第1星「少年と少女」
第1星「少年と少女」
あの荒々しい震災から3日が過ぎ。
仮設住宅の中や海は、静けさを保っていた。
残された子供達は、指定された空き地で遊ぶ毎日を繰返している。
「楓お姉ちゃーん。遊ぼうよ~。」
弟の勇樹が声をあげる。
ボールの弾む音がポーンポーンと鳴っている。
楓お姉ちゃんと呼ばれた女の子は、勇樹の方へ振り替えると、そっと笑顔で返した。
「もう日が暮れちゃうね。帰ろうか。勇樹。」
そう言う楓は、どこか浮かない顔をしていた。
今回の震災は大規模に及んだのだ。
海岸近くは津波に飲まれ、山沿いは地震で土砂崩れを起こし、 日本の大半の地層が崩れる被害が起こった。
平地のほとんどが瓦礫化したため、現在は高所に仮設住宅が設され、そこで過ごしている。
下を見れば、元々自分たちが住んでいた瓦礫化した地域が一望できる場所だ。
今は亡き祖父の和典。
親友の由梨子とは離れ離れで連絡がつかない。
楓は物凄く後悔していた。
楓は震災が来ることを『知っていて』、知らないフリをしていたからだ。
「来る筈がない。只の自分が思い浮かべた妄想に過ぎない」っと、そう信じ込んでいたからだ。
和典は震災直前になったとき、突然の揺れに咄嗟に楓を抱えると、楓を庇って、倒れてきた柱の下敷きになってしまったのだ。
知っていたにも関わらず、知らないフリをし、祖父を死なせてしまった。知っていて早めに実行して行動に移していれば、祖父は死なずに済んだのかもしれない。
由梨子とも連絡がとれたかもしれないと、楓は常に後悔の渦の中にいて、自分を責め続けていた。
予知能力は何処でどんな事をしていても突然に来るものだった。
寝ている時、家族や友人と話している時でさえ、『先に起こることを予知』してしまうのだ。
この事を知られたら、皆が自分を怖がって、離れていってしまうのではないかという不安にかられるのだ。
ズキッ!!
「いっ!!、、、また?」
一瞬の頭痛と共に、楓の脳裏にラジオの砂荒らしの様な映像が流れ込んできた。
「夜、雷、白髪の男の子?」
楓が見た記憶は、夜の海岸に一筋の物静かな光が落ちてきて、落ちた先に、白髪の男の子が倒れている予知だった。
「誰だろう?」
楓は男の子の事が気になって仕方がなかった。
顔は見えなかったが、この世のものとは思えない真っ白な肌と髪をしていた。
グイグイ
「ハッ!…。」
途端に誰かに服を引っ張られた。
「お姉ちゃんどうしたの?帰らないの?お顔青いよ?」
弟の勇樹だった。
どうやら相当考え込んでいたらしい。
「うん。ゴメンね。お姉ちゃんぼーっとしちゃってた!」
まぎらわすかのように慌てて笑うと、勇樹も安心したかのように笑ってくれた。
二人で手を繋いで帰り道を歩くも、予知を見終わった楓の脳裏に、男の子の存在は焼き付いていくばかりだった。
夜、皆が寝静まる頃。
楓は未だに眠れずにいた。
あの予知で見た、男の子の事が離れられない。
もしかしたらと思ってしまうのだ。
「いや、あり得ないよね。そんな事。」
と冗談半分でカーテンの外を見ると、空が曇り始めてきた。
「やっぱり、何もないか。」
そう思ったのもつかの間。
空が一瞬で眩しいくらいに昼間のように明るくなったのだ。
「何!?何なの!?」
楓は急いで寝床を飛び出し、家を出ると。
海岸の方向へ走り出した。
途端に一筋の光が落下する。
「っ!!予知通りだ。」
楓はただただ走った。
瓦礫の山を避けながら走り。
海岸沿いに来ると、微風が吹き始める。
「何処?何処にいるの!?」
楓は少年を探した。
和典の一件から、「誰かを死なせたくない」、そんな固い決心を、楓はついたのだ。
「いた!」
少年は浜辺でぐったりと、うつ伏せで倒れていた。
急いで近寄って見ると。
楓は息を飲んだ。
真っ白な肌と、白銀の髪。
自分と同い年くらいにとは思えないほど整った顔立ち。
線で描いたように綺麗なまつげ。
何もかもが美しかった。
楓は急いで少年を背負うと、帰途へと急いだ。
低体温で冷えていく少年の体に、楓は焦る。
「お願い!死んじゃ駄目だよ!生きるんだよ!」
やっとの思いで仮設住宅が見えてきた。
「あ!!お姉ちゃん!!お父さん!!お母さん!!お姉ちゃん帰ってきたよ!!」
「本当かい!!楓!」
「今まで何処に行っていたんだ!」
母の育子。父の和正が心配した形相で此方に走ってくる。
全身ずぶ濡れの楓と、背中に背負っている少年を見ると、育子と和正は目を丸くする。
「楓。この子は?」
和正が聞いてくる。
「たまたま海岸を散歩してたら、この子が倒れているのを見つけたの。」