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二度目の出会い

 破壊跡の屋敷から歩いて数十分。

 俺はようやく目的の建物までやってくるができた。

 標的(ターゲット)がいる屋敷は高級住宅街の最奥の位置しているため、ここまで来るのにめちゃくちゃ時間がかかってしまった。

 この屋敷の配置は、これまで通ってきた屋敷と大体同じで、大門の奥に前庭がある形で、アートをこしらえた前庭の真ん中にまっすぐ屋敷の玄関に達する石造りの道が開かれている。

 大門の前にはこれまでと同じように衛兵が2人配置され、大門の左右にそれぞれ立っている。

 大門の脇には市壁までには及ばないが、普通の人間じゃ飛び越えることが不可能な程の高さでぐるっと屋敷を覆い、後ろの市壁に接している。

 仮に飛び越えられたとしても、壁の上はねずみ返しの構造になっていて、その先には有刺鉄線が張り巡らされている。

 この街がこしらえた最高級の防衛がここに作られているのだ。

 他の街から来られた王族、位の高い貴族が市内でくつろいでいる時に、襲撃されてしまえば社会的に失墜してしまうからだ。

 もちろん、対魔法の(トラップ)は十分に張り巡らされており、空、地中からの侵入はかなり厳重に監視されている。


 だが、これはあくまでも()()()()()()防壁であり、俺の様な尖ったタイプには全く意味をなさなくなってしまう。

 一般にあげれば特殊能力(スキル)持ちだな。

 特殊能力(スキル)は千差万別、同じスキルを持つ人は一人もいない。

 系統別に区別されることはあるが、なんせ全部異なるから対策のしようがない。

 それでも防衛力はある。

 特殊能力(スキル)は、先天性のものが大半で、ごくたまに後天性のものがある。

 基本、特殊能力(スキル)持ちは少数派(マイノリティー)だ。

 その中で強力な特殊能力(スキル)となるとまた数が絞られるから、対策する必要があまりないし、そもも情報がないからしようがない。


 かく言う俺も特殊能力(スキル)持ちだ。

 後天的に発生した超稀なケースで、暗殺特化型の特殊能力(スキル)だ。


  【 】


 能力1:能動的行動(アクティブアクション)を起こさない限り、能力者を認知されない。

 但し、能動的行動(アクティブアクション)行使後は認知した相手を強く印象付けさせ、逆に視線を集めやすい。

 また、認知した相手に近しい人ほど、 能力者を認知されやすくなる。

 能力2:認知されていない相手に直接間接問わず能動的行動(アクティブアクション)を行使する時、身体能力(アビリティ)は3倍に向上する。

 但し、認知された場合、身体能力(アビリティ)は10分の1に激減する。


 俺が持ってる特殊能力(スキル)はこんな風に初見殺しと言われる暗殺特化能力だ。

 スキル名は発言した時頭の中でパッと浮かぶらしいが、俺の場合は静寂で満たされたから空白になっている。

 俺が行商人のおっさんにぶっ飛ばされたのはこの特殊能力(スキル)のせいだな。


 俺はこの特殊能力(スキル)をいつものように使用する。


 俺は大門から外れ、事前に調べておいた警備の巡回が薄い壁面の前まで音を立てないように歩く。

 壁面の前に立つと、一歩二歩と後ろへと下り、バッグパックにしまってあった鉤爪のロープを取り出し、投げる前に不備がないかを確認する。

 鉤爪の部位が音が鳴らないかをチェックした後、壁の上へ鉤爪を投擲。

 ぐいっと引っ張り、鉤爪が引っかかっていることを確かめて俺は音を立てずに鉤爪を使って壁を駆け上がり、壁上まで躍り出る。

 次に、目の前にある有刺鉄線を()()として認識し、地面を勢いよく蹴り付けてジャンプ。

 有刺鉄線の上を悠々と飛び越え、俺は敷地内に侵入した。

 対空監視装置は、有刺鉄線を媒介にしてドーム状に張り巡られているが、俺の特殊能力(スキル)で認知できないため、監視網をくぐり抜けられる。

 俺はささっと庭を足早に走り抜け、屋敷内に侵入した。


 アーミング将軍が眠るのは屋敷の最奥の最上階。

 この屋敷は3階建てで平面に広い構造をとっている。空から見下ろしたら縦長の長方形に見えることだろう。

 その中で、俺が今いる場所は左側の壁の少し手前の一階の窓の中だ。

 俺はすぐに移動を開始する。

 頭の中に叩き込んだ屋敷内図の通り、まず左奥にある階段まで走り抜け、3階まで一気に駆け上がる。

 巡回の兵が何度かすれ違うが、まるっきり無視をし、その横をするっと通り抜けていく。


 往路はこんな風に余裕で標的(ターゲット)の元まで行けるのは簡単だ。

 だけど帰りは暗殺後、つまり標的(ターゲット)の周辺人物に認知されやすい状態になっているため、帰りの方の対策をこのうちに済ませておく。

 最上階の巡回警備兵は2人、階段は4方向にあるため、そこに常駐の衛兵が1人ずつ、計4人。

 2階は使うことないだろうが、念のため。

 階段警備兵はいなく、巡回は2人と同じになっている。

 1階は3階と同じ編成で警備を行い、それぞれの出入り口に一人ずつ警備兵が配置されている。

 この屋敷は木で石造りの窓を塞いでおり、今は夜中なので全ての木窓が閉じられている。

 俺の侵入の際は、魔力を検知されない程度に流して、留め具の部分を魔力糸で開けた感じだ。

 魔法探知は5メートル間隔で開かれてはいるが、適応範囲の外縁部ならば微弱な魔力でも反応しないのは長年の感覚でわかっている。

 廊下を照らすろうそくは、魔法探知と同じ5メートル間隔。

 ろうそくで照らされる光に限度があるため、廊下は端々が薄暗くなっている。

 天井には魔力灯があるようだが、就寝時刻にはろうそくに切り替えているのだろう。

 まあこんなもので十分だ。

 今回もセオリー通りに抜け出すだけだから、そこまで帰りに不安は感じていない。


 俺は迷うことなく標的(ターゲット)のいる部屋の前にたどり着いた。

 まずは標的(ターゲット)が就寝しているか確認だ。

 俺はドアに耳を寄せ、物理的な音が出ていないかを確認―――特に何の反応もない。

 次に手のひらをドアに当て、魔法による障害を確認―――反応なし。

 その後、すすすーっと音のならないように手をドアに這わせてドアの前に持っていく。

 

 かーーーーーーーーーちゃ。


 ゆっくりと根っこの接合部分が擦れた音が鳴らないように注意して開け、内部に侵入。

 後ろ手で静かにドアを閉める。


 部屋の内部はこの屋敷の中でも最も広く、この部屋一つで庶民の家屋一つ分はありそうだ。

 上を見ると天井は非常に高くなっていて、そこからシャンデリアがいくつかぶら下がっている。

 正面奥には見るからに高そうなソファが対面で一つずつ置かれ、その間に足の低いテーブルが置かれている。

 右手にはただっぴろい空間が広がり、その脇に鏡等の身だしなみを整える用品が置かれているため、衣装空間なのだろう。

 そこは無視でいいだろう。

 左手にはキングサイズの豪奢なベッドが置かれ、その隣に小ぶりな机と椅子が置かれている。

 そのベッドの上に、俺の標的(ターゲット)、アーミング将軍が眠っていた。

 俺は忍び足でベッドに近づく。

 道中にある机を見ると、何やら机を何度も殴りつけたような跡がついていて、軽く机の上が陥没していた。

 相当うっ憤がたまっていたのがうかがえるな。

 ベッドの前まで近づいた後、腰に添えた小刀(ダガー)を引き抜き、両手で握る。


 心臓を一突きで終わらせる。


 標的(ターゲット)は寝間着姿で眠っているようで、胸元の防備が薄いことをチェックした後、照準を合わせる。


「ふっ―――――!」

「なにもんだっ!!!!!」


 キィン!


 俺の放った小刀(ダガー)がアーミング将軍の懐刀で流される。


(しくった!?なんつう反射神経だこいつは!?)

 

 殺意を眠りながら察知したのだろうか。

 両手で打ち下ろしたはずの小刀(ダガー)は物の見事に弾き返され、大きく仰け反った。

 俺は弾かれた勢いを使ってそのまま距離を取る。


「っつ!貴様かっ!?俺の顔に泥を塗りたかったやつは!?」


 侮った。

 いくら脳筋の将軍だからといって、寝込みは無防備だと思ったのだが。


 アーミング将軍は、こちらから目を離さず、ベッドからゆっくりと足を出し、こちらと正対した。


「その告発書は、貴様がばらまいたんだなっ!?」


「さあな」


「しらを切るつもりか!!」


 地面がミシリと悲鳴をあげる。

 地面を踏みしめたアーミングは刺突の構えを見せた。


 刹那。


 俺との間の距離を喰らい尽くし、俺の胸元へ突撃(チャージ)


「ぐっ!?」


 俺は咄嗟にバックステップをとり、心臓の位置をダガーで防ぐ。

 

 急所に向けて放たれたナイフは俺のダガーをギリギリ挟む事で回避。だが、衝撃は殺せない。

 後方へ吹っ飛ばされた俺は、空中で体制を立て直し、壁は着地。

 パラパラと手元が音がし、目をチラリと向けると、俺のダガーが刺突された部分を中心に砕かれていた。


(なんつう馬鹿力だこいつっ!!)


 俺は右手をローブに突っ込み、スペアのダガーを2丁引っ張り出す。

 左手に片方を渡し、猛獣もかくやのアーミングを睨んだ。


 こうなったら一度体制を整えないと()るのら無理だ。

 チラリとドアの方向へと目を向け、逃げる算段を練り上げる。

 俺は背筋が凍るような悪寒を感じ、思いっきりサイドステップ。


 ドゴォォォォォン!!


「よそ見をするなぁっ!!不届きものがぁ!!」


 俺の目の前を超速のナイフが通り過ぎ、壁にぶち当たる。壁はナイフを中心に放射状に砕け!ナイフは原型をとどめていなかった。


(こいつはやばいな…)


 ナイフを投擲しただけでこの威力を出せる。これはあまりに脅威が過ぎる。硬いものならなんでも武器になりうるということだからだ。


 だが、アーミングは今素手だ。あいつはドア付近、俺は壁際、脱出するにはあいつの間合いを抜けださなければならない。右手に木窓、左手にドア。脱出経路はすでに潰されている。


 俺は愚直にアーミングに突撃(チャージ)を仕掛ける。最短ルートを貫き一気に間合いを詰めす間、砕けた刃をアーミングに投擲する。


「小癪なっ!!」


 視界を遮るように放った刃をアーミングが手で弾く隙に距離を食らいつくし、刺突の構えでアーミングを貫く。


「ふっ!!!」


「甘いわぁっ!!」


 アーミングは右手で俺の小刀(ダガー)の刃の腹をピンポイントで叩き、急所を回避。

 回避の掌底でも威力は絶大。俺はあえて小刀(ダガー)を手放さず、左手に軽く飛ぶ。千切れるような痛みを唇を噛み締めて耐え、ドアの前まで吹っ飛ばされる。

 俺は飛ばされた勢いを使ってドアを破壊して外に脱出した。


 ドアを破壊された音が廊下に響き渡る。

 

 俺は受け身をとって廊下の地面に着地。すぐさま移動を開始した。少し走って振り向きざまに小刀(ダガー)を投擲。


「なっ!!」


 ちょうど破壊されたドアをくぐり抜けたアーミングは、右手から急に現れた小刀(ダガー)を頭を屈めて回避した。超人的な反射能力だ。


 俺はその怯みの時間を利用して階段前まで駆け抜ける。階段前までたどり着き、手すりに乗り上て1歩で2階まで降りる。


 そこでふと気づく。


(警備の兵はどうなった?)


 追いかける音も何もしない。地面に響くはずの足音も聞こえない。けど、何か裸足で歩く音とズルズルと何かを引きずる音がかすかに聞こえた。

 その方向を見ると、向かいの階段側付近に向かって死体を山積みにしているボロを着た()()が新たな死体を積み上げる姿だった。


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