ソレが起るまでの僕について
世界のどこかで不思議なことが起っていると言われたとして、君は信じるだろうか?
例えば画像で、例えば動画で、自分の知らなかった世界を見せられたとしたら、素直にうなずくことが出来るのかな?
僕は、そのときが訪れるまで、あらゆるメッセージをスルーしていた。
毎日のように動画サイトには、オカルトチックな事実が晒されていたけど、そこについていたコメントにだって、その内容を本気にするようなものはほとんどなかった。
『よく出来たCG』
『ちょっと作り込みすぎじゃないか? 逆に嘘っぽい』
そんなからかうようなものばかりが続いていた。
オカルトは動画の人気ジャンルであり、人気動画は金になる。
よりアクセス数を稼ぐためにプロの技術を注ぎ込んだ創作動画が溢れるのは当たり前。
そのせいで、もしそこに本物があったとしても、リアルな創作に紛れて、嘘にされてしまっていたに違いない。
姿のないなにものかが女性を部屋へと引っ張っていく監視カメラの映像。
化け物に飛びかかられて、溶かされていく人。
僕はそういった動画を観ながら最近のCG技術は凄いなぁと思っていた。
もしかしたらあれのどれかは、本当だったのだろうか?
僕は高校二年の初年度という中途半端な時期に高校に編入した。
両親が仕事の都合で海外に赴任することとなり、時期が時期だけに僕だけ日本に残ることになったのだ。
しかも一人暮らしのためにマンション住まいとなり、通学の関係で転校することとなってしまう。
編入先はそこそこいい高校だったし、編入試験も問題なく合格したので、とんとん拍子に手続き自体は進んだ。
ただし、クラス変えのあった新学期から普通に編入したため、転校生イベントもなく、僕は微妙にクラスで浮く存在となっていた。
そういった私的なゴタゴタのせいで、僕は一人暮らしで一緒に遊ぶ友達もいないという、かなり寂しい状態だった。
この時期に動画を見まくっていたのは、そのせいでもある。
ついでにゲームもいろいろ遊んだ。
僕は物語性のあるアクションロールプレイングゲームが好きなので、最近流行りのオープンフィールドタイプの対戦型シューティングゲームはいまいち好きになれずにいた。
そもそも人間を撃つというのが、なんだか嫌だったのだ。
そのおかげでインターネットで大勢で遊ぶオンラインゲームよりも、一人で遊ぶオフラインゲームをメインに遊んでいた。
つまりネットにもフレンドがいないという寂しい状態だったのである。
フレンドもいないのに、SNSはチェックしていた。
好きなゲームの公式をフォローして情報を確認する意味もあったし、海外の両親とも、SNSで連絡を取り合っていたからだ。
SNSには僕がフォローしていない誰かが流した話題でも、大勢が話題にしているとピックアップされて見ることが出来る。
このピックアップにも、オカルトチックな画像や話題は多かった。
「みんな暇なんだな」
結局のところ、僕はそう結論付けた。
僕自身が暇だったということもある。
そして、事前にたくさんの予兆があったにも関わらず、あらゆる情報は僕に心の準備をさせてくれることはなかった。
ただ意味もなく、意識の表面を通り過ぎて行ってしまって、現実が大きく変化してしまうなどと、考えることなどなかったのだ。