朝
「あーあ、今日も学校かぁ。」
夕陽は鏡を見て前髪をいじくり回していた。
自分の顔が好きではない、団子っ鼻だし、目も人より小さい。
「可愛い女の子に生まれたかったなぁ〜。」
これでもかと言うほど髪をいじり制服のスカートも何度も長さを整えた。
「あ…でも今日。北斗先輩が来る日かな…。」
北斗は成績優秀ながら学校ではあまり見ない不思議な存在だったが、その容姿と謎めいた感じから夕陽が片思いをしている先輩だった。
「あ!もうこんな時間!学校行かなきゃ!」
時間をかけていじくり回していた前髪もどこへやら。
夕陽は鞄を持って学校へ出かけた。
「セーフ!」
夕陽が学校へ滑り込んだ時を同じくして佐賀北斗が学校の校門へ滑り込んできた。
(あ、北斗先輩!今日はラッキーだ)
男性に免疫のない夕陽は北斗を見ているだけで幸せだった。
(前髪、前髪大丈夫かな)
遅刻する事を恐れて気にもしなかった前髪を整えて、スカートの丈を気にしていると
「夕陽ーー!」
と突然に後ろから人が抱きついてきた。
「楓!もうびっくりした〜。」
「よかったじゃん。北斗先輩と登校したみたいだよ。」
楓は夕陽の耳にヒソヒソ呟いた。
「やめてよ!聞こえちゃうじゃん〜!」
夕陽はまた前髪を整えると楓はそれをぐちゃぐちゃに掻き回した。
「楓!」
「いいじゃん、夕陽はね前髪気にしすぎ。可愛いんだから自信もちなさいよ。」
思わず北斗を見ると、北斗は振り返って微笑んでいた。
(ぎゃーー!北斗先輩と目が合った〜!)
それを楓は気付かなかったようだ。
教室に入ると沙苗が既に机に着いて小説を読んでいた。
「おはよう夕陽、今日も身だしなみ整えすぎちゃったの?」
大人っぽい沙苗が夕陽は大好きだった。
「えへへ、何かね、どうしても落ち着かなくて。」
「夕陽は可愛いんだから勇気を持ってイメチェンすればいいのに。いっつも同じ髪型。」
沙苗は細い腕を伸ばして夕陽の前髪をふわりと触った。
「う〜ん、もう男に生まれたいなぁ。」
夕陽はその言葉が口癖だった。
「まーたそんな事を言う!女の方が得すること多いんだからね!」
ちょうど近くに居た楓は机にぶつける様に鞄を置くと夕陽を一喝した。
「楓はいつも厳しい〜。」
夕陽は机に突っ伏していじけた。