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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
狐の妹
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プロローグ


「暇だな」


 誰もいない狐屋敷で杉糸は縁側に一人座りお茶を啜る。あれこれ数時間ずっと座ってお茶を入れ座るを繰り返している。

 そして気まぐれに狐露が飼いたいと言うので飼い始めた池の観賞用非常食の魚達に餌を投げた。

 しかしその行為も暇つぶしには満たなかった。


 杉糸は後ろの居間を見た、狐露が帰ってきたような気がしただけだった。


「本当につまらない人間だな僕」


 ずずとお茶を啜り、買い置きのチョコのお菓子を食べた。

 

 いつものなら狐露が狐露が引っ張ってくれるのだが今日はいない。

 今日は女性限定のスイーツ店へと一人で山を降りて遠出しているのだ。あの外の世界に出たら産まれたてのヤギのように怯えていた彼女が今や一人で外出するようになったのは嬉しい限りなのだが心にポカンと穴が空いたような虚しさを感じた。


 どうやら彼女に対する自分の依存はかなり深いものになっているようだ、狐露が僕離れ出来ないんじゃなく僕が狐露から離れられなくなっているのだろうか。


 いかんいかんと首を振り、魚の様子でもスケッチしようかとその場から立ち上がろうとしたその時。

 部屋の向こうの襖から一つの尾が見えた。


 あれはどう見ても狐の尾であった。


「狐露? おかえり」


 しかし尻尾だけを見せる狐露は何も言わずただ尾を猫じゃらしのように靡かせていた。


「おーい」


 何も反応はない。杉糸は不審に思いながらもその尻尾に近づいて襖を開ける。

 狐露の姿は無かった。


「?」

 

 首を傾げると背後に気配がして振り返る。

 さっきと同じように縁側から尾を覗かせていた。


 もう一度向かう、いない、別の部屋から物が倒れる音がする。いない、居間からテレビの音がする。誰もいない。

 誰もいない誰もいない誰もいない誰もいない以下五分ほどループ。


 狐につままれているのかな。苦笑いが徐々に苦いものになっていく。

 杉糸は狐露の悪戯か何かかと思うが少々人を怯えさせるように仕向けるのは趣味が悪い。

 また尾だけ別の部屋で覗かせた。


 杉糸は彼女が飽きるまで付き合ってあげようと狐露の寝室にまで向かい襖に手をやった瞬間だった。


 ズバッ! 


 突如襖を破って銀の鎖が出現して杉糸は声を出す間もなく顔に迫り来るソレを避けた。


「おっと、悪戯にしては危__」

 

 ジャラン、ジャラン、ジャラン、ジャラン、ジャラン。


「えっ」


 だが鎖は四方八方、自分を取り囲むように出現し杉糸はなすすべもなく体を鎖でぐるぐる巻きにされ拘束された。


「うっ」


 バランスを崩し顎から畳に擦りむき潰れたカエルのような声が出た。


「狐露……? 流石にこれはやりすぎじゃ……」


 背後から足音を聞き、何とか体を方向転換しようと頑張る杉糸なのだが動きが止まる。

 

 狐露じゃない。似ているが違う。別人? 人違い? 狐違い? 妖違い?


「誰……?」


 杉糸を拘束したと思われる相手は九尾の狐だった。それは人の姿をしていて頭の耳と尻尾以外人と変わらない狐露と同じだ。

 だが違う、非常に狐露に似ていたが、今自分を見下ろす少女は銀髪で狐露よりも幼い。中学生ほどの容姿をしていた。衣服も白い着物だが和洋折衷で下はロングスカートだ。


 杉糸は唐突に狐露との会話を思い出す。

 彼女には妹がいたという。

 だが目の前の少女が妹とすると疑問が沢山浮かび上がる。


「フフフ……この時を待ってたです……さて、どうやって痛い目に合わせてやりましょうか……」


 少女はこちらを冷たい目で睨みながらも笑い、自分、彼女に対して何か酷い事でもしたのだろうか。恨みを買うことはあるが売った相手は記憶に残しているつもりだ。彼女は頭にはいない。


 杉糸が色々と困っている間に狐は答え合わせをしてくれた。


姉様ねえさまを誑かした愚かな人間! ここで死ねです!」


「やっぱり妹なのか!? ってちょっと待って話をっ」


「問答無用なのです! チェストォ!」


 少女が満面の笑みで何処からか刀を取り出して自分を上から逆手で突き刺そうとするが、刃の切っ先をこちらに向けた瞬間、少女が青い炎に包まれて横に吹っ飛んだ。


「ひぎゃあああああああ!!!!」


 悪役の断末魔のような台詞が響く。

 まるでワイヤーアクションの演出のようにぐるんぐるん回りながら隣の部屋を貫いていき、杉糸がちらりと覗くとぷすぷすと焦げて虫の息になっていた。


「あ……」


「杉糸ー其方大丈夫かー!!」


 聴き慣れた声を聞き杉糸は後ろに振り替える。そこには両手にスイーツ店の袋を持った狐露が慌てて走ってきた。 


「おかえり狐露」


 杉糸は何から説明していいのかわからないので取り敢えずおかえりの挨拶。


「ああただいま、これは其方へのお土産だ。後で一緒に……ではなくっ! 其方大丈夫かっ!? わらわが帰って来ると其方が命の危機でわらわ心臓がおかしくなってしまいそうで……」


「取り敢えず落ち着いて落ち着いて、顔が潰れる」


 狐露に体中べたべた怪我はないかと弄られまくれ無理矢理引き剥がす。


「さっき君が吹き飛ばした子何だけど」


「ふん、また例の祓い士とやらか? 全てカタを付けたと聞いたが……あの男の言葉も信用ならぬな。安心しろ、殺生はせぬが二度とわらわ達に歯向かえぬよう、牙を全てへし折ってやる」


 この狐、命さえあれば拷問してもいいとか思ってそう。


「いや……それはやめといた方がいいんじゃないかな……?」


 すると狐露は不満そうに軽く頬を膨らませる。


「其方は甘すぎだっ、少なくともこれはせーとーぼーえい、とやらに入るぞ」


「いやそういう話じゃなくて」


 杉糸は拉致が開かないので狐露を手招き、その命を奪おうとした刺客の姿を顎で示した。

 

「む? ふむ、珍しいなわらわと同じ狐の妖か……何故生き残っておるかは…………」


 狐露が灯りのない部屋まで歩いていくが突然と足を止め、言葉をやめる。

 その反応も見てやはりそうなのかと杉糸は察した。


狐燐(こりん)……わ、わ、わ……わらわの妹だ……」


「やっぱり?」


「うう……」


 そして予想通りの言葉を彼女は震えながら言い、狐燐という銀髪の少女が目を覚ましかけると両手の荷物を放り投げて駆け出していった。


「う、う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 焦げて意識が曖昧な少女を狐露は抱き締めて溢れんばかりの涙を流し続けた。

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