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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
命さえあればどうなってもいい
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国を出る二人


 


 本音を言うと半分諦めていた。だけど続けるのはやはり大事らしい。

 寝ぼけ眼で見つけた一つの書、しかしそれを読むと眠気など一瞬で消えてしまった。


 それは蛇の国で起きたとされる一つの恋愛伝記のようなものだった。

 人間と蛇が恋に堕ち国を成す。子にも恵まれ人生を全うとする。

 そんな物語の中に一つ気になる用語があったのだ。


 主役の一人である人間の男が先の時代から来たと名乗る奇妙な男と綴られていた。


 それを読み終えた途端、颯爽と狐露の元へ杉糸は向かう。


「狐露、これ」


「むぐっ!!?? ごほっごほっ!!」


 狐露の部屋に入った途端、彼女は何やら饅頭を食べていたらしく驚いた拍子で喉に詰まらせたようだった。


 狐露は胸をバンバン叩き、お茶を喉に入れて一息つく。


「なんじゃなんじゃ、わらわでなければ死んでいたぞ」


「ごめんごめん、これなんだけど」


「む? ああ、蛇の国では有名なお伽話ではないか」


「うん、そうなんだけどこの書には先の時代から来た人がいるらしいんだ」 


 すると狐露は申し訳なさそうな顔をした。


「む、其方の期待を折るわけではないが、それは所詮お伽話でしかないと思う」


「そうなんだ」


 予想以上に思いつめていたのか、これも無駄足だと知らされドッと疲れがやってくる。


「これも違ったか……」


「ま、饅頭でも食べるかや?」


「ありがと」


 彼女に気を遣わせてはいけないな、いつも通りの笑顔を作ろう。

 そう思い杉糸は微笑もうとするのだが、狐露の方は気難しい顔をした、そして何かに根気負けするかのように口を開いた。


「仕方ない、其方には恩がある。だがあまり期待するのではないぞ。其方の失望した顔は見たくない」


「うん、わかった」


 にこやかに笑うと狐露は照れ臭そうに顔を逸らす。


「ふん、ただの気まぐれだ」


 ぱくっと饅頭を食べ、また喉を詰まらせていた。


「ごほっげほっ……その、その書はな……」


「まず落ち着いてからで良いよ」


 お茶を入れ、彼女に渡す。


「ふぅ、その書はな、蛇の先代皇女が書いた自らの体験談でもあるらしいのだ」


      φ


 翌日、狐露と共に杉糸は国を出る。

 狐露が言い出した言葉は少し驚きを隠せないものだった。


『杉糸、蛇の国へ行くぞ』


 それに対する杉糸の反応は至極まっとうなものだったと自分でも思う。


 この国は? そもそも国のトップが別国に突然行っても良いの?


 前者に関しては対策は既に完備らしい、少しでも国内で妖が死ねば、狐露は気づく。そして何処にいようと一瞬で狐の国へと転移できるようだ。


 後者に関しては、奴はこの程度で争いを起こす奴じゃない、そうだ。

 前者は兎も角後者は大問題だと思う、人間同士じゃ国際問題に発展しかけないんじゃないかな。


 とはいえ手紙は届けているらしく、自分達が到着する頃には手紙が届く……

 駄目じゃん。


 狐露のこちらの為を思って急いで行動してくれてるのを踏まえ、何も言えなかった。

 狐露は少しだけ裕福そうな村娘の恰好で人里を降り、こちらは何故か笠を被るまでは良いのだが坊さんのような袈裟を着せられている。


 なんでこんな格好、と聞くと坊さんなら怪しまれないだろうという適当な理由。

 僕結構髪あるよ。


 そんなこんなで朝から半日近く歩き、夕暮れ前には蛇の国の結界近くにつくらしい。


「あんまり人と会わないね」


「なんじゃつまらん、追剥でも来れば旅の気持ちでも味わえたと言うのに」


「僕は……よくあったな追剥」


 それは世界中旅を始めた時の初期の出来事だ。治安の悪い国での外国人は本当に良いカモという事を知らされた。

 それに加えて観光目的じゃないので堂々と危険区域を向かったりするので余計酷い。


「ほう、どんな感じだ?」


 狐露が興味深そうにこちらを見た、可愛らしい笑顔なのだがそこに興味を持たれると正直反応に困る。

 

「そうだね、命取られる事はなかったけど変な知識は増えていったよ、例えば読めない新聞を買ってその国の人間に成りすまし、って新聞はこの時代には無いか。まあ苦労しんどい目にあったねアハハ」


「ふむ、よくわからぬが命がある分良かったではないか」


「それは本当にそう思__」


 むぎゅ。


 何か足に不快な感触を味わった。

 

 そして杉糸は恐る恐る下を見る。


 この山から下り、視界を遮るものが余りない広い砂利道の下で、凄く汚れほぼ泥や石と一体化しているうつ伏せ状態の人間がいたのだ。


「し、死体かや?」


 狐露の方はびくっと頭の耳が生えかけ慌てて抑えている。


「多分、生きてる」


 杉糸がそう言うとそれに応えるよう足元が蠢く。


「は、腹減った……」


 この時代の狩衣を着た泥まみれの眼帯をした青年は擦れた声でそう言った。




 ばくばくむしゃむしゃごくごくっ。


「わ、わらわのおやつ……」


 二人分の昼食とおやつを食べ終えた青年は、水筒の水まで全部飲んだ。


「ぷはー! 蘇った。本当に感謝するお二人方!」


 おやつまで取られると思ってなかった狐露はぽかんと魂が抜けていて、ぼそぼそと『ああ……旅で食べるおやつが美味いと言うのに』と味のある事を言っていた。


「大丈夫です? どうしてあんな場所で行き倒れていたんですか」


 仕方ないのでこちらが聞くと、


「ぬははは、山に迷ってしまってな。暫く獣でも狩って飯でも食うかと思ったのだが色々あってこうなった」


「その色々が気になりますね」


「言ってしまうのは簡単だが説明するのは面倒でな! というより我は説明が下手だ、すまぬ、命を助けて貰って不躾だが行き倒れの変人と思ってくれ」


 まあよくわからないけど人一人の命が助かったのなら良しとしよう。


「我の名はアクル、この日の本では変わった名ではあるが本名だ」


「そうですか、アクルさん。ええと、僕は杉糸で、彼女は」


「わらわは……名乗るものではありませぬ」


 すると唐突に敬語というか色目の使ったような笑みに変わる狐露に杉糸は驚いた。


「そうであるか、そこのお嬢は杉糸殿の嫁であるのか?」


「はい、このお方は寺を破門されわらわと共に歩んでいるのです」


 突然の代わりように驚きを隠せないが、一応彼女の演技に付き合っておこう。そうか破門僧か、そういう設定で行くのね。


「うむ、一筋縄でいかぬ人生を歩んでいるが祝福でも祈ろう」


 泥まみれのアクルはぱんっと両手を打ち合わせて祈りを始めた。


「さて、杉糸殿、我は其方に礼をしたいが出来る事はないか?」


「いえ、僕よりも彼女の方を」


「そのお嬢は既にした」


 アクルは笑顔で言い切り、杉糸は額に皺を寄せた。


「ええ、既に頂きました」


「……? ……? いや、別にお礼は大丈夫です」


 話がうまく呑み込めない、話を終わらせよう。


「そうか、だがその礼はいつか返そう。二度と会わぬ事を祈るがな」


 アクルは快男児のような豪胆さを見せながらも何処か言葉に裏があった。

 

「ではな、我は仕事がある」

 

 アクルは立ち上がり、再度頭を下げ手を大きく掲げながら去っていく。


 彼の姿が小さくなっていくと隣の狐露が悪態をつくように吐き捨てた。


「ふん、礼をしたのはわらわの方と言うのに」


「あはは、おやつ楽しみにしてたもんね」


「違う、いやそれもあるが違う」


 狐露はうんざりするような目で、


「あやつは陰陽師だ、わらわより圧倒的に弱いが、わらわを見た瞬間わらわを妖だと気づいた」


「それって……礼ってつまり」


「ああ、今回は見逃してやる、というのだろう。感覚を研ぎ澄ませば、この辺りは妖力が荒れている。恐らく戦闘の痕、あやつが妖を狩っていた、そして行き倒れた。そんな所だ」


「確かに二度と会いたくないね」


「……食べ物の恨みは大きいぞ?」


 狐露は少し機嫌を取り戻したかのように妖艶に笑い、また二人歩き始める。

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