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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
命さえあればどうなってもいい
101/112

蛇の国


     φ


 もう驚く事はないと思っていた。 

 だが蛇の国は杉糸の予想を遥か斜め上に飛び越えてしまっていた、良くも悪くも。


 目の前に映る大きな金の蛇の形をした門は、模様具合が派手で派手で派手で、これもまたこの時代の日本ではオーパーツ。

 そして一つ、わかりやすい譬えが頭の中で浮かんだ。


 中華風。

 

 どう見ても日本の門というよりは中華ファンタジーで出てきそうな造りをしていたのだ。


 門の警護する兵がこちらを見た途端、顔パスと言わんばかりに開門され楽々と通れるのだが、国の町はこの門を見た途端生まれた予想通りの作りをしていた。


 妖の服は皆漢服に近く、町造りも日本でもなく昔の中華ファンタジーや中華戦記物に近いイメージ。妖が多いので余計それっぽく見える。


「何処で大陸が混ざったんだろう」


「驚くであろう? わらわの国より違った形で派手だ。建物も服も」


 狐露は感心したかのように言っていた。


「そういえば母の言葉を思い出す、後に若者に流行する服装を表す言葉を『ばさら』であると、うむ、みな『ばさら』だ」


「それは微妙に違う気がすると思うよ」


 杉糸も感心か、困惑か、どちらとも捉えれる表情をしながら狐露が腕を引っ張り服屋まで連れていかれた。


 郷に入っては郷に従えという言葉がある。

 単に狐露が服を着たいだけだろうけど、目立つのは避けたいとこの国の服を買った。


 この国の金もちゃっかり狐露は用意しており、黒い袖がひらひらとした漢服に身を包み、嬉しそうに袖を躍らせた。

 そんな姿を見るとやはり年相応の少女である、そんな目で見つめながら狐露に服を任せた結果男物の真っ黒漢服を着せられた僕。


 このまま会いに行くかと思いきや、何故か屋台の麺屋で食事を取る事に。


「ハイ、中二つお待ちアルネー」


 うわ、アルって言ってるよ。絶対ここ中華だよ。


 ごとっと卓の上に置かれたのは二つの麺料理、

 飯を全部行き倒れの彼に食べられた結果、少し遅めの昼食を取る事になった。


 箸を取り、二人は食べ始める。


 柑橘系のさっぱりさが後味に残る食べやすい麺料理だった、しかし呑気に麺を啜ってる場合なのか杉糸は思った。


「会いに行かなくてもいいの? その……この国のお偉いさんに」


「焦らずとも向こうから来る、向こうからすればいつ巻き起こっても不思議ではない竜巻を国に入れたようなものだ」


「……本当に国際問題にならないかな」


「さあな、これが秀才や頭の固い者ならそもそもわらわを入れないであろう」


 狐露は器を持ち、口に近づけ豪快に汁を飲み始めた。


「だが奴はわらわという存在をノコノコ放っておく愚者でもない、そうであろう?」


 狐露が器を置き、後ろに目線を軽く向けた。その先はこの麺屋のナマズのような髭が生えた女店主、その言葉が僕だけに告げられたのではないと気づく。


「わざわざ貴様の飯を食ってやったのだ、そう姿を隠す面倒な真似はやめろ」


「アイヤー、バレちゃったアルか」


 そう屋台から姿を現した糸目の長い赤髪の女店主はわざとらしく笑っていた。


「何がバレただ、わざとらしく妖力を放ちながらよく言えたものだ」

 

「彼女は?」


蛇骨じゃこつ、この国の皇女じゃ」


「はっ?」


 杉糸は突然の情報に口をぽかんと開けた。

 えっ、この人が?


「今は美しい謎の麺屋主人アルネー」


「御託はよい、さっさとわらわの話に付き合ってもらうぞ」


「ははっ、狐露ちゃん図々しいアルネー、ここ蛇骨の国ネ、蛇骨が狐露ちゃん達をこっそり入れてあげたアルヨ」


「貸しを忘れたとは言わせぬぞ? 前に貴様の後処理をわらわがやってやったであろう」


「それはこの国に無条件で入れた時点で取り消しネ、今の図々しい狐露ちゃんは目に余るネ」


「なら貴様の何を仕込んだかわからぬ飯を食ったから取り消しだ」


 僕が気まずくなるくらい二人はギスってる。これが本当に国同士のトップの会話で良いのだろうか。国の命運が口喧嘩で変わってしまうとか何の冗談か。


「狐露ちゃんに毒仕込んでも効かないの知ってるアルネ、だからそこの君も別に心配する必要ないネ」


 蛇骨は店を閉める準備をしながらも話を続ける。


「それで何の用アルか? そこの君と淫らなお忍び旅行しに来たわけじゃないアルネ」


 一瞬狐露の耳が赤くなっていた。


「違う、ただの個人的な用だ。国は一切関係ない」


「まあここで貸しを返し作っておくのも良いアルネ、何アルか?」


 すると狐露は指を鳴らし、青い炎の中から一つの書を取り出した。


 それを見せた途端、蛇骨は糸目のまま嫌悪に満ちた笑顔を見せた。


「この話の真意性を聞きたい」


「何アルか、親の恋愛事を聞かれるとか狐露ちゃん蛇骨に何か恨みアルあるか」


 どうやら今の皇女は恋愛小説の著者の娘らしい。


「それは沢山あるが嫌味に全力を費やすほど愚かではない、深刻な問題じゃ。少なくともこの男にはな」


「ふうん、そうアルか」


 蛇骨はうっすらとだけ糸目を開けてこちらを見た。

 開いた目は人の目などしておらず、赤黒く水晶のように輝いていた。

 

 ここからは僕の番だ。


「信じられない話だけど、僕は大分後の時代からやって来たんだ。そして帰る方法を探している」


 そう言うと蛇骨の雰囲気が少し変わった。

 元からぐにゃりとしていてつかみどころのない雰囲気だったが、形がはっきりとした気がした。警戒という形で。


「其方の母が書いた書であるな? 内容は問わぬ、だがこれだけは聞かせてもらうぞ、其方の父は時を超えて来た。と書かれている。何か知っているか」


 蛇骨の雰囲気が元に戻った。


「本当に個人的な要件ネ、つまり愛人の頼みを聞き入れたアルか」


「わらわと祖奴はそんな関係ではない」


 うん、今は。


「蛇骨もそれについてはよく知らないアルね、父上との思い出は大分昔になってしまうアル」


 狐露は少し落胆していた。

 意外と僕より落胆していたかもしれない。


「けど一つだけ絶対に言える事がアルあるね」


「それはなんだ?」


「蛇骨の父はこの世界で生きこの時代で死んだ、これだけは確かに言えるアル。父上が未来から来たという話は半信半疑アルネ、でも帰れなかったのは確かネ、母上や蛇骨がいたから帰る気が無かったとも言えるアルけど」


 帰る気がなかった、か。

 ただそれは当然だろう、子供と奥さんがいたのだから。

 僕も同じ選択をすると思う。


 だけど心に焦りを感じる。

 本当に帰る術はあるのか、術を探さなくても仕事をすれば帰れるのか。

 そもそも仕事は何なのか。

 

 思考の悪循環に陥りかけた時、話が変わった。


「最近鬼が怪しい動きしてるアルね」


「突然じゃな、わらわにそれを話して何になる? 滅ぼしに行けとでもいうかや?」


 狐露は蠱惑な笑みを作り足を組む。


「それとも狐と鬼が共倒れしてくれると嬉しいとでも考えているのか?」


「アイヤー、酷いアルネ、そこまで高望みはしないアルよ」


 今高望み言ったよこの妖。


「蛇骨はこう思ってるアル、一緒に滅ぼしにいかないアルか? 少なくとも狐露ちゃんは良い奴だから好きアルヨー。だから悪い奴に利用されないようちょっと悪い蛇骨が利用して守ってあげるアル」


「笑わせるな。貴様ほど悪どい輩は滅多に見ぬよ」


「心外アルネ、今がチャンスアルよ」


「考えておこう」


「考えておくじゃ、蛇骨はあっちの味方になっちゃうかもしれないアルよ?」


「わらわが生きている限りそれはない、それは貴様が一番知っているだろう」


「狐露ちゃんには色んな意味で敵わないアルネー、でも何だかんだ信頼してくれるのは嬉しいアル」


 その時蛇骨が口裂け女のように口を開き、笑みを浮かべた。


「でも君の国が強いわけじゃなく君が強いだけアル、所詮一匹、一人では出来る事は限られるアルよ、死神が現れたら君一人じゃ勝つのは難しいアル」


「死神?」


 つい気になる言葉が現れて杉糸は口を開いた。


「誰か分からないけど妖を狩る怪物アルネ、みんな怯えてそう名付けたアルよ」


「忠告として聞いておこう」


 すると狐露は突然と立ち上がり、その場から立ち去ろうとする。

 杉糸は蛇骨にお礼を言って後を追いかける。

 

「あまり良い情報は聞けなかったね」

 

 それどころか気落ちするような内容だった。

 さてとこれはどうするか。


「そうであるな」


 狐露の方も少し何処かに影を落としているような表情だった。

 

「大丈夫?」


「心配されるのがわらわの方とはおかしな話であるな」


「それはそうかも」


 そう彼女は冗談を交えて笑って見せた。

 だが蛇骨に言われた事に思うところがあったのだろう、それは嫌でもわかる。分かりやす過ぎた。

 幼いからだろうか、僕の知っている狐露より表情を隠し切れていない。

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