狐との日常
「すーぎーとっ! 今日も出かけるぞ!」
それは前日の疲れなど知らない様子の元気ぶりだった。
「うん、でも今日は睡眠不足だから__」
「よし行くぞ!!」
杉糸の意見など一切耳を貸さない様子だった。
「すーぎーとっ! わらわ夜の町に行ってみたい!」
テレビの影響だった。それで居酒屋で酒を飲んだのだが二杯で酔いつぶれてしまった。
「狐露、ねえ? どうやったら家に帰れるのかな?」
「わらわもう飲めないむにゃむにゃ……」
繁華街で肩を貸しながら酔う狐であったが屋敷に帰る方法がわからなく、その日適当なホテルに泊まる事になった。
次の日、朝から酒を飲もうとしたので必死に止めた。
「すーぎっとっ! 【えいがかん】とはなんだ!?」
同じくテレビの予告から興味を持ったついでに映画を見に行ったのだがアクション大作映画の迫力に何度も尻尾や耳が出て、誤魔化すのに大変だった。
「むー! むー! んー!」
杉糸は今にも叫びそうになっている狐の口にチュリトスを突っ込み、無理矢理静かにさせた。口にお菓子を含んでる時だけ静かになったので合間合間にチュリトスを買い占めていた。
「すーぎーとっ! 【ぱちんこ】とは楽しいな!」
「うんそうだね」
こればっかりは初日だけで二度とさせないつもりであった。
それに加えて勝ちまくり、勝つと金を入手できることを覚えてしまったのでどうにかして彼女の脳内からギャンブルの知識を消せないか考えた。
「すーぎーとっ! 今日は釣りに行かないか? 狭間に良い釣り場があるのだ」
この空間の新しい面を知れる事になったいい機会だった。
釣り場の川は周囲に緑色に発光する蛍のような炎が無数に存在し、神秘的な夏の夜を連想させる光景であった。しかし明るいとはいえ夜の為川の中が見えづらい。
「むむむ、いつもならすぐに釣れるのだが……ええい!」
仕舞には狐が炎を纏った手で取りに行った。
川の水全部蒸発した。でも次の日には戻っていた。
「すーぎーとっ! 町で買った【てれびげーむ】とやらがやりたい! やり方を教えてくれ!」
またまた狐の頑張りで可能になったテレビゲーム、狐はコントローラーを持ちながら体も動かしてしまうタイプなので何度か被害を食らった。
「ええい! こうだ! 避けろ!! 食らえ!」
バキィ! ボコォ!
「やった! わらわの勝ちだ!!」
狐はコントローラーを投げだして自身の勝利を喜んだ。しかしその勝利は杉糸がリアルダメージを喰らった隙から生まれた勝利であった。
「ん? どうしたそこで寝転がって」
狐は自分のした事に気づいていなかった。
「いや、何も」
二度と彼女の近くで格闘ゲームはしないと誓った。
「すーぎーとっ! 観覧車に乗ってみたい!」
しかし高度が上がるにつれ口数が少なくなっていく。
「……」
それに加えて顔が青白くなっているのが見てわかった。
「大丈夫?」
「こ、このこのこの程度で怖がるわけが__」
狐が強がる素振りを見せた瞬間、ガコンと乗っていた車両が一瞬止まった。
「ひぃぃ!!」
前方に座っていた狐がこちらに抱き着き、結果杉糸は後頭部を打った。
「杉糸!! 嫌じゃ、わらわお化け屋敷なんぞ行きたくない!」
これはゲームセンターでした賭けの罰だった。
「いやでも罰ゲームだから、うん、大丈夫、怖くないから」
杉糸は狐が嫌がる姿を正直愉しみながら手を引きお化け屋敷に入場していく。
手を繋いで一緒に行ったけど手が彼女の爪に食い込みまくって血だらけになった。
そして彼女が怯え続けた結果小さな九尾の狐へと姿を変えていた。
「狐の姿になれるんだ」
「そ、そ、そんな事より早くわらわを抱いて疾くこの場から去れい!」
上着の内側に狐を隠しながら杉糸はお化け屋敷の出口に向かった。流石にやり過ぎたと思い軽く反省した。
「すーぎーとっ! 勝負だ!」
雨が降る梅雨の季節は主に将棋などのボードゲームをして時間を潰した。
「ズルは駄目だよ」
「はてなんの事やら」
狐は何度か術を使い、将棋の駒をこっそりと強い駒に変えていた。しかし飛車が盤上に五つ存在した時は流石に苦笑いした。
それを指摘した時の狐の言い訳が。
「他の所から持ってきただけだ!」
どっちにしろイカサマである事に変わりなかった。
「すーぎーとっ! アレをやってくりゃ」
「はいはい」
狐は杉糸に耳掻きや尾にブラシをかけて貰いながら日向ぼっこをするのを好いた。
「そこ、そこだ……」
杉糸に膝枕されながら頭の方の耳を注意しながら耳掻きで掻く。
「あまりの気持ちよさに……眠ってしまいそうだ……」
そう言いつついつの間にかすーすーと安らかな寝息を立てながら狐は眠っていた。
そして杉糸も狐を膝に乗せながら眠ってしまっていた。
幾つか目立った思い出を上げただけで実際はもっとある。狐と暮らし始め三カ月も、三カ月しか経ってないのだが心温まる楽しい日々を暮らしていた。
同時に日々が募るほど自分を蝕む苦痛は毒のように蝕んでいく。
幸せな同時に酷く辛かった。
そんなある日の外出で起きた出来事だった。
「狐露、ちょっと行きたい所があるんだけどいいかな?」
要求を呑んでばかりの杉糸がついに自分から要求し始めたのだ。
狐は袖なしのシャツや短いスカートにハイソックスと革靴のファッション、勿論全部黒である。衣装の一部に違う色が混じった程度でほぼ黒だ。
現代のファッションに疑問を持たなくなったくらいには馴染んでいた。
「おおっ、よいぞ」
「ちょっと遠いけど本当にいい?」
狐は片手にアイスを舐めながら嬉しそうに言った。
「寧ろ安心した、其方にはいつもわらわの我儘を聞いてもらっていたからな。もっとわらわに心を開いて気にせず言ってもよいのだぞ?」
「じゃあそのアイス貰ってもいいかな」
狐が夏服に変わっていくのに反して杉糸はいつもと変わらない袖の長い上着を着ている。当然のごとく暑い。
「それは嫌じゃ。其方がそんな暑い服を着るのが悪い」
「ぐうの根も出ない正論」
杉糸は苦笑いをしながらさっきの店で自分用を買っておけばよかったと後悔した。
スキップするように二歩三歩を先ゆく狐だったがふと立ち止まりこちらを向く。
「それで其方は何処に行きたいのだ?」
「ああそれは__」




