狐の少女と白髪の青年 2
基本木造の屋敷内は古い作りであったが非常に広く精密で頑丈に出来ていた。広いがあまり部屋道具の少ない豪華なのか質素なのかわからない部屋を開けていく中、居間と思わしき他とは違う部屋を見つけたのだ。
六畳間ほどの部屋だが周囲にはよくわからない物で散乱していた。酒瓶やら札やらブラシや櫛やら骸骨やら狐の木彫りやら将棋盤やら何かの木のみやらすり鉢やらもあってここで何をしてたのだと疑問に思う。
まあしかしここは丁度良い、青年は上を見上げ天井が梁状になっている事を確認した。そしてここには机代わりの卓もある。
その上に干し肉や魚など肴が置かれていたので少し罪悪感を覚えながらも退かし木の卓の上に乗った。
そして鞄の中からロープを取り出し、つま先立ちで梁にロープを引っかけようとするのだ。手際が器用なお陰でもやい結びに固定するのも難なく終え、首を引っかける為の輪もちゃんと忘れずに作る。
「よし」
そう笑顔で言って青年は首を__
どたどたどたどたどたどた。
「何がよしだ!!」
部屋の襖が凄い勢いで開き、息を荒げた狐が必死の形相でこちらを見る。
「ま、ま、ままま待て!! 早まるなぁっ!!」
青年は笑顔で言う。
「大丈夫、数日何も食べてなくて胃が空っぽなんだ。だからそこまで汚れないよ」
「そういう問題ではない阿呆!!」
狐はぜーぜー息をして汗を流しながらもこちらを落ち着け、一度落ち着こうと刑事ドラマでよく見る展開を始めていた。
「そ、其方も若いのに何故死のうとする? い、生きておれば何かいい事もあるぞ」
おお、刑事ドラマでよく聞くセリフ。
「それを言った父さんは僕のせいで死んだよ」
「だ、だったらわらわが相談に乗ってやる、だ、だ、だだから考えなおせ!」
「同じく似たようなことを言った友達は死んだよ、僕のせいで」
「うっ」
「それに」
青年は付け加えるように笑みを浮かべながら言う。それも意地悪をする子供のように。
「君は僕の死体を望んで処理してくれるんだろう?」
少し重箱の隅をつついているような気もしたが全部彼女の言った言葉だ。
口は災いのもととはよく言ったものだ。軽はずみな言葉が相手にとっては大事で生死を決める出来事になる場合だってある。
まあ初対面の地雷を気にして会話をしろなど、超能力者でもない限り無理な話であるが。
「と、っと、とっ、とにかくやめろ!!」
困りに困った結果、実力行使に出た。
「ぎゃっ」
しかしまあ首吊りもとい自殺とは誰もいない所でするものだ。そして首吊りは刃物と比べると手間がかかり死までの時間が少々長い死に方でもある。
既に二日も食べてない僕は狐に腰を掴まれてアッサリバランスを崩し背中に衝撃を感じた。
畳の上に落ち、運良く胴体には下に散乱したガラクタとぶつかる事はなかったが足はかなり痛かった。
「いつ……」
胃液を吐きそうになり一瞬意識がフラッと消えそうになる。だが腕と足に何か押し付けられる重みを感じてぼやけた視界をハッキリさせる。
どうやら倒れた後、狐に押し倒されたようだ。そして馬乗りの形になり両腕両足を拘束されたしまっている。
しかしまあ、馬乗りになる狐の太ももは柔らかく着物の上なのでわからないが豊満な肉体をしているのだろう。変な感情が芽生えそうだなと思いながらも狐の反応を見るにそんな気は起こさせてくれないらしい。
彼女は息を荒くしながら舌ったらずな口調で言う。
「めっ、めっ、迷惑だっ!! ここで死なれたら迷惑だっ!!!」
「でもさっきは__」
「気が変わった!!」
狐は有無も言わせぬ勢いで押し通そうとしてくる。
これは狐の考えた自殺を止める最善の策なのだろう。そしてそれが青年にとって自殺をやめる理由に事足りるのも確かだ。
しかし誰も見つからないとされるこの地は最高の死に場所と言ってもいいのだがそんな場所に狐はいた。
そして狐が悪人ではなく自殺を止めようとする狐である事は目を見てわかった。
押し倒されている今のような結果になる事を知っていてどうしてこんな真似をしてしまったのだろう。
焦っているのだろうか。それとも腹が減って頭がおかしくなったのか。
でもまあ取りあえず迷惑じゃ、仕方ない。
「わかったよ。やめる」
青年は降参の意として両手を上げた。
こうして青年の首吊りは阻止された。