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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
女殴ってそうな糸目男
33/112

幕間 あの人は今


「なあ、中学ん時同じ学年だった小夜鳴覚えてるか?」


 大学院生である香取は今日、同じ中学、高校を通った友人である南と若本と居酒屋に来ていた。

 高校を卒業するとばったり会わなくなった友人が多い中(中には音信不通までチラホラ)この二人は成人しても定期的にこうして飲みに行くくらいには仲が良い。

 そして今日、ある程度酒を飲んで出来上がったこの時、二人に聞いて欲しかった話があった。


「寧ろ覚えてない方が珍しくない?」と言うのは中世的な顔をした南、当然男だ。


「だな」と口数少ないのが若本、勿論男。


 無論、その小夜鳴な殆ど良くも悪くもな意味で強い印象を残していた。悪いとは言いたくはないが、良いとは絶対に言えない。そんな感じだ。

 

「俺も中一ん頃は同じクラスでよく遊びに行ったんだよ、あいつ結構ノリ良いしさ、ゲーム上手いし、でもなぁ……」


 香取はぐいっとレモンチューハイを飲み、言葉を濁す。そして餃子をつまむが、微妙に味がしない気がした。

 中一の頃は本当に仲のいい友人と言っても刺し違えなかった。しかしある出来事のせいで関わる事をやめてしまった。


「俺さ、小夜鳴の事は後悔してんだよ。親友の二歩手前くらい仲よかったけどあの火事が起きた後、どう接していいのかさ……ガキの頃の俺はわからなくなって……」


 火事というのは小夜鳴が世話になっていた家が全焼してしまった事件である。小夜鳴以外、家族は全員死に一応、小夜鳴は他に引き取られても中学は続けて通っては来たけど誰もアイツを触れようとしなかった。触れられなかった。

 慰めようにもどう慰めればいいのか、アレから人形みたいに表情が冷たくなってまるでこの世全てに興味が失せてしまったように人が変わってしまった。

 中には小夜鳴を死神と陰口を言うがアイツはそれにも動じないのが怖かった。


「なんでもうちょっと関わろうとしなかったんだろうな昔の俺……手を差し伸ばせば良かったって死ぬほど後悔してるんだよ……」


 香取はため息を吐き、話を切る。

 二人ともこれが後悔の念を告げる流れと思い口を開く。


「そうだねぇ、僕が後悔してる事と言えば」


 しかし香取が手のひらを見せ、待ったと示す。


「悪い悪い、この話にはまだ続きがあるんだ」


 香取はもう一度酒を飲んで喉を潤わせた。


「実はな、最近小夜鳴を見かけたんだよ」


 すると二人ともおっと反応を示す。

 さっきまであまり興味なさそうだった若本も片眉が動く。


「話とかした?」


「いやしてねぇ」


「本当に小夜鳴だったのか?」


 すると二人は少しこの話に信憑性を疑っているようだった。まあそれも仕方ない、三年間同じ中学に通ったとはいえもう数年も経つのだ。

 大人になれば面影は残っててもやはり一見気づけなくなるものだ。


「付き添いの人がそいつの事杉糸、つってたから絶対小夜鳴だと思う。髪も白かったし」


「へー、声掛ければ良かったのに」と南は酒が飲めないのでお冷やと唐揚げを頼んでいた。


「俺も最初は声かけようとしたんだよ、でも女の人がいたから声掛けようにもかけづらくてさ」


「恋人か?」若本は一人、居酒屋でシェアできないカツ丼を食べながら言う。


「多分、で話を聞いて欲しいのはその女性の事でなんだけど」


「すっごいブスだった?」


「男だったのか?」


「いや、気持ち悪いくらい美人だった」


 この話を聞いた二人は最初はだから? と言った顔をしたが、もしも大袈裟に褒めるとしても気持ち悪い、というネガティブな言葉を普通は使わないだろうと疑問に思った。


「気持ち悪いって整形してたとか」


「フォトショ弄った顔」


「違う違う、普通のすっごい和服美人だった。高級人形みたいに顔が整ってた」


「じゃあ何で気持ち悪いんだ?」


「綺麗過ぎるんだよ、まるでこの世のモノとは思えないくらいにさ。不気味というか何というか」


 そう、小夜鳴と仲良く連れ添っていた髪の長い女性はあまりにも美人過ぎて逆に恐怖すらも感じるほどだった。

 だから声をかけづらいかと感じたのか? と問われるとまた別の話だが。


「ただの香取の嫉妬なんじゃない?」


「しねーよ、寧ろ最初は美人な彼女さんと仲睦まじそうで安心したわ、今まで酷い目に遭って来たんだから少しは幸せになっても文句は言わせねえし言わねえよ」


「なのに気持ち悪い、か」


「そうそう、ここで終われば良かったんだけどさ、俺最初小夜鳴か確かめる為に後ろ着いていったんだよ、すると話の途中にその美人さんが杉糸、って言ったから安心して声を掛けようとしたんだよ。まあ何から言えばいいか悩みまくって後ろストーカーする変質者になったけど」


「気持ち悪いの香取じゃん」


「るせっ」


 若本の頼んだ二、三人分の量が入った釜飯が来る。俺もそれ食べさせろよ、と先に言い許可を貰う。

 そして何故自分がその美人さんを気持ち悪く感じるようになったか言う。

 

「その美人めっちゃ酔っててさ、もうベロンベロン。小夜鳴いないと即お持ち帰りされても文句言えないくらい酷い泥酔状態で」


「それで小夜鳴の不意をついて美人さんに手を出しちゃった系?」


「んなわけねーだろ」


 茶々を入れる南にお前もうちょっと黙ってくれ、と言いながらも続ける。


「そんであいつら狭い裏路地歩いて行ったんだよ」


「淫行の匂いがするな」


「寧ろそっちの方がマシだったよ」


 そう、俺がその美人さんを気持ち悪く、恐ろしく感じるようになったのは勿論理由がある。この事さえなければ凄い美人さんを彼女に出来て良かったな、幸せになれよ。程度の感想しか湧かない。


「それより酷いって殺人事件の現場でも目撃した?」


「それならもうニュースになってるわ」


 それを言った瞬間、軽くデジャヴのようなものを感じた。一瞬頭に小夜鳴が殺人犯として逮捕されるニュースを見たような気がするのだが、俺は何を考えてるんだと変な妄想を否定した。


「でさ、俺、なんかその……まあ若本の言葉通りの展開起きてたらソッと何も見なかった事にして逃げようとしたんだよ」


「もう尾行せず帰れ」


 それに関しては否定できない。しかし行方の知れなかった昔の友人として一言は話したかったのも事実である。


「でもそんな事なくて一瞬で小夜鳴はUターンして元の道に戻ろうとしたんだよ、でここからが聞いて欲しいんだ」


 香取は少し真剣な目をし、二人とも本当に聞いて欲しいんだと軽く理解して耳を傾ける。


「変わった事に小夜鳴は上着の内側に青白い顔した狐を入れて歩いてたんだよ、ついでに美人さんの姿は何処にも居なくなってて」


「狐は確かに変だがその道で別れただけではないか?」


「いやいや、それがさその裏路地の先は行き止まりなんだよ、両側は大体シャッターやバーの裏口だし、どう足掻いてもあの短時間で姿を消す事は不可能なんだよ。後数十秒も経たない内に来た道を戻って来たんだ」


 言ってる自分が異端だと気づきながらもあの時見た納得のいかない光景に必死に論を並べていく。


「つまりお前はその狐が美女に化けてた、とか言いたいのか?」


 香取は簡単には頷けなかった。あまりにもふざけ過ぎている、あまりにも突飛な話過ぎる。

 しかしもしやもしやと、その可能性が一番納得してしまう事に奇妙な気持ち悪さを感じてしまう。


「だってそうとしか考えられなくてよ……」

 

「ははっ、本の読み過ぎだよ」


 馬鹿にされてしまっているが自分も南の立場なら同じ事を言っていただろう。

 それでも不思議と頭が幾ら否定しようとも狐が化けているという非現実な結論に辿り着いてしまう。


「俺はお前のように見たわけではない、が、理屈を並べてみよう」


 若本はテーブルに置かれて無視されていた釜飯を茶碗によそいながら香取の方へ置く。


「一、実はその路地にはお前の知らない道があった、もしくは裏から入る事も可能なバーの関係者だった。これが一番現実的だろう」


 確かにあの時は夜、俺が杉糸を追いかけていくと急に一人で来た道から戻ろうとした。慌てて杉糸が去った後、その路地の行き止まりまで入っていったが何せ慌てていたせいで見落としがあった説は否定できない。


「でもバーは絶対ないと思う、すっげえ酔っ払ってたしあの短時間で店に入れてポイとか杉糸がやる感じはしなかった」


「そうか」


 若本は次に釜飯を南の方へ置く。


「二、お前の見間違い、もしくは嘘」


「はぁ?」


 それはちょっと酷い推理なのではないかと声が出る。


「念のためだ、お前が酒の肴として作り上げたホラ話の可能性だって考慮しなければならないだろう、と言いたいがメリットがない。酒は飲んでたか?」


「俺? バイト終わってすぐだったから飲んでないけど」


「ならこの線は無さそうだねー」


 最後に若本が自分の分の釜飯だけこんもりと盛る。


「三、お前の考えてる事が本当だったパターン」


 それは化け狐、というオチである。


「ないね」


「ないな」


「やっぱりそうなのかなぁ……ん、じゃあ狐はどうなんだよ」


 一瞬、一の説に納得しかけたが、ならあの時見た杉糸が抱いていた狐は何なのだという話に戻る。


「知るか」と珍しく口数が多かったのに、一気にいつもの無口な若本に戻って飯を食べ始めた。


「襟巻きか何かと勘違いしてたんじゃない?」


「いや夏だろ」


「夜は寒いじゃん」


 そう言われればそうなのだが、やはり喉に骨が刺さったような何とも言えない不愉快さを覚えてしまう。

 骨を取りたいが、いざ取ってしまうとそれはそれで知ってはならない事まで知ってしまうような危うさを感じないわけではない。

 

「やっぱり俺の見間違いだったのかな」


「そうだよそうだよ、まっ、気を取り直して飲も飲も」


「そうだな……」


 香取は頷き、よーしと一気にジョッキの中のチューハイを全部飲み干した。

 あの夜、並び歩く二人の姿は何処か楽しそうだった。

 もし本当に化け狐だったとしても杉糸が幸せならそれで良いかも知れない。まあ狐はないだろうけど破局しない事を願うばかりであった。


     φ


「関わらなかったからこそ助かった命か、皮肉な話じゃの」


「皮肉?」


 杉糸と狐露は遺体掘りの翌日、ある居酒屋で食事を取りながらさっきまで無言で運ばれて来た料理を食べ続ける狐露がやっと口を開いた。

 しかし皮肉としか聞き取れなかった、何が皮肉なのだろう。


「いいや? わらわは肉と言った。其方の聞き間違えだろう」


「そう」


 杉糸は別に気にしないようにお酒を飲む。

 

「しかし其方よ、あの三人連中と知り合いなのだろう? 声は掛けなくていいのかや?」


「出来ればこのまま関わりたくないな」


 狐露に話したつもりは無いがやはり鋭い。どうやって気づいたのか。

 ちなみにその三人とは昔の中学の時の同級生である。偶然寄った居酒屋で知り合いらしき人物を見かけた。しかし向こうは覚えてないだろうしこっちも呪いの性質故に関わる気は一切ない。

 狐露がごねなければ別の店を選んでいた。


 せっかく狐露の我儘を聞き入れたというのに今の彼女は静かだ。入る前はここが良いここが良い五月蠅かったのだが、食事が好みじゃなかったのだろうか、それとも今着てる黒じゃない灰色のノースリーブの洋服が気に入らないのか。


 それとも単に自分を気遣ってくれているのか。


「杉糸、其方何にやけておるのだ?」


「いやなんにも」


 そう言ってノンアルのお酒を飲み、狐露に酒を飲み過ぎないよう目を光らせ続けた。

 しかしどっちにしろ凄い酔っ払って杉糸が宿まで背負う羽目になってしまった。

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