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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
女殴ってそうな糸目男
27/112

狐、京都にいます

 小夜鳴杉糸は親しい者だけを殺す概念染みた呪いを持つ。


 それは生まれながら持ってしまったものでもはや彼の半身と言ってもいい、だがそれをもう一つの自分と受け入れるには少々気難しい話であろう。

 親を殺した、祖母を殺した、親戚の叔母家族を殺した、友人を殺した。

 この頃奴は自分の事をまだ呪われているとは気づいていなかった、それでも自分のせいで人が死ぬと思うようになるには日の目を見るより明らかだ。


 そしてある時、現実とは裏の立ち位置の存在がこう言った。

 杉糸は呪われていると。

 それを知った途端、杉糸は死を望むようになる。自分が生きてはならぬ存在と認識し始めた。

 そんな中わらわという狐と出会い、乳繰り合ってまた生きてみると言ってくれた時は嬉しかった。

 そしてわらわにこの事を全て話してくれた時にはもうすっごい愛おしく感じた。わらわが奥手な性格じゃなければ抱いてたくらいに。


 今は杉糸が自身の罪と向き合うからと殺してしまった者の墓参りに付き合っていた。

 今日杉糸は全ての墓参りを終えた。

 一度彼が殺したとされる親友の妹と出会ってしまった時は本当にダメかと思ったがそれはまた別の時に落ち着いて奴と心の整理を話し合おう。


     φ


「~♪ おおっ、見ろ杉糸ー! 外の景色が素晴らしいぞー! 川の上で商売を始めてる者までいるぞっ!」


 狐露の窓から指をさし動く景色は山中の自然溢れる緑や川、現在京の町でとろっこ列車とやらの走る風の気持ちよさや自然を楽しんでいた。


「そんなに身を投げ出したら怒られるよ」


 しかし隣の杉糸は楽しんではいるが一歩距離を置き、わらわの保護者のような面をしている。

 ふん、面倒を見ているのはわらわの方と言うのに。

 まあ折角楽しんでるというのに負の感情を持つのはやめておこう、列車は景色が変わり映えしない暗闇の穴に入ったので話題でも逸らすか。


「杉糸、わらわ最近になって気づいたがやはりこの服装が性に合っているようだ」


 そう言って踊るように主に屋敷内で常時着用している黒い着物の袖をヒラヒラ舞わせた。


「僕もそれが一番似合うと思ってる」


 普通の誉め方だったが口元が緩むくらいには嬉しかった。

 

「この町(京都)はわらわが着物を着ても浮かないのが良い」


 先程からわらわのように着物を着ている人間がちらほらいた。

 今もこの列車に何人か着物を着用している客がいる。

 

「まあ都会と変わらない場所の方が多いけどね」


「ふむ、それはつまらんな」


 頬杖をつきながらそろそろ長い穴から出て外の景色が見える瞬間、こちらに気配を近づける者がいた。

 顔を向けるとこの列車の従業員であった。

 胸に……かめらといったか? それを持ちながらこちらへ構える。


「そこのお二人さん記念写真どうします? 現像は一枚千円ですが思い出に換えられないモノはありませんよ?」


 もしかしてわらわを撮るのか?

 こくりこくり、ええそうです。

 顔の動きと表情だけで言葉のいらないやり取りが行われた。


「杉糸」


「いいんじゃない? 撮ってもらったら、お客さんみんなに聞いてるっぽいからつっかえたりすると迷惑だよ?」


 一瞬不安になった狐は杉糸に助けを求め、彼の言う通りに一枚だけならいいかと思った。

 そもそも写真というものをあまり理解していない。切り取った絵を色付きで模写する何か程度としか思っていなかった。


「い、一枚だけだぞ」


「流石美人さんは物分かりが良い! では撮りますよ!」


 そして男はカメラを向け、二人並ぶよう指示してくる。


「はいもっと寄って寄って! お二人さんカップルですか? あーなんかすげぇ妬ましい……やっべ本音出た……気を取り直してもっと寄ってください」


 客が多い故か他が入り込まない為にも従業員は腰を痛めそうなくらい体を捻って距離を取る。


 杉糸はこちらに身を近づけて、狐露の顔がほんのり赤くなる。


「じゃあ撮りますよ、はい! チーズ!」


     φ


「ムフフフ」


 狐は露天風呂付きの和風高級旅館の客室で一人ゴロゴロとニヤけながら転がっていた。

 畳のイグサが尾につく事も気にせず、二人で写った写真を手に持ちながら転がり続ける。

 わらわの写真は前を見ようとせず杉糸を見ていたが、それでも二人がいた証として残ってるのが何よりも嬉しい。


 写真を胸に抱き、気持ち悪い笑みのまま転がり続けると、


「はー、いいお湯でした」


 ゴン!

 寝間着の和服を着た杉糸が露天風呂側の戸を開いたのと同時に狐は額と柱をぶつけてしまった。


「大丈夫? 今すごい音なったけど……」


「な、なんでもない! わらわ別ににやけてなどいないぞ!」


「うん、にやけるより普通泣くと思うよその怪我では、ほら血」


 杉糸は呆れてるのか困ってるのか分からない様子で畳の上に座った。

 狐はその隙に写真を炎の中に隠し、後でまた堪能する事にした。今ここであんな事してたのを知られたら自決ものである。

 狐はこれ以上口を開けばボロが出ると察し、血が出てるデコを治して料理が並べられた卓に座る。

 

「わらわは腹が減った、其方が出るのを待ってたのだぞっ」


「別に先に食べててもいいのに」


「わらわの気持ちというものがわからぬ奴じゃの其方は……」


 すると杉糸は笑いながらごめんごめんと謝っていた。


「わかってるよ、一緒に食べよう」


 そして卓に並べられた和食という和食の数の暴力を見て狐は尾と耳を踊らせた。

 釜飯に刺身に天ぷらに鍋に肉、一見線の細い女性に見える狐露に完食は無理と思える量をしているが生憎此方は食を必要としない化け狐。

 完食などお茶の子さいさいである。


「美味美味!」


 並べられた料理を一つ一つ食べるだけで尾がパチンパチンと畳を叩く。今まで尾と耳を隠す事が多い反動もあるのか今日は一段と反応が大袈裟気味だった。

 

「ほら杉糸、其方も食え食え」


 箸が止まっている杉糸に狐は刺身を掴み、彼の口に近づけた。


「僕は元からそこまで食べる人間じゃない……ん、ありがと」


 杉糸が刺身をパクりと咥えた時、狐はそういえばと伝えておくべきだった言葉を思い出す。


「そういえば杉糸、この旅館には霊が漂っておるぞ」


 杉糸はわらわの箸を咥えたまま真顔になった。

 もぐもぐもぐもぐ、ごくん。


「唐突に言うね」


「別に些細な問題でしかないからな」


 杉糸は小皿に鍋の具材を入れながら話し続ける。


「霊か、妖と違って何度か見かけた事はあったなうん。ポン酢かける?」


「かけてくれ」


 狐は杉糸から小皿を受け渡され、ふーふーと息で豆腐を冷ます。


「人から生まれる妖とは違い、強い怨念や後悔によりこの世に縛られた人だった残火が霊だ。いつか風に吹かれ消えて無くなる存在でもあるがそれとは別に発見された霊の大半が悪霊だ、無論地縛霊も含めてな」


「それはどうして? 僕が出会った幽霊さんは話しやすい人だったよ」


 あちち、と舌を火傷した狐に水を注いだコップを杉糸は渡す。

 ごくごく。


「簡単な事だ、未練や怨念が強いものほど長く滞在できる。当然些細な後悔では数日も経たぬうちに消えてしまう。其方があった霊は其方と話したのち即成仏しただろうよ」


「ちょっと悲しいなそれは、もん死んでたから仲良く出来たのに」


 杉糸が何とも言えぬ表情のまま話を繋げる。


「それでここの幽霊さんはどっち?」


「悪霊である可能性が高いな」


「じゃあなんで先に言わなかったの」

 

 杉糸は苦笑いしながらこちらに問い始めたが、今回はちゃんと反論の答えがあったりする。


「わらわが気づいたのはさっきだ、いや気配を出し始めたのがさっきとも言うべきか……時間によって力を増す霊か……丑三つ時という言葉があるであろう?」


「霊が出る時間帯言われるアレ?」


「うむ、それに近い存在だろう。夜に死んだ、もしくは殺されたのかも知れぬな……わらわ真面目に話してて忘れていたがこの箸関節接吻とやらに……」


「もう少し真面目なままでいてほしいな」


 杉糸の冷めた笑い顔に胸が縮こまった気がするので慌てて真面目なわらわに戻ろうと意識する。


「じょ、冗談だ。しかし今更旅館を変えるわけにもいかぬだろう、だが万が一として夜中に出歩くのはやめておけ、それかわらわを連れていけ」


 とは言っても厠は室内に存在する、杉糸が外を出歩く理由は特に無いだろう。


「そこまで言うのに対処とかしないんだ?」


 わらわは切り捨てるように言った。

 

「興味ない、わらわなりに調べたが霊による不審死は特になかった。悪霊といえどその部屋に泊まった者に悪夢を見せるなど些細な嫌がらせ程度であろう、それに」


 そしてブスッと行儀悪く天ぷらを箸で刺し、不満気に言う。


「陰陽師と同じ事などしたくない」


 そのまま行儀悪く口に放り込む。

 

「行儀悪いよ」


「誰のせいだと思っておる、まあ後で風呂に入るわらわの髪を纏めてくれりゃあ許してやらんでもないが」


「はいはい」


「ついでに乾かしてくれ」


「はいはい」


 杉糸は苦笑いしながら狐露の減った湯飲みに水を入れた。

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