第5星『月と太陽』
次の日からシェアトは
勇樹と共に、外に出ることが多くなった。
シェアトが来たあの日から4週間…………。
もうすぐで一ヶ月になるが、彼の記憶は戻ることはなかった。
「ねぇ。楓ちゃん。」
「ん?」
その日の晩。
シェアトは窓の外を見上げながら、私に問いかけてきたのだ。
「あの雲の上で光っている球体はなに?」
「え?そん……、、」
そんな事もわからないの?
という言葉を直ぐさま飲み込んだ。
子供のように目を輝かせながら
好奇心にまかせるがままに聞いてくるその姿から、
『彼は月のことを何も知らない』ということだ。
「あれは月っていうのよ。」
シェアトは直ぐに月へと目を戻す。
「月…………。月はどうして明るいの?」
楓は空を見上げた
月はなぜ明るいのか。
誰しもが疑問に思い、研究したことだろうか。
「月はね………………。太陽の光が反射して、月が輝いているように見えるの。不思議だよね。まるで兄弟みたい!」
楓がそう言うと、シェアトも再び月へと目線を移した。
まるで、誰かを思い出すように。
「シェアトくん?」
「あれが……月。」
シェアトは知らないはずの記憶の断片を見た。
赤髪の青年と、腰まで長い白い髪の少女を追うもうひとつの影。
記憶はそこで終わってしまった。
どこか懐かしさを感じていたシェアトを、楓は不思議そうに見つめていた。
「あ!そうだ。シェアトくん!見せたいものがあるの!」
「僕に……見せたいもの?」
楓は口に出すと直ぐに行動に移した。
本棚から一冊の本を取り出すと、シェアトの前に差し出したのだ。
「これね。お爺ちゃんが、私の誕生日の時に買ってくれたの。とても綺麗でしょ?」
楓が差し出したのは『星座神話物語』と書かれた、一冊の絵本だった。
シェアトが本を開こうとすると、
「シェアト兄ちゃん!遊ぼ!」
まさかの勇樹の妨害に、絵本を床に落としてしまう。
楓はさっと本を拾うと、勇樹を怒った。
「もう!勇樹、本を持ってる人に抱きついたら危ないじゃない!」
「お姉ちゃんばっかりずるいよ!僕もシェアト兄ちゃんと遊びたい!」
「遊ぶって……あんた今何時だと思ってるの!いい加減寝なさい!」
そんな二人の光景を、シェアトは苦笑いをしながら見つめるだけだった。
今日も朝比奈家に、暖かい風は流れている。