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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
君の為なら生きる
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迷走

 脳に血が詰まってるんじゃないだろうか。


 それとも頭全体が血液パックのようにぎゅうぎゅう詰めになってるんじゃないかと思うくらい頭が痛かった。

 外を見ると空の日は堕ちて夜と化していた。


 あれからどれほど山の中を歩いて来たのか、遠くを歩いたようでぶらりぶらりと同じ所をぐるぐる死人のように歩いた記憶しかない。

 思考が過去に飲まされた事のある自白剤のようにまどろんだ。

 今の行動理由さえ曖昧だ。


 杉糸は虚ろな目で夜の静かなようで耳障りな風を聞きながらただただ歩く。

 しかし夜道なのと死人のような足取りだったせいか足元を掬われた。


「あ」


 世界が回る。視点がブレる。

 身体は転がり体全身に強い衝撃が何度も打ち続けられ、背中に一番重い痛みを感じて動きは止まった。


「がっ……!」


 痛みで視界が眩む、意識が薄れていくが強烈な吐き気により気絶する事は無かった。


「げほっ! げほっ……はぁはぁ……うっ、おえっ!!」


 胃の中身を全てぶちまけた。だが胃液しか出ず、ただ体力を外に吐き出したような不快感だけが残った。

 横転のブレーキになってくれた木にもたれながら息をする。

 痛みのお陰か、皮肉な事に頭はさっきよりは冷静な判断が出来るようにはなっていた。


 しかし冷静になった所で何故自分は生きているのか、何故彼女はあれほどまで僕に生きて欲しいのか、そんな答えのない愚かな疑問しか思い浮かばない。


 死ななければ。

 今の自分を動かしているのは死という原動力があるからこそだ。


 だが最初に狭間に迷い込む羽目になった山に来た理由はハッキリ言ってわからない。死ぬ事ならあの後、幾らでもチャンスはあった。


 既に他人の迷惑を考える余裕すら残されていない自分なら楽に死ねたのだ。

 杉糸はそのまま吐瀉物を避け横たわった。


 このまま何もせず眠れば死ねるだろうか、それが出来たら誰も苦労はしないか。山から飛び降りようか、だが今の自分にもうそこまでする気力などない。


 でも自分を死に誘おうとする幻聴は狐露から逃げてからずっと聞こえていた。

 死ねと死ねと死ねと死ねと死ねと死ねと死ねと死ねと死ねとずっと言っている。

 わかってる、わかってる。


 杉糸はその声に従うように自分の手で喉を絞めた。

 そうだ、それでいいと誰かが言う。

 そして手に力を込めた。がその瞬間、誰かが僕を見下ろしていた。


「!!」


 僕が殺した人でも僕でもない。

 それは涙を流す狐露の姿だった。


「はあっ! はあっはあっはあっ……!」


 咄嗟的に手を離し上半身を起こす。


 だが狐と思われた姿は風に吹かれ消えていた。

 幻覚だった。


「なんで……」


 杉糸は頭を強く掻きむしり涙を流して声を荒げた。


「なんでみんな僕を否定するんだ!!!!!」


 地面を叩き、頭を叩き、ただ子供のように泣き叫び続ける。


「なんでだ!! なんでだ!! なんでだよ!!」


 木を拳の皮が裂け血が出るほど殴り続ける。


「誰も……っ、誰も僕に死ねと言わないんだ!!! 誰でもいいから!! 誰でもいいから一度で良いから死ねと言ってくれ!! みんなが……みんなが優しいせいで……なんで良い人ばかりが死ななきゃいけないんだよ!! 死ぬなら僕一人で良かった!! それなら誰も不幸になんか……世の中全部クソだ……クソだクソだ!」


 杉糸は啜り泣き、小さな声で言った。


「なんで僕なんか生まれてきたんだ……なんで僕なんて生まれてしまったんだよ……」


 僕の周りには優しい人が多すぎた。だからこそ救えない。

 なんで僕は泣いている。

 泣く資格なんて無いはずなのに。


 だが涙は止まらない。

 止まれ、泣き止め、そう何度も胸を叩いても感情が高ぶりより涙を流す潤滑油にしかならなかった。

 そして服を張り裂くように掴んだその時だった。

 巾着が服の外側に出た。


 杉糸は胸にぶら下げていた狐の御守り代わりの巾着を見た。


「狐……露?」


 涙が止んでいく。


そしてそれを手に皮肉気に笑った。


「畜生……畜生……」


 もう何が何だかわからない。

 死にたいのか、壊れたいのか、生きたいのか、だけどもう一つやり残したい事が見つかった。

 狐に会おう。どんな顔を下げてきたのか思われそうだが謝る事だけはしたかった。狐に投げた言葉は全て本心かも知れない。それでも謝るだけ謝っておこう。


 そして答えを見つけよう。

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