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人間というヒト  作者: 摂津 裕(ヒロシ)
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カラス

 



 今日も1日が始まる。毎日の生活は事務的な作業で朝昼晩と飯を食べ、体を川で洗い、寝る。帰るべき家というものはないが幸いにも飯に困ったことはない。飯に困って餓死する他の鳥を見ると些か軽蔑の気持ちが抑えられないくらいだ。さて、今日も朝ごはんとしますか。





 私はスズメの奴らとは仲が悪い。私が田んぼで飯を探していると、20匹くらいで私の頭上を私の悪口を言いながら飛んでいくのだ。そして近くの電線に綺麗に並んで私を笑いながら見ているのだ。別段私はそこまで気にはしていないものの、毎日飯の時間になるとやってくるので、些か気には触ってしまう。事務的な毎日の中における折角の飯の時間を邪魔されるのは好きではない。

 『集団でいないと何も出来ないくせに』と心に言い聞かせ、飯の時間を楽しむ。夜はスズメのやつらは来ないから有意義に飯を食おう。





 夜の星は綺麗だ。電線から上を眺めていつも思う。1日を振り返れば、嫌なことの方が多い。他の鳥の群れに馬鹿にされ、1人孤独に生きているのだ。相談相手もいない。それでも何か生に未練を感じてしまう。その得体の知れない未練に私の希望を託し生きているのだ。希望がいつ絶望へと変わるのかわからない。怖いのだけれどもやっぱり諦めきれない。死んではならないのだ。今日は寝るとしよう。







 1週間が過ぎるのはとても早い。それは事務的な毎日であるが故だろうか。今日はそんな日常的な生活に非日常的な営みを体験したいと思う。支度はできた。一山超えてみる。




 

 一山超えると景色は全く違う。私には家が無いので日々色々な場所を飛び回るのだが、山を越えることはほとんどない。おそらくこの新しい土地にもスズメのように集団でしか生きることのできない弱々しい鳥たちがいるのは十分承知なのである。だが、新しい土地での新しい気持ちならまだその嫌な気持ちに打ち勝てると思うのだ。





 新しい土地での星も綺麗だ。1つ前の土地よりも星の数は倍あるように思える。星は各々の自分の光を私に見せてくれる。私もあの星のように自分の光を表現したい。でも無理なのだ。表現したところで馬鹿にされるだけなのだ。世間というものは隣のやつの真似さえしとけばそれでいいのであって、無難なのであって、そう割り切れるやつらが集団を作って共感を得て個人を軽視するのだ。私にはそんな営みはできない。でも生に対する未練に希望を託し明日も生きる。どんなに苦しくても。


今回はカラスを通じて現代人の共感至上主義を風刺しました。自分を表現したいのにできない。自分は何なのか。何のために生きているのか。集団に属すだけで自我を持たない人達。青年期特有の悩みを抱える人達。それらの人達へのメッセージでもあります。

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