プロローグ
「おまえみたいな女は世のため人のために死ねええっ!」
今まさに、
両手に刃物を携えた男がその刃先をわたしに向けて、駆け出していた__
____プロローグ____
『吉野 玲奈』
彼女は知らなかった。
愛するひとの命を犠牲にし、尚、己の命を犠牲にしてまで”愛”なんてものを、貫こうとする人間がこの世界にいたこと。
彼女の中で”愛”はお金に直結する誘惑の甘い蜜だった。
”愛”を囁けば、男たちは理性を失い、目をぎらつかせて、野獣のように身体を求めた。
そこで一度、他では味わえない甘美な快楽を知ると何度も何度も、再び快楽に溺れようと中毒にでもなったかのように、男達はあの手この手で彼女との時間を楽しもうと躍起になった。
____バカな男達。
彼女は嗤う。
自分を求めれば求めるだけ、その手からお金が零れ落ちる。
彼女が”愛”を囁くのは、男達が持っている、”お金”が欲しいから。
マクラ営業なんて彼女にとっては取るに足らないものだった。
身体の相性が合えば、自分も快楽に溺れて楽しめる。
少しずつ、少しずつ、警戒心の強い小動物を捉えるように、甘くて美味しい罠を幾重にも仕掛けて閉じ込める。
男達もそうと知りながら抜け出せない甘美な檻へ。
それが”愛”。
多くの男達が閉じ込められた、その檻の中から、ひとりの男がいま飛び出そうとしていた。
たったひとつだけの、”真実の愛”を求めて。
一括りにされた”バカな男達”から抜け出すのは、彼にとっても大きな痛みを伴わなければならなかった。
身を削り、血を流し、叫び声をあげて、身も心もズタズタになりながら、たったひとりの女を求めた。
だけど、それはとても歪んだ方法で、まさかその業が、こんな形で跳ね返ってくるなんて、彼自身もいまはまだ、知らなかった。
ダークな世界観となりますが、こんな作品あってもいいよ!応援してやってもいいよ!って方はブクマや評価で称えてくれると嬉しいです!