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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
女殴ってそうな糸目男
28/112

ぎゃー人殺し

「むにゃむにゃ……そうか……わらわは杉糸を食せばよかったのだ……これなら永久に一つに……むにゃむにゃ……」


 夜、狐露は布団で眠りながら一体どんな猟奇的な夢を見ているのか、そう突っ込みたくなる寝言を呟いていた。

 そして自分の尾を抱き枕代わりにしながら齧っている。


「むふふふ……其方は美味じゃな……もう一口……もうひとく……」


 がぶっ!


「いぎゃー!!!」


 狐露が自分の尾を齧るどころか噛んだ瞬間、敏感な尾が総毛立ち、痛みで目が覚めた。


「なんだなんだ敵襲か! 杉糸!! 攻撃されておる…………」


 自分の涎でべたべたになった一本の尾を見て口籠った。


「杉糸……なんでもないぞっ、敵はわらわが倒しておいたぞっ、だから心配せずとも__」


 狐は顔を赤くしながら頭に浮かんだ誤魔化しを並べるが、またまた言葉が詰まる。

 

「杉糸……?」


 隣で眠っていたはずの男の姿が何処にもなかった。


「あ奴はわらわと寝るのが嫌なのか……?」


 一応布団は分けているはずなのに。


「まあよい、わらわは二度寝でも……」


 そう言って布団に潜り、また瞳を閉じようとするが霊のことを思い出す。

 

「大丈夫ではあると思いたいが嫌た予感がするな……」


 狐は尾と耳を隠し、よろよろになっていた寝巻きを整えて部屋の外に出る。

 ちなみにこの旅館は計十三の部屋がある、それぞれ十二支をあてがった名前を付けられてたりする。

 わらわ達が泊まった部屋は2階に上がって一番端の猫の間である。


「しかし世話が焼ける」


 しん、と静まり返った板張りの廊下に一人佇み顎に手をやる。

 

 探らせるか。


 狐露は常人には見えないよう仕組んだ青い人魂を大量に出し、杉糸を探せ、と一言命令する。

 しかし一瞬、待て、と人魂達を止めさせた。


(ぷらいべーと侵害? とやらになるかも知れぬな……)


 いや躊躇ってる場合ではない、行け、と狐が呟こうとした瞬間であった。

 遠く離れた部屋で中年女が部屋から出て廊下を歩いていた。

 おっとっとと慌てて狐は自分の部屋に戻り、すーっと顔だけ部屋の外に出して女の行く末を遠くで見ようとしたが、

 次の瞬間、女の取った行動に全員が起きる羽目になる。


「きゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 それは狐が寝起きに叫んだ声とは比較にならない叫び。部屋を見て叫びを上げたように見える。

 恐怖に染まった絶叫、それを聞いた途端狐露は廊下を蹴って地に足を触れる事なく遠く離れた部屋の位置まで飛翔する。

 体を翻し、ズサササと爪を滑り止め代わりとして床の板を削り勢いを殺して辿り着く。


「どうした!?」


 狐は牛の間で腰を抜かし、呼吸困難に陥っている女を体を支えて質問を投げるが女は指をさしてあわわわと顎を外したかのように口を動かすだけであった。

 牛の間……そういえば悪霊が存在する部屋もこの間であったな……

 もしや霊を目視したのかこの女は? それならこの反応も仕方ない。

 

「この部屋に何かあるのだな」


 狐露は空いていた部屋に躊躇いもなく入り込む、不本意であるがこの際成仏してもらう事にしよう。

 後でこの騒動を聞きつけた杉糸が文句をぶーぶー垂れるのを安易に想像できてしまう。

 狐はため息混じりに部屋の中身を見るのだが、


 心臓が握り潰された。

 肺が酸素を送り込むのを拒んだ。

 網膜が痺れ視界が歪む。

 世界が無音となり耳が狂う。

 そして脳がこの光景を否定した。


 死体があった。布団の上で美しい月夜に照らされながらもおぞましい形相で目を開き、両手で自らの喉元を掴もうとする男の死体。

 

 死体なら飽きるほど見てきた、だが今回は違う。

 今回は違って欲しかった。


 狐はそっと、この部屋にいた死体とは別の人物に目をやった。


 その男は死体と同じように月夜に照らされながら呆然と夢遊病のように死体を眺めている。


「杉糸……? 其方一体何をやっている……?」


 狐の声に杉糸はふと我に帰ったかのようにこちらを向く。

 その顔はいつものように笑っていない、本気で困惑している顔であった。


「そ、そいつが人殺しよ!!!」


 そしてさっきまで喋る事もままならなかった中年女が杉糸に指をさす。


「ま、待て違う!」


 狐は慌ててそれを否定しようとするが、中年女以外の他の客も含め部屋にゾロゾロとやってきて、その多数の雰囲気に狐の声は萎んでいった。


「狐露、僕は困った事に記憶がない」


φ


 あれから10分にも満たない時間がたった。

 だがその時間は狐を冷静に取り戻すには十分な時間であった。


 杉糸は殺していない。


 これは感情による盲目ではなくそれを証明する確固たる証拠がある。

 しかし安心と同時に心配が芽生えた。

 この証拠は【人間相手ではどう足掻いても立証できない、霊による殺人】だからだ。

 被害者を調べると力が残っており、霊が首を絞めこの部屋の客を殺した。死体の首回りに指で絞められた痕がある。困った事に男か女かわからない指の形をしている。恐らく指紋も出ぬだろう。


 霊が人を殺した。これは紛れもない事実なのだが、何故という疑問が芽生える。

 自分の目が衰えたか、察知した時点では人を殺す程の力など持っていなかったはずだ。いや幾ら考えても言い訳でしかない、あの時杉糸が言った通り祓っておくべきであった。


 警察がやって来るまでは狐にも冷ややかな視線を向けられた。

 共犯者と思われているのだろう、それくらいならまだいい。

 

「おい、こいつ縛っておいた方がいいんじゃないか? 人殺しなんだろ!?」


 一人の男が杉糸を指さして言う。その言葉を聞き、狐は頭に熱が灯るのを感じた。


「巫山戯るな! 其奴は人を殺してなどおらん!」


 狐露のキツい睨みを加えた物言いに相手は一瞬引くが、それでも言い続けた。


「あ、あんたはそいつの女だから言えるんだろ! それともアレか? アンタも人殺しなのか?」


 するとその男の声が引き金となってしまったのか杉糸に強い声を投げかける者が増えていく。


「何でもいいからそいつを抑えろよ、何しでかすかわかったもんじゃねえ」


「なっ……!」


 若い金髪の男の言葉に周りの客は同調し、比較的杉糸より肉付きのいい男達三人が近づこうとする。

 其方がその気ならこちらも考えがある。

 狐は杉糸の盾になるよう前に出た。


「狐露、僕は大丈夫だから」


「それは鏡を見てから言え」


 そう、杉糸の顔は青白く、今にもまた壊れてしまいそうなほど不安定であった。

 人殺しと言われた事に傷ついているのではない。また人を殺してしまったかも知れない事実に自制心が保てなくなりかけている。

 狐は小声で杉糸に伝えた。

 

「其方は殺してない、これは霊による殺人だ。何故こうなったかはわからぬが其方が殺してないのだけは確かだ、わらわが言うのだから信じよ」


「…………」


 杉糸は何も答えなかった。

 しかしこのままでは埒があかないのも確かだ。

 男達は痺れを切らし、わらわを引き剥がすかわらわ事捉えようかと口に出していた。

 上等だ、わらわの所有物ものに手を出そうとするのだ、火傷をしても文句は言わせん__


 その時、遠くからぱとかーのさいれんが鳴り、杉糸を捕らえる事は有耶無耶になった。


     φ


 被害者は要陽介かなめようすけ28歳、職業書店の店員。

 死因は手による絞殺。第一発見者は小夜鳴杉糸、証言によると気がつけばこの部屋にいて被害者が死んでいた。

 ちなみにわらわは死亡推定時刻と夜中に叫んだ事がアリバイとなり容疑者からは一旦外された。一応この時、術で自分の戸籍を誤魔化した。

 わらわは一度杉糸の為に殺人の誤魔化しを行おうとしたがそれはダメだと救おうとしている当の本人に釘を刺され仕方なく術を収めた。

 無論わらわに関する事以外何も弄ってないこの状況で刑事が次に動く行動と言えば、


「小夜鳴さん、事件の重要参考人として署までご同行お願いしてもよろしいでしょうか?」


 一人の線の細い初老の刑事が杉糸に声をかけ、杉糸は簡単に了承した。


「わかりました」


 杉糸はさっきよりは顔色が良くなり、この状況で逆にアッサリ過ぎるなと初老の刑事はそんな顔をしていた。しかし狐露はそれを許すわけも無く突っかかろうとする。


「重要参考人? マルガイの間違いではないか?」


「狐露さん、マルガイは被害者の方ですよ」


「な……し、知っておる!」


 テレビでかじった程度なので素で間違えてしまったと顔を赤くしながらも反論する。


「兎にも角にも其奴は犯人ではない! 証拠はないが其奴が人殺しするような人間ではないとわらわが一番知っておる!」


「はい、まだ彼が犯人と決まったわけではありません、ただ一番事件に近い人ですから少々こちらでじっくりと話をお聞きしたいんですよ」


 口ではそう言うが刑事も他の人間と同じ目をしていた。

 杉糸を犯人と決めつけている目だ。


 狐露が唖然とし立ち尽くすその間、既に杉糸は刑事と共に歩いて行き慌てて追いかけようとする。


「待てっ!」


 しかし杉糸が連れて行かれるのをじっと見ているだけしか出来なかった。

 



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