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死にたくても狐(君)の為なら生きよう  作者: れっちゃん
君の為なら生きる
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狐、外に出る 2


 そして今は大手店舗に吸収されたデパートにいた。何故ここを選んだかと言うと色んなものがあるし逆に言えばここ以外近場の娯楽施設は電車か車でも利用しない限り一切無いと言っていい。


 今の狐露に交通手段を使うのは悪手だと思ったのだ。だから山から下りて徒歩十分ほどで着くそこを選んだ。

 まあ屋敷の外に出ると不思議な事に山を降りる過程を飛ばして町に降りていた。文字通りスキップしたかのように既に町に降り立っていたのだ。

 狐に聞くとそういうものだと言われ、深く考えないようにした。


 現在杉糸は今デパートの服屋試着室前でただのんびりと椅子に座り待っていた。

 だがしかし一枚の薄いカーテンの向こうは苦戦を強いられていた。

 何故かと言えばデパートに着物は流石に目立つので服を買いに来たのだが民族衣装やらフィクション服やら軍服ばかり見せたのが仇となった。


 彼女は現代の私服をあまり知らない。さっきから着物以上に悪目立ちそうな組み合わせを生み出したりして、そもそもデパートの服屋にそんなゴシック染みた服を置くんじゃないと言いたくなるようなチョイスばかり選んでくるのだ。


 流石に見てられないので服は杉糸が適当に選んだ。とはいえなるべく違和感の無さそうなのを選んだつもりだ。

 するとカーテンから狐が顔だけひょいと出す。


「これでよいか?」


「顔しか見えないよ」


「ううう……わらわは田舎者と思われぬだろうか……真に時代に適した服なのであるのだな?」


「うん、多分」


 流石にそこまで言われると自信が無くなる。ファッションセンスを絶対視しているわけでもないので。


「で、では開けるぞ?」


 そして開かれるとそこには黒いキャップ帽、黒色のパーカーに黒いロングスカートを履いた全身黒づくしの狐の姿がそこにはいた。


 だがそれでも可愛らしいのには間違いなかった。おどおどした反応も相まって和服ばかり着ていたお嬢様が初めて洋服を着てみたような新鮮味に似たものを感じた。

 ちなみに服を選ぶ事に至っては黒色である事が最低条件らしい。


「似合ってるよ」


 似合ってると言われると嬉しそうにスカートを翻して着心地を確かめている狐。ちなみに一応下着は買って着けさせてある。靴下も靴もちゃんとした物を買った。


 流石に黒に幾つか他の色の刺繍や模様が入ってはいるがやはり黒ばかりは目立つ。

だが着物よりはマシだろう、う思う事にした。


「しかしわざわざ買う必要はなかったのではないか? これもわらわが一目見れば着替える事など容易いぞ」


 パーカーからぶら下がる紐を手で弄りながら狐は不思議そうに尋ねた。

 それに対し杉糸は首を横に振る。


「一応、お金の使い方とか知ってほしくってね」


 杉糸は笑いながら「現代いまを生きていくには知識は必要なんだよ」と付け加えた。


「ここは人が多い……わらわは目立ってはおらぬよな?」


「目立ってないよ」と杉糸は笑いながら狐の隣を歩く。彼女が目立ってないかと聞いてきたのはこれで十四回目である。


 狐の容姿を隠す為敢えて帽子を被せたが、おどおどした様子も相まって見事に顔は隠れている。


「ならよいが……ここは人が多くてわらわ酔うかもしれん……」


 田舎とはいえ腐ってもデパート、都会には負けるが大きい方だと杉糸は思っている。それに田舎の少ない娯楽施設であると人が砂糖に群がるアリのように集まるのも当然の事だろう。

さっきから何度も人とすれ違っているがその度に狐は人見知りの子供のように杉糸の背後に隠れている。


「おっと」


 杉糸は歩く途中、スマートフォンショップ店前でふと立ち止まる。ソーラーパネル式の充電器じゃ不安定な所があるのでいっそここで利用しようと考えていたのだ。


「なんじゃこの店は」


「これの店」と杉糸はスマホを掲げた。すると狐印はまるで十字架を見せられたドラキュラのように怯え始めた。


「なっ……それはわらわを辱めたあの! わらわを裸にひん剥いたあのすまほ!」


「声を下げて言ってくれないかなー」


 杉糸は苦笑いしながら偶然その言葉を聞いた通行人に白い目で見られてしまった。

 確かにスマホで辱めて裸にひん剥く方法は幾らでもあるから余計に困る。


「わらわはそんないかがわしい店にはいかんぞ」


「彼女の中でスマホショップが風俗と同列になってそう」


 ぷいっと横向く狐。


「じゃあすぐ終わらせるからそこでちょっと待っててね」


 一瞬、そんな行かないでくれ、と言いたそうな顔をした狐だったが流石にこれ以上恥の上塗りをしたくないのか。


「さっさと済ませるがよい」と強気な返事をした。


 そんな様子を見て杉糸は少し悩んだ。必須なほど充電に困っているわけでもない、この要件はまた今度にでもしようかと思ったが流石に彼女は何百年も生きた狐である。ちょっと目を離したら迷子になる赤子に等しい子供ではないのだ。


 過保護すぎるのも逆効果であると思い杉糸はすぐさま充電器サービスコーナーに向かい利用して盗難されぬようスマホを入れたカプセルに鍵をした。


 そのまま店外の前まで向かう行動時間僅か二分三十秒ほど。

 店外の廊下には待ち続ける狐の姿が、


 いない。


「あれ?」


 杉糸は何度か瞬きをして周囲を見る。

 三百六十度見回してもどこにもいない。


「狐露ー」


 軽く声をかけるがどこにもいない。

 杉糸は苦い顔をしながら頭を抱えた。

 彼女は迷子になっている。


 何故数分ほどで迷子になれる? 彼女は迷子の天才なのか? しまった無理にでも言って一緒に連れてくるか店の用をスルーすればよかった。

 後悔と呆れと心配が入り混じり、どうしようかとため息を吐いたその瞬間。

 天から声がした。


『迷子のお知らせです。迷子の小夜鳴杉糸くん、小夜鳴杉糸くん、保護者の狐露さんがお待ちしています。ただちにインフォメーションセンターまでお越しください』


「僕が迷子扱いなのか、それにまだ迷子になってから五分も経ってないよ?」


 迷子になって数分でインフォメーションセンターに迷い込むのは運が良いのか悪運が強いのか。

 それに呼ぶとすれば普通逆だろう、と流石に突っ込まずにいられなかった。

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