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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
狐の妹
40/112

この婆さんは性格が悪い

 それは終わりのない町の小路だった。

 大通りに出れたと思えばまた違う小路の道のど真ん中に立っていて、方向感覚が狂ってしまいそうだった。足元に転送装置でも仕込まれているのかと冗談を考えられる内はまだ正気だろうけど。

 そういえばこれはアレに似ている。狭間だ。あの常識が効かず、感覚がコロコロ麻痺するこの感じは狭間に似ている。


「えっと、確か、次はこっちやったっけな」


 玲先頭で杉糸はそれに着いていく感じでこの不思議な迷路を歩いていく。


 さっきファミレスから出る前に玲は扇子で空を切った。すると外に出ると急に和風の町並みの小路に出ていた。

 

『さ、いこか』


 杉糸はあまり動じもせず玲に着いていったので彼はつまらなさそうな顔をしていた。

 そして今は十分ほどずっと変わらない狭い道筋をずっと歩いている。


「なーサヨナキ君、人間焦ってる時の口調ってどんな時かわかる?」


 さっきまで舌に油が乗ってなかった玲が急に流暢に喋り出す。


「五月蝿い人は無口になって、無口な人はよく喋る……かな?」


 何かの本で読んだ事がある、人間バグると普段の時とは別の言動をしてしまうのだと。

 あれ、でもこれは嘘をつく人を見抜く本の内容だった気がする。


「そやね、大体そんな感じや。少なくとも自分は前者やね」


「まあそうだろうね」


 それは言われなくてもわかる、と言わんばかりの反応だったがさっきまでほぼ無口だった玲を思い出す。


「もしかして迷った?」


「サヨナキ君探偵なれるんちゃう? まあど忘れしてたのはさっきまでで今思い出したから大丈夫やけど」


 それはそれで大丈夫なのだろうか。

 まあどちらにせよ目的地に到着するのならそれでいいが。


「そろそろつくね」


 その声に従い、やっとこの小路を抜けれるのか、と抜けた先は見知らぬ田舎町の道路だった。

 反対車線側には田んぼが広がり続け、稲がたくさん育ち続けている。

 そういえば今は収穫シーズン真っ只中か。


「サヨナキ君」


 田んぼに視線を奪われていたせいか既に玲は先に進んでいた。


「ごめんごめん」と誤りながらあまり車の通らない白線の内側を歩く。

 

「そういやここ何処?」


「奈良の田舎」


 やはりアレも狭間のようなものだったのだろうか。杉糸の地元から奈良までは電車で数時間かかる距離だ。

 しかし奈良の田舎は来た事がないな、意外にも肌を触れる風が冷たく空気が美味い。

 半分観光気分で住宅街の街並みを眺めていたがすぐに辿り着く。

 

 それは隣は錆びた看板の接骨院、しかし潰れている。

 もう片方は全体的に錆びてる煙草屋、しかし潰れている。


 そんな潰れてた建物に挟まれた一つの駄菓子屋が建っていた。

 しかしこっちは潰れていない様子だった。隣のアイスボックスは既に壊れ、自動販売機はよくわからない飲み物ばかり、ガチャガチャは全て売り切れという更新する気が一切感じられない。


「この駄菓子屋?」


 杉糸は不思議そうに剥がれた看板を飾る駄菓子屋に指をさす。

 すると玲は扇子を開き【いえす】と書かれた文字を見せた。

 その扇子、絶対自分の意思で文字が浮かび上がる仕組みになってるよね。


「那古婆は気難しいで」


 那古婆、今から自分達が会いに行くとされる薬師くすし件駄菓子屋店主、那古婆と呼ばれる辺り年長の方なのだろう。

 イメージ的には失礼かもしれないがイッヒッヒ笑う顔の形が自転車のサドルみたいな老婆の魔女を連想してしまった。


「失礼します」


 コンコンとノックして横開きの立て付けの悪い扉を開こうとしたのだが、先にガタガタと音を鳴らして扉が開いた。


「ありがと那古婆ー!」


 駄菓子屋から出てきた子供数名と体がぶつかる。


「おっと、危ない。ちゃんと前見ないとダメだよ?」

 

 子供達は謝罪代わりにぺこりと頭を下げて走っていく。何やら楽しそうに話していてふと口元が緩む。


「あはは! 流石の転売ヤーも那古婆の店は知らないらしいな!」


「うん! やっぱり那古婆は最高だよ!」


 子供達の過ぎ去る声を聞き、意外にもこの店は見た目は兎も角、中身の商品はかなりアップデートされているようだった。

 

 気を取り直して入る杉糸と玲、中は少し埃っぽいが商品の並びはしっかりしていた。

 基本お菓子メインだが所々子供ウケを狙ってるのか今の人気商品の玩具がちらほらある。

 奥には子供達が買ったお菓子を食べて遊ぶ為の座敷部屋があり、その座敷で一人座っている人がいた。


 割烹着を着て老眼鏡、髪は黒く座布団に座って編み物をしている。

 恐らく彼女が那古婆とされる人物だろう。

 

 杉糸は彼女に近づき声をかけようとするが、目をぱちくりさせた。


「…………?」


 よく見ると若い、いや若いってもんじゃない。少女がおばあちゃんの格好をしている。そうとしか言えない皺一つない容姿の整った美人さんがそこにはいた。

 下手すると僕より若いんじゃないんだろうか。後、なんか目を見てもよく分からないという感想しか出ない、感情が複雑というよりは単にわからない、見えないとしか言いようがなかった。


 杉糸が困っていると、玲が身を乗り出し、


「那古婆、これ頂戴な」


 幾つかの駄菓子を取り軽い駄金を彼女の横に置いたのだ。


 やはり彼女が那古婆なのか、冷静に思うと今更驚く事じゃない。彼女も人の理から外れた存在なのだろう。


「金はいらん、さっさとそれ持って帰りな」


 声もかなり幼い。そんな那古婆は不機嫌そうにこちらを睨み、しっしっと編み物を止めて手を振った。


「つれへんなぁ、自分、久しぶりに那古婆に会えて嬉しいのに」


「アンタが来る時はいっつも厄介ごとがおまけに付いてくんだよ、ほらもうそこに問題が来てるじゃないか」


 そう言って那古は老眼鏡を持ち、目を細めながらこちらを睨んだ。


「自分、那古婆に迷惑かけた事あったかな」と白々しく笑うか結構迷惑かけてそう。


「アタシは覚えてるよ、アンタは子供の時から狐みたいないやらしい男で、嘘をついて薬を持ち出し、人助けとほざきながら妖助け、大人になってもアンタの探偵ごっこに何度付き合わされた事か」


 ぐちぐちと愚痴を言うが一言一言に怨念が篭ってるのがわかり、横目で玲を見る。彼はすっとぼけたように口笛を吹く。


「なんや思ったよりボケてへんの、まあ僕の頼み全部那古婆の利益に繋がったからええやろ」


「だから腹立つんだよアンタは、何から何まで知った様な顔をして、子供の時からそれだから憎たらしいっちゃありゃしない。それにアタシがボケる事ないってアンタ知ってるだろ」


 何か話が長くなりそうだ。

 ボケる事がないという事は不老的なアレか。


「すみません、薬をくれませんか? 呪いが消える奴」


 取り敢えずストレートに言ってみることにした。


「あ?」


 すると強い目で睨まれた。流石にはしょり過ぎたか。

 杉糸は一息をついて説明し始める。


「ここにどんな呪いでも解ける薬があると聞きました、僕の呪いは今までどんな事をしても治らず苦悩してましたがもしよければお譲りお願いしたいのです」


 よくもここまで流暢に嘘が出るものだ、と自分の舌が嫌になりそうになる。


「ハッ」


 だが那古からは鼻で笑われた。


「舐めんじゃないよ、アタシはね、何百年も生きてきたからわかるんだよ。アンタは生きたがってないだろ? それにアンタの呪いは解けないんじゃないか? それはアンタが一番知ってるだろ」


 凄い、一瞬で見抜かれた。


「さあ、用がないなら帰った帰った」


 まるでこちらに興味が無くなったかのように編み物に戻り始めた。しかしここで退くわけにもいかない。


「大事な人が死の呪いにかかってます」


「切り替えはやっ」


 門前払いされそうになるので即ケロリと動じる様子もなく、また頼みに興ずる杉糸に玲は軽くツッコむ。


「アタシの薬は貴重なんだ、アタシを騙そうとした挙句、バレたら薬をくださいって? どんな虫のいい話だ__」


「騙そうとしたのは謝罪します、ですが僕には薬が必要なんです」


「綺麗過ぎる土下座やね……しかも速い」


 杉糸はいつの間にか額と地を擦り付けて土下座をしていた。

 あまりの速さに流石の那古も軽くびくっと驚いた顔をした。


「アンタ、その大事な人は狐だろう? アンタの話はちょっと小耳に挟んだんだよ」


 え、もしかして自分達の話が流通されていたりするのだろうか、それは少し予想だにしなかった。


「マジかい」


「絶対にやだよ、ねえ玲坊、アタシが化物嫌いなのアンタ耳にタコが出来るくらい聴かされてるだろ? さっさと立ちな、アンタが何をしたってアタシはピタ一文坊やにやる気はないんだから」


「ほら立とサヨナキ君、あと5秒長く土下座してたら自分が座りたくなるで」


 玲に肩を掴まれて膝と肘の汚れをパッパッと自分で払いながら立ち上がる杉糸。


「あーこれじゃーどうしよーもないなーサヨナキ君、これはもう帰るしかないわー」


 棒読み混じりで肩を組み一旦引退こうとするが、那古の声で体が止まる。


「アンタ達がここで帰ったら一生薬はやらないよ、玲坊、アンタをここで帰したら絶対アタシは後でアンタ達に薬をやるハメになる。また何か企んでるんだろ」


「流石に付き合い長いとわかるんや、帰らんかったらくれるん?」


「そうだねぇ、アタシとゲームで遊んで勝ったら薬もあげてやらん事もないよ」


 ゲーム、そう言われた瞬間、玲が一瞬目を開いて不機嫌そうな顔になる。


「クソゲやん、萎えたわ」


 玲は気を取り直し笑みを浮かべて扇子を孫の手代わりに背中を掻く。

 しかし杉糸は気づいた、掻いてる途中扇子が開き、文字をこちらに見せたのだ。


「なる乗……? あっ乗るなか」


「バラしとるやん」


「あっごめん」


 彼がそれほどまでして断らせようとしたメッセージを僕は反応してしまったから苦笑する。


「アンタ達がやらないならそれでいいよ、アタシは妖が苦しんで一興、アンタ達は一生薬を貰えなくなっても一興」


 初めてずっとムッとしていた那古がニヤリと笑みを浮かべてみせた。

 この人多分妖嫌い除いても性格悪そう。


「じゃあやります」


 杉糸は手を上げてそのクソゲ? をやる事を決めたのだ。


「アカンアカン、これはほんまにあかんよサヨナキ君」


 すると玲に肩を掴まれてふるふると首を横に振られた。

 笑ってはいるが非常に面倒くさそうた顔を玲はしていた。


「冗談抜きでそれだけはさせられんのよ、それをやったらサヨナキ君は痛い目に遭うね。それも心がガラスのように砕けるわ多分、那古婆の仕掛けくるクソゲは全部そんなもんやねん、勝負に乗った時から既に負けとんねん」


「死なないなら……狐露に怒られないし大丈夫じゃないかな?」


「うーんそうかなぁ……あの君の痛みに対して物理精神関係なしに過剰過敏になってると思うよ?」


 さっきの言葉は殆ど冗談だが、やる気はあった。肉体的に死なないなら大丈夫だろうと思ったのも本心であった。


 玲は笑ってはいるが困った風にしながらもコソコソと耳打ちする。


「もう一つ手に入れる方法あるで?」


「それは確実?」


「うーん五分五分」


「それは強奪?」


「ノーや平穏主義やね」


「それは狐露が動く?」


「……ノー」


「イエスか」


「バレちゃった」


 玲は軽く舌を出しながら苦笑いをする。

 狐露が絡んで五分五分、なら尚更させられない。自分が傷つくならいい、ただ狐露が傷つくのは少し気分が悪い。

 その自分が今からする行動が狐露が傷つく道に繋がるとしても、一番痛い思いをするのは僕だ。

 だから大丈夫だ。


 そんな屁理屈にすらなってない理屈を頭で並べながらも杉糸は言う。


「やります、それで彼女(狐燐)が助かるのならやりますよ」


「あーもうこれあかんわ、完全に意志が固まってるわ。僕はやらへんよ? 勝てへんの知ってるから」と玲は投げやりに両手を上げていた。


 しかし玲はただ放棄したわけではなく、僕に対し逃げ道を用意していた。


「那古婆、サヨナキ君が危ななったら強制的に中止させて貰うけどええ?」


「いいよ、ただしその場合は」


「言わんでもわかるよ、サヨナキ君もそれでええ? 自分が危ない判断したらそれでリセットボタン押させてもらうよ?」


 玲はニヤケながらも何度も忠告して逃げ道を用意してくる辺り、相当危険なゲームらしい。

 もしやデスゲームでもさせられるのだろうか、それは少し嫌だな。


「それで、勝負内容は何なん?


「将棋」


「将棋?」


 杉糸は思ってたのと違い、軽く拍子抜けした。


「サヨナキ君、那古婆の仕掛けてくるのは普通の勝負ちゃうよ、全部陰湿的でイジメみたいな副ルール付いてくんねん。で、今回の嫌がらせは何なん?」


「それはやってからのお楽しみだよ」


 那古はニヤニヤと嫌味な笑いを浮かべてこちらにとって良いルールではない事が伺える。


「ルール自体は普通の将棋と同じだよ、ルール自体は」


 ルールは同じなのか、ならそれ以外で何か付いてくるらしい。

 とは言っても予想なんて一切つかないが。


「それでもアンタはやるかい?」


「やりますよ」


 迷ってる暇はない、杉糸は躊躇いもなく靴を脱ぎ座敷に入る。

 そして那古と面合わせする席に座り、卓の上に用意されていた将棋盤を見た。

 見る限り普通の将棋盤、駒も触ってみて普通だ。


「アンタ、ルールは知ってるかい?」


「普通の将棋なら」


「じゃあ大丈夫だよ、知ってりゃ進みに問題は生じない」


 将棋が強いか、と言われると違うと僕は答えるだろう。

 とはいえ弱いか、と聞かれると違うと答える。

 最近狐露のおかげで将棋を行う機会が増え、昔よりは強くなったのだ。


 狐露は長い間生きてきた狐なだけあってかなり強い、それも妖力とやらを使い強化された頭はコンピューターが入ったかのように相手の次の一手や戦術、数千に及ぶ予測の数々を導き出すらしい。これを使えばただ、最適の位置に駒を動かすだけのゲームになるそうな。


 それはチートなので禁止になったが、力抜きでも彼女は強かった。

 そんな彼女に鍛え上げられたおかげか多少なり自信はある。


 駒を並べ終え、先手を貰い駒を動かし続けた。

 杉糸は王の守りを堅めるよりも先に攻め、相手の陣地を崩す指し方が得意だった。

 

「サヨナキ君、攻めるね、やっぱり君はドSや、うん絶対Sや」


 将棋を指す二人はほぼ無言だが定期的に玲が水を差すように横槍を入れる。

 しかし杉糸は別に気にしない様子で指し、一つ歩の駒を取られた。

 取られた瞬間、ずっと表情に変化なく勝負していた那古が笑った。それも嫌な予感がする笑い方をしたのだ。


「え?」


 僕は駒を取られた、そして那古は笑っていた。

 そこまでは確かに覚えていた。だが那古が笑みを浮かべた次に、僕は将棋を指していた座敷とは違う部屋に座っていたのだ。

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