どうして、オレの不幸は止まらないんだ?
何だろう……このやってしまった感……。
ラノベやアニメとかでさ、いつの間にか右手に美少女のパンツが……みたいなのが有るけど。
僕の今の状況――右手におっさんのズボンなんだよね。
妙にホカホカだし、生温かいしさ。
一つ補足しよう――おっさんこと、ギルマスの頬が赤くなっている。
変態だ。
「しょ、勝者は――キリヤ&セシリアァァァァ!!」
ガヤガヤと盛り上がる、会場。素直に喜べばいいのか?
というか、オレはどうやってアイツに勝てた? そして、右手のこのズボンは何だ?
オレは、ズボンをその辺に放り捨て、セシリアに視線を移した。
腰まで届く銀髪は美しく、魅力的だった。
碧眼の瞳も、どこか優しい眼差しであった。
「……何か、その、ありがとな! オマエのおかげで勝てたし……」
「べ、別にっ、私は何もっ……ッ」
頬を紅潮させ、もじもじとする、セシリア。
あ、照れたのか…………フッ。
「あっ、今、鼻で笑ったな!?」
「え、あっ、はあ!? 笑ってねーしっ!」
「ム~ッ……」
頬を膨らませ、不機嫌そうにコチラをまじまじと見つめる、セシリア。
そんな、上目遣いで見るな……マジで、可愛いから。
「おめでとうございます、キリヤ様、セシリア様」
背後から、先程の巨乳美女の受付嬢の声が聞こえた。
振り返り、「あ、どうも」と返す。
「まさか、試験に合格するだけではなく、倒してしまうなんてっ!」
「あははは、ま、まあ。今日は、調子が良かったのかな~って、合格するだけでなく?」
気になる個所が有ったので、念のため訊いておく。
「はい、マスターに攻撃を当てれば試験は合格です。しかし、マスターを倒してしまうとは――先程の無礼、お詫びします」
と、頭を下げ、謝ってくる受付嬢。
女に頭を下げさせるなんて、そんなのダメだ!
「い、いえ。大丈夫ですっ! 気にしてませんから」
「そ、そうですか――なら、マスターを倒した功績として、冒険者ランクをS級に認定します!」
そう言って、受付嬢はオレとセシリアに謎のカードを渡した。
カードには、自分の名前と冒険者ランク:Sと書いてあった。
「こ、これは?」
「それは、冒険者カード。貴方様の功績と身分を証明する物です」
「なるほど……」
つまり、アレだ。身分証明書のような物か。
「では、まだ、必要事項が記入されていないので――手を貸して下さい」
そう言われ、オレとセシリアは指示に従い、手を差し出した。
受付嬢はその手をギュッと握り、オレは不覚にも、ドキッとしてしまった。
そして、その手を冒険者カードに被せるように置き、
「できました、どうぞ、ご覧ください!」
冒険者カードを見てみると。
――冒険者カード――
名前:キリヤ 職業:剣士、学生、ヒキコモリ。
ランク:S 学歴:高校を三カ月で中退。以来、ゲームに没頭する日々。
実に無駄な人生だったと言える。
「何ですか、コレ?」
思わず、燃やしそうになったわ、おい。
名前:キリヤ、OK。職業:剣士、OK。学生、OK。ヒキコモリ、ん?
ランク:S、GOOD! 学歴:高校を三カ月で中退、確かに。ゲームに没頭する日々、おい。実に無駄な人生だったと言える、おいっっ!!
何なの? この、人生を丸ごと否定された気分!
冒険者カードって、一々余計な事を記すんだな、よくわかったわ!
「ムフフッ……ムフフフフ」
セシリアが気持ちの悪い笑みを浮かべ、冒険者カードを見ている。
どうした? いい事でも書いてあったか?
オレはちらっと、冒険者カードを見てみる。
――冒険者カード――
名前:セシリア 職業:神様、格闘家、マジ天使
ランク:S 学歴:可愛いから勉強しなくて良し。
横に居る、クソ野郎とは大違いの可愛さ!
あ、コッチ見てるよ! 気をつけて!
「いい加減にしろよっ!?」
「どうしました?」
受付嬢が、オレの怒り混じりの叫びに疑問を感じ、尋ねてきた。
「どうしましたって――このカード、人を馬鹿にしすぎでしょ!」
「ええと……カードの言う事は正論ですので……」
「正論ですかっ! そうですかっ!」
深く落ち込んだ、オレ。
もう、立ち直れそうにない……。オレはその場にしゃがみ込む。
確かに、カードの言う事は正論だろう。
オレは、高校を中退し、ゲームに時間を費やして、ヒキコモリ生活を送ってきた。
勉強できない、運動できない、モテない……。
そうだ、オレは元々低スペック人間じゃないか、何を今まで舞い上がってたんだ。
――と、そんなオレの頭に、優しい温もりが……。
「セシリア?」
そうか、何だかんだ言って、セシリアも優しい女の子だったんだ。
アイツが神様なら、当然、転生前のオレの人生を知っているはず。
それでも、オレをサポートし、一緒に冒険者までになっている。
そんな優しさに、オレは何で、今まで気付かなかったのだろうか……。
ああ、天使――セシリアよ。貴方様に愛を誓おう。
「うっふーん、大胆だな~」
へへ、確かに、オレらしくない、大胆な発言だったかもな。
だが、本心に変わりない。
「おかげで恥ずかしいめに、あったじゃなかぁ~」
いやいや、そんな事はない。
愛を民衆の目の前で宣言する事に、恥はない!
「ほんと、人のズボン脱がしといて、捨てるだなんて――キリヤのき・ち・く」
「――って、オマエ誰だよ、さっきから!!」
妙に会話がおかしいと思い、頭に圧し掛かる何者かを、振り払った。
そこに居たのは――パンツ一丁で頬を赤く染めている、おっさん(ギルマス)の姿だった。
オレは、思考停止状態に陥ってしまった。
「……………………………………」
そんなオレに受付嬢が、
「マスターは戦闘時以外――基本、オカマです。タイプは、狙った獲物は逃がさないです。気を付けてください、貴方様は標的にされました」
「…………悪い、冗談だなぁ。あはは」
「ドンマイ、キリヤ!」と、セシリア。
「さあ、今夜はゆっくり――」
「しねーよ、クソオカマ野郎があああああああああああああああああああああああああ!!」
その日、オレは日が沈むまで、オカマという超危険生物から逃げていた。