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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
命さえあればどうなってもいい
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蜘蛛


 本の虫として書斎に住み着いていたのが功を成したらしい。


 その空間は綱、綱、綱、札が貼られた綱が無数に宙で交差する謎の岩場。

 綱に関してはスパイ映画に出てきそうなレーザートラップのようになっていて、綱をかいくぐって奥の大岩まで突き進んだ。


 そして直径三十メートルはありそうな岩の前に立つと、狐露は驚いたように声を出す。


「もしや真にいたとはなぁ、あそこの書斎も馬鹿には出来ぬな」


 いたって普通の大岩だが彼女には何か感じるものがあるらしい。


「とは言っても十五回目の正直だけどね」


 杉糸と狐露は書に綴られていた大妖怪を探したのだ。主に封印されてしまった妖を。

 それは勿論戦力集めとしての行為だ。狐露と同じとまでは望まないが単騎で百と言える戦力が欲しい。


 そして探しまくったのだが殆どがデマ。

 三日ほど歩きまわった結果、やっと正解を引き当てることが出来た。


 杉糸は書の記されていた妖の事件簿のようなものを読んでいた。その中で理不尽に、少なくとも危険という理由なだけで人間に封印された憐れな妖がいる事を知っていた。


 それは大蜘蛛、狭間のある地に大岩に閉じ込められていると。


 それがこの空間だ。


「さて見つけたのはよいがここからどうする?」


 そう、大事なのはこれからだった。


「この蜘蛛は人間に裏切られ封印された、悪い事をしたかと問われると否、まあ妖が書いた書であるから脚色されている可能性もあるが……」


「それでもやるしかないよ、話が通じると良いんだけどね」


 杉糸は岩に貼られた一つの札を剥がした。

 

 突然と地震が起き慌てて足に力を入れる。

 狐露が手をとって握ってくれて、それに身を委ねていると揺れが止まる。


 すると大岩は動物が生まれる卵のようにヒビが入った。

 それも綺麗に真っ二つに岩は割れ、ずしんと衝撃で地が揺れる。


 そんな岩の中から姿を現したのは、虫嫌いな人なら卒倒しそうなほどの大蜘蛛であったのだ。

 タランチュラをそのまま怪獣サイズにしたように、兎に角現実感が無く体がマヒする。


『人間か……? 匂いを消していようども嫌でもわかるぞ……?』


 野太く、老人のような声で鳴く蜘蛛、やっと杉糸は現実感を取り戻した。


「わらわは貴様と同じ妖じゃ、ほれ、尻尾と耳があるじゃろ」


『今更人間が我に何の用だ……』

 

 狐露はナチュラルにスルーされ、むがっとちょっと機嫌悪くなった。


 仕方ない、僕が話さないと話は前に進まなさそうだ。


「貴方と……契約を契りたい」


 するとその言葉がまずかったのか、蜘蛛の口が開き黄色の粘着とした液体がだらっと垂れて、下の岩場を溶かしたのだ。


「杉糸っ、離れよ」


 狐露に手を引かれ距離を取り、彼女は猫のように蜘蛛に威嚇していた。


「駄目だ、こやつは話を聞かんっ、このまま退治するのが解き放ってしまった者の拭いと言えよう、杉糸っ、わらわにあやつを始末させよっ」


 狐露はしゅっしゅっとシャドーボクシングのようなものをして、どうやらさっき無視された事が割とカチンと来てしまっていたようだった。


「狐露、もう少しだけ待ってよ」


 狐露の臨戦態勢になりかけてる手を取って蜘蛛を見る。

 そしてその場で膝をつき、頭を下げた。


「おい杉糸っ」


『何の真似だ……?』


「お願いです、力を貸してください」


『今更助けを求めるか……烏滸がましい』


「僕なんかが頭を下げても怒りはおさまらないでしょう、それでもお願いです。貴方の力を借りたいんです」


『貴様の謝罪に何の価値が……?』


 わかっている。それでもなりふり構ってられない。


『そうだな、面を上げよ、契約してやっても構わない……』


 杉糸は顔を上げるが、蜘蛛の声に何か含みがある事に嫌な予感を覚えた。


『条件として貴様の命、首でも差し出して貰おうか』


「わかった」


 一切の躊躇いもなく言ってしまった。


『えっ』


「えっ」


「あっ」


 杉糸はしまったと口に手を置く。


「すみません、今の無しで」


「杉糸っ、わらわの肝を冷やさせるなっ!!」


 隣で狐露が岩場に座りながら僕の肩を凄い揺さぶる。


『だ、だろうな』


 何故か蜘蛛の方も動揺していて首を傾げかけた。


『そう簡単に命を投げ捨てて貰っては駄目、いやつまらぬだろう。なら人間、貴様の寿命の半分を我に頂こうぞ』


「わかりました、構いません」


 躊躇なくハッキリと言ってのけた。


『えっ』


「えっ」


『い、今ならさっきのように取り消すのも構わぬぞ?』


「そ、そうだそうだっ! 取り消せ!」


 何故か投げかけた方まで否定されかけて貴方が先に言ったんじゃないかと眉を顰めかける。


「でも寿命なら別に死ぬわけじゃないし」


『そういう問題か!?』


「そうだそうだ!! 人の世は短いのだぞっ!! 命を粗末に扱うではない!」


 何故か二人から説教されるような立場になり委縮する。

 杉糸がぽつんと正座のまま肩を落としていると蜘蛛は狐露を見た。


『さて狐よ、何故妖が人と共にいる?』


「む、その括りについてはどうでもよい、この男はわらわの……わらわの為にと、支えてもらっている……ただそれだけだ」


 狐露は照れ臭そうに言い、蜘蛛は多分溜息を吐いた。

 変な匂いと紫色の毒霧みたいな色をしているからちょっと怖い。


『あー糞、わかったよ、この喋りも疲れた。話くらいなら聞いてやるよ』


 蜘蛛は野太い声のまま急に若者のような砕けた口調になり、僕と狐露は目を丸くする。

 そして蜘蛛の頭部から突然亀裂が入り、がばっと繭から脱皮する昆虫のように粘膜に塗れた髪の長い美青年が姿を表したのだ。


「ふぅ、久しぶりのこのすが__」


「ぎゃー! 変質者!!」


 だが全裸だった為、狐露の蹴りが青年の股間に炸裂してしまった。


「ぐうぉっ!?」


 青年が泡を吹き倒れ、意識を取り戻した後、そういや男物の黒の漢服が余っていたと狐露が炎という名の四次元ポケットから取り出して彼に着せた。


 そして岩場の上で菓子を並べお茶会をしたまま今の状況を蜘蛛に教えたのだ。

 というか僕もちらほら聞いた事のない話も出て来て丁度良かった。


 僕が思っていた以上に鬼の国との関係は劣悪なようだった。

 それもいつ争いに発展してもおかしくないくらいに。


「妖に国ねぇ、どうやら俺が封印されてた頃より随分経つみてえだが、実感が湧かないねぇ」


 饅頭をバクバクと食べる彼はぺろりと唇を舌で舐め、もう一つ取ろうとするが、狐露がばちんと手を叩き、一瞬雰囲気が悪くなる。


「ちぇっ、だがまああんたらは無駄足でしかねえよ。この辺り一帯の札の数を見て見ろよ。俺を外に出してくれた事には礼を言う、が、岩の奴とは違ってあの札は妖力を持ってねえ奴しか取れねえ。そしてここに来るには妖力を持ってなきゃ無理だ。この意味がわかるかい? 最初から出す気がねえって事だ」


「ああ、それなら」


 杉糸は近くにあった札の一つをぺろりと取った。

 するとその一つの札が全ての重心を支えていたジェンガのように札が次々と燃えていく。


「はい解けた」


 蜘蛛はマジかといった顔をしたまま頭を掻く。


「俺なんかを外に出していいのか?」


「目を見たらわかるよ、君が良い蜘蛛だって事は」


「なんだいそりゃ、まあいいや、俺の名前は死蜘しくだ。よろしく頼みますぜ旦那」


 彼は仕方なしに肩をすくめ苦笑いするのだった。

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