思うの?」
杉糸は半分呆れながらも実際狐露が3日前、羽振りよくご飯を僕達に奢ってくれたのを覚えている。
彼女の小遣いじゃあの店は出せない金額だった。
そういった活動は無いとしてお金を得た方法は気になるのだ。
「それはですね……私は見たのです、先日姉様がスマホを使って高校生とおじさんを調べて舌舐めずりしていたのです……」
涙目で鼻をかみ、杉糸はふーんと顎に手を添える。
「オジサンにコウコウセイか」
「これはもう絶対あれです……アレしかないです……まだ姉様が綺麗な身体だったとしてもいつかお酒盛られて絶対犯されるです……」
「エッチなビデオの見過ぎかな?」
「なっ、わっ私が! あ、あんなっ卑猥な物見るわけないです!!」
狐燐がそう吠え、はぁ、とため息を吐きぐったりとまたさっきのように項垂れた。
尻尾も耳も元気がない。
「そんなに気になるなら狐露のこと尾行する?」
「ハッ!」
杉糸のさり気ない言葉に水を得た魚のように彼女の耳と尻尾がピンと張り詰めた。
「それです! 姉様が本当に売春してるのか私達で確かめるのですっ!!」
「パパ活から悪化してるよ」
φ
「それで取り敢えず外に出たけど狐露の行先は知ってる?」
「ふふふ、抜かりない私は既に罠を仕掛けたです」
こんな事もあろうかと狐燐は発信器を狐露に引っ付けていたらしい。
「術の追尾では姉様に気づかれますが、機械に疎い姉様には効果抜群なのです」
「本当に現代かぶれしてるね」
狐露があまりにも現代に慣れるのに時間がかかってるのを見ると狐燐の適応は素直に感心する。
「今姉様は行きつけのデパートにいるです」
狐燐も自分のスマホを持っていたらしく、液晶画面には狐露の位置が表示されていた。
あくまで位置表示だけなので階層のあるデパートでは探すのには少々骨が折れそうだと思っていたが運が良かったのかアッサリ見つかった。
「いました、姉様ですっ」
狐露は本屋で静かに立ち読みをしていて、何度かふんふんと頷きを繰り返していた様子だった。
「見てくださいあの服装、狐耳付き黒パーカーを軸としたサブカル地雷系ファッション、どう見ても男漁ってる服装ですっ」
「…………」
確かに今回の狐露はいつもと違って遊び慣れしている若者のような服装だ、格好のせいか高校生にも見えなくもない。が、あまりの狐燐の物言いに呆れて苦笑いしか返せなかった。
「何の本を読んでいるのです? 沖縄……もしや沖縄に相手がいるのですっ!? いだっ!」
すぱんと杉糸が軽く頭を叩き、騒いだらバレるよ、と忠告を入れた。
一応服屋で軽い帽子やサングラス等、軽い変装道具を買ったがお互い髪色が白と銀ときたので目立つ目立つ。
今読んでるのは沖縄の旅行本だった、あ、グアム、アメリカ、イギリス、と海外本も適当に読んでる。
「まさか海外にも男が……?」
「狐露が動いたよ」
杉糸は今日の彼女はいつもよりバグってるので発言をほぼスルーする事にシフトチェンジした。
狐露を後ろから追いかけながらもふと考える。そういえば彼女は一人で出歩く事になったが、そんな時の彼女はどう過ごしているのだろうか。
最初は彼女の金面しか興味がなかったが段々と注目してしまっている自分がいる。
次に向かったのは揚げ物屋で自分のガマ口財布の中身を確認しながら悩んでいる様子だった。
僕と一緒に行く時はいつも躊躇いも容赦もなく注文するが、財布と相談する彼女の姿は新鮮だった。
「肉屋の主人と付き合えばいつでも美味しい肉が食べれるです」
狐燐は落ち着きを取り戻したが、逆にこちらをネチネチ責め始めるスタンスに切り替わったようだった。もしやこちらが不甲斐ないから、とでも言いたいのだろうか。
ご飯に関しては不自由させてないつもりなのだが。
「あ、でもお金を稼いでいるのならコロッケ一つ頼むのにあんなに悩む必要はないですっ」
「確かに」
杉糸はより彼女の奢りが疑問になった。彼女が普段の感謝として小遣いを貯めていたのか? 彼女に限ってそれは絶対にない、一日の小遣い全部使い果たすような女性なのだ狐露は。
「動いたですっ」
一番安い普通のコロッケを平らげた彼女が動き、狐燐に服の裾を摘まれながら慌てて視線を戻す。
次に向かった先はゲームセンター、ゲーム好きな狐露は何処に出かけようとも一度は必ず寄るゲーセンなのだが彼女の行動を見て顔を覆い隠したくなった。
「間違ったの教えちゃったな……」
狐露はパチンコを回し続けて気分良く身体を揺らしていた。
そして一方狐燐は、
「あっ、惜しいです! くっ、後ちょっとで出目が揃うのに!」
スロットを愉しんでいたので杉糸は君までそっちに行かないでと無理矢理台から引っ張った。
狐露は最初は機嫌良くパチンコを回してたが調子が悪いのか徐々に不機嫌になり十分ほどで辞めてしまった。
よかった、昔の負けず嫌いな彼女なら有金溶かすまでやっていただろう。
いや待てよ、引き際を覚えたという事は今まで何度か痛い目に遭ったわけじゃ、
頭を横に振り、続いて狐露を追いかけた。
「中々男と会いませんね」
「そりゃあもしパパ活とかしてたとしても今日会うって決まってるわけじゃないし」
「なっ、では今私達がしてる事はただの無駄足なのですか?」
「今気づいたの……」
鳩が豆鉄砲喰らったような顔をする狐燐に苦笑いをした。
なんか今日は苦笑い多い気がする。まあ姉がパパ活してると思うと冷静な判断が出来なくなる気持ちはわからんでもない。
「どうする? まだ追いかける?」
一瞬足を止めていた狐燐にこのまま内緒でおいしい物でも食べに行こうかと提案しようと思った杉糸であったが、
「追いかけるのですっ、サヨナキさんは姉様の事好きなのですよねっ?」
「うん」
「でしたら不安にならないのですか? 怒りに満ちないのですかっ?」
「彼女が誰を好きになろうか彼女の勝手だよ、元を辿れば全部不甲斐ない僕のせいだし」
「で、でしたら、ね、姉様が自分以外の男に抱かれてる所想像しても何とも思わないのですかっ」
「興奮する……かな? なんて__」
「ぎゃー、変態! もういいですっ」
次の言葉が大事なのに冗談が少し酷過ぎたせいか怒らせてしまったようだった。
狐露は人混みの中通路を歩き続け、こちらも隠れれるが気を許すと見失いそうだ。
それでもやはり髪の長い美人さんなので周りとは一味違う印象を放ち続け、簡単には見失う事は、
「あれ? 消えた?」
杉糸は素っ頓狂な声を出し首を傾げると、
「わっ!」
人の影から姿を現した狐露の声に軽く驚かされたのだ。
「ひゃっ!」
傾いた狐燐は後ろの人にぶつかりかけ慌てて手を掴んで引っ張る。
「すみません」
杉糸が代わりに謝る中で狐露は訝しむような目で睨んでいた。
「其方ら何故わらわの跡をつける? 寧ろ尾行はわらわがしたいぞ」
「あはは、ちょっと色々あってね」
杉糸が気まずそうに目線を逸らし続けると狐燐がストレートに言葉を投げかけたのだ。
「だって姉様がサヨナキさんと夜伽できないから他の男の人と交わろうとするのが……って何を言わせるのですかっ!!」
「いや君が勝手に言っただけだからね?」
勝手に言い、勝手に怒る、なんて理不尽なのだろう。
狐露の方は腕を組みながらぴくぴく頭に血管を浮かばせながら顔を赤らめていた。
「其方らはわらわを何だと思っているのだ……?」
人混みの真ん中で痴情のもつれを連想させるワードを連発する狐燐に頭が痛くなった。
仕方ない、パパ活の事でネタバラシをしておこうか。
「狐燐、パパ活の件だけど」
「なんじゃそれは」
狐露のパパ活の言葉すら知らなさそうな反応を見て杉糸の考えは確信に変わった、
「オジサンとコウコウセイは魚の事だと思うよ」
「え?」
その時狐燐が見せた思考の追いついてない顔は今も忘れられない。
オジサンとコウコウセイというのは沖縄で釣れる魚の別称である。
オジサンは沖縄で釣れるヒメジ類が髭面でおじさんっぽいから、コウコウセイは諸説あるが体のラインが高校生の制服や装飾品に似ているという所は一貫している。
というか朝起きてスマホ開くと検索履歴にずらっと沖縄、沖縄魚、コウコウセイ魚、オジサン魚、エトセトラエトセトラ……で何かのホラーかな? って正直ウイルス感染を疑った。
彼女が沖縄旅行の本を読んでいたのもそうだろう、つまる所彼女は沖縄に興味を持っているのだ。
それを説明し、隣にいた狐露は代弁する僕に共感するよううんうんと頷いた。
すると、
「何故先に説明しなかったのですかっ!」と狐燐に怒られた。
「さっき言おうとしたんだけどね」
「もっと前から説明するのです!」とごもっともな指摘を投げかけられる。
「まあお金の件については僕も気になってたから」
「お金?」と狐露は首を傾げた。
「だって最近ご飯ご馳走して貰ったけどそんな小遣いあったっけ?」
「ああ、その事ならわらわ蔵である絵巻物を見つけての、それを売るとがっぽがっぽと利益を得たのだ」
ふふん、と嬉しそうに鼻を鳴らし、杉糸はああそういう感じね、と一人納得した。
隣をチラリと見る。
全部自分の思い違いだったのだとポカンと魂の抜けた顔をする狐燐であった。
「それで、どれくらい貰えたの?」
「ふふふ、聞いて驚け驚くなかれ、なんと十万だ!」
両手のパーを作り満面の笑みを見せつける狐露であったが杉糸は冷めた目で言う。
「それで、十万も何に使ったの?」
この時狐露はしまった、ハメられたと理解したようだった。
「そ、其方らの食事代……」
「1万5476円、残り8万4524円は?」
「何故覚えておるのだっ!」
「話を逸らさない、残りは何に使ったの?」
すると冷や汗を流して吹けない口笛を吹きながら目線を逸らした。
「ママ活でもしたのですか?」
「わらわそこまで男に飢えてはおらぬわっ!」
狐燐にママ・パパ活の意味を教えてもらった狐露はそんなくだらない事には使わないと吠える。
なら何に使ったのか。
「わ、わらわの金だ、何に使おうが文句はないであろう!」
その通りだ、だが彼女はお金使いが余りにも荒いのだ。小遣いやると全部使ってくるタイプ、それも半分くらい自分に必要ないものを買ってきたり。
同居人としてやはり無駄遣いは見過ごせないのが本音である。
「そ、その目をやめろ! 其方の真顔は怖い!」
そして堪忍したようで狐露は舌ったらずに言い始めた。
「そ、其方達と沖縄に行きたい……その旅行費として貯金……している……」
その言葉を聞き、杉糸は固まった。
「ね、姉様……!」
狐燐も感極まったように頬を朱色に染める。
「わ、わっ、抱きつくのでないっ!」
杉糸もさっきまで狐露の事を疑った自分に恥じる事なんてなく、より死んだ魚の目で彼女にトドメを刺した。
「G1レース」
それを言った瞬間、狐露はギクリと肩を震わせた。
「僕のスマホの履歴はね、沖縄の魚の下に何故か競馬の検索候補がズラッと並んでたんだ」
ガクガクと震える狐露、姉を失望した目で見つめる妹、杉糸は狐露の肩にポンと手を置いた。
「ひぃっ」
「【馬券買い方】【競馬場入り方】【馬連】【単勝】【競馬場の食事】凄いね、狐露スマホだんだん得意になってるんじゃないかな?」
「そ、その……わらわは競馬に興味があるだけで実際に向かったわけでは……」
「姉様前、テレビでレースを見ながら実物を見たって豪語してたです」
「こ、こらっ狐燐! 何を言うっ」
杉糸はやっと感情を取り戻したようにため息を吐く。
「まあ別に君のお金だから僕に止める権利はないんだけどね、でもやっぱり賭け事は遊びで済ましてほしいかな、全部競馬に注ぎ込んだわけじゃないだろう?」
狐露の冷や汗が増えた。
「全部使ったんだ、それで負けたんだ」
「負けてはおらぬ……ただ……ただ……わらわは勝てる試合を譲っただけで……わらわが力を使って目利きをすればどの馬が優勝するかぐらい……」
「狐燐、美味しいものでも食べに行こうか」
「はいですっ」
お互い枯れた目で狐露から離れていき、
「ま、待ってくれ! わらわを置いていくなっ!」と後ろで慌てて追いかけてくる彼女を無視しながら歩き続けた。
不思議と狐燐と仲良くなれた気がする。




