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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
君の為なら生きる
13/112

夢の写し絵


 それは今とは違うとある昔の話。何処にでもある平凡で豊な幸せの一つでしかない出来事。


 そこは小さな一室、しかしその部屋の半分は何も置いてなく、もう半分はアンバランスにギッシリと画家の道具が集められているといった感じだろうか。道具は部屋の壁際に追いやるようにされていて他人が一目見れば散らかっているとしか言いようがなかった。


 しかし所有者は部屋の半分が綺麗ならそれで良いと絵具で汚れた板張りの床を歩いていく。

 カーテンの隙間から差し込む光、栗色の髪を後ろに束ねた若い女性は日の光を遮断しようとカーテンを閉めた。


 だが勝手に開いた。風に揺られたわけでもなく誰かの手によって人為的に開かれたのだ。

 それはその女性にとっての太陽であった。


「坊やはおひさまの光が本当に好きだねぇ、油彩に日光は大天敵なんだけど……まあ可愛いからいいや」


 女性は口元を緩め、おいでおいでとある子供に向け手を動かした。

 子供は満面の笑みで大好きな母親の膝に駆け出していった。


 その子の母である女性は子供を膝の上に置き、イーゼルに設置されたキャンバスを油絵具で彩ろうとする。

 しかし子供が来てしまったせいで今日書こうとしていたイメージが吹き飛んでしまった。ならいつもの絵本のように絵を語りながら絵を練習しよう。


「今日私の尊敬するゴッホの【星月夜】でも模写させてもらうかな」


 まあ模写と言ってもいつも子供が途中で飽き、変な絵になってしまう事が多かった。しかし楽しいから女性は別に気にしてなかった。


 女性は子供に一人事にも似た意味の伝わらない冗談を子供に言う。


「ふふふー、ゴッホも二本の浮世絵を模写ってたしやっぱり模写が絵の練習として素晴らしいと思わないかね坊や君。って、あっ」


 女性は鼻歌を歌いながらいざ準備、と思ったのだがいつの間にか子供は膝の元から去り、道具の山に頭を突っ込み、今回は使用しないアクリル画材の絵具を漁っていた。


「ちょっちょっ、勝手に弄っちゃ駄目だって」


 女性は慌てながら子供の脇を掴み、そのまま持ち上げてまた膝の上に乗せるのだが手には一つの絵具があった。

 前に一度、そのまま飲みかけた事があるのでまだ絵具を触らせる気は一切無かった。まあ一度飲んで痛い目を見て覚えて貰う事も出来たが可愛い我が子にそんな事はさせられない。


 なので子供の持っている色を見て女性は女狐のような悪だくみの笑みを浮かべた。


「ねえ杉糸、実は知ってるー? 坊やの持ってるそれは人のミイラから出来たものなんだよ~?」


 子供はびくりと肩を震わせ、それを見た女性はノリノリになり舌の油が躍った。


「昔はさぁ、ミイラを材料にして作る絵具が低単価、安くて作れるから大量生産されちゃったらしくてねぇ、まあミイラ自体には限りがあったから生きた人間をミイラもどきにして死なせた事もチラホラ、そんな哀れな人達の怨念が籠った色こそ坊やの持つマミーブラウンなんだよぉ……」


 おどろおどろしく驚かすように言うと子供はぽろっと青ざめた顔のままそれを手から落とした。


「はい、いっちょ回収。まっ、それは昔の話で今はミイラなんて非人道的でコスパの悪いもん使ってないけ__」


 女性は子供の前で調子に乗り過ぎたと後悔してしまった。

 すると流石にやり過ぎたのか子供はひっくひっくと泣きじゃくりかけ女性の顔が青ざめていく。


「あっ、あっ、泣かないで、ごめんよ~! ママが悪かったから!」


 女性は子供に抱き着き、頬を摺り寄せながら子供を必死にあやそうとする。

 必死に何度もごめんと謝り続けた結果、子供の涙は徐々に収まっていく。


「あっ、そうだ」 


 女性は自分の唾液と水に溶けるアクリル絵具を使い、自分の顔に絵の具を塗ったのだ。


「ほら見て坊や、絵具パック。絶対美容に悪い」


 子供は変な顔と率直な感想の述べていた。

 鏡が近くにないのでどんな顔か女性はわからなかったが、子供は泣き止んで笑ってくれたのを見て女性は安心した。

 子供は女性のおかしな顔をまた見て笑おうとした。


『ねぇ____』


『坊や____』


 だが女性は頭蓋骨が砕け、脳漿と血を大量に流しながら美しい面影を残していない死人の顔がそこにはあったのだ。

 母親に抱かれていた子供の姿はいつの間にか大人のものへと変わっていた。

 ああ、思い出した。夢なんだ。


曲がりなりにも夢が過去を再現してくれてるんだ。

 僕が母さんの夢を見るのは決まって二つ、多少の内容の差異はあれども母と絵を混ぜた日常、目の前で事故死した母の姿。

 今回は前者だったようだ。


『ぼ……う……や……』


 母だったものはもう性別さえ不祥な怪物のような声を出し、僕の顔に向けて血や脳髄を垂らしていく。

 そして頬に血液が触れた瞬間、夢の世界は渦巻き捻じれていった。

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