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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
女殴ってそうな糸目男
30/112

糸目の男



「既にいんたーねっとやテレビとやらではこの事件は拡散されているのであろうなぁ……はぁ奥の奥の手である記憶の書き換えもこれでは骨が折れる。既に世の理を変える必要があるかも知れぬな」


 改変も出来ないわけではない、わらわは最強の存在ではあるがあくまで戦闘に特化しただけに過ぎない。

 術も広く浅いだけで一芸特化の専門家にはやはり劣ってしまう。世の改変などやってしまえば数年は寝たきりになるだろう。

 ただでさえ人の世は短いのだ。それは出来る限り避けたい。


 狐露は事件現場の旅館前で隠していた気配と姿を戻し、人混みの波の中をもう一度漂い始めた。

 そしてぶらりぶらりと気の向くがままに歩き続ける。歩き続けた。


  φ   


 狐を陥れろ。


 任務といえばただそれだけであった。具体的には説明されなかったがただ言える事は何をやってもいいから奴が害のある存在だと証明しろ、という事になる。

 狐は少々ややこしい立場に守られていたりする。その守られている詳しい話は省くが、簡潔に言うと世界を滅ぼす狐がいるがこちらから攻撃は禁じられている。だから奴が犯罪幇助でも暴挙でも起こしてくれれば世を乱す存在として対処が可能となる理由になり得る。


 狐は今や男と離され少々焦り出していると見た。

 このまま予想通りの行動をするのは時間の問題であろう。

 正面から勝つ事は不可能だが案外絡め手ならアッサリ終わってしまう。


 私は狐を遠くから見つめ続けた。ただし気配を悟られぬよう二重三重と術を重ねて姿を隠し、のらりくらりと歩く狐を背後から追いかけ続けた。


 すると狐の姿が突如揺らぎ陽炎となって消えてしまった。


 落ち着け、完全に消えたわけではない。向こうは力まで隠す事はしてなかった。その力ははっきりと探知できる。


 私は狐の力を追い続け、段々と3時頃というのに薄暗い道ばかり歩いている事に気づく。

 そしてこの裏路地は今や人一人存在しない。


 胸騒ぎがした。

 霊力を追い続けるあまり自分が罠にハマってしまったのではと嫌な結論が頭に過った。


 一旦ここは距離を取るべきだ。


 そう思い背を向けて走り出そうとした。


「ほう、犯人は現場に戻ってくるとはよく言ったものだ」


 何処からか狐の声がした。


「残念だが、既に……」


 狐の声が徐々におどろおどろしい物へと変わっていく。


「貴様はわらわの()の中だ!」


 足を引きずられ石畳に体が沈んでいく。

 私は叫ぶ、だが叫ぶより先に全身が沈んでいった。

 沈んでいった先は水の中、恐怖によって水が肺を犯していく。

 足を掴む腕を必死に払おうとするが骨が軋むほどの握力に抵抗できず、ただただ深い水の底へと落ちていく。


 息のできぬ苦しみに意識が途切れそうになった瞬間終わりは来た。


 陸に体が引き摺り上られた?


 私は口から嘔吐するように水を吐き、必死に息を吸う。

 息を吸い世界を見た瞬間、そこは寺の中であった。

 三つの狐の面を被った大仏が横に並び、中央の大仏の前に一人堂々とあぐらを掻き、頬杖をしながら冷たい目で見下ろす者がいた。

 狐だ。


「推理もので前触れも布石もなく唐突に現れる犯人はご法度らしい。生憎わらわはほーむずでもぽあろでもないのでどうでもよいが」


 狐は自らの髪をつまらなさそうに弄る。


「さあ尋問を始めようか初対面、貴様が杉糸に罪を着せた罪深き愚か者だな? 猿」



 髪は短いすーつ姿のしゃんとした女だった。まあ今となっては整った髪は水に濡れ、化粧も剥がれ落ちて酷い有様だが。

 それでも綺麗だと思える辺り元から容姿が良いのだろう。


 その女は人間だが妖と同じ力を使える。というよりそもそも犯行現場に残っていた霊力が奴から作られたものである。


 女は上着の懐に手を入れ何か取り出そうとする。

 札か、本来の狐なら相手の尊厳を弄びへし折るくらいの楽しみ方をしたのだろう。だが今となってはそんな余裕もなく、今の狐を構成していたのは怒りと焦りだった。


 狐の背後で青い炎が爆発する。

 瞬間、既に狐は女の顔を掴み、板張りの床の上に体を叩きつけていた。


「がっ……!」


 炎を加速に利用した。ただそれだけのことだった。

 女に怒りはあるが同時に話を聞かねばならない、という最低限の冷静さも持っていた分、女の身はほぼ無傷。

 しかしこれ以上抵抗されると困るので仰向けになった女の腰に跨り、馬乗りになった。


「貴様が何をやってもわらわには勝てん、だがわらわも鬼ではない。今から問う話を全て答えれば五体満足で生かせてやる」


 生かせてやる。

 そうは口で言ってるものの暗闇に映る狐の顔は酷く恐ろしく説得力のない言葉であった。


「杉糸、白髪の男をはめたのは貴様だな?」


 女は目を逸らして無言。

 だが狐は顔を掴み無理矢理視線を合わせる。

 思い出すのは死体を前にした杉糸の今にも壊れそうな顔、


「女の霊をあの旅館に手引きさせたのも貴様だな?」


 狐露は女の口に指を入れ、閉じた口を開かせようとする。


 だが女は無言を貫く。

 カッと頭に血が上り指に力が篭る。

 思い出すのは冤罪を良しとして罰を求めようとする杉糸の顔、


「貴様が杉糸に罪を被せたのかと聞いている!!!」


 狐は指を離して拳を振り落とす。

 だが拳は女の顔の真横に落ち、床に穴が空いただけだ。


「殺せ」


 女が初めて口を聞いた。


「生憎わらわは無殺生だ、だが殺すよりも悍ましい行為をわらわは知っておるぞ? 答えぬならまずは指、次は骨、次は四肢を切り落とす。貴様が頭と胴だけになろうがわらわは関係ない、寧ろわらわはそれが楽しみで楽しみで仕方がない」


 暗闇で狐の目が隠れ三日月のように開いた口元だけが女の目に映る。

 それを見た瞬間、女はゾッと体が震えて冷静さを保っていた表情が一瞬崩れた。


 だが女が狐の顔を見た瞬間、怯えは無くなった。


 狐は泣いていた。

 目に涙を浮かべて女の頬に涙を落としていた。


「何故だ……何故奴がまた苦しまねばならんのだ……!」


 嗚咽を殺し狐は言う。


「奴は……杉糸は……自らの呪いのせいで大事な人を何人も死なせたのだぞ……! 貴様はそれを知っているのか!? それを知ってて奴に人殺しの罪を被せたのかっ!!」


 歯軋りし涙を堪えようとしてもそれでも涙は落ちてくる。


「それを知っていたのかと聞いておるのだ!!!」


 だが女は答えない。だが目を大きく開き、まるで珍しいものでも見たかのように驚きを隠せない顔をしていた。


「わらわは……わらわは……っ! 杉糸を守るためならなんだってする……! 奴の心を守るためならなんだってする……!!! 世の理だろうが人間だろうとも……!!」


 泣いていた狐の言葉に徐々に殺意が篭っていく。

 そして顔が異形に歪み、人の姿をやめて狐そのものの巨獣に変わろうとしたその瞬間だった。


「おーい狐露」


「はえ?」


 狐は人の姿に戻り、調子の抜けた声を出す。

 寺の入り口には杉糸の姿がいた。

 一瞬、偽物かナニカかと思った、しかし狐露の透視の力を発動させた目には杉糸そのものを映していた。


「す、杉糸っ!!」


 狐は女の事など忘れて、まるでご主人を見つけた愛犬のように走り出す。

 そして思いっきり飛び込むように抱きついた。


「おっとっとっと……」


 杉糸は体勢を崩しそうになるが狐を支えるように抱く。


「其方! いつしゃばに出たのだ!? 無罪放免になったのか!? 外に出れたなら一言言わぬか!」


「いや言える状況じゃないよねうん、まあ話をすると長くなるけど」


 杉糸は狐をよしよしと慰めるように抱きしめながら後ろを向く。

 つられて狐も杉糸の胸から顔を上げて同じ視線を向けるが、そこには男が一人いた。


「いやー、こんなとこで乳繰り合うなんて羨ましい、ホントに仲がええんやね」


 容姿はかなり整っている方だ、帽子を被っているが髪も金色なのはわかった。

 容姿に関しては特に顔がテレビに出るめんこい男達に引けを取らないほど良い。足も長く、灰色のすーつも似合っている。扇子でパタパタと仰ぐ姿が様となっている。


 しかし糸目で人懐っこい雰囲気を漂わせているが、狐は一眼その男の顔を見ただけで「こいつは信用ならん」と本能がそう告げた。

 なんと言うべきか「女に暴力を振るった後に優しい声をかけ飴と鞭を使い分ける男」

 そんな印象を抱き、グルルルルと威嚇しながらも杉糸を抱きしめる。


「躾がなってないねサヨナキ君」


「躾か……うん、やっぱり必要なのかな……」


 唐突に杉糸が外道な言葉を吐き、狐露はあまりの酷さに目を丸くする。


「ダメや、ちゃんと畜生は牙抜いとかんといつかキミ殺されんで?」


「それはそれで僕的には良いんだけどね」


 それに加えてこの信用ならぬ男と杉糸がいつの間にか仲良くなっている事も気に入らなかった。


「まあこんな辛気臭いとこで話すんのもアレやし移動しよ? そこで寝てる華ちゃんも一緒に」


 男は背を見せて歩き始めるが、数歩歩いてこちらを向く。

 そしてパチンと扇子を閉じた。


「そういやキミにはまだ言っとらんかったか、玲、月光玲ツキヒカリレイや、人探しや浮気調査で留まらず、警察じゃ聴き入れてくれない怪奇事件まで引き受ける私立探偵やっとる、よろしぃお願いします」


「何っ探偵だと!?」


 探偵と聞き狐露は子供のようにキラキラと輝いた目を男に見せた。

 糸目の男、玲は被っていた紳士帽に手を置き、にやりと笑みを浮かべたが、わらわより此奴の方が狐のような顔をしていたので我に帰ることが出来た。


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