第4星『暖と和』
シェアトが朝比奈家にやって来てからちょうど一週間が過ぎた。
シェアトは未だに楓以外、なかなか周りに馴染めていなかったため、朝比奈家に引き取ることになったのだ。
とは言っても、シェアトの失った記憶は未だに戻らないのも理由の一つだった。
「シェアト兄ちゃん!遊びにいこう!」
「え?あ、……いや、僕は……。」
シェアトはまだ一度も、家の外には出たことはなかった。
彼が何を恐れているのか。
この時の私と勇樹にはまだ分かったもんじゃない。
勇樹が一向に外に出ようとしないシェアトの袖口を引っ張るも、シェアトは気まずそうに顔をそらすだけ。
「ただいま~。」
母が帰って来た。
「あ、お帰りなさい!お母さん!」
勇樹が育子に嬉しそうに飛び付くと、育子は勇樹のほっぺに軽くキスをする。
「フフフ。今日も良い子にしてた?」
「うん!でも、シェアトお兄ちゃん。今日もお外に出てくれないの。」
「・・・・そっかぁ。」
育子はやっぱりかと項垂れる。
なかなか外に出ようとしないシェアトを心配し、外に出してあげようと、勇樹と遊んでくれたら外に出てくれるのではないかと信じているからである。
「・・・すみません。おばさん。」
「良いのよ。少しずつで良いの。」
育子はニコりと微笑むと、シェアトの頭を優しく撫でた。
シェアトはとても異様な気持ちだった。
なぜ異様な気持ちだったのか、それは自分にも分からない。
頭を優しく撫でられるのは『ごく当たり前』の事だ。
そう思っているのに。
シェアト自身は、何処かでそんな態度をとっている自分が『許せない』と感じているのだ。
自分がどこで生まれ、どの様にしてこれまで生きてきたのか……。
シェアトはしばらく思いふけっていた。
「シェアト。晩ごはん出来たよ~。」
楓ちゃんが呼んできた。
素早く椅子から腰をあげると、急いでダイニングへ足を運んだ。
「あ、来た来た!もう遅いよぉ。シェアト兄ちゃん~。」
勇樹は珍しくむくれていた。
「……ご、ごめん。」
「勇樹!いくらあんたがお腹すかせてたからってシェアトのせいにするのは可笑しいでしょ?」
「だってぇ~。」
「だってぇ~じゃないでしょ?さっきも買って貰ったお菓子食べてたじゃない?そんなに食べたらお腹が追い付かないわよ?」
「あらあら何の話?」
育子は微笑みながらキッチンから戻ってくる。
気が付けば勇樹のむくれていた表情は、笑顔へと変わっていた。
ーーー不思議だーーー
やっぱり楓ちゃんはすごいや。
他人だった僕にずっと優しくしてくれたり、怒っていた勇樹君もいつの間にか笑顔に変えてしまっている。
暖かいなぁ。
ふとそれがよぎた瞬間。楓ちゃんのお父さんである和正おじさんが帰って来た。
「ただいま~。おっ!今日はカレーかぁ!」
楓「シェアトがウチに来てからちょうど一週間だし。今日は少ししかなかったからカレーしか作れなかったけどね。」
「そうか、そうか!あ!シェアト君も座って」
暖かい和の中のに、僕は入れた気がした……。