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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
命さえあればどうなってもいい
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少し変わった


 蛇の国で一晩だけ羽を休める事にした。

 この国は外からの妖も多々居るようで宿が存在していたのが意外だった。

 そういう意味でも多方面に良い顔をするこの国らしいとも言えるかも。


 いつもの癖でつい一つの部屋しか取らず、やってしまったと思ったのだが狐露は別に気にしない様子だった。


 それはそれで良いのか悪いのかわからないが、まあいいんだろう。


 この国にも存在する風呂に入り、竜の模様が描かれた壁の廊下を歩きながらも部屋に戻ろうとする。


 すると狐露は窓際に腰かけ、何か話している様子だった。


 独り言、では無さそうだ。火の玉に話しているようだ。

 もしかすると誰かの通話しているのだろうか。


 もう少しその辺を歩いておこうか、そう思い部屋から離れようとするのだが、


「そうか、奴が死んだか」


 奴が死んだ?

 それは誰の事だ。


 足を止めてしまう。


「そうだな、少し諸事情で離れてはいるが何か問題があれば即座に帰還する、勝手に国を離れた事は謝る、小言は後で聞く、それでいいであろう」


 狐露は一方的に会話を打ち切るように終えて炎を消した。一体何の事かわからなかったが、会話相手は逆猫だろう。

 今部屋に戻ると盗み聞きしていた事がバレてしまう、少し時間を置いて__


「そこにいるのじゃろう」


「げっ」


 まあ、気配を探知できる相手じゃ無理か。


 杉糸は苦い笑みを浮かべながら姿を出す。


「盗み聞きとは趣味が悪いな」


「そうだね」


 部屋の壁は基本煉瓦で出来ていた、そこに最低限の家具や木のベッド、簡素だが質素ではない、そんなバランスで出来ている。


 二つあるベッドの内の一つに腰掛け、杉糸は狐露を見る。

 月夜に照らされた狐露は少し悲しい顔をしていた。先ほどの件でだろうか、負の感情を取り繕う事さえできなくなっていた。


「この国は夜でも騒がしいね」


 杉糸は少し会話をして気を逸らさせようと思った。


「人間の生活と重なる事はあっても真似ているわけではないからな」


「皮肉? 僕は君の国は君の国で良いと思うけどね」


 そこから狐露は静かになってしまう、石のように何も言わず動かず、ただ不安を隠しきれない顔で騒がしい外を見ている。


「何かあった?」


 そんな顔を見ていられなかった。


「なんでも__」


 狐露は最初はそうごまかそうとしていた。だけどそれは無理だと悟ったのか、重苦しい顔で口を開いた。


「蝙蝠が死んだ」


「それは……狐凛を攫おうとした?」


「ああ、だがそれはよくある事、国を離れた時点で死などありふれた事象の一つにしか過ぎぬが……」

 

 狐露は少し間を置いた。


「遺体として見つかったそうだ、それも国の結界外近くでだ」


「それが何か……変な事でも」


「陰陽師が祓ったのなら肉体事消滅している、だがそれではないと言う事は何者かが見せつけるように殺したという事だ」


 そこから狐露は徐々に徐々に愚痴を漏らす。


「まるで民の不安を煽るかのような晒しだ、何者がやったか、影を掴む事は出来ても肉体まで捉える事は出来ぬ、だが……わらわは強い。何者が来ようとも全て蹴散らせばいい話だ」


 そう強気な口調で言うが、顔はそうじゃない。


「一人じゃ出来る事は限られるよ」


 その言葉は蛇骨の言っていた言葉だ。

 無理をしているのは嫌でもわかった。


「誰が君を守ってくれるんだろうね」


 少しあの国で生活をしてわかった。

 狐露はみんなから戦力として絶対的信頼を置かれている、彼女なら助けてくれる、彼女なら守ってくれる、彼女なら大丈夫だと。

 

 実際とてつもない力を持ってしまったのが悲劇だろう。

 誰も守る必要が無いと思っているのだから。


 けれど未来の弱い君を知っているから、君も一人の感情を持った生き物である事は理解している。


「守ってもらう必要などない」


 狐露は吐き捨てるように笑った。


「必要だよ、心の器は自分が持っている力と関係ない。幾ら強くても、力があっても脆い人は脆い」


 狐露は何か期待をするような目でこちらを見ていた。

 でも期待に応えられる人じゃないよ、僕は。


「僕じゃ君の力にはなれないよ」


 淡い期待が消えたような気がした。


「其方の心配には感謝する、だが必要ない事だ」


 狐露はまた、強者の仮面を被る事を強いられかけている。だけどそういう事じゃないんだ。


「でもね」

 

 杉糸は狐露に近づいて手を握る。


「それでも僕は少しでもほんの少しでも君の重荷が減るように支えたい」


 狐露の仮面はすぐに壊れていく。

 自分でもこれくらいしか出来ない事に嫌気がさす。


「少なくとも今の君の感情の吐きどころくらいにはなれると思うんだ」


 狐露の手をぎゅっと握りしめた。


「嫌な事があったら相談乗るからさ」


 片手で握り、もう片方を狐露の手の上を撫でるように摩りながら言う。


「僕が知っているのは食べるのが好きな妹思いの女の子なんだ、今も未来も」


 その言葉に狐露は一瞬泣きそうな顔をしたが、すぐに隠すよう俯き髪で見えなくなる。


「不安だ」


 そしてゆっくりと感情は溢れていく。


「敵が多い、でも母が残してくれた国と民は命に代えても守らなければならぬ……」


 声が泣きじゃくっていく。


「皆の期待が痛い、辛い、重い」


 狐露は泣き顔を見られたくないのだろう、必死に泣き声を押さえようとしていた。


「町の繁栄を見るたびにわらわが負けてしまったら……っ、嫌な、嫌な想像ばかりっ、頭に浮かぶ……わらわに求められている、いるのは強さと抑止だ……」


 握る掌に涙が落ちて行く。


「わらわが負けたらわらわは不要だ……わらわはいらない、わらわは……っわらわは……だからわらわは強くなくては……」


 予想以上に彼女の背負っていた不安は重かった。今まで押しつぶされていなかったのが不思議なくらいだ。

 だから、僕が、僕が何とかしないと。


「君の気持ちはよくわかった」


 杉糸はそっと抱き寄せて笑顔を作る。それもいつもの作り笑い、自分が無意識にやってしまっている表情を押し殺した渇いた笑いに。


「でも安心して、僕が何とか、僕がなん__」


 泣いている狐露の頭と狐耳を撫でながらふと考える。

 

「これは駄目だ」


「ほえ?」


 すすり泣くように僕の胸を濡らして狐露も呆気にとられたように泣き顔を上げた。


「この言い方は結局またどっちか片方が一方的に背負って駄目になるような気がする、駄目な悪循環だね」


 よしよしと背中や頭を摩りながらも杉糸は考える。

 昔の僕ならこのまま後先考えず良しとしていた。でもこれじゃ駄目だ、これじゃ何も解決にならないんだ。


「だから一緒に考えよう。君が一人で背負わなくていい方法をさ。僕も君も一人で背負うんじゃなくて、どうせなら二人で苦しめれるようにさ」


「どうすれば……よい?」


 そう涙目で言う狐露は本当に年相応の少女にしか見えなかった。


「まあそれを今から考え__」


 頭にぴかんと案が輝く音がした気がする。


「一つあるかも」


 杉糸はにっこりと笑わせるよう狐露のほっぺたをつねった。

 凄い柔らかかった。もっと触りたいと思うくらいには。

 これも若さだろうか。

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